之を往く所無きに投らしむ者は、勇ましく諸なる歳を之いるなり。

其十一3-12

投之無所往者、諸歲之勇也。

tóu zhī wú suǒ wǎng zhě、zhū suì zhī yǒng yě。

解読文

①信念や理想のために涙を流した兵士達が従事する正攻法部隊を逃亡する隙が無い戦地「死地」に直面させる将軍は、果敢に戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えていくことで部隊の兵力を保つのである。

②信念や理想のために涙を流した兵士達が従事する正攻法部隊は、戦略、戦術を実行する正しい方法を無視するが、戦線にひきつけられて飛び込むのであり、戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ状態になって勇猛に敵軍とせめぎ合うのである。

③戦線で戦う部隊に後退する意思が無くても、この部隊を払いのける部隊が出現して、他の兵士達が戦う時間に変わるのである。

④他の兵士達が戦う時間に変われば、払いのけられた部隊は、向かって来る敵兵達が存在しない場所で身を寄せるのである。

⑤向かって来る敵兵達が存在しない場所で身を寄せる部隊はよろしき状態になるのであり、戦線にひきつけられている他の部隊を無視して思いきり良く戦線に飛び込むのであり、戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つのである。

⑥戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ状態に達すれば、全ての兵士達はよろしき状態になって敵軍に臨むのであり、逃亡する兵士はいないのである。

⑦戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ状態に達した自軍に臨む敵軍は、よろしき状態を失った時に逃亡する敵兵達が出現するのであり、多くの敵兵達が命を失うのである。

⑧戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ道理を蔑ろにして敵軍に臨めば、多くの兵士達が死者に変わるのである。
書き下し文
①之を往く所無きに投(いた)らしむ者は、勇(いさ)ましく諸なる歳を之(もち)いるなり。

②之は、所を無(なみ)するも、往(む)かいて投(な)げるなり、諸なる歳に之(いた)りて勇ましきなり。

③之に往く所無きも投(はら)う者ありて、諸なる勇の歳に之(ゆ)くなり。

④諸なる勇の歳に之(ゆ)けば、之は、往(む)かう者の無き所に投(とう)ずるなり。

⑤投(とう)ずる之は所たるなり、往(む)かう諸なる者を無(なみ)して勇ましく之(ゆ)くなり、歲なり。

⑥歲に之(いた)れば、諸なる勇は所たりて之に投(いた)るなり、往く者は無きなり。

⑦投(いた)る之は、所を無くすに往く者あるなり、諸なる勇は歲を之(もち)いるなり。

⑧歲の所を無(なみ)して之に投(いた)れば、諸なる勇は往(おう)に之(ゆ)くなり。
<語句の注>
・「投」は①直面する、②飛び込む、③払いのける、④⑤身を寄せる、⑥⑦⑧のぞむ、の意味。
・1つ目の「之」は①②代名詞、③彼ら、④⑤代名詞、⑥彼ら、⑦⑧代名詞、の意味。
・「無」は①無い、②無視する、③④⑤⑥⑦無い、⑧蔑ろにする、の意味。
・「所」は①時、②正しい方法、③思い、④場所、⑤⑥⑦よろしき状態、⑧道理、の意味。
・「往」は①逃亡する、②ひきつけられる、③去る、④⑤ひきつけられる、⑥⑦逃亡する、⑧死者、の意味。
・「者」は①助詞「もの」、②仮定表現の助詞、③④⑤⑥⑦助詞「もの」、⑧仮定表現の助詞、の意味。
・「諸」は①②全ての、③④⑤他の、⑥全ての、⑦⑧多くの、の意味。
・「歳」は①②四季が一巡する期間、③④時間、⑤⑥四季が一巡する期間、⑦一生、⑧四季が一巡する期間、の意味。
・2つ目の「之」は①使う、②ある地点や事情に達する、③④変わる、⑤赴く、⑥ある地点や事情に達する、⑦使う、⑧変わる、の意味。
・「勇」は①果敢であるさま、②勇猛な、③④兵士、⑤思いきりが良い、⑥⑦⑧兵士、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「之」は、其十一3-11⑦「信念や理想のために涙を流した兵士達が正攻法部隊に従事すれば、敵軍は手出しができないままでいて逃亡する敵部隊を出現させる」の正攻法部隊を指すと考察。結果、「信念や理想のために涙を流した兵士達が従事する正攻法部隊」と解読。②も同様に解読。

・「往く所無き」の直訳は“逃亡する隙が無い”となる。これは其十一3-4③「往く所毋し」で記述された「逃亡する隙が無ければ、自軍の兵士達と元敵人民は身を寄せるのであり、軍隊は融通性を失うが、かえって分断しないのである。戦地「死地」において、大いに充実して堅固な“実”を備えれば、従事するこの兵士達は、軍隊の勢いを限界まで出し尽くすのである」の“逃亡する隙が無い”と同意と考察。結果、「逃亡する隙が無い戦地「死地」」と補って解読。

・「諸なる歳を之いる」の直訳は“四季が一巡する全ての期間を使う”となる。これは、其五2-4②「四季が規則正しく動けば、植物が消えたように見えても元の状態に戻すだけである」で記述された四季の巡りを指すと考察すれば、其五2-4③「正攻法部隊の中で消耗した部隊が生じた時は兵士達を回復させて立て直し、正攻法部隊を構成する各部隊から適切な部隊を正確に判断して前線に出す」を言い換えた表現と解釈できる。つまり、正攻法部隊の各部隊は“春が消えても夏が出現し、夏が消えても秋が出現し、秋が消えても冬が出現し、冬が消えて再び生命力溢れた春が出現するように移り変わるのである”である。これは奇正の戦術において、多人数部隊の正攻法部隊の戦い方を喩えたものであり、「戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ」と解読できる。

<②について>
・「所」の“正しい方法”は、其五1-1③「多人数部隊を整える群臣は、訓練する少人数部隊を見分けるのであり、戦略、戦術を実行する正しい方法の通りに実行させる」に基づき、「戦略、戦術を実行する正しい方法」と補って解読。

・「往」の“ひきつけられる”は、①「戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えていく」に基づけば戦線にひきつけられると考察できる。結果、「戦線にひきつけられる」と解読。⑤も同様に解読。

・「諸なる歳に之る」の直訳は“四季が一巡する全ての期間に達する”となる。①「諸なる歳を之いる」同様に解釈して「戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ状態になる」と解読。

・「勇」の“勇猛な”は、正攻法部隊の兵士達に対する形容であることを踏まえて、「勇猛に敵軍とせめぎ合う」と補って解読。

<③について>
・「之に往く所無し」の直訳は“彼らに去る思いが無い”となる。これは自ずと②「戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えていく状態になる」ことを踏まえれば、戦線で敵軍とせめぎ合っている最中の兵士達は戦線にひきつけられているため、後退する意思が無いのだと推察できる。結果、「戦線で戦う部隊に後退する意思が無い」と解読。

・「投う者」の直訳は“払いのける者”となる。これは戦線にひきつけられて「戦線で戦う部隊」を払いのける後続の部隊を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「この部隊を払いのける部隊」と解読。

・「諸なる勇の歳に之く」の直訳は“他の兵士の時間に変わる”となる。これは、戦線で戦う部隊を払いのけた部隊が戦う時間になることと考察。結果、「他の兵士達が戦う時間に変わる」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・1つ目の「之」は、③1つ目の「之」の「戦線で戦う部隊」を指示する代名詞と解釈。この部隊は後退する意思が無くても他の部隊に払いのけられることを踏まえて、「払いのけられた部隊」と解読。

・「往かう者の無き所」の直訳は“ひきつけられる者がいない場所”となる。これは、向かって来る敵兵が存在しない場所と解釈できる。結果、「向かって来る敵兵達が存在しない場所」と解読。

<⑤について>
・1つ目の「之」は、④1つ目の「之」の「払いのけられた部隊」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「部隊」と簡潔に解読。

・「投」の“身を寄せる”は、④「投」で記述された「向かって来る敵兵達が存在しない場所で身を寄せる」の意味を積み上げていると考察。結果、「向かって来る敵兵達が存在しない場所で身を寄せる」と補って解読。

・2つ目の「之」の“赴く”は、話の流れより②「戦線にひきつけられて飛び込む」と同意と考察。結果、「戦線に飛び込む」と解読。

・「歳」の“四季が一巡する期間”は、①「歳」で記述された「戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ」と解読。⑥⑦も同様に解読。

<⑥について>
・1つ目の「之」の“彼ら”は、自軍の兵士達がせめぎ合う敵軍と考察。結果、「敵軍」と解読。

<⑦について>
・1つ目の「之」は、⑥1つ目の「之」の「敵軍」を指示する代名詞と解読。

・「投」の“のぞむ”は、⑥「投」で記述された「戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ状態に達すれば、全ての兵士達はよろしき状態になって敵軍に臨む」の意味を、自軍と敵軍を入れ替えて積み上げていると考察。結果、「戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ状態に達した自軍に臨む」と補って解読。

・「歲を之いる」の直訳は“一生を使う”となる。これは命を失うことと考察。結果、「命を失う」と解読した。

<⑧について>
・1つ目の「之」は、⑥1つ目の「之」の「敵軍」を指示する代名詞と解読。

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