其十一4-6
將軍之事、靜以幽、正以治。
jiāng jūn zhī shì、jìng yǐ yoū、zhèng yǐ zhì。
解読文
①自軍の兵士達と自国を支持しない元敵人民を統率する将軍の務めは、自国に歯向かう元敵兵達を里等の一定の区画に封じてその悪事を止めるのであり、里等の一定の区画に封じた元敵兵達を管理して治めることである。 ②里等の一定の区画に封じた元敵兵達を管理する将軍は、自国に歯向かう元敵兵達を正攻法部隊の中隊の真ん中に配置して閉じ込めるのであり、元敵兵の世話役を配置することでその悪事を止めるのである。 ③元敵兵の世話役は、自国に歯向かう元敵兵達を管理して軍事に従わせるのであり、周到に、秘密裏に考えている悪事を制止するのである。 ④秘密裏に考えている悪事を制止した時、自国に歯向かう元敵兵達が抵抗するならば、元敵兵の世話役は、連れて行った兵士達によって平定するのである。 ⑤自国に歯向かう元敵兵達の抵抗を平定した世話役が、自軍の将軍を殺害する任務があると見なせば、元敵兵達を封じた区画が安定した時に軍営に連れて行って、自国に歯向かう元敵兵達に質問するのである。 ⑥自国に歯向かう元敵兵達に質問した時、自軍の将軍を殺害する任務があると認めるならば、穏やかで誠実に接して服従させるのであり、敵将軍が行う軍事について実情を取り揃えるのである。 ⑦しかしながら、質問した時、本当の任務を隠して巧妙に偽っている自国に歯向かう元敵兵達は、自軍の将軍が行う軍事について実情を取り揃えて、自国から去るのである。 ⑧敵将軍が行う軍事の実情に従って軍事を行う将軍が軍事行動を起こした時は、巧みに飾るために測りがたいのであり、敵将軍の戦略、戦術を予期した上で、合理的に行動して考えていた計画を実行するのである。 |
書き下し文
①之を軍する将の事は、以(これ)を幽(ゆう)して静めるなり、以(これ)を治めて正(ただ)すなり。 ②以(これ)を治める将は、軍あれば、以(これ)を正に幽(ゆう)するなり、事(つか)える之を軍して静めるなり。 ③事(つか)える之は、以(これ)を治めて軍に将(したが)わしむなり、静(くわ)しく幽(ゆう)なりて以(おも)うこと正(とど)むなり。 ④幽(ゆう)なりて以(おも)うこと正(とど)むに、以(これ)の治(ち)すらば、事(つか)える之は、将(ともな)う軍に静(やすん)ずるなり。 ⑤静(やすん)ずる之は、幽(ゆう)たらしむ事ありと以(おも)えば、治(おさ)まるに軍に将(ともな)いて、以(これ)に正(ただ)すなり。 ⑥以(これ)に正(ただ)すに、幽(ゆう)たらしむ事ありと以(おも)わば、静(まこと)ありて将(したが)わしむなり、之の軍を治めるなり。 ⑦以て、正(ただ)すに、事は幽(ゆう)たりて静(せい)する以(これ)は、之の軍を治めて将(ゆ)くなり。 ⑧之に軍なす将は事なすに、静(せい)するを以て幽(ゆう)なり、正(あらかじ)めして、治(ち)して以(な)すなり。 |
<語句の注>
・「将」は①②将軍、③服従する、④⑤連れて行く、⑥服従する、⑦去る、⑧将軍、の意味。 ・「軍」は①軍隊を統率する、②軍隊を配置する、③軍事、④兵士、⑤軍営、⑥⑦⑧軍事、の意味。 ・「之」は①代名詞、②③④彼、⑤代名詞、⑥彼、⑦⑧代名詞、の意味。 ・「事」は①務め、②③④奉仕する、⑤⑥⑦任務、⑧軍事行動、の意味。 ・「静」は①②動きを止める、③周到に、④⑤平定する、⑥穏やかで誠実なさま、⑦巧妙に偽る、⑧巧みに飾る、の意味。 ・1つ目の「以」は①②代名詞、③④考える、⑤見なす、⑥認める、⑦代名詞、⑧~のために、の意味。 ・「幽」は①②閉じ込める、③④秘密にするさま、⑤⑥死者や霊界に関したさま、⑦隠すさま、⑧測りがたいさま、の意味。 ・「正」は①治める、②其五2-1①「正」、③④制止する、⑤⑥⑦質問する、⑧予期する、の意味。 ・2つ目の「以」は①②③④⑤⑥代名詞、⑦しかしながら、⑧事を行う、の意味。 ・「治」は①②③管理する、④抵抗する、⑤国や社会が安定する、⑥⑦取り揃える、⑧合理的な行動、の意味。 |
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。 ・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・「之」は、其十一4-5①「手」の「自軍の兵士達と自国を支持しない元敵人民」を指示する代名詞と解読。結果、「自軍の兵士達と自国を支持しない元敵人民」と解読。 ・1つ目の「以」は、其十一4-5⑥「手」の「自国に歯向かう元敵兵達」を指示する代名詞と解読。結果、「自国に歯向かう元敵兵達」と解読。②⑦も同様に解読。 ・「幽」の“閉じ込める”は、其十一4-5⑥「自国に歯向かう元敵兵達は、里等の一定の区画に取り囲んで封じて改心させる」に基づき、「里等の一定の区画に封じる」と補って解読。 ・「静」の“動きを止める”は、其十一4-5⑦「自国に歯向かう元敵兵達を里等の一定の区画に取り囲んで封じれば、元敵兵達による悪事を取り去ることが実現するのである」に基づけば、「自国に歯向かう元敵兵達」の悪事を止めることと考察できる。結果、話の流れに合わせて「その悪事を止める」と解読。②も同様に解読。 ・2つ目の「以」は、1つ目の「以」の「自国に歯向かう元敵兵達」を指示する代名詞と解釈。但し、この元敵兵達は里等の一定の区画に封じていることを踏まえて、「里等の一定の区画に封じた元敵兵達」と解読。②も同様に解読。 <②について> ・「正」は、其五2-1①「正」の「正攻法部隊」の意味を積み上げていると考察。結果、「正攻法部隊」と解読。 ・「幽」の“閉じ込める”は、其十5-1⑥「災いを起こした元敵兵達は、敵軍の兵士達と対峙させること無く接点を断ち切って、防御する正攻法部隊の中隊の真ん中に配置して抑制するのである」に基づき、「中隊の真ん中に配置して閉じ込める」と補って解読。 ・「事える之」の直訳は“奉仕する彼”となる。これは「自国に歯向かう元敵兵達」に対して奉仕する兵士と解釈すれば、其七6-4⑤「でたらめを言う元敵兵を軍隊の真ん中で管理する時は、攻め取った元敵兵の世話役が騒ぎ立てることででたらめをかき消すのである」で記述された世話役を指すと考察。結果、「元敵兵の世話役」と解読。③④も同様に解読。 <③について> ・2つ目の「以」は、其十一4-5⑥「手」の「自国に歯向かう元敵兵達」を指示する代名詞と解読。結果、「自国に歯向かう元敵兵達」と解読。④⑤⑥も同様に解読。 ・「幽なりて以うこと」の直訳は“秘密にして考えること”となる。これは②「元敵兵の世話役を配置することでその悪事を止める」に基づけば悪事を指すと考察できる。結果、「秘密裏に考えている悪事」と解読。④も同様に解読。 <④について> ・特に無し。 <⑤について> ・「静」の“平定する”は、④「静」で記述された「自国に歯向かう元敵兵達が抵抗するならば、元敵兵の世話役は、連れて行った兵士達によって平定する」の意味を積み上げていると考察。結果、「自国に歯向かう元敵兵達の抵抗を平定する」と補って解読。 ・「之」は、②③④「之」の「元敵兵の世話役」を指示する代名詞と解釈。但し、冗長にならないように「世話役」と簡略化して解読。 ・「幽たらしむ事」の直訳は“死者にさせる任務”となる。これは其十5-2④「大いなる褒美を採用すれば仕返しする覚悟を持って離反した兵士達が突き刺して敵将軍が死ぬ」から類推すれば、「自国に歯向かう元敵兵達」が自軍の将軍を殺害する任務を負っていることと考察できる。結果、「自軍の将軍を殺害する任務」と解読できる。⑥も同様に解読。 ・「治」の“国や社会が安定する”は、①「自国に歯向かう元敵兵達を里等の一定の区画に封じてその悪事を止める」に基づけば、「自国に歯向かう元敵兵達」による抵抗を受けた「里等の一定の区画」が安定することと考察。結果、「元敵兵達を封じた区画が安定する」と解読。 <⑥について> ・「之の軍を治める」の直訳は“彼の軍事を取り揃える”となる。これは穏やかで誠実に接して服従させた「自国に歯向かう元敵兵達」から収集する情報と解釈できるため、”彼“は敵将軍を指すと考察できる。なお、この情報は、其一1-2①「敵自身から敵の実情を教えてもらう方法を探求する」の”敵の実情“であることを踏まえて、「敵将軍が行う軍事について実情を取り揃える」と補って解読。 <⑦について> ・「事は幽たりて静する」の直訳は“任務を隠して巧妙に偽る”となる。これは、⑥「事」の「自軍の将軍を殺害する任務」を隠しているとも解釈できるが、「自国に歯向かう元敵兵達」が隠したい任務はこれだけに限らないと推察。結果、「本当の任務を隠して巧妙に偽っている」と包括的に解読。 ・「之」は、②「将」の「将軍」を指示する代名詞と解釈。解読文⑥との対比を考慮して「自軍の将軍」と解読。 ・「之の軍を治める」は、「之」を「自軍の将軍」と解釈すれば“自軍の将軍の軍事を取り揃える”となる。⑥「之の軍を治める」同様に解釈して「自軍の将軍が行う軍事について実情を取り揃える」と解読。 ・「将」の“去る”は、自軍の将軍が行う軍事について実情を取り揃えた「自国に歯向かう元敵兵達」が自国から去ることと考察。結果、「自国から去る」と補って解読。 <⑧について> ・「之」は、⑥「軍」の「敵将軍が行う軍事」を指示する代名詞と解釈。この情報は、実情を取り揃えていることを踏まえて「敵将軍が行う軍事の実情」と補って解読。 ・「正」の“予期する”は、敵将軍が行う軍事について実情を取り揃えた結果、敵将軍の戦略、戦術を予期するのだと考察できる。結果、「敵将軍の戦略、戦術を予期する」と補って解読。 ・「治して以す」の直訳は“合理的な行動をして事を行う”となる。これは、敵将軍の戦略、戦術を予期した上で、自軍の戦略、戦術を実行していく文意と解釈すれば、其七6-4①「合理的に行動して考えていた計画を実行する」を指すと考察できる。結果、「合理的に行動して考えていた計画を実行する」と解読。 |