入れて深き者は、重地にあるなり。

其十一6-4

入深者、重地也。

rù shēn zhě、zhòng dì yĕ。

解読文

①敵国領土の奥深くまで侵入して、敵里等を奪い取って獲得した陣地が豊富にある自軍は、城壁の必要度が極めて高く兵士達が恐れる戦地「重地」にいるのである。

②戦地「重地」にいる自軍は、陣地にした元敵里等の所得を豊かにするのである。

③陣地にした元敵里等の所得を豊かにする将軍は、陣地にした元敵里等によって自軍の所得を増やすのである。

④陣地にした元敵里等によって自軍の所得を増やす将軍は、陣地にした元敵里等において、周到に元敵人民に仲間意識を持たせるのである。

⑤周到に元敵人民に仲間意識を持たせる将軍は、陣地にした元敵里等に精通することを大事な任務と見なすのである。

⑥陣地にした元敵里等に精通することを大事な任務と見なす将軍は、徹底的に掘り下げて自軍の利点を報告させるのである。

⑦徹底的に掘り下げて自軍の利点を報告させた時、自軍にとって厳しい状態があれば、重要な事柄と見なすのである。

⑧自軍にとって厳しい状態を重要な事柄と見なす将軍は、自軍にとって厳しい状態を報告する者の人数をひたすら豊富にするのである。
書き下し文
①入(い)れて深き者は、重地(ちょうち)にあるなり。

②重(ちょう)にある者は、地の入りを深くするなり。

③深くする者は、地に入りを重くするなり。

④重くする者は、地に深く入(い)らしむなり。

⑤入(い)らしむ者は、地に深くすること重んずるなり。

⑥重んずる者は、深く地を入(い)らしむなり。

⑦入(い)らしむに深き地あれば、重んずるなり。

⑧重んずる者は、入(い)るものを地(た)だ深くするなり。
<語句の注>
・「入」は①入る、②③所得、④⑤身内の中にいる、⑥⑦献上する、⑧人や物あるいは意見などを受け入れる、⑧献上する、の意味。
・「深」は①②③よく茂っているさま、④周到に、⑤精通する、⑥徹底的に掘り下げて、⑦厳しい、⑧よく茂っているさま、の意味。
・「者」は①②③④⑤⑥助詞「もの」、⑦仮定表現の助詞、⑧助詞「もの」、の意味。
・「重」は①②其十一1-1①「重」、③④増やす、⑤⑥⑦⑧大事なものと見なす、の意味。
・「地」は①其一2-5②「地」、②③④⑤其一2-5④「地」、⑥特定の所、⑦状態、⑧ひたすら、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「入」の“入る”は、其十一1-7①「入」で記述された「敵国領土の奥深くまで侵入する」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵国領土の奥深くまで侵入する」と解読。

・「深」の“よく茂っているさま”は、敵国に侵入した自軍は敵里等を奪い取って陣地を開拓していく教えが軍争篇にあることを踏まえれば、敵国領土の奥深くまで侵入した自軍が多くの陣地を獲得した状態を指すと考察できる。結果、「敵里等を奪い取って獲得した陣地が豊富にある」と解読。

・「重地」は、其十一1-1①「重地」の「城壁の必要度が極めて高く兵士達が恐れる戦地「重地」」と考察。結果、「城壁の必要度が極めて高く兵士達が恐れる戦地「重地」」と解読。

<②について>
・「重」は、①「重地」の「城壁の必要度が極めて高く兵士達が恐れる戦地「重地」」の意味を積み上げていると考察。但し、冗長にならないように「戦地「重地」」と解読。

・「地」は、其一2-5④「地」であり、其十一6-3⑧「地」の「陣地にした元敵里等」を指すと考察。結果、「陣地にした元敵里等」と解読。③④⑤も同様に解読。

・「深」の“よく茂っているさま”は、所得が茂ることと解釈し、「豊かにする」と解読した。

<③について>
・「深」の“よく茂っているさま”は、②「深」で記述された「陣地にした元敵里等の所得を豊かにする」の意味を積み上げていると考察。結果、「陣地にした元敵里等の所得を豊かにする」と補って解読。

・「入」の“所得”は、其十一3-2⑧「ひなびている町、村、里等を奪い取って滞在することで十分に満ち足りた状態にすれば、自軍は何度も租税を取って生活にあてることができるのである」を実現した結果と考察。結果、「自軍の所得」と補って解読。

<④について>
・「重」の“増やす”は、②「重」で記述された「陣地にした元敵里等によって自軍の所得を増やす」の意味を積み上げていると考察。結果、「陣地にした元敵里等によって自軍の所得を増やす」と補って解読。

・「入」の“身内の中にいる”は、陣地にした元敵里等を自国の身内と言える段階まで服従させることであり、端的に言えば仲間意識を持たせることと考察できる。結果、使役形で「元敵人民に仲間意識を持たせる」と補って解読。

<⑤について>
・「入」の“身内の中にいる”は、④「入」で記述された「周到に元敵人民に仲間意識を持たせる」の意味を積み上げていると考察。結果、「周到に元敵人民に仲間意識を持たせる」と補って解読。

・「重」の“大事なものと見なす”の“もの”は、「陣地にした元敵里等」に精通することであり、これを任務と見なすのだと解釈。結果、「大事な任務と見なす」と解読。

<⑥について>
・「重」の“大事なものと見なす”は、⑤「重」で記述された「陣地にした元敵里等に精通することを大事な任務と見なす」の意味を積み上げていると考察。結果、「陣地にした元敵里等に精通することを大事な任務と見なす」と補って解読。

・「地」の“特定の所”は、其十一1-7③「敵人民から町や村等を献上させて、その町や村等に精通して自軍の利点を出し尽くす」の利点を指すと考察。結果、「自軍の利点」と解読。

・「入」の“献上する”は、其九4-9②「謙虚に命令して、ことごとく自軍の優れた点となることを出し尽くすのである」から類推すれば、「自軍の利点」を出し尽くすように将軍が命令しているのであり、その命令に対して「自軍の利点」を報告することと解釈できる。結果、使役形で「報告させる」と解読。

<⑦について>
・「入」の“献上する”は、⑥「入」で記述された「徹底的に掘り下げて自軍の利点を報告させる」の意味を積み上げていると考察。結果、「徹底的に掘り下げて自軍の利点を報告させる」と補って解読。

・「深き地」の直訳は“厳しい状態”となる。これは、其九4-9③「屋根の低さが気にかかれば、屋敷後部の塀の高さを増やして補おうとする者が出現するのである」及び其九4-9④「謙虚に命令すれば、警戒心にみなぎる者は、優れていない点について諫めの言葉を進上するのである」に基づけば、自軍にとって優れていない、厳しい状態を指すと解釈できる。結果、「自軍にとって厳しい状態」と解読。

・「重」の“大事なものと見なす”は、「自軍にとって厳しい状態」を重要な事柄と見なすことと解釈。結果、「重要な事柄と見なす」と言い換えた。

<⑧について>
・「重」の“大事なものと見なす”は、⑦「重」で記述された「自軍にとって厳しい状態があれば、重要な事柄と見なす」の意味を積み上げていると考察。結果、「自軍にとって厳しい状態を重要な事柄と見なす」と補って解読。

・「入るもの」の直訳は“献上する者”となる。これは⑦「徹底的に掘り下げて自軍の利点を報告させた時、自軍にとって厳しい状態があれば、重要な事柄と見なすのである」に基づけば、自軍にとって厳しい点を報告する者と考察できる。結果、「自軍にとって厳しい状態を報告する者」と解読。

・「深」の“よく茂っているさま”は、「自軍にとって厳しい状態を報告する者」が茂ることと解釈。結果、「地だ深くする」で「人数をひたすら豊富にする」と解読した。

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