入りて浅ければ、軽地にあるなり。

其十一6-5

入淺者、輕地也。

rù qiǎn zhě、qīng dì yĕ。

解読文

①敵国の領土に侵入してあまり時間が経過していなければ、敵を侮って兵士数を減らす戦地「軽地」にいるのである。

②「軽地」にいる兵士達は、ひたすら物事を上っ面だけで考えて隊長等からの指示を受け入れるのである。

③物事を上っ面だけで考える兵士達は、少しずつ敵国領土の奥深くに進軍していけば、ひたすら気軽に過ごすのである。

④ひたすら気軽に過ごす兵士達は、所得が少ない地位である。

⑤所得が少ない地位の兵士達は、敵国の町、村、里、集落にいる身分が低い敵人民に仲間意識を持たせるのである。

⑥敵国の町、村、里、集落にいる敵人民に仲間意識を持たせる兵士達は、年齢が若いため短期間で田畑を開墾するのである。

⑦年齢の若い兵士達が短期間で田畑を開墾すれば、身分が低い敵人民は、物事を上っ面だけで考えて仲間意識を持つのである。

⑧物事を上っ面だけで考えて仲間意識を持った兵士達と元敵人民は、集合させた時、ひたすら滑らかに動くのである。
書き下し文
①入りて浅ければ、軽地にあるなり。

②軽にある者は、地(た)だ浅くして入(い)れるなり。

③浅き者は、入れば、地(た)だ軽(かるがる)しくあるなり。

④軽(かるがる)しくある者は、入りの浅き地なり。

⑤浅き者は、地の軽きものに入(い)らしむなり。

⑥入(い)らしむ者は、軽くして浅きに地あらしむなり。

⑦地あらしめば、軽きものは、浅くして入(い)るなり。

⑧入(い)る者は、浅くせしむに、地(た)だ軽(かろ)やかなり。
<語句の注>
・「入」は①入る、②人や物あるいは意見を受け入れる、③少しずつしみ込む、④所得、⑤⑥⑦⑧身内の中にいる、の意味。
・「浅」は①時間が短いさま、②③皮相なさま、④⑤水がわずかで深くないさま、⑥時間が短いさま、⑦皮相なさま、⑧狭い、の意味。
・「者」は①仮定表現の助詞、②③④⑤⑥助詞「もの」、⑦仮定表現の助詞、⑧助詞「もの」、の意味。
・「軽」は①②其十一1-1①「軽」、③④気軽に、⑤身分が低い、⑥年齢が若い、⑦身分が低い、⑧動きなどが滑らかなさま、の意味。
・「地」は①其一2-5②「地」、②③ひたすら、④地位、⑤其一2-5④「地」、⑥⑦田畑、⑧ひたすら、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「入」の“入る”は、其十一1-3①「入」で記述された「敵国の領土に侵入する」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵国の領土に侵入する」と解読。

・「浅」の“時間が短いさま”は、其十一6-1①「浅」で記述された「侵入してからあまり時間が経過していない」の意味を積み上げていると考察。結果、「あまり時間が経過していない」と解読。

・「軽地」は、其十一1-1①「軽地」の「敵を侮って兵士数を減らす戦地「軽地」」と考察。結果、「敵を侮って兵士数を減らす戦地「軽地」」と解読。

<②について>
・「軽」は、①「軽地」の「敵を侮って兵士数を減らす戦地「軽地」」の意味を積み上げていると考察。但し、冗長にならないように「戦地「軽地」」と解読。

・「浅」の“皮相なさま”は、其十一6-1②「浅」で記述された「物事を上っ面だけで考える」の意味を積み上げていると考察。結果、「物事を上っ面だけで考える」と補って解読。③⑦も同様に解読。

・「入」の“人や物あるいは意見を受け入れる”は、兵士達が将軍や隊長からの指示を受け入れることと考察。結果、「隊長等からの指示を受け入れる」と解読。

<③について>
・「入」の“少しずつしみ込む”は、少しずつ敵国領土の奥深くに進軍していくことと考察。結果、「少しずつ敵国領土の奥深くに進軍していく」と解読。

・「軽」の“気軽に”は、兵士達の過ごし方と解釈。結果、「軽しくある」で「気軽に過ごす」と解読。

<④について>
・「軽」の“気軽に”は、③「軽」で記述された「ひたすら気軽に過ごす」の意味を積み上げていると考察。結果、「軽しくある」で「ひたすら気軽に過ごす」と解読。

・「浅」の“水がわずかで深くないさま”は、溜まった水が少ない状態と解釈すれば、其四4-4④「赤い顔料と耕作地にある用水路の水の重さを量らせるに等しく増えることがない敵国での収入とどんどん増える自国での収入を比較させる」の喩えより、収入が少ないことと考察できる。結果、「入りの浅い」で「所得が少ない」と解読できる。なお、“どんどん増える自国での収入”と矛盾してそうに見えるが、いずれも相対的な表現と解釈する。“どんどん増える自国での収入”は現状よりも収入が増えていくのであり、“所得が少ない”は地位が高い武将や間者と比較して所得が少ないのである。

<⑤について>
・「浅」の“水がわずかで深くないさま”は、④「浅」で記述された「所得が少ない地位」の意味を積み上げていると考察。結果、「所得が少ない地位」と解読。

・「地」は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」を指すと考察。結果、「敵国の町、村、里、集落」と解読。

・「軽きもの」の直訳は“身分が低い者”となる。これは「敵国の町、村、里、集落」にいる人民を指すと考察。結果、「身分が低い敵人民」と解読。⑦も同様に解読。

・「入」の“身内の中にいる”は、其十一6-4④「入」同様に解釈。使役形で「仲間意識を持たせる」と解読。

<⑥について>
・「入」の“身内の中にいる”は、⑤「入」で記述された「敵国の町、村、里、集落にいる身分が低い敵人民に仲間意識を持たせる」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵国の町、村、里、集落にいる敵人民に仲間意識を持たせる」と簡略化して解読。

・「地」の“田畑”は、其十一3-2②「郊外の町、村、里等を奪い取ってもひなびていれば滞在して手厚く与えるのであり、兵士達が何度も耕作すれば全軍の食糧は十分に備わるだろう」及び其十一3-2③「全軍は、山の麓の木を伐採することで、あり余る広く平坦な場所を出現させて滞在した上で、兵士達が何度も耕作するのである」に基づき、「地あらしむ」で「田畑を開墾する」と解読。

<⑦について>
・「地」の“田畑”は、⑥「地」で記述された「年齢が若いため短期間で田畑を開墾する」の意味を積み上げていると考察。結果、「地あらしむ」で「年齢の若い兵士達が短期間で田畑を開墾する」と補って解読。

・「入」の“身内の中にいる”は、⑤「入」の「仲間意識を持たせる」の解釈に基づき、「仲間意識を持つ」と解読。

<⑧について>
・「入」の“身内の中にいる”は、⑦「入」で記述された「物事を上っ面だけで考えて仲間意識を持つ」の意味を積み上げていると考察。結果、「物事を上っ面だけで考えて仲間意識を持つ」と解読。

・「入る者」は、「入」を「物事を上っ面だけで考えて仲間意識を持つ」と解釈すれば“物事を上っ面だけで考えて仲間意識を持つ者”となる。この者は、③「物事を上っ面だけで考える兵士達」と⑦「身分が低い敵人民は、物事を上っ面だけで考えて仲間意識を持つ」の兵士達と敵人民の両方を指すと考察。結果、「物事を上っ面だけで考えて仲間意識を持った兵士達と元敵人民」と解読。

・「浅」の“狭い”は、其十一6-1⑥「浅」の「兵士達は集合する」と同意と考察。結果、話の流れに合わせて使役形で「集合させる」と解読。

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