軽き地に、吾が将は、僂を使いとして之かしむなり。

其十一6-10

輕地、吾將使之僂。

qīng dì、wú jiāng shǐ zhī lóu。

解読文

①敵国にとって戦略上の価値が無い町、村、里、集落では、自軍の将軍は、背中が曲がった小さい者を使者にして赴かせる。

②背中が曲がった小さい使者の使命は、礼物を捧げて、敵人民に自軍をひたすら侮らせることである。

③礼物を捧げて敵人民に自軍をひたすら侮らせた時、背中が曲がった小さい使者は慎んで、近辺にある山の麓を自軍で運用することを願うのである。

④近辺にある山の麓を自軍で運用する時は、年齢の若い兵士達を使って、急いで山の麓に壮大に広がる平坦な場所を出現させるのである。

⑤壮大に広がる平坦な場所が出現すれば、将軍は、年齢の若い兵士達に開墾させて田畑を出現させるのである。

⑥壮大に広がる平坦な場所に田畑が出現すれば、空腹の兵士達を養って、滑らかに動ける状態で働かせるのである。

⑦自軍の兵士達が滑らかに動ける状態になれば、その田畑で年齢の若い兵士達に農作物を収穫させて、場所を提供してくれた敵里等に送り届けるのである。

⑧侮らせていた敵人民は自軍に服従するのであり、慎んで壮大に広がる平坦な場所を戦地として使わせるのである。
書き下し文
①軽き地に、吾が将は、僂(ろう)を使(つか)いとして之(ゆ)かしむなり。

②僂(ろう)の使(し)は、将(おこな)いて吾を地(た)だ軽んぜしむことなり。

③軽んぜしむに、之は僂(かが)めて、地を吾の使うこと将(こ)うなり。

④使うに、軽き吾をして、僂(はや)く之に将(おお)いなる地あらしむなり。

⑤之あれば、将は、軽き吾を僂(かが)めて使いて地あらしむなり。

⑥之あれば、僂(かが)む吾を将(やしな)いて軽やかなる地に使うなり。

⑦軽やかなれば、之に吾を僂(かが)めて使いて、地に将(おく)るなり。

⑧軽んぜしむものは吾に将(したが)うなり、僂(かが)めて之を地に使わしむなり。
<語句の注>
・「軽」は①価値がないさま、②③侮る、④⑤年齢が若い、⑥⑦動きなどが滑らかなさま、⑧侮る、の意味。
・「地」は①其一2-5④「地」、②ひたすら、③特定の所、④場所、⑤田畑、⑥状態、⑦其一2-5④「地」、⑧其一2-5②「地」、の意味。
・「吾」は①我々の、②③④⑤⑥⑦⑧我々、の意味。
・「将」は①将軍、②捧げる、③願う、④壮大なさま、⑤将軍、⑥養う、⑦送り届ける、⑧服従する、の意味。
・「使」は①使者、②使命、③④運用する、⑤⑥⑦働かせる、⑧用いる、の意味。
・「之」は①赴く、②助詞「の」、③④⑤⑥⑦⑧代名詞、の意味。
・「僂」は①②背中が曲がって小さい人、③慎む、④急ぐさま、⑤⑥⑦曲げる、⑧慎む、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「地」は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」を指すと考察。結果、「敵国の町、村、里、集落」と解読。

・「軽き地」は、「地」を「敵国の町、村、里、集落」と解釈すれば“価値が無い敵国の町、村、里、集落”となる。これは敵将軍にとって戦略上の価値がない地区であり、自軍が軍争によって奪い取っていく理想的な地区と解釈できる。結果、「敵国にとって戦略上の価値が無い町、村、里、集落」と補って解読。

<②について>
・「僂」の“背中が曲がって小さい人”は、①「僂」で記述された「背中が曲がった小さい者を使者にして赴かせる」の意味を積み上げていると考察。結果、「背中が曲がった小さい使者」と解読。

・「将」の“捧げる”は、其九4-10⑦「無理に言葉で咎めるが消極的な様子のしんがり部隊が存在すれば、礼物で自国に寝返ることを強要するのである」等から類推すれば、“礼物”を捧げることと考察できる。結果、「礼物を捧げる」と補って解読。

・「軽」の“侮る”は、「敵国の町、村、里、集落」の敵人民に自軍を侮らせることと考察。結果、「地だ軽んぜしむ」で「敵人民に自軍をひたすら侮らせる」と補って解読。

<③について>
・「軽」の“侮る”は、②「軽」で記述された「礼物を捧げて、敵人民に自軍をひたすら侮らせる」の意味を積み上げていると考察。結果、「礼物を捧げて敵人民に自軍をひたすら侮らせる」と補って解読。

・「之」は、②「僂」の「背中が曲がった小さい使者」を指示する代名詞と解読。

・「地」の“特定の所”は、其十一3-2③「全軍は、山の麓の木を伐採することで、あり余る広く平坦な場所を出現させて滞在した上で、兵士達が何度も耕作するのである」に基づけば敵里等の近辺にある「山の麓」を指すと考察できる。結果、「近辺にある山の麓」と解読。

<④について>
・「使」の“運用する”は、③「使」で記述された「近辺にある山の麓を自軍で運用する」の意味を積み上げていると考察。結果、「近辺にある山の麓を自軍で運用する」と補って解読。

・「軽き吾」の直訳は“年齢が若い我々”となる。これは若い兵士達を指すと考察。結果、「年齢の若い兵士達」と解読。⑤も同様に解読。

・「之」は、③「地」の「近辺にある山の麓」を指示する代名詞と解釈。但し、冗長にならないように「山の麓」と簡潔に解読。

・「地」の“場所”は、其十一3-2③「全軍は、山の麓の木を伐採することで、あり余る広く平坦な場所を出現させて滞在した上で、兵士達が何度も耕作するのである」に基づけば「あり余る広く平坦な場所」を指すと考察できる。結果、「将いなる地」で「壮大に広がる平坦な場所」と解読。

<⑤について>
・「之」は、④「地」の「壮大に広がる平坦な場所」を指す代名詞と解読。⑧も同様に解読。

・「僂めて使いて地あらしむ」の直訳は“曲げて働かせて田畑を出現させる”となる。要は、兵士達に開墾させることと考察。結果、「開墾させて田畑を出現させる」と解読。

<⑥について>
・「之」は、⑤「地」の「田畑」を指す代名詞と解釈。結果、話の流れがわかるように「之ある」で「壮大に広がる平坦な場所に田畑が出現する」と補って解読。

・「僂む吾」の直訳は“曲げる我々”となる。この者達は田畑が出現したことで滑らかに動けるようになるため、空腹でお腹を押さえて曲げた姿勢になっている兵士達の描写と考察できる。結果、「空腹の兵士達」と解読。

<⑦について>
・「軽」の“動きなどが滑らかなさま”は、⑥「軽」で記述された「空腹の兵士達を養って、滑らかに動ける状態で働かせる」の意味を積み上げていると考察。結果、「自軍の兵士達が滑らかに動ける状態になる」と補って解読。

・「吾」の“我々”は、④⑤「吾」の「年齢の若い兵士達」の意味を積み上げていると考察。結果、「年齢の若い兵士達」と補って解読。

・「之」は、⑥「之」の「田畑」を指す代名詞と解釈。話の流れに合わせて「その田畑」と解読。

・「僂めて使う」の直訳は“曲げて働かせる”となる。これは農作物を「敵国の町、村、里、集落」に届ける文意とわかるため、兵士達に田畑から農作物を収穫させることと考察できる。結果、「農作物を収穫させる」と解読。

・「地」は、①「地」の「敵国の町、村、里、集落」と考察。この里等は自軍に場所を提供してくれたことを踏まえて、「場所を提供してくれた敵里等」と補って解読。

<⑧について>
・「軽んぜしむもの」の直訳は“侮らせた者”となる。これは②「敵人民に自軍をひたすら侮らせる」に基づけば、「侮らせていた敵人民」と解読。

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