地に交うなり、吾が将は、結びて其の固めるなり。

其十一6-12

交地也、吾將固其結。

jiāo dì yě、wú jiāng gù qí jié。

解読文

①他国と行き来しやすい戦地「交地」では、その他国を治める諸侯と同盟を取り交わすのであり、自軍の将軍は、その諸侯達と連合して敵軍を閉じ込めるのである。

②諸侯達と連合して敵軍を閉じ込めた将軍は、その諸侯達に一斉に防御させることで、敵軍を敵国内に縛るのである。

③敵軍を敵国内に縛った時、将軍が自軍に勢いを生じさせて堅固な実の状態にする理由は、敵将軍は切羽詰まった状態だからである。

④敵将軍が切羽詰まった状態になれば、敵兵達を集めて勢いを生じさせて堅固な実の状態にするのであり、自軍が陣地にした元敵里等を取り返そうとするのである。

⑤敵将軍が、自軍が陣地にした元敵里等を取り返そうとすれば、陣地にした元敵里等は切羽詰まった状態になるのであり、将軍は、自軍の兵士達と元敵人民を集めてしっかり守るのである。

⑥自軍の兵士達と元敵人民を集めてしっかり守る時、将軍は、自軍が陣地にした元敵里等も諸侯達と同様に一斉に連合されたい。

⑦陣地にした元敵里等が一斉に連合した時、将軍が、陣地にした元敵里等に防御させる理由は、敵軍を切羽詰まらせて閉じ込めるからである。

⑧同盟を結んだ諸侯達及び陣地にした元敵里等との連合によって敵軍を切羽詰まらせて閉じ込めれば、奇正の戦術同様に、敵軍の周囲を取り囲んだ状態になるのであり、将軍は、講和の文書を取り交わすことを願うのである。
書き下し文
①地に交(か)うなり、吾が将は、結びて其の固めるなり。

②固める将は、交(こもごも)吾(ふせ)がしめて、其の地に結ぶなり。

③結ぶに、将は吾を固(かた)くするは、其の交たる地なればなり。

④交たれば、其の結びて固(かた)くするなり、吾が地を将(と)らんとするなり。

⑤其の将(と)らんとすれば、地は交たるなり、吾は結びて固めるなり。

⑥固めるに、将は、吾の地も也(ま)た其れ交(こもごも)結ぶ。

⑦結ぶに、将の、地に吾(ふせ)がしむは、其の交たらしめて固めればなり。

⑧固めれば也(ま)た、其の結(めぐ)らす地たるなり、吾は交(か)うこと将(こ)うなり。
<語句の注>
・「交」は①取り交わす、②一斉に、③④⑤切羽詰まったさま、⑥一斉に、⑦切羽詰まったさま、⑧取り交わす、の意味。
・「地」は①其一2-5②「地」、②国、③状態、④⑤⑥⑦其一2-5④「地」、⑧状態、の意味。
・「也」は①②断定の語気、③因果関係を表す助詞、④⑤断定の語気、⑥同様に、⑦因果関係を表す助詞、⑧同様に、の意味。
・「吾」は①我々の、②防御する、③我々、④我々の、⑤私、⑥我々、⑦防御する、⑧私、の意味。
・「将」は①②③将軍、④⑤持つ、⑥⑦将軍、⑧願う、の意味。
・「固」は①②閉じ込める、③④(地勢や守りが)しっかりしたさま、⑤⑥しっかり守る、⑦⑧閉じ込める、の意味。
・「其」は①②③④⑤敵の代名詞、⑥~されたい、⑦⑧敵の代名詞、の意味。
・「結」は①連合する、②③縛る、④⑤集める、⑥⑦連合する、⑧めぐる、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は「交地也,吾將固其𥿍」だが、「𥿍」は詳細不明なため異体字「結」に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「地」は、其一2-5②「」であり、其十一1-1①4つ目の「地」の「他国と行き来しやすく諸侯と同盟を取り交わす戦地「交地」」の意味を積み上げていると考察。結果、話の流れに合わせて「他国と行き来しやすい戦地「交地」」と解読。

・「交」の“取り交わす”は、其十一1-5④「交」で記述された「未来を考えた時にその諸侯を利点と見なすならば、戦争を終える時、将軍は贈呈して同盟を取り交わすことに同意させる」の意味を積み上げていると考察。戦地「交地」から行き来できる他国の諸侯と同盟を結ぶことと解釈できるため、「その他国を治める諸侯と同盟を取り交わす」と補って解読。

・「結」の“連合する”は、「他国と行き来しやすい戦地「交地」」で同盟を結んだ諸侯達と連合することと考察。結果、「その諸侯達と連合する」と補って解読。

<②について>
・「固」の“閉じ込める”は、①「固」で記述された「その諸侯達と連合して敵軍を閉じ込める」の意味を積み上げていると考察。結果、「諸侯達と連合して敵軍を閉じ込める」と補って解読。

・「交吾がしむ」の直訳は“一斉に防御させる”となる。これは同盟を結んだ諸侯達に一斉に防御させることと考察。結果、「その諸侯達に一斉に防御させる」と補って解読。

<③について>
・「結」の“縛る”は、②「結」で記述された「敵軍を敵国内に縛る」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵軍を敵国内に縛る」と補って解読。

・「固」の“(地勢や守りが)しっかりしたさま”は、其五5-2②「石」の「勢いを生じさせた堅固な軍隊」の状態を指すと考察。つまり、虚実における「実」に達した状態と解釈して、「勢いを生じさせて堅固な実の状態にする」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「交」の“切羽詰まったさま”は、③「交」で記述された「敵将軍は切羽詰まった状態である」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵将軍が切羽詰まった状態になる」と補って解読。

・「地」は、其一2-5④「」であり、其十一6-11⑧「地」の「陣地にした元敵里等」を指すと考察。結果、「陣地にした元敵里等」と解読。⑤⑥⑦も同様に解読。

・「将」の“持つ”は、其十一6-11②「将」の「敵里等を手に入れる」の解釈から類推すれば、敵軍がその敵里等を取り返すことと考察。結果、「取り返す」と解読。

<⑤について>
・「将」の“持つ”は、④「将」で記述された「自軍が陣地にした元敵里等を取り返そうとする」の意味を積み上げていると考察。結果、「自軍が陣地にした元敵里等を取り返そうとする」と解読。

・「結」の“集める”は、戦地が元敵里等の近辺になること、又、其十一3-4①「自軍の兵士達と元敵人民の勇気を一つにして、勢いを生じた軍隊は逃亡する隙がない状況に直面すれば、命を投げ出す覚悟を持ち、その上さらに裏切らないのである」等から類推すれば、「自軍の兵士達と元敵人民を集める」と補って解読できる。

<⑥について>
・「固」の“しっかり守る”は、⑤「固」で記述された「自軍の兵士達と元敵人民を集めてしっかり守る」の意味を積み上げていると考察。結果、「自軍の兵士達と元敵人民を集めてしっかり守る」と補って解読。

・「也」の“同様に”は、①「自軍の将軍は、その諸侯達と連合して敵軍を閉じ込める」を受けた表現と考察。結果、「諸侯達と同様に」と補って解読。

<⑦について>
・「結」の“連合する”は、⑥「結」で記述された「自軍が陣地にした元敵里等も諸侯達と同様に一斉に連合されたい」の意味を積み上げていると考察。結果、「陣地にした元敵里等が一斉に連合する」と補って解読。これは、其七4-3①「開拓した陣地を繋ぎ止めて全軍の権勢が生じれば、自軍が行動し始めた時、敵軍に危険を感じさせることができる」を実現した状態と考察。

<⑧について>
・「固」の“閉じ込める”は、⑦「固」で記述された「陣地にした元敵里等に防御させる理由は、敵軍を切羽詰まらせて閉じ込める」の意味を積み上げていると考察。但し、この敵軍を閉じ込めた状態は、同盟を結んだ諸侯達との連合と、陣地にした敵里等との連合によって作り上げていることを踏まえて、「同盟を結んだ諸侯達及び陣地にした元敵里等との連合によって敵軍を切羽詰まらせて閉じ込める」と補って解読。

・「其の結らす」の直訳は“敵をめぐる”となる。これは、敵軍の周囲を、同盟を結んだ諸侯達及び陣地にした元敵里等の連合によって取り囲むことと考察でき、其五2-9④「奇策部隊と正攻法部隊は力を合わせて敵部隊の周囲を取り囲んで生け捕りにする」に類似した状態と解釈できる。結果、「敵軍の周囲を取り囲む」と言い換えた。

・「也」の“同様に”は、「其の結らす」の解釈に基づき、「奇正の戦術同様に」と補って解読。

・「交」の“取り交わす”は、其九4-12⑦「もしも、相互に文字による誓いを立てて、そのうえ、講和した相手国の使者が程よく穏やかな様子で教えを請えば、相談に応じるのである」から類推すれば、行き詰まらせた敵将軍と講和の文書を取り交わすことと考察。結果、「講和の文書を取り交わす」と補って解読できる。

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