其十一6-13
瞿地也、吾將謹其恃。
qú dì yě、wú jiāng jǐn qí shì。
解読文
①敵里等の近辺に出現させた広く平坦な場所では、ひたすら敵の正攻法部隊が出現することを警戒して周囲を見回すのであり、自軍の将軍は、敵軍を厳密に防ぐ体制を頼りにするのである。 ②敵軍を厳密に防ぐ体制を頼りにする理由は、横並びに整った隊列で広がった状態でひたすら防御すれば、用心深い敵軍は撤退するからである。 ③用心深い敵軍が撤退する理由は、慎重な敵将軍を世話する理解者が、自軍の状態に驚き恐れたからである。 ④敵将軍の理解者が自軍の状態に驚き恐れた時は、ひたすら防御して撤退するのであり、やはり厳密に防ぐ体制を頼りにするのである。 ⑤敵軍を厳密に防ぐ体制を頼りにする将軍は、用心深い敵軍との戦闘を防ぐのであり、分岐していて陣地拡大の要所となる戦地「瞿地」に驚き恐れて周囲を見回す諸侯の軍隊を出現させるのである。 ⑥戦地「瞿地」で驚き恐れて周囲を見回す諸侯の軍隊も同様に、防御することを頼りにして用心深い敵軍を撤退させるのである。 ⑦戦地「瞿地」で諸侯が用心深い敵軍を撤退させる理由は、用心深い敵軍との戦闘を防ぐことを頼りにして、陣地にした元敵里等を横ざまに広げていくからである。 ⑧陣地にした元敵里等を横ざまに広げていけば、軍隊の隊列と同様に、ひたすら防御するのであり、厳密に防ぐ体制を頼りにすれば敵将軍が自国に服従するだろう。 |
書き下し文
①地に瞿(み)るなり、吾が将は、其の謹(つつし)むこと恃(たの)むなり。 ②恃(たの)むは、瞿(く)して地(た)だ吾(ふせ)げば、謹(つつし)む其の将(ゆ)けばなり。 ③将(ゆ)くは、謹(つつし)む其の恃(し)の、吾の地に瞿(おそ)れればなり。 ④瞿(おそ)れるに、地(た)だ吾(ふせ)ぎて将(ゆ)くなり、其れ謹(つつし)むこと恃(たの)むなり。 ⑤恃(たの)む将は、謹(つつし)む其の吾(ふせ)ぐなり、地に瞿(み)るものあらしむなり。 ⑥地に瞿(み)るものも也(ま)た、吾(ふせ)ぐこと恃(たの)みて謹(つつし)む其の将(ゆ)かしむなり。 ⑦将(ゆ)かしむは、謹(つつし)む其の吾(ふせ)ぐこと恃(たの)みて、地を瞿(く)するなり。 ⑧瞿(く)すれば也(ま)た、地(た)だ吾(ふせ)ぐなり、謹(つつし)むこと恃(たの)めば其の将(したが)わん。 |

<語句の注>
・「瞿」は①驚き恐れて周囲を見回す、②(植物の根や葉が)横ざまに広がり生える、③④驚き恐れる、⑤⑥驚き恐れて周囲を見回す、⑦⑧(植物の根や葉が)横ざまに広がり生える、の意味。 ・「地」は①場所、②ひたすら、③状態、④ひたすら、⑤⑥其一2-5②「地」、⑦其一2-5④「地」、⑧ひたすら、の意味。 ・「也」は①断定の語気、②③因果関係を表す助詞、④⑤断定の語気、⑥同様に、⑦因果関係を表す助詞、⑧同様に、の意味。 ・「吾」は①我々の、②防御する、③我々、④⑤⑥⑦⑧防御する、の意味。 ・「将」は①将軍、②③④去る、⑤将軍、⑥⑦去る、⑧服従する、の意味。 ・「謹」は①厳密に防ぐ、②用心深い、③慎重な、④厳密に防ぐ、⑤⑥⑦用心深い、⑧厳密に防ぐ、の意味。 ・「其」は①②③敵の代名詞、④やはり、⑤⑥⑦⑧敵の代名詞、の意味。 ・「恃」は①②頼りにする、③母親、④⑤⑥⑦⑧頼りにする、の意味。 |
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「衢地也吾將謹其恃。」と「瞿」を「衢」するが、其十一1-6同様に中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った上で「矍」は「瞿」に置き換えた。 ・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・「地」の“場所”は、其十一6-3③「地」の「敵里等の近辺にある植物が広がる平坦な場所を出現させる」を指すと考察。結果、「敵里等の近辺に出現させた広く平坦な場所」と補って解読。 ・「瞿」の“驚き恐れて周囲を見回す”は、其十一6-3⑤「瞿」で記述された「ひたすら敵の正攻法部隊が出現することを警戒して周囲を見回す」の意味を積み上げていると考察。結果、「ひたすら敵の正攻法部隊が出現することを警戒して周囲を見回す」と補って解読。 <②について> ・「恃」の“頼りにする”は、①「恃」で記述された「敵軍を厳密に防ぐ体制を頼りにする」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵軍を厳密に防ぐ体制を頼りにする」と補って解読。⑤も同様に解読。 ・「瞿」の“(植物の根や葉が)横ざまに広がり生える”は、其五2-3③「月を出現させるに至る太陽は、植物が芽生える準備ができたことを告げる冬のように、隠れている奇策部隊が出撃する準備を整える正攻法部隊である」等の植物の喩えから類推すれば、兵士達が横並びに整った隊列で広がっている状態と解釈できる。結果、「横並びに整った隊列で広がる」と解読。 ・「将」の“去る”は、自軍がいる元敵里等に来襲した敵軍が撤退することと考察。結果、「撤退する」と言い換えた。④⑥も同様に解読。 <③について> ・「将」の“去る”は、②「将」で記述された「用心深い敵軍は撤退する」の意味を積み上げていると考察。結果、「用心深い敵軍が撤退する」と補って解読。 ・「其の恃」の直訳は“敵の母親”となる。この“母親”は子供の世話をする存在であり、その子供は敵将軍だと仮定すれば、其三6-2⑤「大いに将軍の知恵の無さを明らかにしてくれる理解者は、将軍が自分の知識だけに集中することを理解して、過失を抑制することだけに集中する」の「理解者」が“母親”の喩えと解釈できる。結果、「敵将軍を世話する理解者」と解読。 <④について> ・「瞿」の“驚き恐れる”は、③「瞿」で記述された「慎重な敵将軍を世話する理解者が、自軍の状態に驚き恐れる」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵将軍の理解者が自軍の状態に驚き恐れる」と補って解読。 <⑤について> ・「謹む其の吾ぐ」の直訳は“用心深い敵を防御する”となる。この意味合いは、解読文④より、厳密に防ぐ体制を頼りにする敵軍との戦闘を回避することと考察できる。結果、「用心深い敵軍との戦闘を防ぐ」と補って解読。⑦も同様に解読。 ・「地」は、其一2-5②「地」であり、其十一1-1①5つ目の「地」の「分岐していて陣地拡大の要所となる戦地「瞿地」」の意味を積み上げていると考察。結果、「分岐していて陣地拡大の要所となる戦地「瞿地」」と解読。 ・「瞿るもの」の直訳は“驚き恐れて周囲を見回す者”となる。これは其十一6-3①「瞿るもの」同様に「驚き恐れて周囲を見回す諸侯の軍隊」と解読。⑥も同様に解読。 <⑥について> ・「地」は、⑤「地」同様に「分岐していて陣地拡大の要所となる戦地「瞿地」」と解釈。但し、冗長にならないように「戦地「瞿地」」と解読。 <⑦について> ・「将」の“去る”は、⑥「将」で記述された「戦地「瞿地」で驚き恐れて周囲を見回す諸侯の軍隊も同様に、防御することを頼りにして用心深い敵軍を撤退させる」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦地「瞿地」で諸侯が用心深い敵軍を撤退させる」と補って解読。 ・「地」は、其一2-5④「地」であり、其十一6-11⑧「地」の「陣地にした元敵里等」を指すと考察。結果、「陣地にした元敵里等」と解読。 ・「瞿」の“(植物の根や葉が)横ざまに広がり生える”は、植物を「陣地にした元敵里等」の喩えと解釈すれば、陣地を横ざまに広げていくことと考察できる。結果、「横ざまに広げていく」と解読。 <⑧について> ・「瞿」の“(植物の根や葉が)横ざまに広がり生える”は、⑦「瞿」で記述された「陣地にした元敵里等を横ざまに広げていく」の意味を積み上げていると考察。結果、「陣地にした元敵里等を横ざまに広げていく」と補って解読。 ・「也」の“同様に”は、敵里等の近辺に出現させた広く平坦な場所で自軍の兵士達や元敵人民が横並びに整った隊列で広がった状態でひたすら防御するのと同様に「陣地にした元敵里等」を横ざまに広げて防御する意味合いと考察。結果、「軍隊の隊列と同様に」と補って解読。 |
