地は重んずるなり、吾が将は、其の後ぎて趣らしむなり。

其十一6-14

重地也、吾將趣其後。

zhòng dì yě、wú jiāng qù qí hòu。

解読文

①敵里等は大事なものと見なすのであり、自軍の将軍は、その敵里等の統治を受け継げば帰順させるのである。

②敵里等の統治を受け継いで帰順させる理由は、敵里等を服従させれば自軍が兵士数を増やして、敵軍が劣勢になるからである。

③自軍の兵士数を増やして敵軍を劣勢にさせる将軍の意図は、敵軍が恐れて陣地にした元敵里等から撤退することである。

④敵軍が恐れて陣地にした元敵里等から撤退する時、敵将軍の意図は、ひたすら後方部隊によって防御することを大事な任務と見なすのである。

⑤敵将軍が後方部隊によって防御することを大事な任務と見なすならば、将軍は、全軍が滞在する敵里等近辺の広く平坦な場所から、追撃部隊を敵の後方部隊に向かって行かせて自国に寝返らせるのである。

⑥敵の後方部隊を自国に寝返らせれば、敵里等を服従させる時と同様に将軍の意図は、自国に寝返った元敵兵達を服従させて、陣地にした元敵里等の兵士数を増やすことである。

⑦後方部隊の元敵兵達を服従させて陣地にした元敵里等の兵士数を増やして、ひたすら防御した時、敵将軍の意図は、自軍が陣地にした元敵里等の奪還を後回しにすることである。

⑧敵将軍が、自軍が陣地にした元敵里等の奪還を後回しにすれば、敵軍は撤退するのであり、将軍の意図は同様にひたすら兵士数を増やすことである。
書き下し文
①地は重んずるなり、吾が将は、其の後(つ)ぎて趣(はし)らしむなり。

②趣(はし)らしむは、地の将(したが)わしめば吾は重くして、其の後(おく)れればなり。

③後(おく)れしむ吾の趣は、其の重(はばか)りて、地より将(ゆ)くことなり。

④将(ゆ)くに、其の趣は、地(た)だ後に吾(ふせ)ぐこと重んずるなり。

⑤重んずれば、将は、地より、吾を其の趣(おもむ)かしめて後(つ)ぐなり。

⑥後(つ)げば也(ま)た吾の趣は、其の将(したが)わしめて、地を重くすることなり。

⑦重くして、地(た)だ吾(ふせ)ぐに、其の趣は、将(と)ること後にすることなり。

⑧後にすれば、其の将(ゆ)くなり、吾の趣は也(ま)た地(た)だ重くすることなり。
<語句の注>
・「重」は①大事なものと見なす、②増やす、③恐れる、④⑤大事なものと見なす、⑥⑦⑧増やす、の意味。
・「地」は①②③其一2-5④「地」、④ひたすら、⑤場所、⑥其一2-5④「地」、⑦⑧ひたすら、の意味。
・「也」は①断定の語気、②因果関係を表す助詞、③④⑤断定の語気、⑥同様に、⑦断定の語気、⑧同様に、の意味。
・「吾」は①我々の、②我々、③私、④防御する、⑤我々、⑥私、⑦防御する、⑧私、の意味。
・「将」は①将軍、②服従する、③④去る、⑤将軍、⑥服従する、⑦持つ、⑧去る、の意味。
・「趣」は①②帰順する、③④意図、⑤向かって行く、⑥⑦⑧意図、の意味。
・「其」は①②③④⑤⑥⑦⑧敵の代名詞、の意味。
・「後」は①受け継ぐ、②③能力や地位が劣る、④時間や順序、場所が後方であること、⑤⑥受け継ぐ、⑦⑧後回しにする、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「地」は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」を指すと考察。ここでは軍争に関する文意と考察、奪い取る地区は主に敵国の里であることを踏まえて「敵里等」と簡略化して解読。②も同様に解読。

・「其」の“敵の代名詞”は、「地」の「敵里等」を指示する代名詞と解読。

・「其の後ぐ」は、「其」を「敵里等」と解釈すれば“敵里等を受け継ぐ”となる。これは其十一6-11⑧「里等を差し押さえて大いに運用する」と同意と考察。結果、「その敵里等の統治を受け継ぐ」と補って解読。

<②について>
・「趣」の“帰順する”は、①「趣」で記述された「敵里等の統治を受け継げば帰順させる」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵里等の統治を受け継いで帰順させる」と補って解読。

・「重」の“増やす”は、敵里等の人民が自軍に加わって兵士数が増えることと考察。結果、「兵士数を増やす」と補って解読。⑥⑧も同様に解読。

・「後」の“能力や地位が劣る”は、兵士数を増やしたことで、相対的に敵軍が劣勢になることと考察。結果、「劣勢になる」と解読。

<③について>
・「後」の“能力や地位が劣る”は、②「後」で記述された「自軍が兵士数を増やして、敵軍が劣勢になる」の意味を積み上げていると考察。結果、使役形で「自軍の兵士数を増やして敵軍を劣勢にさせる」と補って解読。

・「地」は、其一2-5④「」であり、其十一6-11⑧「地」の「陣地にした元敵里等」を指すと考察。結果、「陣地にした元敵里等」と解読。⑦も同様に解読。

・「将」の“去る”は、自軍がいる元敵里等に来襲した敵軍が撤退することと考察。結果、「撤退する」と言い換えた。⑧も同様に解読。

<④について>
・「将」の“去る”は、③「将」で記述された「敵軍が恐れて陣地にした元敵里等から撤退する」の意味を積み上げていると考察。ちなみに撤退時に出動させる部隊であるため、其九4-10②「強く命令して退却する敵は、しんがり部隊を差し出して速く走るのである」の「しんがり部隊」である。
結果、「敵軍が恐れて陣地にした元敵里等から撤退する」と補って解読。

・「後」の“時間や順序、場所が後方であること”は、其十一4-2②「尾」の「後方部隊」を指すと考察。結果、「後方部隊」と解読。

<⑤について>
・「重」の“大事なものと見なす”は、④「重」で記述された「敵将軍の意図は、ひたすら後方部隊によって防御することを大事な任務と見なす」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵将軍が後方部隊によって防御することを大事な任務と見なす」と補って解読。

・「地」の“場所”は、自軍が出撃していく場所であるため、其十一3-2③「全軍は、山の麓の木を伐採することで、あり余る広く平坦な場所を出現させて滞在」に基づけば、其十一6-13①「地」の「敵里等の近辺に出現させた広く平坦な場所」を指すと考察できる。結果、「全軍が滞在する敵里等近辺の広く平坦な場所」と補って解読。

・「吾」の“我々”は、其九4-10④「しんがり部隊に迫って諫めの言葉を進上する追撃部隊」に基づき、「追撃部隊」と解読。

・「其」の“敵の代名詞”は、④「後」の「後方部隊」を指示する代名詞と解釈。結果、「敵の後方部隊」と補って解読。

・「後」の“受け継ぐ”は、「敵の後方部隊」を自国で受け継ぐことと考察。結果、「自国に寝返らせる」と言い換えた。

<⑥について>
・「後」の“受け継ぐ”は、⑤「後」で記述された「追撃部隊を敵の後方部隊に向かって行かせて自国に寝返らせる」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵の後方部隊を自国に寝返らせる」と補って解読。

・「也」の“同様に”は、①「敵里等を服従させれば自軍が兵士数を増やして、敵軍が劣勢になる」と同様の意味合いと考察。結果、「敵里等を服従させる時と同様に」と補って解読。

・「其」の“敵の代名詞”は、⑤「其」の「敵の後方部隊」を指示する代名詞と解釈。この敵の後方部隊は自国に寝返った状態であるため、「自国に寝返った元敵兵達」と解読。

<⑦について>
・「重」の“増やす”は、⑥「重」で記述された「自国に寝返った元敵兵達を服従させて、陣地にした元敵里等の兵士数を増やす」の意味を積み上げていると考察。この元敵兵達は敵将軍が差し出した後方部隊であることを踏まえて、「後方部隊の元敵兵達を服従させて陣地にした元敵里等の兵士数を増やす」と補って解読。

・「将」の“持つ”は、其十一6-12④「将」で記述された「自軍が陣地にした元敵里等を取り返そうとする」の意味を積み上げていると考察。結果、「将ること」で「自軍が陣地にした元敵里等の奪還」と補って解読。

<⑧について>
・「後」の“後回しにする”は、⑦「後」で記述された「敵将軍の意図は、自軍が陣地にした元敵里等の奪還を後回しにする」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵将軍が、自軍が陣地にした元敵里等の奪還を後回しにする」と補って解読。

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