地に死たるなり、吾が将は、之ありと示して、以て不いに活かすなり。

其十一6-17

死地也、吾將示之以不活。

sǐ dì yě、wú jiāng shì zhī yǐ bù huó。

解読文

①敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」では兵士達は恐れ震えて硬直するのであり、自軍の将軍は戦地「死地」に至ると兵士達に告げて知らせて、そして供給を十分にして大いに養うのである。

②戦地「死地」に至ると兵士達に告げて知らせて、そして供給を十分にして大いに養う理由は、大いに硬直した状態の兵士達を導いて戦地「死地」に送り届けるからである。

③硬直した状態の兵士達を導いて戦地「死地」に送り届ける将軍は、大いなる自軍の使命を硬直した状態の兵士達に教えるのであり、自軍の使命を兵士達に認めさせた時、信念や理想のために命を捨てる状態になるのである。

④兵士達が信念や理想のために命を捨てる状態になれば、人が死ぬという事実を認めて将軍に服従するのであり、戦地「死地」に導いた時は大いに生き永らえるのである。

⑤信念や理想のために命を捨てる状態になった兵士達が戦地「死地」で大いに生き永らえる時は、大いに命を投げ出す覚悟を持った状態となって戦地「死地」に導かれるのであり、今にも戦地「死地」で戦闘しそうである。

⑥兵士達が今にも戦地「死地」で戦闘しそうであれば、戦線でも同様に命を投げ出す覚悟を持った状態となって戦線に導かれるのであり、戦線から後退させられた自軍の兵士達は大いに蘇るのである。

⑦戦線から後退させられた兵士達が大いに蘇れば、自軍の兵士達は死なない状態が長く続くことをはっきり表すのであり、敵兵達は逃亡するのである。

⑧敵兵達が逃亡する時は、戦地「死地」に向かう兵士達と同様に恐れ震えて硬直するのであり、奇策部隊が隠れている場所で攻め取る時は、戦地「死地」に至ると敵兵達に告げて知らせるのであり、戦闘になることを防げば供給を十分にして大いに養うである。
書き下し文
①地に死たるなり、吾が将は、之ありと示(しめ)して、以て不(おお)いに活(い)かすなり。

②活(い)かす以(ゆえ)は、不(おお)いに死たる地の吾を示(しめ)して之に将(おく)ればなり。

③将(おく)る吾は、不(おお)いなる活を之に示(しめ)すなり、以(おも)わしむに死ぬ地たるなり。

④地たれば、死を以(おも)いて吾に将(したが)うなり、之に示(しめ)すに不(おお)いに活(い)きるなり。

⑤活(い)きるに、不(おお)いに死たりて地に示(しめ)されるなり、将(まさ)に之に以(な)すなり。

⑥以(な)せば、地も也(ま)た死たりて示(しめ)されるなり、之より将(ゆ)かしむ吾は不(おお)いに活(い)きるなり。

⑦活(い)きれば、吾の死なざる地の将(なが)きこと示(しめ)すなり、之は以(な)すなり。

⑧以(な)すに、也(ま)た死たるなり、地に将(と)るに、之ありと示(しめ)すなり、吾(ふせ)げば不(おお)いに活(い)かすなり。
<語句の注>
・「死」は①②硬直したさま、③信念や理想のために命を捨てる、④人が死ぬという事実、⑤⑥命を投げ出す覚悟のあるさま、⑦命を失う、⑧硬直したさま、の意味。
・「地」は①其一2-5②「地」、②③④状態、⑤其一2-5②「地」、⑥場所、⑦状態、⑧其一2-5③「地」、の意味。
・「也」は①断定の語気、②因果関係を表す助詞、③④断定の語気、⑤因果関係を表す助詞、⑥同様に、⑦断定の語気、⑧同様に、の意味。
・「吾」は①我々の、②我々、③④⑤私、⑥⑦我々、⑧防御する、の意味。
・「将」は①将軍、②③送り届ける、④服従する、⑤今にも~しそうである、⑥去る、⑦長久なさま、⑧持つ、の意味。
・「示」は①人に告げて知らせる、②導く、③教える、④⑤⑥導く、⑦はっきり表す、⑧人に告げて知らせる、の意味。
・「之」は①②③④⑤⑥代名詞、⑦彼ら、⑧代名詞、の意味。
・「以」は①そして、②理由、③④認める、⑤⑥⑦⑧事を行う、の意味。
・「不」は①②③④⑤⑥大いに、⑦~しない、⑧大いに、の意味。
・「活」は①②供給を十分にして養う、③仕事、④⑤生き永らえる、⑥⑦蘇る、⑧供給を十分にして養う、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「死地吾將示之以不活。」と「也」が無いが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「地」は、其一2-5②「」であり、其十一1-1①9つ目の「地」で記述された「敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」」と補って解読。

・「死」の“硬直したさま”は、其八1-1③「死」で記述された「兵士達は恐れ震えて硬直する」の意味を積み上げていると考察。結果、「兵士達は恐れ震えて硬直する」と補って解読。⑧も同様に解読。

・「之」は、「地」の「敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」」を指示する代名詞と解読。結果、「戦地「死地」」と簡略化して解読。②④⑤⑧も同様に解読。

<②について>
・「活」の“供給を十分にして養う”は、①「活」で記述された「戦地「死地」に至ると兵士達に告げて知らせて、そして供給を十分にして大いに養う」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦地「死地」に至ると兵士達に告げて知らせて、そして供給を十分にして大いに養う」と補って解読。

<③について>
・「将」の“送り届ける”は、②「将」で記述された「大いに硬直した状態の兵士達を導いて戦地「死地」に送り届ける」の意味を積み上げていると考察。結果、「硬直した状態の兵士達を導いて戦地「死地」に送り届ける」と補って解読。

・「活」の“仕事”は、戦地「死地」に送り届ける兵士達に対して将軍が説く事柄であるため、自軍の使命と解釈できる。結果、「自軍の使命」と解読。

・「之」は、②「吾」の「硬直した状態の兵士達」を指示する代名詞と解読。

・「以」の“認める”は、自軍の使命を兵士達に認めさせることと考察。結果、使役形で「自軍の使命を兵士達に認めさせる」と補って解読。

<④について>
・「地」の“状態”は、③「地」で記述された「自軍の使命を兵士達に認めさせた時、信念や理想のために命を捨てる状態になる」の意味を積み上げていると考察。結果、「兵士達が信念や理想のために命を捨てる状態」と補って解読。

<⑤について>
・「活」の“生き永らえる”は、④「活」で記述された「兵士達が信念や理想のために命を捨てる状態になれば、人が死ぬという事実を認めて将軍に服従するのであり、戦地「死地」に導いた時は大いに生き永らえる」の意味を積み上げていると考察。結果、「信念や理想のために命を捨てる状態になった兵士達が戦地「死地」で大いに生き永らえる」と補って解読。

・「地」は、①「地」同様に「敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」」と解釈。但し、冗長にならないように「戦地「死地」」と解読。

・「以」の“事を行う”の“事”は、話の流れより戦地「死地」における戦闘と考察できる。結果、「戦闘する」と解読。

<⑥について>
・「以」の“事を行う”は、⑤「以」で記述された「兵士達が戦地「死地」で大いに生き永らえる時は、大いに命を投げ出す覚悟を持った状態となって戦地「死地」に導かれるのであり、今にも戦地「死地」で戦闘しそう」の意味を積み上げていると考察。結果、「以さんとする」で「兵士達が今にも戦地「死地」で戦闘しそうである」と

・「地」の“場所”は、其十一3-12①「戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えていくことで部隊の兵力を保つ」に関する記述と解釈すれば戦線を指すと考察できる。結果、「戦線」と解読。

・「示」の“導く”は、⑤「戦地「死地」に導かれる」と同様に戦線に導かれることと考察。結果、受身形で「戦線に導かれる」と補って解読。

・「之」は、「地」の「戦線」を指示する代名詞と解読。

・「之より将かしむ」は、「之」を「戦線」と解釈すれば“戦線から去らせる”となる。これは其十一3-12③「戦線で戦う部隊に後退する意思が無くても、この部隊を払いのける部隊が出現する」で記述された戦線から強制的に後退させられる状態と考察。結果、「戦線から後退させられる」と言い換えた。

<⑦について>
・「活」の“蘇る”は、⑥「活」で記述された「戦線から後退させられた自軍の兵士達は大いに蘇る」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦線から後退させられた兵士達が大いに蘇る」と補って解読。

・「之」の“彼ら”は、戦地「死地」で自軍とせめぎ合っている敵軍の兵士達を指すと考察。結果、「敵兵達」と解読。

・「以」の“事を行う”は、死なない状態が長く続く自軍に対する敵兵達の行動であるため逃亡と考察。結果、「逃亡する」と解読。

<⑧について>
・「以」の“事を行う”は、⑦「以」で記述された「敵兵達は逃亡する」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵兵達が逃亡する」と補って解読。

・「也」の“同様に”は、戦地「死地」に対して恐れ震えて硬直する兵士達と同様に逃亡する敵兵達が恐れ震えて硬直することと考察。結果、「戦地「死地」に向かう兵士達と同様に」と補って解読。

・「地」は、其一2-5③「地」の「間者が隠れて出現する場所」であり、この間者は奇策部隊を率いる者であることを踏まえて、話の流れに合わせて「奇策部隊が隠れている場所」と解読。

・「将」の“持つ”は、隠れている奇策部隊が逃亡した敵兵達を攻め取ることと考察。結果、「攻め取る」と言い換えた。

・「吾」の“防御する”は、戦地「死地」に至ると伝えることで牽制して、逃亡した敵兵達と戦闘になることを防ぐことと考察。結果、「戦闘になることを防ぐ」と補って解読。

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