道を郷けて用いざる者は、利しき地を得ること能わざるなり。

其十一7-4

不用郷道者、不能得地利。

bù yòng xiāng dào zhě、bù néng deǐ dì lì。

解読文

①恩恵を施すお手本を享受して従い守らない将軍は、自軍にとって都合が良い場所を手に入れることができないのである。

②自軍にとって都合が良い場所を手に入れることができない将軍は、恩恵を施すお手本の本領を享受しないが、戦地において利点を強く求めるのである。

③恩恵を施すお手本の本領を享受しないが、戦地において利点を強く求める将軍は、ひたすら得意になるが有能な将軍ではないのであり、恩恵を施すお手本の本領を説いても反応が無くて伝わっていないのである。

④恩恵を施すお手本の本領を説いても反応が無くて伝わらない将軍は、自軍にとって都合が良い場所を手に入れても、道理に従うことができないのである。

⑤道理に従うことができない将軍は、恩恵を施す戦地の型を利点として用いようとしても、間者が隠れて出現する場所を使う技術を享受していないのである。

⑥間者が隠れて出現する場所を使う技術を享受していない将軍は、「奇策部隊が隠れる場所を手に入れることに力を尽くせ」と説いても、利点と思うことができないのである。

⑦奇策部隊が隠れる場所を利点と思うことができない将軍は、「奇策部隊が隠れる場所で敵部隊を攻め取って自国に服従させろ」と説いても、反応が無くて伝わっていないのである。

⑧教えを説いても反応が無くて伝わらない将軍は、将軍の知恵の無さを明らかにする有能な理解者をひたすら利点として用いて、その将軍を得意にさせることが無いように指導することに力を尽くすのである。
書き下し文
①道を郷(う)けて用いざる者は、利(よろ)しき地を得ること能(あた)わざるなり。

②得ること能(あた)わざる者は、道の用を郷(う)けざるも、地に利(むさぼ)るなり。

③利(むさぼ)る者は、地(た)だ得るも能に不(あら)ざるなり、用を道(い)うも郷(きょう)不(な)きなり。

④郷(きょう)不(な)き者は、利(よろ)しき地を得るも、道を用いること能(あた)わざるなり。

⑤用いること能(あた)わざる者は、得(とく)する地を利とせんとするも、道を郷(う)けざるなり。

⑥郷(う)けざる者は、地を得るに用いよと道(い)うも、利とすること能(あた)わざるなり。

⑦利とすること能(あた)わざる者は、地に得て用いらしめよと道(い)うも郷(きょう)不(な)きなり。

⑧郷(きょう)不(な)き者は、能を地(た)だ利として、得せしむこと不(な)からんと道(みちび)くに用いるなり。
<語句の注>
・1つ目の「不」は①②~しない、③④無い、⑤⑥~しない、⑦⑧無い、の意味。
・「用」は①従い守る、②③本領、④⑤従う、⑥力を尽くす、⑦従う、⑧力を尽くす、の意味。
・「郷」は①②享受する、③④こだま、⑤⑥享受する、⑦⑧こだま、の意味。
・「道」は①②方法、③説く、④道理、⑤技、⑥⑦説く、⑧指導する、の意味。
・「者」は①②③④⑤⑥⑦⑧助詞「もの」、の意味。
・2つ目の「不」は①②~しない、③~ではない、④⑤⑥⑦~しない、⑧無い、の意味。
・「能」は①②~することができる、③有能な人、④⑤⑥⑦~することができる、⑧有能な人、の意味。
・「得」は①②手に入れる、③得意になる、④手に入れる、⑤恩恵を施す、⑥⑦手に入れる、⑧得意になる、の意味。
・「地」は①其一2-5①「地」、②其一2-5②「地」、③ひたすら、④其一2-5①「地」、⑤其一2-5②「地」、⑥⑦其一2-5③「地」、⑧ひたすら、の意味。
・「利」は①都合が良い、②③利益を強く求める、④都合が良い、⑤利益あるものとして用いる、⑥⑦利益と思う、⑧利益あるものとして用いる、の意味。
<解読の注>
・其七3-3「不用郷道者、不能得地利。」と原文は同じだが、解読内容は全く異なる。また、孫子(講談社)の原文は「不用郷導者、不能得地利。」と「道」を「導」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「道」の“方法”は、其十一7-3①「刑」で記述された「恩恵を施すお手本」を指すと考察。結果、「恩恵を施すお手本」と解読。②も同様に解読。

・「利しき地」は、「地」を「場所」と解釈すれば“都合が良い場所”となる。これは、本来ならば「恩恵を施すお手本」を使って手に入れる場所と解釈すれば、戦略や戦術において、自軍にとって都合が良い場所と考察できる。結果、「自軍にとって都合が良い場所」と補って解読。④も同様に解読。

<②について>
・「得」の“手に入れる”は、①「得」で記述された「自軍にとって都合が良い場所を手に入れる」の意味を積み上げていると考察。結果、「自軍にとって都合が良い場所を手に入れる」と補って解読。

<③について>
・「利」の“利益を強く求める”は、②「利」で記述された「恩恵を施すお手本の本領を享受しないが、戦地において利点を強く求める」の意味を積み上げていると考察。結果、「恩恵を施すお手本の本領を享受しないが、戦地において利点を強く求める」と補って解読。

・「用」の“本領”は、②「用」で記述された「恩恵を施すお手本の本領」の意味を積み上げていると考察。結果、「恩恵を施すお手本の本領」と補って解読。

・「郷不し」の直訳は“こだまが無い”となる。“こだま”とは、山や谷で声や音が反響して聞こえてくるものであるため、お手本の本領を説いても得意になっている将軍からの反響がなく、伝わっていない状態と考察できる。結果、「反応が無くて伝わっていない」と解読。⑦も同様に解読。

<④について>
・「郷不き者」の直訳は“こだまが無い者”となる。これは③「郷不し」で記述された「恩恵を施すお手本の本領を説いても反応が無くて伝わっていない」の意味を積み上げていると考察。結果、「恩恵を施すお手本の本領を説いても反応が無くて伝わらない将軍」と補って解読。

<⑤について>
・「用」の“従う”は、④「用」で記述された「道理に従う」の意味を積み上げていると考察。結果、「道理に従う」と補って解読。

・「地」は、其一2-5②「」であり、其十1-1①「地」の「戦地の型」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦地の型」と解読。

・「道」の“技”は、其十1-14①「道」で記述された「六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教えにおける要旨は、間者が隠れて出現する場所を使う技術である」の意味を積み上げていると考察。結果、「間者が隠れて出現する場所を使う技術」と補って解読。

<⑥について>
・「郷けざる者」の“享受していない者”となる。これは、⑤「郷」で記述された「間者が隠れて出現する場所を使う技術を享受していない」の意味を積み上げていると考察。結果、「間者が隠れて出現する場所を使う技術を享受していない将軍」と解読。

・「地」は、其一2-5③「地」の「間者が隠れて出現する場所」であり、この間者は奇策部隊を率いる者であることを踏まえて、話の流れに合わせて「奇策部隊が隠れる場所」と解読。⑦も同様に解読。

<⑦について>
・「利」の“利益と思う”は、⑥「利」で記述された「奇策部隊が隠れる場所を手に入れることに力を尽くせと説いても、利点と思うことができない」の意味を積み上げていると考察。結果、「奇策部隊が隠れる場所を利点と思う」と補って解読。

・「地に得て用いらしめよ」は、「地」を「奇策部隊が隠れる場所」と解釈すれば“奇策部隊が隠れる場所で手に入れて従わせろ”となる。これは、この場所で敵部隊を攻め取って自国に服従させることと考察。結果、「奇策部隊が隠れる場所で敵部隊を攻め取って自国に服従させろ」と解読。

<⑧について>
・「郷不き者」の直訳は“こだまが無い者”となる。これは「郷不し」で記述された③「恩恵を施すお手本の本領を説いても反応が無くて伝わっていない」及び⑦「「奇策部隊が隠れる場所で敵部隊を攻め取って自国に服従させろ」と説いても、反応が無くて伝わっていない」の意味を積み上げていると考察。結果、「教えを説いても反応が無くて伝わらない将軍」と補って解読。

・「能」の“有能な人”は、其十一7-3⑧「将軍の知恵の無さを明らかにしてお手本となる理解者」を指すと考察。結果、「将軍の知恵の無さを明らかにする有能な理解者」と補って解読。

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