四と五は、一を智らざれば、覇たる王の兵に非ざるなり。

其十一7-5

四五者、一不智、非王霸之兵也。

sì wŭ zhě、yī bù zhì、feī wáng bà zhī bīng yĕ。

解読文

①四種類の場所「高くそびえた山、高くて平坦な土地、河川、乾燥地」における軍事と、五つの教え「道、天、地、将、法」とは、その一部でも理解してなければ、諸侯の盟主となる帝王の軍隊ではないのである。

②四種類の場所「高くそびえた山、高くて平坦な土地、河川、乾燥地」における軍事と、五つの教え「道、天、地、将、法」について、その一部だけを大いに理解している将軍は、大軍十万で敵国に赴く実力が無いのである。

③大軍十万で敵国に赴く実力が無い将軍は、正攻法部隊と奇策部隊の間者を戦略、戦術だけに集中させる知恵が無いのであり、士気が旺盛な兵士達を傷つけるのである。

④士気が旺盛な兵士達を傷つける将軍は、自国及び他国のあらゆる兵士達をまとめた正攻法部隊を敵に対して五倍規模にする知恵が無いのであり、兵士達はその将軍を横暴に振舞う人だと悪口を言うのである。

⑤横暴に振舞う人だと悪口を言われる将軍は、兵士達に対して立派な態度を取ろうとするが、自国及び他国のあらゆる兵士達をまとめた正攻法部隊によって敵軍を思うままに操って、自軍を敵軍よりも優勢にする知恵が無いのである。

⑥敵軍を思うままに操って自軍を敵軍よりも優勢にする知恵が無い将軍は、褒美の品によって正攻法部隊を任務だけに集中させるが、奇正の戦術を使って自軍の軍隊規模を大きくする実力が無いのである。

⑦奇正の戦術を使って自軍の軍隊規模を大きくする実力が無い将軍は、正攻法部隊の士気を激しくして軍隊の勢いを旺盛にする方法の知識があっても、ひたすら正攻法部隊の兵士達を傷つけるため、自軍を敵軍よりも優勢にすることが無いのである。

⑧自軍を敵軍よりも優勢にすることが無い将軍は、将軍の知恵の無さを明らかにしてお手本となる理解者によって思うままに操るのであり、誤った戦略、戦術を使って横暴に振舞う将軍を立派にするのである。
書き下し文
①四と五は、一を智(し)らざれば、覇たる王の兵に非ざるなり。

②四と五に、一のみ不(おお)いに智(し)る者は、王たる兵に之(ゆ)く覇なるに非ざるなり。

③覇なるに非ざる者は、四と五を一(いつ)にせしむ智は不(な)きなり、王たる之を兵するなり。

④兵する者は、一(いつ)にする四を五にする智は不(な)きなり、之は王を覇と非(そし)るなり。

⑤覇と非(そし)らる者は、兵に之(お)いて王たらんとするも、一なるものに四なして、五たる智は不(な)きなり。

⑥智の不(な)き者は、五に四を一(いつ)にせしむも、兵を之(もち)いて王たる覇なるに非ざるなり。

⑦覇なるに非ざる者は、四の王たること智(し)るも、一(もっぱ)ら之を兵して五たること不(な)きなり。

⑧五たること不(な)き者は、智(し)らしむ一に四なすなり、非なる兵を之(もち)いる覇を王たるなり。
<語句の注>
・「四」は①②其九1-10①1つ目の「四」、③④(あるものの数が)四つ、⑤四回目という序数、⑥⑦(あるものの数が)四つ、⑧四回目という序数、の意味。
・「五」は①②其一1-2①「五」、③五番目という序数、④五倍にする、⑤⑥⑦⑧五番目という序数、の意味。
・「者」は①~とは、②③④⑤⑥⑦⑧助詞「もの」、の意味。
・「一」は①②多くの事物の中の一部、③専らに集中する、④まとめる、⑤ひとまとまりの、⑥専らに集中する、⑦ひたすら、⑧一人、の意味。
・「不」は①~しない、②大いに、③④⑤⑥⑦⑧無い、の意味。
・「智」は①②理解する、③④⑤⑥知恵、⑦知識がある、⑧理解する、の意味。
・「非」は①②③AはBではない、④⑤悪口を言う、⑥⑦AはBではない、⑧誤ったさま、の意味。
・「王」は①帝王、②大きい、③旺盛なさま、④実力において最高の地位にあるもの、⑤形態が立派なさま、⑥大きい、⑦旺盛なさま、⑧形態が立派なさま、の意味。
・「覇」は①諸侯の盟主となる、②③実力のあるさま、④⑤横暴に振舞う人、⑥⑦実力のあるさま、⑧横暴に振舞う人、の意味。
・「之」は①助詞「の」、②赴く、③彼ら、④代名詞、⑤対して、⑥使う、⑦代名詞、⑧使う、の意味。
・「兵」は①②軍隊、③④傷つける、⑤戦士、⑥戦術、⑦傷つける、⑧戦略、戦術、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「四」は、其九1-10①「四」の「四種類の場所における軍事」を指すと考察。この四種類の場所は「高くそびえた山、高くて平坦な土地、河川、乾燥地」であることを踏まえて、「四種類の場所「高くそびえた山、高くて平坦な土地、河川、乾燥地」における軍事」と解読。②も同様に解読。

・「五」は、其一1-2①「五つの教え」を指すと考察。この五つの教えは、「道、天、地、将、法」であることを踏まえて、「五つの教え「道、天、地、将、法」」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・「王たる兵」の直訳は“大きい軍隊”となる。これは将軍としての資質を問う内容であるため、戦争準備のお手本として挙げられている其二1-1③「大軍十万」を指すと考察。結果、「大軍十万」と解読。

・「之」の“赴く”は、其二1-1①「之」の「敵国に赴く」を指すと考察。結果、「敵国に赴く」と解読。

<③について>
・「覇なるに非ざる者」の直訳は“実力が無い者”となる。これは②「覇なるに非ず」で記述された「大軍十万で敵国に赴く実力が無い」の意味を積み上げていると考察。結果、「大軍十万で敵国に赴く実力が無い将軍」と補って解読。

・「四」の“(あるものの数が)四つ”は、其五2-4③「四」の「正攻法部隊を構成する各部隊」を指すと考察、ここでは自軍の正攻法部隊と解釈。結果、「正攻法部隊」と解読。④⑥⑦も同様に解読。

・「五」の“五番目という序数”は、其十二2-2①で五番目に記述された「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。「生きたまま敵を取得する間者」は奇策部隊に所属していることを踏まえて、「奇策部隊の間者」と解読。

・「一」の“専らに集中する”は、其四4-2②「一」で記述された「戦略、戦術のお手本を基準にすれば正攻法部隊と奇策部隊は戦略、戦術だけに集中する」の意味を積み上げていると考察。結果、使役形で「戦略、戦術だけに集中させる」と補って解読。

・「王」の“旺盛なさま”は、其七6-2①「兌」で記述された「早朝の士気は旺盛である」の意味を積み上げていると考察。結果、「士気が旺盛な」と補って解読。

・「之」の“彼ら”は、士気が旺盛になる者達であるため自軍の兵士達を指すと考察。結果、「兵士達」と解読。

<④について>
・「兵」の“傷つける”は、③「兵」で記述された「士気が旺盛な兵士達を傷つける」の意味を積み上げていると考察。結果、「士気が旺盛な兵士達を傷つける」と補って解読。

・「五」の“五倍にする”は、其三3-1②「五」の「敵軍を武力で撃つ時はその五倍規模の軍隊にする」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵に対して五倍規模にする」と解読。

・「一」の“まとめる”は、話の流れより其十一4-4⑧「自国及び他国のあらゆる兵士達を調和させて軍隊規模を大きくする」の調和を指すと考察。結果、「自国及び他国のあらゆる兵士達をまとめる」と補って解読。

・「之」は、③「之」の「兵士達」を指示する代名詞と解読。

・「王」の“実力において最高の地位にあるもの”は、軍隊において最高の地位にある存在と解釈すれば将軍となる。結果、話の流れに合わせて「その将軍」と解読。

<⑤について>
・「王」の“形態が立派なさま”は、「横暴に振舞う人だと悪口を言われる将軍」の兵士達に対する態度だと解釈すれば、「王たらんとする」で「立派な態度を取ろうとする」と解読できる。

・「一なるもの」の直訳は“ひとまとまりの者”となる。これは、④「一」で記述された「自国及び他国のあらゆる兵士達をまとめた正攻法部隊」を指すと考察。結果、「自国及び他国のあらゆる兵士達をまとめた正攻法部隊」と解読。

・「四」の“四回目という序数”は、其四4-2①で四番目に記述された「称」の「敵軍を思うままに操る」を指すと考察。結果、「四なす」で「敵軍を思うままに操る」と解読。

・「五」の“五番目という序数”は、其四4-2①で五番目に記述された「勝」の「自軍が敵軍よりも優勢になる」を指すと考察。結果、「五たり」で「自軍を敵軍よりも優勢にする」と解読。⑦⑧も同様に解読。

<⑥について>
・「智」の“知恵”は、⑤「智」で記述された「敵軍を思うままに操って、自軍を敵軍よりも優勢にする知恵」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵軍を思うままに操って自軍を敵軍よりも優勢にする知恵」と補って解読。

・「五」の“五番目という序数”は、其一2-1①で五番目に記述された「法」の「法規やお手本」を指すと解釈。但し、ここでは「法規やお手本」全体を指すのではなく、其十一5-5⑥「兵士達を力づける道理を理解した将軍は、駆り立てれば慰労するのであり、強要すれば褒美の品を贈呈する」の「褒美の品」の規則に限定されると考察。結果、「褒美の品」と解読。

・「一」の“専らに集中する”は、正攻法部隊の兵士達を「褒美の品」によって任務に集中させることと考察。結果、使役形で「任務だけに集中させる」と解読。

・「兵」の“戦術”は、文意より奇正の戦術とわかるため、「奇正の戦術」と補って解読。

・「王」の“大きい”は、「奇正の戦術」を使う文意であるため、自軍の軍隊規模を大きくすることと考察。結果、「自軍の軍隊規模を大きくする」と補って解読。

<⑦について>
・「覇なるに非ざる者」の直訳は“実力が無い者”となる。これは⑥「覇なるに非ず」で記述された「奇正の戦術を使って自軍の軍隊規模を大きくする実力が無い」の意味を積み上げていると考察。結果、「奇正の戦術を使って自軍の軍隊規模を大きくする実力が無い将軍」と補って解読。

・「王」の“旺盛なさま”は、其七6-2③「兌」で記述された「早朝における軍隊の勢いは士気が激しく旺盛である」の意味を積み上げていると考察。結果、「士気を激しくして軍隊の勢いを旺盛にする」と補って解読。

・「之」は、「四」の「正攻法部隊」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「正攻法部隊の兵士達」と解読。

<⑧について>
・「智らしむ一」の直訳は“理解させる一人”となる。これは「自軍を敵軍よりも優勢にすることが無い将軍」を指導する存在であるため、其十一7-3⑧「将軍の知恵の無さを明らかにしてお手本となる理解者」と考察。結果、「将軍の知恵の無さを明らかにしてお手本となる理解者」と解読。

・「四」の“四回目という序数”は、其四4-2①で四番目に記述された「称」の「敵軍を思うままに操る」を指すと考察。但し、ここでは“敵軍”は「自軍を敵軍よりも優勢にすることが無い将軍」を指す文意であるため、「四なす」で「思うままに操る」と簡潔に解読。

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