法を之いて賞めること无く、正を無して令に之れば、三軍の衆は犯すなり、人の一を使うに若るなり。

其十一8-1

无法之賞、無正之令、犯三軍之衆、若使一人。

wú fǎ zhī shǎng、wú zhèng zhī lǐng、fàn sān jūn zhī zhòng、ruò shǐ yī rén。

解読文

①法規を使って褒美を与えること無く、兵士達の士気が激しく旺盛になれば生き永らえる道理を無視して戦地「死地」に達する出撃命令を出す日になれば、全軍の多くの兵士達は面と向かって逆らうのであり、兵士達の一部を勝手にさせる状態に至るのである。

②もしも、一旦、勝手にさせる兵士達を出現させたならば、その人数は増えるのであり、敵里等に陣取った時は敵人民に対して何度も犯罪を行うのである。法規に従って治めようとしても勝手にする兵士達は無視するのであり、法規に対して尊重することが無い。

③法規を尊重すること無く勝手にする兵士達は、労役に従って正攻法部隊となるが、敵国に赴けばお手本を蔑ろにして何度も敵兵達を傷つけるのである。群臣は、思いやりを持って勝手にする兵士達を素直に従わせて、純粋な気持ちで働かせようとするのである。

④兵士達を純粋な気持ちで働かせようとする群臣が、勝手にする兵士達を素直に従わせようとして、法規を蔑ろにして処罰した時、法規の真価を認める兵士は存在しなくなり、全軍を損なう事態に達するのである。

⑤法規の真価を認める兵士が存在しなければ、兵士が法規を蔑ろにするのは道理である。兵士達は何度も法規を破るのであり、群臣は、兵士一人ひとりに終始素直に従って働かせる状態になるのである。

⑥群臣が、兵士一人ひとりに素直に従う状態に至れば、ひたすら兵士達を勝手にさせて全軍をきちんと整えることは無いのであり、立派なお手本があっても思わしくない事態や結果を招くのであり、法規やお手本の遵守を尊重する兵士達は存在しなくなるのである。

⑦法規やお手本の遵守を尊重する兵士達が存在しなくなれば、将軍の命令は無視されるのが道理であり、軍隊行動の必然性を損なうのである。そこで兵士達を任務だけに集中させようとすれば、逃亡する兵士の人数を増やすのである。

⑧逃亡する兵士が多い時は、処罰すること無く、褒美を与えて逃亡する兵士を無くすのがお手本である。立派な戦略、戦術のお手本に従って命令して、兵士一人ひとりを任務だけに集中させた状態に達すれば、軍隊行動に必然性が生じて兵士達は思わしくない事態や結果に立ち向かうのである。
書き下し文
①法を之(もち)いて賞(ほ)めること无(な)く、正を無(なみ)して令に之(いた)れば、三軍の衆は犯すなり、人の一を使うに若(いた)るなり。

②若(も)し一(ひと)たび使う人あれば、衆(おお)くするなり、軍するに之に三たび犯なすなり。令に正(ただ)さんとするも之は無(なみ)するなり、法に之(お)いて賞(たっと)ぶこと无(な)し。

③賞(たっと)ぶこと无(な)き之は、正(せい)して令たるも、之(ゆ)けば法を無(なみ)して三たび軍を犯すなり。衆は、人(じん)に之を若(したが)わしめて、一たりて使わんとするなり。

④人を一たりて使わんとする衆の、之を若(したが)わしめんとして、令を無(なみ)して正(ただ)すに、法を賞(ほ)める之は无(な)くして、三軍を犯すに之(いた)るなり。

⑤法を賞(ほ)める之の无(な)ければ、之の令を無(なみ)するは正なり。軍の三たび犯すなり、衆は、人ごとに一(いつ)に若(したが)いて使うに之(いた)るなり。

⑥衆の人ごとに若(したが)えば、一(もっぱ)ら之を使いて三軍を正(ただ)すこと無きなり、令(よ)き之あるも犯すなり、法すること賞(たっと)ぶ之は无(な)くすなり。

⑦法すること賞(たっと)ぶ之の无(な)くせば、之の令の無(なみ)さるるは正なり、三を犯すなり。若(すなわ)ち人を使(し)に一(いつ)にせしめんとすれば、之(ゆ)く軍を衆(おお)くするなり。

⑧之の衆(おお)きに、正(ただ)すこと無く、賞(ほ)めて之を无(な)くすは法なり。之に令して、人ごとに使(し)に一(いつ)にせしむに若(いた)れば、三ありて軍は犯すなり。
<語句の注>
・「无」は①②③④⑤⑥⑦⑧存在しない、の意味。
・「法」は①②其一2-7②「法」、③其一2-7③「法」、④⑤其一2-7②「法」、⑥⑦法を守る、⑧其一2-7③「法」、の意味。
・1つ目の「之」は①使う、②対して、③代名詞、④⑤彼ら、⑥⑦⑧代名詞、の意味。
・「賞」は①褒美を与える、②③尊重する、④⑤真価を認める、⑥⑦尊重する、⑧褒美を与える、の意味。
・「無」は①②無視する、③④⑤蔑ろにする、⑥無い、⑦無視する、⑧無い、の意味。
・「正」は①道理、②治める、③労役に従う、④処罰する、⑤道理、⑥きちんと整える、⑦道理、⑧処罰する、の意味。
・2つ目の「之」は①ある地点や事情に達する、②代名詞、③赴く、④ある地点や事情に達する、⑤⑥代名詞、⑦彼、⑧代名詞、の意味。
・「令」は①命令、②法令、③季節、④⑤法令、⑥立派な、⑦命令、⑧命令する、の意味。
・「犯」は①(面と向かって)逆らう、②犯罪、③④損なう、⑤破る、⑥(思わしくない事態・結果を)招く、⑦損なう、⑧(危険や困難に)立ち向かう、の意味。
・「三」は①「三軍」で“全軍”、②③何度も、④「三軍」で“全軍”、⑤何度も、⑥「三軍」で“全軍”、⑦⑧三番目という序数、の意味。
・「軍」は①「三軍」で“全軍”、②陣取る、③兵士、④「三軍」で“全軍”、⑤兵士、⑥「三軍」で“全軍”、⑦⑧兵士、の意味。
・3つ目の「之」は①助詞「の」、②彼ら、③④代名詞、⑤ある地点や事情に達する、⑥代名詞、⑦赴く、⑧代名詞、の意味。
・「衆」は①多くの人々、②数を増やす、③④⑤⑥群臣、⑦数を増やす、⑧数が多い、の意味。
・「若」は①(ある状態や日時に)達する、②もしも~ならば、③④⑤⑥素直に従う、⑦そこで、⑧(ある状態や日時に)達する、の意味。
・「使」は①②勝手にさせる、③④⑤働かせる、⑥勝手にさせる、⑦⑧使命、の意味。
・「一」は①多くの事物の中の一部、②一旦、③④純粋なさま、⑤終始、⑥ひたすら、⑦⑧専らに集中する、の意味。
・「人」は①②民衆、③思いやり、④民衆、⑤⑥一人ひとりに、⑦民衆、⑧一人ひとりに、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「无法之賞、無政之令、犯三軍之衆、若使一人。」と「正」を「政」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「正」の“道理”は、其十一1-10②「信念や理想のために命を捨てさせれば、兵士達の士気が激しく旺盛になって生き永らえるのが道理」の道理を指すと考察。結果、「兵士達の士気が激しく旺盛になれば生き永らえる道理」と補って解読。

・「令に之る」の直訳は“命令に達する”となる。これは其十一3-11①「令」で記述された「戦地「死地」に達する出撃命令を出す日になる」を指すと考察。結果、「戦地「死地」に達する出撃命令を出す日になる」と補って解読。

<②について>
・「軍」の“陣取る”は、其七1-2①「敵国の里を奪い合って陣取る」等に基づけば、「敵里等に陣取る」と補って解読できる。

・3つ目の「之」の“彼ら”は、「敵里等に陣取る」に基づき、敵里等の人民を指すと考察できる。結果、「敵人民」と解読。

・「令」の“法令”は、其一2-7②「法」の「法規」を指すと考察。結果、「法規」と解読。④⑤も同様に解読。

・2つ目の「之」は、「人」で記述された「勝手にさせる兵士達」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「勝手にする兵士達」と解読。

<③について>
・「賞」の“尊重する”は、②「賞」で記述された「法規に対して尊重する」の意味を積み上げていると考察。結果、「法規を尊重する」と補って解読。

・1つ目の「之」は、②2つ目の「之」の「勝手にする兵士達」を指示する代名詞と解読。

・「令」の“季節”は、其五2-4「時」の”季節“を「正攻法部隊(を構成する各部隊)」と解釈した結果に基づき、「正攻法部隊」と解読。

・2つ目の「之」の“赴く”は、敵国に自軍が赴くことと考察し、「敵国に赴く」と補って解読。

・「犯」の“損なう”は、正攻法部隊のお手本に反した戦い方をした結果と考察すれば、敵兵達を傷つけることと考察できる。結果、「傷つける」と言い換えた。

・3つ目の「之」は、1つ目の「之」の「勝手にする兵士達」を指示する代名詞と解読。

<④について>
・3つ目の「之」は、③3つ目の「之」の「勝手にする兵士達」を指示する代名詞と解読。

・1つ目の「之」の“彼ら”は、話の流れより兵士達全体であり、その存在を指すと考察できる。結果、「兵士」と解読。⑤も同様に解読。

<⑤について>
・2つ目の「之」は、1つ目の「之」の「兵士」を指示する代名詞と解読。

・「犯」の“破る”は、話の流れより「法規」を破ることと考察。結果、「法規を破る」と補って解読。

<⑥について>
・1つ目と3つ目の「之」は、⑤「軍」の「兵士達」を指示する代名詞と解読。

・2つ目の「之」は、③「法」の「お手本」を指示する代名詞と解読。

・「法」の“法を守る”の“法”は、其一2-7①「法」の「法規やお手本」を指すと考察。結果、「法すること賞ぶ」で「法規やお手本の遵守を尊重する」と解読。⑦も同様に解読。

<⑦について>
・1つ目の「之」は、⑥1つ目の「之」の「兵士達」を指示する代名詞と解読。

・2つ目の「之」の“彼”は、命令を発する存在であるため将軍を指すと考察。結果、「将軍」と解読。

・「三」の“三番目という序数”は、其四4-2①で三番目に記述された「数」の「軍隊行動の必然性」を指すと考察。結果、「軍隊行動の必然性」と解読。⑧も同様に解読。

・3つ目の「之」の“赴く”は、兵士達が軍隊と関りない場所へ向かっていくことと解釈すれば、逃亡することと考察できる。結果、「逃亡する」と解読。⑧も同様に解読。

<⑧について>
・1つ目と3つ目の「之」は、⑦「軍」の「逃亡する兵士」を指示する代名詞と解読。

・2つ目の「之」は、⑥2つ目の「之」の「立派なお手本」を指示する代名詞と解釈。但し、前半部分の逃亡する兵士を無くすお手本との違いを明確にするため、「立派な戦略、戦術のお手本」と補って解読。

・「犯」の“(危険や困難に)立ち向かう”の“危険や困難”は、話の流れより⑥「思わしくない事態や結果」を指すと考察。結果、「思わしくない事態や結果に立ち向かう」と解読。

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