犯に之を以わしめて事とせしむに、言以に告げる勿かれ。

其十一8-2

犯之以事、勿告以言。

fàn zhī yǐ shì、wù gaò yǐ yán。

解読文

①犯罪歴のある兵士達に法規を認めさせて従事させる時、文字だけで広く通知してはならない。

②文字だけで広く通知しても、先生について学問を修めることを止めた兵士達は、文字を読むことが無いため法規を破るのである。

③文字を読むことが無いため法規を破る兵士達は、文字だけで任務を知らせても、その任務を実行しないのである。

④文字だけでは任務を実行しない兵士達は、軍事行動で駆使される時、号令の使用を請求するのである。

⑤軍事行動において号令の使用を請求する兵士達は、任務の理由について話さなくても敵国に侵犯するだけである。

⑥任務の理由について話さなくても敵国に侵犯する兵士達は、異変が生じたと考えても、主張を留めて報告しないのである。

⑦異変が生じても報告しない兵士達を率いて戦争を行えば、主張を留めて敵軍に立ち向かうのである。

⑧主張を留めて敵軍に立ち向かう兵士達に対して、号令によって任務を知らされた時、考えること無く任務に従事するのである。
書き下し文
①犯に之を以(おも)わしめて事(こと)とせしむに、言以(のみ)に告げる勿(な)かれ。

②告げるも、事(つか)えること以(や)む之は、言を以(な)すこと勿(な)くして犯すなり。

③犯す之は、言以(のみ)に事を告げるも、以(な)すこと勿(な)きなり。

④以(な)すこと勿(な)き之は、事に犯(もち)いらるに、言を以(もち)いること告げるなり。

⑤告げる之は、事の以(ゆえ)を言うこと勿(な)きも犯す以(のみ)。

⑥犯す之は、事ありと以(おも)うも、言を以(や)めて告げること勿(な)きなり。

⑦告げること勿(な)き之を以(ひき)いて事なせば、言を以(や)めて犯すなり。

⑧犯す之は、言に以(これ)を告げられるに、以(おも)うこと勿(な)く、事(こと)とするなり。
<語句の注>
・「犯」は①罪人、②③破る、④駆使する、⑤⑥侵犯する、⑦⑧(危険や困難に)立ち向かう、の意味。
・「之」は①②③④⑤⑥⑦⑧代名詞、の意味。
・1つ目の「以」は①認める、②留める、③④事を行う、⑤~だけである、⑥考える、⑦~を率いて、⑧考える、の意味。
・「事」は①従事する、②先生について学問を修める、③任務、④軍事行動、⑤任務、⑥異変、⑦戦争、⑧従事する、の意味。
・「勿」は①してはならない、②③④⑤⑥⑦⑧しない、の意味。
・「告」は①②広く通知する、③(上の者が下の者に)知らせる、④⑤請求する、⑥⑦報告する、⑧(上の者が下の者に)知らせる、の意味。
・2つ目の「以」は①限定の助詞、②事を行う、③限定の助詞、④使用する、⑤理由、⑥⑦留める、⑧代名詞、の意味。
・「言」は①②③文字、④号令、⑤話す、⑥⑦主張、⑧号令、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「犯」の“罪人”は、其九5-3⑤「この必ず敵軍に打ち勝とうとする兵士達は、もしも、犯罪の経歴を調べれば、災いをなす存在が蔓延しているのである」等の記述に基づけば、犯罪歴のある兵士達を指すと考察できる。結果、「犯罪歴のある兵士達」と解読。

・「之」は、其十一8-1①「法」の「法規」を指示する代名詞と解読。

<②について>
・「告」の“広く通知する”は、①「告」で記述された「文字だけで広く通知してはならない」の意味を積み上げていると考察。結果、「文字だけで広く通知する」と補って解読。

・「之」は、①「犯」の「犯罪歴のある兵士達」を指示する代名詞と解釈。冗長にならないように「兵士達」と簡略化して解読。③④⑤⑥⑦⑧も同様に解読。

・「以」の“事を行う”は、文字だけで法規を通知している文意を踏まえると、文字を読むことと考察できる。結果、「言を以す」で「文字を読む」と解読。

・「犯」の“破る”は、話の流れより「法規」を破ることと考察。結果、「法規を破る」と補って解読。

<③について>
・「犯」の“破る”は、②「犯」で記述された「文字を読むことが無いため法規を破る」の意味を積み上げていると考察。結果、「文字を読むことが無いため法規を破る」と補って解読。

・1つ目の「以」の“事を行う”は、話の流れより与えられた任務を実行しないことと考察。結果、話の流れに合わせて「以すこと勿し」で「(その)任務を実行しない」と解読。

<④について>
・「以すこと勿し」は、③「以すこと勿し」で記述された「文字だけで任務を知らせても、その任務を実行しない」の意味を積み上げていると考察。結果、「文字だけでは任務を実行しない」と補って解読。

<⑤について>
・「告」の“請求する”は、④「告」で記述された「軍事行動で駆使される時、号令の使用を請求する」の意味を積み上げていると考察。結果、「軍事行動において号令の使用を請求する」と補って解読。

・「犯」の“侵犯する”は、侵略戦争に関する教えである前提を考慮すると敵国に侵犯することと考察できる。結果、「敵国に侵犯する」と補って解読。

<⑥について>
・「犯」の“侵犯する”は、⑤「犯」で記述された「任務の理由について話さなくても敵国に侵犯する」の意味を積み上げていると考察。結果、「任務の理由について話さなくても敵国に侵犯する」と補って解読。

<⑦について>
・「告げること勿し」の直訳は“報告しない”となる。これは⑥「告げること勿し」で記述された「異変が生じたと考えても、主張を留めて報告しない」の意味を積み上げていると考察。結果、「異変が生じても報告しない」と補って解読。

・「犯」の“(危険や困難に)立ち向かう”の“危険や困難”は、話の流れより敵軍と推察できる。結果、「敵軍に立ち向かう」と解読。

<⑧について>
・「犯」の“(危険や困難に)立ち向かう”は、⑦「犯」で記述された「主張を留めて敵軍に立ち向かう」の意味を積み上げていると考察。結果、「主張を留めて敵軍に立ち向かう」と補って解読。

・2つ目の「以」は、⑤「事」の「任務」を指示する代名詞と解読。

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