郎を厲わしめて上めしむに、其の誅つは事と以うなり。

其十一9-4

厲於郎上、以誅其事。

lì yú láng shàng、yǐ zhū qí shì。

解読文

①正攻法部隊に従事する兵士達を奮い立たせて前進させる時、兵士達は敵軍を討伐することが任務だと考えるのである。

②敵将軍は、自軍に討伐されると考えれば、正攻法部隊に従事する敵兵達を威圧して、武器を使って傷つけることを重視させるのである。

③敵兵達が武器を使って傷つけることを重視しても、正攻法部隊に従事する兵士達によって勢いを生じた堅固な自軍が出現した時、敵兵達は任務を遂行すれば殺害されると考えるのである。

④勢いを生じた堅固な自軍が出現して前進すれば、正攻法部隊に従事する敵兵達を威圧するのであり、敵軍から恐れ震えた敵兵達が逃亡する出来事が生じるのである。

⑤敵軍から恐れ震えた敵兵達が逃亡する出来事を生じさせる時は、正攻法部隊に従事する兵士達の士気を激しくして軍隊の勢いを旺盛にして、獲物となる敵部隊を出現させることを重視するのであり、奇正の戦術を実行して攻め取られたい。

⑥奇正の戦術を実行して獲物となる敵部隊を攻め取る時、正攻法部隊に従事する兵士達は猛烈に攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していくのであり、このように獲物となった敵部隊を奇策部隊に従事する兵士達に献上するのである。

⑦獲物となった敵部隊を奇策部隊に献上した時、獲物となった敵部隊は、奇策部隊に従事する兵士達に対して奮い立って殺害しようとするのであり、その敵兵達を刺して動けないようにされたい。

⑧獲物となった敵兵達を刺して動けなくした時、生きたまま敵を取得する間者が出現して、その敵兵達に対して自国の君主を奨励するのであり、敵将軍の軍事行動について実情を求めるのである。
書き下し文
①郎を厲(ふる)わしめて上(すす)めしむに、其の誅(う)つは事と以(おも)うなり。

②其の誅(う)たれんと以(おも)えば、郎を厲(れい)して、事(し)すること上(たっと)ばしむなり。

③上(たっと)ばしむも、郎に厲(といし)あるに、其の事なせば誅(ころ)されると以(おも)うなり。

④以(これ)ありて上(すす)めば、郎を厲(れい)するなり、其の誅(ちゅう)する事あるなり。

⑤事あらしむに、郎を厲(と)ぎて、於(う)あらしむこと上(たっと)ぶなり、其れ以(な)して誅(う)つ。

⑥誅(う)つに、以(これ)は厲(はげ)しく事なすなり、其れ於(う)を郎に上(たてまつ)るなり。

⑦上(たてまつ)るに、於(う)は郎に厲(ふる)いて誅(ころ)さんとするなり、其れ事(し)して以(や)む。

⑧以(や)むに、郎ありて於(う)に上を厲(はげ)ますなり、其の事を誅(ちゅう)するなり。
<語句の注>
・「厲」は①奮い立つ、②威圧する、③粗い砥石、④威圧する、⑤磨いて鋭くする、⑥猛烈なさま、⑦奮い立つ、⑧奨励する、の意味。
・「於」は①②~を、③~によって、④~を、⑤⑥⑦⑧カラス、の意味。
・「郎」は①②③④⑤⑥⑦⑧ある職業に従事する人、の意味。
・「上」は①前に進む、②③尊重する、④前に進む、⑤尊重する、⑥⑦献上する、⑧自分の主人、の意味。
・「以」は①②③考える、④代名詞、⑤事を行う、⑥代名詞、⑦⑧留める、の意味。
・「誅」は①②討伐する、③殺害する、④雑草を取り除く、⑤⑥討伐する、⑦殺害する、⑧請求する、の意味。
・「其」は①②③④敵の代名詞、⑤~されたい、⑥このように、⑦~されたい、⑧敵の代名詞、の意味。
・「事」は①任務、②刺す、③任務、④⑤出来事、⑥任務、⑦刺す、⑧軍事行動、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「厲於廊上、以誅其事。」と「郎」を「廊」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「郎」の“職業に従事する人”は、正攻法部隊に従事する兵士(人民)と考察。結果、「正攻法部隊に従事する兵士達」と解読。③⑤も同様に解読。

<②について>
・「誅」の“討伐する”は、①「誅」で記述された「敵軍を討伐する」の意味を積み上げていると考察。但し、ここでは主語が敵将軍になるため、受身形で「自軍に討伐される」と補って解読。

・「郎」の“職業に従事する人”は、①「郎」同様に「正攻法部隊に従事する兵士達」と解釈。但し、この正攻法部隊は敵軍と考察して「正攻法部隊に従事する敵兵達」と解読。④も同様に解読。

・「事」の“刺す”は、武器を使って相手を傷つける行為と考察。結果、「武器を使って傷つける」と言い換えた。

<③について>
・「上」の“尊重する”は、②「上」で記述された「敵将軍は、自軍に討伐されると考えれば、正攻法部隊に従事する敵兵達を威圧して、武器を使って傷つけることを重視させる」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵兵達が武器を使って傷つけることを重視する」と補って解読。

・「厲」の“粗い砥石”は、其五5-2②「軍隊の勢いを利用する将軍は、人民を使って敵軍と優劣を争わせるのであり、石を丸太にころがり落とすに等しく勢いを生じさせた堅固な自軍で脆い敵軍に向かって前進させるのである」の石を指すと考察すれば、「勢いを生じさせた堅固な自軍」の喩えと解釈できる。結果、「勢いを生じた堅固な自軍」と解読。

<④について>
・「以」は、③「厲」の「勢いを生じた堅固な自軍」を指示する代名詞と解読。結果、「勢いを生じた堅固な自軍」と解読。

・「其の誅する事」の直訳は“敵から雑草を取り除く出来事”となる。この“雑草”は、其五5-4①「敵兵達に逃亡したい気持ちを生じさせる堅固な自軍」及び其五5-4⑤「敵兵達に逃亡したい気持ちを生じさせる堅固な自軍で前進させることで敵軍に危険を感じさせて敵兵達を恐れ震えさせれば必ず獲物となる敵部隊が出現する」に基づけば、「勢いを生じた堅固な自軍」に対して、恐れ震えて逃亡したい気持ちが生じた敵兵達の喩えであり、この敵兵達は奇策部隊の獲物になると考察できる。結果、「敵軍から恐れ震えた敵兵達が逃亡する出来事」と解読できる。

<⑤について>
・「事」の“出来事”は、④「事」で記述された「敵軍から恐れ震えた敵兵達が逃亡する出来事」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵軍から恐れ震えた敵兵達が逃亡する出来事」と解読。

・「厲」の“磨いて鋭くする”は、其七6-2③「早朝における軍隊の勢いは士気が激しく旺盛である」を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「士気を激しくして軍隊の勢いを旺盛にする」と解読。

・「於」の“カラス”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。結果、話の流れに合わせて「獲物となる敵部隊」と解読。

・「以して誅つ」の直訳は“事を行って討伐する”となる。まず、話の流れから討伐する相手は「獲物となる敵部隊」であるため、“事”は奇正の戦術であり、“討伐する”は攻め取ることと言い換えることができる。結果、「奇正の戦術を実行して攻め取る」と解読。

<⑥について>
・「誅」の“討伐する”は、⑤「誅」で記述された「軍隊の勢いを旺盛にして、獲物となる敵部隊を出現させることを重視するのであり、奇正の戦術を実行して攻め取られたい」の意味を積み上げていると考察。結果、「奇正の戦術を実行して獲物となる敵部隊を攻め取る」と補って解読。

・「以」は、⑤「郎」の「正攻法部隊に従事する兵士達」を指示する代名詞と解読。

・「事」の“任務”は、奇正の戦術において正攻法部隊が担う役割であるため、其七4-2①「正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく様子はまるで広がっていく火災が逃げ場を奪って火のない所へ人を導く様子に等しい」を指すと考察。結果、「事なす」で「攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく」と解読。

・「於」の“カラス”は、⑤「於」同様に「獲物となる敵部隊」と解釈。但し、ここでは既に獲物となった状態と解釈できるため「獲物となった敵部隊」と解読。⑦も同様に解読。

・「郎」の“ある職業に従事する人”は、話の流れより奇策部隊を指すと考察。結果、「奇策部隊に従事する兵士達」と解読。⑦も同様に解読。

<⑦について>
・「上」の“献上する”は、⑥「上」で記述された「獲物となった敵部隊を奇策部隊に従事する兵士達に献上する」の意味を積み上げていると考察。結果、「獲物となった敵部隊を奇策部隊に献上する」と補って解読。

・「事して以む」の直訳は“刺して留める”となる。これは、其十一8-4⑦「逃走しようとする敵兵達を突き刺して芋畑の落とし穴から動けないようにして、その後に生け捕りにするのである」から類推すれば、歯向かって来る敵兵達を刺して動けなくすることと考察できる。結果、「その敵兵達を刺して動けないようにする」と補って解読。

<⑧について>
・「以」の“留める”は、⑦「以」で記述された「獲物となった敵部隊は、奇策部隊に従事する兵士達に対して奮い立って殺害しようとするのであり、その敵兵達を刺して動けないようにされたい」の意味を積み上げていると考察。結果、「獲物となった敵兵達を刺して動けなくする」と補って解読。

・「郎」の“ある職業に従事する人”は、動けなくなった敵兵達に対して自国の君主を奨励し、自国に寝返らせる存在であるため、其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。結果、「生きたまま敵を取得する間者」と解読。

・「於」の“カラス”は、⑦「於」同様に「獲物となる敵部隊」と解釈した上で、話の流れに合わせて「その敵兵達」と解読。

・「上」の“自分の主人”は、「生きたまま敵を取得する間者」にとっての主人であるため、自国の君主と考察できる。結果、「自国の君主」と解読。

・「誅」の“請求する”は、其一1-2①「敵自身から敵の実情を教えてもらう方法を探求する」を指すと考察。結果、「実情を求める」と補って解読。

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