適し、人の闠を開けば、必ず之を亟やかに入らしむ。

其十一9-5

適人開闠、必亟入之。

shì rén kaī huì、bì jí rù zhī。

解読文

①仮に、敵都市の城壁に設けられた門を門番が開けば、必ず自軍を開いた門に急いで突入させなければならない。

②門番は、度々献上して身の安全を保証すれば、自国に順応して敵都市の城壁に設けられた門を開けるのである。

③城壁の門のように敵都市への突破口となる門番は、献上されて最高限度に達した金品に対して満足すれば、きっと顔つきが和らぐのである。

④献上された金品に対して満足した門番は、きっと「敵都市の城壁に設けられた門から軍隊が突入した時、身の危険が差し迫った状態になる」と述べるだろう。

⑤自軍が突入した時、門番が身の危険が差し迫った状態になる理由は、敵将軍は、どうしても敵都市の城壁に設けられた門を開けた門番を責めるからである。

⑥責められた門番は、敵将軍から緊急事態に至る原因をつくったと断定されて処刑されるのである。

⑦敵都市の城壁に設けられた門を開けさせることを決行した時、門番は、慌てて自軍の中に紛れて順応するのである。

⑧開門後、慌てて自軍の中に紛れて順応した門番は、敵兵達を危険が差し迫った戦地「死地」に追い込む攻め口に導いて、自軍の立場を確固たるものにするのである。
書き下し文
①適(も)し、人の闠(かい)を開けば、必ず之を亟(すみ)やかに入(い)らしむ。

②之は、亟(しばしば)入(い)れて人を必すれば、適(したが)いて、闠(かい)を開けるなり。

③闠(かい)のごとき人は、亟(きわ)まる入りに之(お)いて適(たの)しめば、必ず開くなり。

④適(たの)しむ之は、必ず、闠(かい)より入(い)るに人は亟(きょく)たりと開(かい)せん。

⑤入(い)るに亟(きょく)たるは、之は、必ず闠(かい)を開ける人を適(たく)すればなり。

⑥適(たく)される人は、之に亟(きょく)たる闠(かい)を開くと必されて、入(い)るなり。

⑦闠(かい)を開けしむこと必するに、人は、亟(すみ)やかに之に入(い)りて適(したが)うなり。

⑧適(したが)う人は、之を亟(きょく)たるに入(い)らしむ闠(かい)を開きて、必するなり。
<語句の注>
・「適」は①仮に、②順応する、③④満足する、⑤⑥責める、⑦⑧順応する、の意味。
・「人」は①ある種の職能を持つ特定の人、②からだ、③ある種の職能を持つ特定の人、④からだ、⑤⑥⑦⑧ある種の職能を持つ特定の人、の意味。
・「開」は①②閉じているものをあける、③ほころぶ、④述べる、⑤閉じているものをあける、⑥設置する、⑦閉じているものをあける、⑧導く、の意味。
・「闠」は①②③④⑤⑥⑦⑧塀や壁に設けられた門、の意味。(参照:漢字辞典オンライン)
・「必」は①必ず~しなければならない、②保証する、③④きっと、⑤どうしても、⑥断定する、⑦決行する、⑧立場を確かにする、の意味。
・「亟」は①急いで、②度々、③最高限度に至る、④⑤危険が差し迫ったさま、⑥緊急事態、⑦慌てて、⑧危険が差し迫ったさま、の意味。
・「入」は①ある物に突き入る、②献上する、③所得、④⑤ある物に突き入る、⑥没する、⑦身内の中にいる、⑧ある境地や状況に達する、の意味。
・「之」は①彼ら、②代名詞、③対して、④代名詞、⑤彼、⑥⑦代名詞、⑧彼ら、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「敵人開闠、必亟入之。」と「適」を「敵」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「人」の“ある種の職能を持つ特定の人”は、門がある場所として挙げられるのは其十一7-8①「城」等の「城壁に囲まれた敵都市」であり、“閉じているものをあける”役割を担う存在であるため「城壁に囲まれた敵都市」の門番を指すと考察できる。結果、「門番」と解読。③⑤⑥⑦⑧も同様に解読。

・「闠」の“塀や壁に設けられた門”の“塀や壁”は、其十一7-8①「城」等の「城壁に囲まれた敵都市」の城壁を指すと考察。結果、「敵都市の城壁に設けられた門」と解読。②④⑤⑦も同様に解読。

・「之」の“彼ら”は、「敵都市の城壁に設けられた門」が開いた瞬間に突入させる自軍と考察。結果、「自軍」と解読。

・「入」の“ある物に突き入る”の“ある物”は、開いた門と解釈すれば、自軍が突入させることと考察。結果、「亟やかに入らしむ」で「開いた門に急いで突入させる」と解読。

<②について>
・「之」は、①「人」の「門番」を指示する代名詞と解読。④も同様に解読。

・「人を必する」の直訳は“体を保証する”となる。これは自軍が門に突入した時、自国に寝返った門番の身の安全を保証することと考察。結果、「身の安全を保証する」と解読。

<③について>
・「闠のごとき人」は、「人」を「門番」と解釈すれば“塀や壁に設けられた門のような門番”となる。この“塀や壁に設けられた門のような”は、門番の特徴の喩えと考察でき、守りが堅い塀や壁の中で門は出入りできる場所と言える。つまり、「城壁に囲まれた敵都市」に突入するための入り口、すなわち突破口が門番なのだと解釈できる。結果、「城壁の門のように敵都市への突破口となる門番」と解読。

・「入」の“所得”は、門番のものとなった金品を指すと考察。結果、「亟まる入り」で「献上されて最高限度に達した金品」と言い換えた。

<④について>
・「適」の“満足する”は、③「適」で記述された「献上されて最高限度に達した金品に対して満足する」の意味を積み上げていると考察。結果、「献上された金品に対して満足する」と補って解読。

・「入」の“ある物に突き入る”の“ある物”は、①「入」同様に解釈して「軍隊が突入する」と補って解読。

<⑤について>
・「入」の“ある物に突き入る”の“ある物”は、④「入」同様に解釈。ここでは「自軍が突入する」と補って解読。

・「亟」の“危険が差し迫ったさま”は、④「亟」で記述された「身の危険が差し迫った状態になる」の意味を積み上げていると考察。結果、「亟たり」で「門番が身の危険が差し迫った状態になる」と補って解読。

・「之」の“彼”は、門を開いた門番を責める存在であるため、ここでは敵将軍とした。結果、「敵将軍」と解読。

<⑥について>
・「之」は、⑤「之」の「敵将軍」を指示する代名詞と解読。

・「闠を開く」の直訳は“塀や壁に門を設置する”となる。この“門”は、③「闠」の解釈から類推すれば、緊急事態への入り口だと考察できる。つまり、緊急事態に至る原因をつくると解釈できる。結果、話の流れに合わせて「原因をつくる」と解読。

・「入」の“没する”は死ぬことであり、話の流れを踏まえれば敵将軍から門番が処刑されることと考察できる。結果、「処刑される」と解読。

<⑦について>
・「之」は、①「之」の「自軍」を指示する代名詞と解読。

・「入」の“身内の中にいる”は、門が開いた後、門番が自軍の中に紛れることと考察。結果、「(自軍)の中に紛れる」と解読。

<⑧について>
・「適」の“順応する”は、⑦「適」で記述された「門を開けさせることを決行した時、門番は、慌てて自軍の中に紛れて順応する」の意味を積み上げていると考察。結果、「開門後、慌てて自軍の中に紛れて順応する」と補って解読。

・「之」の“彼ら”は、話の流れより城壁の中いた敵兵達を指すと考察。結果、「敵兵達」と解読。

・「亟たるに入らしむ」の直訳は“危険が差し迫った境地や状況に至らせる”となる。これは城壁の中に突入した自軍によって、城壁の中にいた敵兵達が追い込まれる境地や状況と解釈すれば、“境地や状況”は其十一1-1①「敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」」を指すと考察できる。結果、「危険が差し迫った戦地「死地」に追い込む」と解読。

・「闠」の“塀や壁に設けられた門”の“門”は、③「闠」の解釈から類推すれば、戦地「死地」への入り口だと考察できる。その場所が城壁の中にある敵都市であることを踏まえると、敵兵達を戦地「死地」に追い込む攻め口と解釈できる。結果、「攻め口」と解読。

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