其十二1-1
孫子曰、凡興師十萬、出師千里、百生之費、公家之奉、費日千金。
sūn zǐ yuē、fán xìng shī shí wàn、chū shī qiān lǐ、bǎi shēng zhī fèi、gōng jiā zhī fèng、fèi rì qiān jīn。
解読文
孫先生が言うには、 ①一般的に、十万人の大衆を動員して、千里先の敵国に大軍十万で遠征すれば、生活に使う財貨は多くなり、国家の公務に対する俸禄は、一日に千金を消耗するのである。 ②あらゆる範囲で極めて多くの策を立てて、大軍十万を十個に分断して、数多くの敵里を自国に従わせて栄えさせるが、全てその敵人民の生活費として消耗するのであり、公務として大軍十万に生活を支える資産を供給するため、毎日、千金を消耗するのである。 ③平凡な将軍は大軍十万のお手本にも関わらず、自国に従わせた元敵里において舞踏に出かけて楽しめば、真似る兵士は数多いのである。その兵士達は任務に励み努力しても生活費を無駄遣いするのであり、この将軍は俸禄を女性に使って、毎日、千金を無駄遣いするのである。 ④全ての人民を極めて栄えさせる要旨は、産物をつくる技能に優れた者を、必ず自国に従わせた元敵里に住ませて、元敵人民を産物の生産に励み努力させることで財貨を生み出すからである。この産業を国家の公務として与えれば、毎日財貨を得る仕組みとなって必ず元敵里の収益基盤は強固になるだろう。 |
書き下し文
孫子曰く、 ①凡(およ)そ、十万の師(もろもろ)を興して、千里にして師(し)を出(い)だせば、生に之(もち)いる費は百たりて、家の公に之(もち)いる奉は、日に千金を費やすなり。 ②凡(およ)そ万(よろず)出(い)だして、師(し)は十たりて、千なる里を師(したが)わしめて興すも、百(およ)そ之の生に費やすなり、公として之に家を奉(ほう)じて、日に千金を費やすなり。 ③凡なるものは十の師(し)なるも、里に万(ばん)に出(い)でて興(よろこ)べば、師(なら)うもの千たるなり。之は百(つと)むも生を費(つい)えるなり、公は奉を家(こ)に之(もち)いて、日に千金を費(つい)えるなり。 ④十なる師(もろもろ)を万(よろず)に興す凡(はん)は、出(しゅつ)の師(し)を千に里(お)らしめて、之に百(つと)めしめて費(つい)えを生めばなり。之を家の公にして奉ずれば、日に費(つい)えありて千に金たらん。 |
<語句の注>
・「凡」は①一般的に、②あらゆる範囲で、③傑出せずに普通であるさま、④要旨、の意味。 ・「興」は①動員する、②栄えさせる、③楽しむ、④栄えさせる、の意味。 ・1つ目の「師」は①大衆、②尊び従う、③模範、④大衆、の意味。 ・「十」は①数の名、②十分の一、③数の名、④完全なさま、の意味。 ・「万」は①数の名、②極めて多い、③舞踏の名、④極めて、の意味。 ・「出」は①外出する、②策を立てる、③出かける、④産物、の意味。 ・2つ目の「師」は①②其二1-2①「師」、③真似る、④工芸・技術などに優れた技能のある人への呼称、の意味。 ・1つ目の「千」は①数の名、②③非常に数が多いさま、④必ず、の意味。 ・「里」は①長さの単位、②③里、④住む、の意味。 ・「百」は①多くの、②全て、③④励み努力する、の意味。 ・「生」は①②③生活、④生み出す、の意味。 ・1つ目の「之」は①使う、②彼ら、③④代名詞、の意味。 ・1つ目の「費」は①財貨、②消耗する、③無駄遣いする、④財貨、の意味。 ・「公」は①②公務、③最高の官位、④公務、の意味。 ・「家」は①国家、②生活を支える資産、③女性に対する尊称、④国家、の意味。 ・2つ目の「之」は①使う、②代名詞、③使う、④代名詞、の意味。 ・「奉」は①俸禄、②供給する、③俸禄、④与える、の意味。 ・2つ目の「費」は①②消耗する、③無駄遣いする、④財貨、の意味。 ・「日」は①一日、②③④毎日、の意味。 ・2つ目の「千」は①②③数の名、④必ず、の意味。 ・「金」は①②③銭、④金属のように固いさま、の意味。 |
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「孫子曰、凡興師十萬、出師千里、百姓之費、公家之奉、費日千金。」と「生」を「姓」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。 ・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・「千里」は千里先の場所を指すが、侵略戦争における教えであるため、その場所は敵国です。そのため、「敵国」と補った。 ・2つ目の「師」は、其二1-2①「師」で記述された「大軍十万」を指すと考察。②も同様に解読。 ・「出」の“外出する”は、自国から他国に外出することと解釈。結果、「遠征する」と言い換えた。 ・「国家の公務に対する俸禄」の内訳は、主に其二1-2①「千里先の敵国に将軍が兵糧を輸送すれば、国内の財貨を失う。その内訳は、訪問客に対して賓客の礼をもって対応する費用、接着剤や塗料の材料、荷車の操縦士と鎧を着た兵士の俸禄、一日に千金が必要である」を指すと考察。 <②について> ・「師は十たり」は、「師」を「大軍十万」と解釈すれば“大軍十万を十分の一にする”となる。つまり、一万人規模の軍隊をひとまとまりにして十に分断するのだとわかる。結果、「大軍十万を十個に分断する」と解読。 ・1つ目の「之」の“彼ら”は、自国に従わせた敵里の人民を指すと考察。結果、「その敵人民」と解読。 ・「生」の“生活”は、話の流れより生活費を指すと考察。結果、「生活費」と解読。③も同様に解読。 ・2つ目の「之」は、2つ目の「師」の「大軍十万」を指示する代名詞と解読。 <③について> ・「十」の“数の名”は、①「十」で記述された「十万人の大衆」の意味を積み上げていると考察。この「十万人の大衆」は「大軍十万」であるため、「大軍十万」と解読。 ・「里」の“里”は、②「里」で記述された「数多くの敵里を自国に従わせて栄えさせる」の意味を積み上げていると考察。結果、「自国に従わせた元敵里」と補って解読。 ・「師うもの」の直訳は“真似る者”となる。これはお手本である将軍を真似る者であるため、兵士を指すと考察できる。結果、「将軍を真似る兵士」と解読。 ・1つ目の「之」は、2つ目の「師」の「真似る兵士」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「その兵士達」と解読。 ・「公」の“最高の官位”は、軍隊における最高の官位であるため将軍を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「この将軍」と解読。 <④について> ・「十なる師」の直訳は“完全な大衆”となる。これは全ての人民を指すと考察。結果、「全ての人民」と解読。 ・「里」の“住む”は、話の流れより「自国に従わせた元敵里」に技術者を住ませることと考察できる。結果、使役形で「自国に従わせた元敵里に住ませる」と補って解読。 ・1つ目の「之」は、②1つ目の「之」の「その敵人民」を指示する代名詞と解釈。結果、自国に服従した状態と解釈して「元敵人民」と解読。 ・「百」の“励み努力する”は、産物をつくる技能を提供しているため、産物の生産に励み努力するのだと考察できる。結果、「産物の生産に励み努力する」と補って解読。 ・2つ目の「之」は、「出」の「産物」を指示する代名詞と解釈。之は公務として元敵里に提供する国家事業と言えるため、話の流れに合わせて「この産業」と言い換えた。 ・「日に費えありて千に金たり」の直訳は“毎日財貨を得て必ず金属のように固くなる”となる。これは国家事業として元敵里に与えた「産業」によって毎日財貨を得る仕組みができれば、元敵里の収益基盤が強固になるのだと考察できる。結果、「毎日財貨を得る仕組みとなって必ず元敵里の収益基盤は強固になる」と補って解読。 |