五ある間を俱に起こして、其の道を知りて莫るなり。是を胃する神は紀するなり、人ある君は之を葆むなり。

其十二2-3

五閒俱起、莫知其道、是胃神紀、人君之葆也。

wŭ xián jù qǐ、mò zhī qí daò、shì wèi shén jì、rén jūn zhī bǎo yĕ。

解読文

①五種類ある間者の使いみち全てを採用して、敵将軍の意向を理解した上で自軍の戦略、戦術を計画するのである。これを消化して身につけた軍神である将軍は、戦略、戦術を決める糸口を探し出すのであり、思いやりのある君主はこの将軍を称えるのである。

②敵里を経由して奪い取って陣取った時、陣地にしたその敵里を自国で統治して豊かにさせた上で、敵里の人民と親しく交流する間者を使って何度も啓発させるのである。道筋を正して治めることを消化して身につけた将軍は、敵人民を尊重するのであり、誤った言動をする敵人民は指導して考え方を正すのであり、陣地にした元敵里は自軍が暮らしを立てる拠り所とするのである。

③生きたまま敵を取得する間者を全ての奇策部隊に完備して、何度も獲物となる敵部隊を出現させた時、獲物となった敵部隊が正しい逃げ道を識別する方法はない。間者の主宰者である将軍は、奇策部隊と間者を隠して霊魂のように存在を認識させないのであり、奇策部隊が隠れている場所に至らせる奇正の戦術を消化して身につけているのである。

④軍神である将軍は、生きたまま敵を取得する間者の養育係になるのである。間者を一人前にする時は、何度も戦争に連れ立って起用して、敵兵達の士気が殺がれる時機を識別することを指導して習熟させるのである。間者に、奇策部隊が出撃する時機を正確に判断することを消化して身につけさせて、敵軍を不思議ではかり知れない心境に追い込むのである。
書き下し文
①五ある間を俱(とも)に起こして、其の道を知りて莫(はか)るなり。是(これ)を胃する神は紀(き)するなり、人(じん)ある君は之を葆(ほ)むなり。

②其の道(よ)りて莫(けず)るに、知りて俱(そな)わらしめて、間をして五(いつ)たび起こせしむなり。紀(おさ)めること胃する君は、人を神(たっと)ぶなり、是(ただ)すなり、之は葆(たも)つなり。

③間を俱(そな)えて、五(いつ)たび起(た)たしむに、其の道を知ること莫(な)し。君たる人は、之を葆(かく)して神たらしむなり、紀(き)に是(ゆ)かしむこと胃するなり。

④君は、之の葆(ほう)たるなり。人たるに、五(いつ)たび俱(とも)にして起こして、其の莫(くれ)を知ること道(みちび)きて間(な)れしむなり。紀(き)を是(ぜ)すること胃せしめて、神たらしむなり。
<語句の注>
・「五」は①数の名、②③④何度も、の意味。
・「間」は①スパイ、②其十二2-2①1つ目の「間」、③其十二2-2①5つ目の「間」、④習熟する、の意味。
・「倶」は①全て、②③完備する、④連れ立つ、の意味。
・「起」は①採用する、②啓発する、③鳥が飛び立つ、④採用する、の意味。
・「莫」は①計画する、②削ぎ取る、③無い、④日暮れ、の意味。
・「知」は①理解する、②司る、③④識別する、の意味。
・「其」は①②③④敵の代名詞、の意味。
・「道」は①意向、②経由する、③行き先、④指導する、の意味。
・「是」は①代名詞、②正しくする、③至る、④正確な判断、の意味。
・「胃」は①②③④飲食したものを蓄え消化する器官、の意味。
・「神」は①其六6-4①「神」、②尊重する、③死後の霊魂、④不思議ではかり知れないさま、の意味。
・「紀」は①糸口を探し出す、②道筋を正して治める、③山麓、④日月の交わるところ、の意味。
・「人」は①思いやり、②民衆、③優れた人物、④一人前のひと、の意味。
・「君」は①②統治者の通称、③絶対的主宰者、④統治者の通称、の意味。
・「之」は①②代名詞、③彼ら、④代名詞、の意味。
・「葆」は①称える、②暮らしを立てる拠り所とする、③覆う、④もり役、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「五閒俱起、莫知其道、是謂神紀、人君之葆也。」と「胃」を「謂」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「間」の“スパイ”は、其十二2-1①「間」で記述された「間者の使いみち」の意味を積み上げていると考察。結果、「間者の使いみち」と補って解読。

・「莫」の“計画する”は、自軍の将軍が戦略、戦術を計画することと考察。結果、「自軍の戦略、戦術を計画する」と補って解読。

・「是」は、「五間俱起、莫知其道」を指示する代名詞と解釈した上で簡潔に「これ」と解読。

・「胃」は“飲食したものを蓄え消化する器官”であり、飲食したものを自分の血や肉に変える器官である。そこで“飲食したもの”を“教え”と置き換えれば、“血や肉に変える”とは“(教えを)身につける”ことと解釈できる。結果、「消化して身につける」と解読。②③④も同様に解読。

・「神」は、其六6-4①「神」で記述された「自軍に勢いが生じるように手助けをしても敵兵を傷つけることが無く、奇策部隊が出撃する準備を整えて敵軍に陣形の型を蔑ろにさせ、待ち受ける奇策部隊を使って獲物となった敵部隊を攻め取って自軍に編制することができる。これを消化して身につける将軍は軍神である」の「将軍は軍神」を指すと考察。結果、「軍神である将軍」と解読。

・「紀」の“糸口を探し出す”の“糸口”は、話の流れより戦略、戦術を決める糸口を指すと考察。結果、「戦略、戦術を決める糸口を探し出す」と補って解読。

・「之」は、「神」の「軍神である将軍」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「この将軍」と解読。

<②について>
・「其の道りて莫る」の直訳は“敵を経由して削ぎ取る”となる。これは其七1-1④「元敵里等の人民を自軍に従事させて治めるお手本を守って、敵里等を経由する戦略のお手本に力を尽くす時は、あらゆる範囲で先を争って敵里等に陣取ることよりも難しいことは無い」に基づけば、「敵里を経由して奪い取って陣取る」と補って解読できる。

・「知りて俱わらしむ」の直訳は“司って完備させる”となる。これは其七1-3③「陣地にした敵里の生活水準が低ければ、特に自国による統治をその人民に認めさせる方法を使うのであり、教え導いて里が豊かになれば自国による統治を認めさせることができる」に基づけば、「陣地にしたその敵里を自国で統治して豊かにさせる」と解読できる。

・「間」は、其十二2-2①1つ目の「間」の「敵里の人民と親しく交流する間者」を指すと考察。結果、「敵里の人民と親しく交流する間者」と解読。

・「君」の“統治者の通称”は、ここでは陣地にした敵里を統治する存在と解釈し、①「軍神である将軍」を指すと考察。結果、「将軍」と簡潔に解読。

・「人」の“民衆”は、陣地にした敵里の人民を指すと考察。結果、「敵人民」と解読。

・「是」の“正しくする”は、其十二1-4①1つ目の「之」で記述された「誤った言動をする人民は指導して考え方を正す」と同意と考察。結果、話の流れに合わせて「誤った言動をする敵人民は指導して考え方を正す」と補って解読。

・「之」は、「其」の「敵里」を指示する代名詞と解釈。この敵里は自軍が統治した状態と考察できるため、「陣地にした元敵里」と解読。

<③について>
・「間」は、其十二2-2①5つ目の「間」の「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。結果、「生きたまま敵を取得する間者」と解読。

・「倶」の“完備する”は、全ての奇策部隊に「生きたまま敵を取得する間者」を所属させることと考察。結果、「全ての奇策部隊に完備する」と解読。

・「起」の“鳥が飛び立つ”について、“鳥”を其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察すれば、「獲物となる敵部隊」と解釈できる。そのため“飛び立つ”は、敵軍から「獲物となる敵部隊」が逃亡する様子の喩えと解釈できる。結果、使役形で「獲物となる敵部隊を出現させる」と解読できる。

・「其の道を知る」の直訳は“敵が行き先を識別する”となる。この“敵”は、「獲物となる敵部隊」だが間者に狙われた時点で獲物になったと解釈できる。次に“行き先”は、獲物となった敵部隊の行き先であるため正しい逃げ道と解釈できる。結果、「獲物となった敵部隊が正しい逃げ道を識別する」と解読できる。

・「君たる人」の直訳は“絶対的主宰者である優れた人物”となる。これは話の流れを踏まえれば、「生きたまま敵を取得する間者」を主宰する「軍神である将軍」を指すと考察できる。結果、「間者の主宰者である将軍」と簡潔に解読。

・「之」の“彼ら”は、「間」の「生きたまま敵を取得する間者」が率いる奇策部隊を指すと考察。結果、「奇策部隊と間者」と解読。

・「神」の“死後の霊魂”は、其十二1-6③「」の“亡霊”と同意と考察。結果、同様に解釈して「神たらしむ」で「霊魂のように存在を認識させない」と解読。

・「紀」の“山麓”は、其七4-2①「山」の「奇策部隊が動かず静止したまま存在に気付かれない様子はまるで高くそびえた山の存在に注目する人がいない様子に等しい」に基づけば、奇策部隊が隠れている場所の目の前と考察できる。結果、「奇策部隊が隠れている場所」と解読。

<④について>
・「君」の“統治者の通称”は、②「君」同様に解釈して「軍神である将軍」と解読。

・「之」は、③「間」の「生きたまま敵を取得する間者」を指示する代名詞と解読。

・「葆」の“もり役”は、将軍が「生きたまま敵を取得する間者」のもり役であると考察。つまり、間者を育てる役割と解釈できるため、わかりやすく「養育係」と解読。

・「人」の“一人前のひと”は、一人前になった「生きたまま敵を取得する間者」と考察。結果、「人たり」で「間者を一人前にする」と解読。

・「莫」の“日暮れ”は、其七6-2②「早朝の旺盛な士気は切れ味の鋭い武器であり、昼間の緩んだ士気は敵を侮るのであり、夕暮れ時の殺がれた士気は既に敗北した状態になる」の「夕暮れ時」を指すと考察。結果、「其の莫」で「敵兵達の士気が殺がれる時機」と解読。

・「紀」の“日月の交わるところ”は、其五2-3①「冬が訪れて、さらに春が訪れる要因は、太陽と月が規則正しく動くからである」に基づけば、日と月が入れ替わる瞬間を説くと解釈できる。そして、「日」は正攻法部隊、「月」は奇策部隊を喩えた表現であるため、正攻法部隊と奇策部隊が入れ替わる時機と考察できるが、わかりやすく「奇策部隊が出撃する時機」と解読。

・「神」の“不思議ではかり知れないさま”は、次々と攻め取られて行く状況に直面させることで、敵軍全体を不思議ではかり知れない心境に追い込むことと考察。結果、「神たらしむ」で「敵軍を不思議ではかり知れない心境に追い込む」と補って解読。

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