其十二3-1
故三軍之親、莫親於閒、賞莫厚於閒、事莫密於閒。
gù sān jūn zhī qìng、mò qìng yú xián、shǎng mò hòu yú xián、shì mò mì yú xián。
解読文
①だから、全軍が信頼する将軍は、間者よりも身近に接する者はおらず、褒美の品について間者よりも優遇する者はおらず、任務ついて間者よりも秘密にするものはない。 ②全軍から信頼される将軍は、全軍に対して戦略、戦術を計画するのであり、間者に対しては将軍自ら任務を管理するのである。多くの褒美の品によって力づけて、隠れ場所に奇策部隊の間者を配置して、隙に乗じて獲物となった敵部隊を攻め取る任務に従事させるのである。 ③全軍で駆り立てて前進して敵軍に接近することで敵兵達の士気を殺がれた状態にする戦術を使った時、全軍から信頼される将軍は、奇策部隊の間者が獲物となった敵部隊を数多く攻め取る様子を観賞するのである。生きたまま敵を取得する間者は、攻め取った敵兵達を静まらせた上で、生活の安定を保証して敵国から離反させるのである。 ④全軍から信頼される将軍は、奇策部隊の間者を軍隊に編制して何度も奇正の戦術を計画するのであり、間者が獲物となった敵部隊を攻め取って敵国から離反させれば将軍自ら褒め称えるのである。攻め取った敵兵達は、中隊の真ん中に隙間なく配置して従事させれば自軍は広大になり、兵士数の差が増大になって権勢を生じるのである。 |
書き下し文
①故に、三軍の親(した)しみの、間より親しむもの莫(な)し、賞は間より厚くするもの莫(な)し、事は間より密かなること莫(な)し。 ②親(した)しみは、三軍に之(お)いて故を莫(はか)るなり、間に親(みずか)らするなり。厚き賞に莫(はげ)まして、密に間を於(お)いてせしめて、間(うかが)いて於(う)を莫(けず)ること事(こと)とせしむなり。 ③三を軍に親しみて莫(くれ)に之(ゆ)かしむ故なすに、親(した)しみは、間の於(う)を厚く莫(けず)るを賞(ほ)むなり。間は、於(う)を密せしめて、莫(ばく)を事(つか)いて間たらしむを於(な)す。 ④親(した)しみは、之を軍して三たび故を莫(はか)るなり、於(う)を莫(けず)りて間たらしめば親(みずか)ら賞(ほ)めるなり。於(う)は、間に密(しげ)くして事(こと)とせしめば莫(ばく)たりて、間(へだ)てを厚くすを於(な)す。 |
<語句の注>
・「故」は①だから、②③④たくらみ、の意味。 ・「三」は①②「三軍」で“全軍”、③其十二3-1①「三」、④何度も、の意味。 ・「軍」は①②「三軍」で“全軍”、③軍隊、④軍隊を編制する、の意味。 ・「之」は①助詞「の」、②対して、③変わる、④代名詞、の意味。 ・1つ目の「親」は①②信頼する人、③近づける、④信頼する人、の意味。 ・1つ目の「莫」は①~する人がいない、②計画する、③日暮れ、④計画する、の意味。 ・2つ目の「親」は①身近に接する、②自ら事を司る、③信頼する人、④自分で直接に、の意味。 ・1つ目の「於」は①~よりも~である、②~に対して、③④カラス、の意味。 ・1つ目の「間」は①②③スパイ、④人の間の断絶、の意味。 ・「賞」は①②褒美の品、③観賞する、④褒め称える、の意味。 ・2つ目の「莫」は①~する人がいない、②力づける、③④削ぎ取る、の意味。 ・「厚」は①優遇する、②③多い、④増大させる、の意味。 ・2つ目の「於」は①~よりも~である、②③カラス、④~である、の意味。 ・2つ目の「間」は①スパイ、②隙に乗じる、③スパイ、④差異、の意味。 ・「事」は①任務、②従事する、③用いる、④従事する、の意味。 ・3つ目の「莫」は①~するものはない、②削ぎ取る、③生活の安定、④広大なさま、の意味。 ・「密」は①秘密の、②隠した場所、③静まる、④隙間なく詰まったさま、の意味。 ・3つ目の「於」は①~よりも~である、②在る、③~である、④カラス、の意味。 ・3つ目の「間」は①②スパイ、③人の間の断絶、④中、の意味。 |
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。 ・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・1つ目の「親」の“信頼する人”は、兵士達が信頼する将軍と考察。結果、「信頼する将軍」と解読。 <②について> ・1つ目の「親」の“信頼する人”は、①1つ目の「親」の「全軍が信頼する将軍」の意味を積み上げていると考察。結果、「全軍から信頼される将軍」と補って解読。④も同様に解読。 ・2つ目の「親」の“自ら事を司る”は、将軍自ら間者の任務を管理することと考察。結果、「将軍自ら任務を管理する」と解読。 ・「密」の“隠した場所”は、其一2-5③「地」の「間者が隠れて出現する場所」を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「隠れ場所」と解読。 ・3つ目の「間」の“スパイ”は、文意より其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」と考察。この間者は奇策部隊を率いることを踏まえて、「奇策部隊の間者」と解読。 ・2つ目の「於」の“カラス”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。結果、話の流れに合わせて「獲物となった敵部隊」と解読。 ・3つ目の「莫」の“削ぎ取る”は、間者の率いる奇策部隊が「獲物となった敵部隊」を攻め取ることと考察。結果、「攻め取る」と解読。 <③について> ・「三」は、①「三」等の「全軍」の意味を積み上げていると考察。結果、「全軍」と解読。 ・1つ目の「親」の“近づける”は、其九4-10①「強く命令して駆り立てて前進することは、敵を後退させる要因になるのである」の前進を指すと考察。結果、「三を軍に親しむ」で「全軍で駆り立てて前進して敵軍に接近する」と補って解読。 ・1つ目の「莫」の“日暮れ”は、其七6-2②「夕暮れ時の殺がれた士気は既に敗北した状態になる」を指すと考察。結果、「莫に之かしむ」で「敵兵達の士気を殺がれた状態にする」と解読。 ・2つ目の「親」の“信頼する人”は、②1つ目の「親」同様に解釈して「全軍から信頼される将軍」と解読。 ・1つ目の「間」の“スパイ”は、②3つ目の「間」同様に解釈して「奇策部隊の間者」と解読。 ・1つ目の「於」の“カラス”は、②2つ目の「於」同様に解釈して「獲物となった敵部隊」と解読。④も同様に解読。 ・2つ目の「莫」の“削ぎ取る”は、②3つ目の「莫」同様に解釈して「攻め取る」と解読。④も同様に解読。 ・2つ目の「間」の“スパイ”は、文意より其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」と解読。 ・2つ目の「於」の“カラス”は、1つ目の「於」の「獲物となった敵部隊」と同意だが、ここでは攻め取られた状態であるため、「攻め取った敵兵達」と解読。 ・「莫を事う」の直訳は“生活の安定を用いる”となる。これは其十二1-6②「攻め取った敵兵達に対して思いやりある俸給等を保証して、敵自身から敵の実情を教えてもらうことである」から類推すれば、生活の安定を保証することと考察できる。結果、「生活の安定を保証する」と言い換えた。 ・3つ目の「間」の“人の間の断絶”は、攻め取った敵兵達を敵国から離反させることと考察。結果、「間たらしむ」で「敵国から離反させる」と解読。 <④について> ・「之」は、③1つ目の「間」等の「奇策部隊の間者」を指示する代名詞と解読。 ・「故」の“たくらみ”は、③「全軍で駆り立てて前進して敵軍に接近することで敵兵達の士気を殺がれた状態にする戦術を使った時、全軍から信頼される将軍は、奇策部隊の間者が獲物となった敵部隊を数多く攻め取る様子を観賞する」を指すと解釈すれば、奇正の戦術と言える。結果、「奇正の戦術」と解読。 ・1つ目の「間」の“人の間の断絶”は、③3つ目の「間」同様に解釈。結果、「間たらしむ」で「敵国から離反させる」と解読。 ・3つ目の「於」の“カラス”は、③2つ目の「於」同様に解釈して「攻め取った敵兵達」と解読。 ・3つ目の「間」の“中”は、話の流れより其三1-1②「停留している敵軍の小隊を打ち破っても、施して怪我が治れば自軍に所属させるのであり、背こうとすれば中隊の真ん中に配置して前進する」の中隊の真ん中を指すと考察。結果、「中隊の真ん中」と解読。 ・3つ目の「莫」の“広大なさま”は、「攻め取った敵兵達」によって兵士数が増えた自軍が広がっている状態と考察。結果、「莫たり」で「自軍は広大になる」と解読。 ・「間てを厚くする」の直訳は“差異を増大させる”となる。これは文意から其七2-1④「争」の“差が出る”で記述された「兵士数で差を出して権勢を生じる」の意味を積み上げていると考察。結果、「兵士数の差が増大になって権勢を生じる」と解読。 |