凡なるものは、城に之いて所あること欲して攻めるなり、人に之いて所あること欲して殺するなり。必ず、其の将ける守、右に左して謁う者、門る者、舍てらる人、之の姓と名を知ること先にするなり。吾は間に、必ず之を索めて知れと令するなり。

其十二4-1

凡城之所欲攻、人之所欲殺。必先知、其守將、左右謁者、門者、舍人、之姓名。令吾閒必索知之。

fán chéng zhī suǒ yù gōng、rén zhī suǒ yù shā。bì xiān zhī、qí shoǔ jiāng、zuǒ yoù yè zhě、mén zhě、shè rén、zhī xìng míng。lǐng wú xián bì suǒ zhī zhī。

解読文

①平凡な将軍は、城壁に囲まれた敵都市に対して虚があることを期待して討伐するのであり、敵将軍に対して虚があることを期待して討伐するのである。必ず、敵将軍の計画実現を支える役目の者、勢力ある敵将軍の家柄に反対して方針転換を要求する者、門番をする者、以前は重用されたが現在は任務が無い者について、彼らの名前と身分や地位の情報を得ることを第一にしなければならない。将軍は、間者に対して「必ず彼らの名前と身分や地位を探求して情報を得なければならない」と命令するのである。

②一般的に、城壁に囲まれた敵都市は、門番に欲しがる事物を与えて自軍の突入を助ける任務に専念させるのであり、敵将軍は、彼らに欲しがる事物を与えて零落させるのである。敵将軍の計画実現を支える役目の者、勢力ある敵将軍の家柄に反対して方針転換を要求する者、門番をする者、以前は重用されたが現在は任務が無い者と知り合えば、彼らの家柄と爵位を保証して導くのである。将軍は「彼らの家柄と爵位を保証することで敵国から離反させて、敵の実情を要求しろ」と命令するのである。

③そもそも、城壁に囲まれた敵都市の門番が、門の扉が開けた状態にすることを望めば咎められるのであり、敵将軍の考えている計画を手に入れたいと考えた者は殺害されるのである。必ず実行する最も重要な知恵は、敵将軍の計画実現を支える役目の者は敵軍から去らせることであり、要求した方針転換を尊重させて敵将軍の考えている計画と食い違わせることであり、門から城壁内に突入する自軍は、門番の名前を呼んで思いやりを持って自軍の中に紛れさせることである。将軍は、間者に対して、この知恵を理解することを要求して必ず実行させるのである。

④要旨は、城壁に囲まれた敵都市に対しては門番の欲望を利用して門の扉を開けた状態にさせて討伐するのであり、敵将軍に対しては彼らの欲望を利用して敵将軍の考えている計画を取り除くのであり、自軍の立場を確固たるものにすることを第一にするのである。彼らの名前と身分や地位を記憶している間者は、彼らの傍にいて任務の進捗等の状況を管理するのであり、説明した事柄と食い違えば手を貸すのであり、彼らの一族の者は思いやりを持って自国に家屋を建てて定住させるのである。秘密裏に敵将軍が命令できないように対処すれば、自軍の立場を確固たるものにして、敵将軍に打つ手が尽き果てたと感じさせるのである。
書き下し文
①凡なるものは、城に之(お)いて所あること欲して攻めるなり、人に之(お)いて所あること欲して殺(さつ)するなり。必ず、其の将(たす)ける守(しゅ)、右に左して謁(こ)う者、門(まも)る者、舍(す)てらる人、之(こ)の姓と名を知ること先にするなり。吾は間に、必ず之を索(もと)めて知れと令するなり。

②凡そ、城は之に欲する所なして攻(おさ)めしむなり、人は之に欲する所なして殺(おとろ)えしむなり。其の将(たす)ける守(しゅ)、右に左して謁(こ)う者、門(まも)る者、舍(す)てらる人と知れば、之(こ)の姓と名を必して先だつなり。吾は、之を必して間たらしめて知を索(もと)めよと令するなり。

③凡そ、城の之の所たること欲すれば攻められるなり、之の所を欲する人は殺(ころ)されるなり。必する先の知は、守(しゅ)は其の将(ゆ)かしむことなり、謁(こ)うこと右(たっと)ばしめて左(たが)わしむことなり、門(せ)める者は、之の姓を名いうて人(じん)を舍(しゃ)することなり。吾は、間をして之を知ること索(もと)めて必せ令(し)むなり。

④凡(はん)は、城は之の欲に所たらしめて攻めるなり、人は之の欲に所を殺(ほろ)ぼすなり、必すること先にするなり。其の姓と名を知る之は、将(ほとり)におりて守るなり、謁(つ)げることと左(たが)えば右(たす)けるなり、門の者は人(じん)に舍(お)らしむなり。間(ひそ)かに令を吾(ふせ)げば、必して、之に索(さく)たりと知らしむなり。
<語句の注>
・「凡」は①傑出せずに普通であるさま、②一般的に、③そもそも、④要旨、の意味。
・「城」は①②③④都市(都市はその全域を城壁で囲んでいる)、の意味。
・1つ目の「之」は①対して、②③④代名詞、の意味。
・1つ目の「所」は①虚実の代名詞「敵軍の虚」、②~する事物、③④よろしき状態、の意味。
・1つ目の「欲」は①(ある状態や事態の実現を)望む、②(事物を)欲しがる、③(ある状態や事態の実現を)望む、④欲望、の意味。
・「攻」は①討つ、②専念して従事する、③咎める、④討つ、の意味。
・1つ目の「人」は①②③④ある人、の意味。
・2つ目の「之」は①対して、②③④代名詞、の意味。
・2つ目の「所」は①虚実の代名詞「敵軍の虚」、②~する事物、③④思い、の意味。
・2つ目の「欲」は①(ある状態や事態の実現を)望む、②(事物を)欲しがる、③手に入れたいと思う、④欲望、の意味。
・「殺」は①討伐する、②零落する、③人や動物の生命を断つ、④取り除く、の意味。
・1つ目の「必」は①必ず~しなければならない、②保証する、③必ず実行する、④立場を確かにする、の意味。
・「先」は①第一にする、②導く、③最も重要なこと、④第一にする、の意味。
・1つ目の「知」は①知識を得る、②知り合う、③知恵、④知識がある、の意味。
・「其」は①②③④敵の代名詞、の意味。
・「守」は①②③役目、④管理する、の意味。
・「将」は①②支える、③去る、④傍、の意味。
・「左」は①②反対する、③④食い違う、の意味。
・「右」は①②勢力のある家柄、③尊重する、④手を貸す、の意味。
・「謁」は①②③求める、④説明する、の意味。
・1つ目の「者」は①②助詞「もの」、③④助詞「こと」、の意味。
・「門」は①②門番をする、③門を攻撃する、④一族、の意味。
・2つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「舎」は①②放棄する、③喜捨する、④家屋を建てて定住する、の意味。
・2つ目の「人」は①②ある人、③④思いやり、の意味。
・3つ目の「之」は①②③④代名詞、の意味。
・「姓」は①②③④家族の系統の標識となる称号、の意味。
・「名」は①身分や地位、②爵位、③人の名を呼ぶ、④身分や地位、の意味。
・「令」は①②命令する、③使役形、④命令、の意味。
・「吾」は①②③私、④防御する、の意味。
・「間」は①スパイ、②人の間の断絶、③スパイ、④秘密裏に、の意味。
・2つ目の「必」は①必ず~しなければならない、②保証する、③必ず実行する、④立場を確かにする、の意味。
・「索」は①探求する、②③要求する、④尽き果てたさま、の意味。
・2つ目の「知」は①知識を得る、②知識、③理解する、④感じる、の意味。
・4つ目の「之」は①②③④代名詞、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は「凡城之所欲攻、人之所欲殺、必先知其守將、左右、謁者、門者、舍人之姓名。・・・・」と後半が欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文に従って「令吾閒必索知之」を補った。なお、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)いずれも「軍之所欲擊」が入るが、この箇所は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「所」は虚実の代名詞と考察。「所」は孫子兵法の随所で、虚実の「虚」又は「実」の代名詞として記述され、「自国の実、自国の虚、敵国の実、敵国の虚」これら四つのいずれかに該当する。ここでは「敵城の虚」を指すと解釈した上で簡潔に「虚」と解読。

・1つ目の「人」の“ある人”は、敵将軍を指すと推察。結果、「敵将軍」と解読。②④も同様に解読。

・2つ目の「所」は、①1つ目の「所」同様に虚実の代名詞と考察。ここでは「敵将軍の虚」を指すと解釈した上で簡潔に「虚」と解読。

・「其の将ける守」の直訳は“敵を支える役目”となる。これは其十一5-1②「敵兵達に与えられた任務を蔑ろにさせる時は、旗の仕事をする敵兵によって、敵兵達の耳と目を劣った状態にするのである」の「旗の仕事をする敵兵」等を指すと考察。この「旗の仕事をする敵兵」は、敵将軍が考えていた計画の実行を支えていると解釈できることを踏まえて、「敵将軍の計画実現を支える役目の者」と解読。②も同様に解読。

・「右に左して謁う者」の直訳は“勢力ある家柄に反対して求める者”となる。其十二2-6③「敵将軍と利害や意見が対立している相手を利用する間者は、裏から操る任務に力を尽くして敵将軍に方針転換させる」に基づけば「敵将軍と利害や意見が対立している相手」を指し、“求める”内容は「方針転換」と解釈できる。結果、「勢力ある敵将軍の家柄に反対して方針転換を要求する者」と解読できる。②も同様に解読。

・「舍てらる人」の直訳は“放棄されたある人”となる。これは其十二2-2②「仕事がない敵を寝返らせて敵の実情を手に入れる」で記述された「仕事がない敵」を指すと考察。また、“放棄”の意味を重視すれば其十一9-3⑥「敵将軍が考えている計画を正しく予期する時は、以前は敵将軍に親しく付き従っていたが、現在は任務が無い部下に対して、増えることがない敵国での収入とどんどん増える自国での収入を比較させて自国に寝返らせる」の「現在は任務が無い部下」を指すと考察した方が適当と言える。結果、「以前は重用されたが現在は任務が無い者」と解読。②も同様に解読。

・3つ目の「之」は、「敵将軍の計画実現を支える役目の者、勢力ある敵将軍の家柄に反対して方針転換を要求する者、門番をする者、以前は重用されたが現在は任務が無い者」を指示する代名詞と解釈。結果、冗長にならないように「彼らの」と解読。②も同様に解読。

・「姓」の“家族の系統の標識となる称号”は、調査したい相手の名前のことと考察。結果、「名前」と簡潔に解読。③④も同様に解億。

・4つ目の「之」は、3つ目の「之」で記述された「彼らの名前と身分や地位」を指示する代名詞と解読。結果、「彼らの名前と身分や地位」と解読。

<②について>
・1つ目の「之」は、①2つ目の「者」の「門番をする者」を指示する代名詞と解釈。但し、解読文を読みやすくするため簡潔に「門番」と解読。③④も同様に解読。

・「攻」の“専念して従事する”は、其十一9-7①「戦闘に至る以前に、女性と交際するように門番を金品で満足させて、敵都市の城壁に設けられた門の扉を開けさせた直後、兎が茂みの中に逃げ出すように門番が慌てて自軍の中に紛れて順応すれば、敵軍は、城壁内に突入する自軍を拒否できないのである」に基づけば、敵都市に突入する自軍を助ける任務に門番を従事させることと考察。結果、使役形で「自軍の突入を助ける任務に専念させる」と補って解読。

・2つ目の「之」は、①3つ目の「之」の「彼ら」を指示する代名詞と解読。なお、彼らは「敵将軍の計画実現を支える役目の者、勢力ある敵将軍の家柄に反対して方針転換を要求する者、門番をする者、以前は重用されたが現在は任務が無い者」を指示する。④も同様に解読。

・「姓」の“家族の系統の標識となる称号”は、自国に寝返った者に与えるものと解釈すれば家柄と推察できる。結果、「家柄」と簡潔に解読。

・4つ目の「之」は、3つ目の「之」で記述された「彼らの家柄と爵位」を指示する代名詞と解読。結果、「彼らの家柄と爵位」と解読。

・「間」の“人の間の断絶”は、“彼ら”を敵国から離反させることと考察。結果、「間たらしむ」で「敵国から離反させる」と解読。

・2つ目の「知」の“知識”は、其一1-2①「敵自身から敵の実情を教えてもらう」等の「敵の実情」を指すと考察。結果、「敵の実情」と解読。

<③について>
・1つ目の「所」の“よろしき状態”は、自軍にとってよろしき状態であり、敵都市の城壁にある門の扉が開けた状態を指すと考察。結果、「所たり」で「門の扉が開けた状態にする」と解読。④も同様に解読。

・2つ目の「之」は、①②1つ目の「人」の「敵将軍」を指示する代名詞と解読。

・「之の所」は、「之」を「敵将軍」と解釈すれば“敵将軍の思い”となる。この“思い”は、其七6-1①「敵全軍を統率する敵将軍からは考えていた計画を強制的に取るのが良い」の「考えていた計画」を指すと考察できる。結果、「敵将軍の考えている計画」と解読。

・「守」の“役目”は、①②「守」で記述された「敵将軍の計画実現を支える役目の者」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵将軍の計画実現を支える役目の者」と解読。

・「謁」の“求める”は、①②「謁」で記述された「勢力ある敵将軍の家柄に反対して方針転換を要求する者」の意味を積み上げていると考察。結果、「謁うこと」で「要求した方針転換」と解読。

・「左」の“食い違う”は、「敵将軍の考えている計画」との食い違いを生じさせることと考察。結果、使役形で「敵将軍の考えている計画と食い違わせる」と補って解読。

・「門める者」の直訳は“門を攻撃する者”となる。これは其十一9-7①「戦闘に至る以前に、女性と交際するように門番を金品で満足させて、敵都市の城壁に設けられた門の扉を開けさせた直後、兎が茂みの中に逃げ出すように門番が慌てて自軍の中に紛れて順応すれば、敵軍は、城壁内に突入する自軍を拒否できないのである」の「城壁内に突入する自軍」を指すと考察。結果、「門から城壁内に突入する自軍」と解読。

・3つ目の「之」は、②2つ目の「者」の「門番をする者」を指示する代名詞と解釈。簡潔に「門番」と解読。

・「人を舍する」の直訳は“(門番に対して)思いやりを喜捨する”となる。これは其十一9-5⑦「門を開けさせることを決行した時、門番は、慌てて自軍の中に紛れて順応するのである」で記述された「自軍の中に紛れて順応する」を指すと考察。結果、「思いやりを持って自軍の中に紛れさせる」と解読。

・4つ目の「之」は、1つ目の「知」の「最も重要な知恵」を指示する代名詞と解釈。話の流れに合わせて「この知恵」と解読。

<④について>
・2つ目の「所」の“思い”は、③2つ目の「所」で記述された「敵将軍の考えている計画」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵将軍の考えている計画」と補って解読。

・「其」の“敵の代名詞”は、2つ目の「之」の「彼ら」を指示する代名詞と解読。

・3つ目の「之」は、③「間」の「間者」を指示する代名詞と解読。

・「将におりて守る」の直訳は“傍にいて管理する”となる。これは間者が寝返らせた者の傍にいて任務の進捗等の状況を管理することと考察。結果、「彼らの傍にいて任務の進捗等の状況を管理する」と補って解読。

・「門の者」の直訳は“一族の者”となる。これは自国に寝返った“彼ら”の一族の者達と考察。結果、「彼らの一族の者」と補って解読。

・「舎」の“家屋を建てて定住する”は、自国に寝返った“彼ら”の一族の者達を自国に退避させて住ませることと考察。結果、使役形で「自国に家屋を建てて定住させる」と補って解読。

・「間かに令を吾ぐ」の直訳は“秘密裏に命令を防御する”となる。これは「敵将軍の考えている計画」を取り除いて命令できない状態に追い込むことと考察。結果、「秘密裏に敵将軍が命令できないように対処する」と解読。

・「索」の“尽き果てたさま”は、「敵将軍の考えている計画」を取り除いた状態であるため、打つ手が尽き果てた状態と考察できる。結果、「索たり」で「打つ手が尽き果てる」と補って解読。

・4つ目の「之」は、1つ目の「人」の「敵将軍」を指示する代名詞と解読。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。