反す間は、故に得て可ければ而ち用いるなり。因って、是して之を知るなり。

其十二4-3

故反閒可得而用也。因是而知之。

gù fǎn xián kĕ deǐ ér yòng yĕ。yīn shì ér zhī zhī。

解読文

①こっそりと元々所属していた敵国に戻す間者は、奇正の戦術によって敵兵達を攻め取って、条件に適合すれば採用するのである。従って、正確な判断をして敵国に戻す間者を識別するのである。

②この間者をこっそりと元々所属していた敵国に戻す理由は、将軍の考えている方針や戦略、戦術に上手く適合させる企てが実現するからである。すなわち、敵国に戻す間者によって敵の実情を得て正確な判断をするのである。

③利害や意見が対立する相手を利用して敵将軍に方針転換させる任務が実現すれば、将軍の考えている方針や戦略、戦術に上手く適合させることができるのである。将軍は、敵国に戻した間者達が、敵将軍と利害や意見が対立している相手と知り合うことを頼みとするのである。

④敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者は、自国に戻って任務に関する出来事を報告するのであり、敵将軍が方針転換した結果がわかれば、将軍は考えている方針や戦略、戦術を適合させることができるのである。すなわち、敵将軍が方針転換した結果を理解すれば正確な判断ができるのである。
書き下し文
①反(かえ)す間は、故に得て可(よ)ければ而(すなわ)ち用いるなり。因(よ)って、是(ぜ)して之を知るなり。

②間を反(かえ)す故は、而(なんじ)に用いらしむこと得る可ければなり。因(よ)って、之に知りて是(ぜ)するなり。

③間に故を反(かえ)すこと得れば、而(なんじ)に用いらしむ可きなり。而(なんじ)は、是(これ)の之を知ること因(よ)るなり。

④間は故を反(かえ)すなり、用あれば、而(なんじ)は得せしむ可きなり。因(よ)って、之を知れば而(よ)く是(ぜ)するなり。
<語句の注>
・「故」は①たくらみ、②理由、③たくらみ、④出来事、の意味。
・「反」は①②元の所在地に戻す、③(反対方向に)向きを変える、④戻って報告する、の意味。
・「間」は①②スパイ、③二者の関係、④スパイ、の意味。
・「可」は①適合するさま、②③④~できる、の意味。
・「得」は①手に入れる、②③実現する、④適合する、の意味。
・1つ目の「而」は①条件関係を表す接続詞、②③④あなた、の意味。
・「用」は①採用する、②③上手く適合する、④具体的な現象、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
・2つ目の「因」は①従って、②すなわち、③頼みとする、④すなわち、の意味。
・「是」は①②正確な判断、③代名詞、④正確な判断、の意味。
・2つ目の「而」は①②順接の関係を表す接続詞、③あなた、④~できる、の意味。
・「知」は①識別する、②知識を得る、③知り合う、④理解する、の意味。
・「之」は①②代名詞、③彼ら、④代名詞、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は「・・・用也。因是而知之。」と前半が欠落しているため、孫子(講談社)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「反」の“元の所在地に戻す”は、其十二2-6①「反」で記述された「こっそりと元々所属していた敵国に戻す」の意味を積み上げていると考察。結果、「こっそりと元々所属していた敵国に戻す」と補って解読。②も同様に解読。

・「間」の“スパイ”は、文意より其十二2-2①「敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者」だが、ここでは「間者」と簡潔に解読。②も同様に解読。

・「故」の“たくらみ”は、攻め取った敵兵達の中から「元々所属していた敵国に戻す間者」を採用する文意であるため、奇正の戦術を指すと考察。結果、「奇正の戦術」と解読。

・「得」の“手に入れる”は、奇正の戦術によって敵兵を攻め取ることと考察。結果、「敵兵達を攻め取る」と補って解読。

・「可」の“適合するさま”は、攻め取った敵兵が間者の条件に適合することと考察。結果、「条件に適合するさま」と補って解読。

・「之」は、「間」の「こっそりと元々所属していた敵国に戻す間者」を指示する代名詞と解釈。結果、「敵国に戻す間者」と簡略化して解読。②も同様に解読。

<②について>
・「而に用いらしむ」の直訳は“あなたに上手く適合させる”となる。これは其十二2-6③「秘密裏に自軍の将軍が考えている方針や戦略、戦術に上手く適合させる存在である」を指すと考察。結果、「将軍の考えている方針や戦略、戦術に上手く適合させる」と補って解読。③も同様に解読。

・「知」の“知識を得る”の“知識”は、其一1-2①「敵自身から敵の実情を教えてもらう」の「敵の実情」を指すと考察。結果、「敵の実情を得る」と解読。

<③について>
・「間に故を反す」の直訳は“二者の関係によってたくらみを反対方向に向きを変える”となる。これは其十二2-6③「敵将軍と利害や意見が対立している相手を利用する間者は、裏から操る任務に力を尽くして敵将軍に方針転換させるのであり、秘密裏に自軍の将軍が考えている方針や戦略、戦術に上手く適合させる存在である」に基づけば、「利害や意見が対立する相手を利用して敵将軍に方針転換させる」と解読。

・「是」は、①②「之」の「敵国に戻す間者」を指示する代名詞と解釈。但し、この間者は複数存在すると推察できることを踏まえて、また、話の流れに合わせて「敵国に戻した間者達」と解読。

・「之」の“彼ら”は、「利害や意見が対立する相手」を指すと考察。結果、「敵将軍と利害や意見が対立している相手」と解読。

<④について>
・「間」の“スパイ”は、①②「間」同様に「間者」だが、話の流れに合わせて「敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者」と解読。

・「故を反す」の直訳は“出来事を戻って報告する”となる。これは「敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者(敵国に戻した間者)」が自国に戻って任務について報告することと考察。結果、「自国に戻って任務に関する出来事を報告する」と補って解読。

・「用」の“具体的な現象”は、間者による任務に関する出来事の報告からわかる、敵将軍が方針転換した結果を指すと考察。結果、「敵将軍が方針転換した結果」と解読。

・「得」の“適合する”は、「敵将軍が方針転換した結果」に対して「将軍の考えている方針や戦略、戦術」を適合させるのだと考察できる。結果、使役形で「考えている方針や戦略、戦術を適合させる」と補って解読。

・「之」は、「用」の「敵将軍が方針転換した結果」を指示する代名詞と解読。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。