死す間は、故より、誑す為を事とするなり、可を使いて敵ありと告げしむなり。是に因れば而ち之は知れるなり。

其十二4-5

故死閒爲誑事、可使告敵、因是而知之。

gù sǐ xián wéi kuáng shì、kĕ shǐ gaò dí、yīn shì ér zhī zhī。

解読文

①隙に乗じて敵将軍の可愛がる者を殺害する間者は、必ず、敵を欺いて敵将軍の可愛がる者を刺す行為を実践するのであり、敵役人と妾の関係を用いて、敵将軍の可愛がる者を攻撃する企てがあると報告させるのである。敵役人と妾の関係を頼みとすれば、敵将軍の可愛がる者を攻撃する企ては敵に知られるようになるのである。

②その敵役人に、「可愛がる者を攻撃する企ては、可愛がる者を隠して相手を欺く軍事行動によって抵抗できる」と敵将軍に申し上げさせれば、その敵役人がこの任務を担当するのである。この方法を踏襲すれば、敵将軍の可愛がる者について敵の実情を得ることができるのである。

③可愛がる者を隠して相手を欺く任務を担当した敵役人は、融通性のない姿勢で「決まりを用いるべきである」と敵将軍を諭して、可愛がる者を隠して相手を欺く軍事行動を惑わすのである。決まりを用いる理由を敵将軍が正しいと認めれば、可愛がる者を隠れ場所に移動させる随行者を識別するのである。

④敵将軍の可愛がる者を殺害する間者は、病気の治療を装って自国のために働いた敵役人に休暇を取らせるのであり、可愛がる者を隠して相手を欺く随行者と交代することで、敵将軍の可愛がる者を攻撃する企てを実行して殺害するのである。この企ての実行をきっかけにして、敵将軍を頬髭が垂れ下がるように無気力にして支配するのである。
書き下し文
①死(ころ)す間は、故(もと)より、誑(たぶらか)す為(しわざ)を事(こと)とするなり、可を使いて敵ありと告(つ)げしむなり。是(これ)に因(よ)れば而(すなわ)ち之は知(あらわ)れるなり。

②間に、故は死すと誑(たぶらか)す事に敵する可きと、告げ使(し)めば為(な)るなり。是(これ)に因(よ)れば、而(よ)く之を知るなり。

③為(な)る間は、死たりて故を使う可きと敵に告げて、事を誑(たぶらか)すなり。因(よし)を是(ぜ)とすれば之を知るなり。

④敵は、可(い)えること為(な)して告(こく)せ使(し)むなり、誑(たぶらか)す事を間(か)わりて、故なして死(ころ)すなり。是(これ)を因(よし)として、之を而(じ)のごとくして知るなり。
<語句の注>
・「故」は①必ず、②たくらみ、③しきたり、④たくらみ、の意味。
・「死」は①死なせる、②消える、③融通性のないさま、④死なせる、の意味。
・「間」は①スパイ、②③内、④交代する、の意味。
・「為」は①行い、②③担当する、④装う、の意味。
・「誑」は①②③④欺く、の意味。
・「事」は①実践する、②③軍事行動、④職務、の意味。
・「可」は①長所、②~できる、③~すべきである、④病気が治る、の意味。
・「使」は①用いる、②使役形、③用いる、④使役形、の意味。
・「告」は①報告する、②(下の者が上の者に)申し上げる、③諭す、④(官吏が)休みを取る、の意味。
・「敵」は①攻撃すること、②あたる、③戦争や競争で対抗する相手、④災いをなすもの、の意味。
・「因」は①頼みとする、②踏襲する、③理由、④きっかけ、の意味。
・「是」は①②代名詞、③正しいと認める、④代名詞、の意味。
・「而」は①条件関係を表す接続詞、②~できる、③条件関係を表す接続詞、④下向きに垂れているほおひげ、の意味。
・「知」は①知られるようになる、②知識を得る、③識別する、④司る、の意味。
・「之」は①代名詞、②③彼、④代名詞、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「死」の“死なせる”は、其十二2-5①「死」で記述された「隙に乗じて敵将軍の可愛がる者を殺害する」の意味を積み上げていると考察。結果、「隙に乗じて敵将軍の可愛がる者を殺害する」と補って解読。

・「誑す為」の直訳は“欺く行い”となる。これは其十二2-5①「誑して於を事する為」の「敵を欺いて敵将軍の可愛がる者を刺す行為」を簡略化した記述と考察。結果、「敵を欺いて敵将軍の可愛がる者を刺す行為」と補って解読。

・「可」の“長所”は、其十二4-4③「可」で記述された「この二者の関係を利点とする」の意味を積み上げていると考察。「この二者の関係」とは、其十二4-4③「敵組織内部に繋がる使者を使って、敵組織内部の役人に対して妾の戦術を実行した結果、誘いに乗る」に基づけば、敵役人と妾の関係とわかる。結果、「敵役人と妾の関係」と解読。

・「敵」の“攻撃すること”は、其十二2-5②「敵」で記述された「敵将軍の可愛がる者を攻撃しようとする自軍に備えさせる」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵将軍の可愛がる者を攻撃する企て」と解読。

・「是」は、「可」の「敵役人と妾の関係」を指示する代名詞と解読。

・「之」は、「敵」の「敵将軍の可愛がる者を攻撃する企て」を指示する代名詞と解読。

<②について>
・「間」の“内”は、其十二4-4③1つ目の「間」同様に「敵組織内部の役人」と解釈。これは①「敵役人」と同意であるため、話の流れに合わせて「(その)敵役人」と解読。③も同様に解読。

・「故」の“たくらみ”は、①「敵将軍の可愛がる者を攻撃する企て」を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「可愛がる者を攻撃する企て」と解読。④も同様に解読。

・「死すと誑す事」の直訳は“消えたと欺く軍事行動”となる。これは其十二2-5②「管理している敵組織内部の者に「可愛がる者を遠ざければ、この企てを潰して防御することになる」と欺く任務を行わせる」に基づけば、「可愛がる者を隠して相手を欺く軍事行動」と解読できる。

・「敵」の“あたる”は、敵将軍が「可愛がる者を攻撃する企て」に抵抗することと考察。結果、「抵抗する」と言い換えた。

・「告」の“(下の者が上の者に)申し上げる”は、支配している敵役人から敵将軍に申し上げることと考察。結果、使役形で「敵将軍に申し上げさせる」と解読。

・「為」の“担当する”は、支配している敵役人が「可愛がる者を隠して相手を欺く軍事行動」の任務を担当することと考察。結果、「その敵役人がこの任務を担当する」と補って解読。

・「是」は、「故死間為誑事、可使告敵」で記述された方法を指すと考察。結果、「この方法」と解読。

・「之」の“彼”は、①「敵将軍の可愛がる者」を指すと考察。結果、「敵将軍の可愛がる者」と解読。

・「知」の“知識を得る”の“知識”は、其一1-2①「敵自身から敵の実情を教えてもらう」の「敵の実情」を指すと考察。結果、「敵の実情を得る」と解読。

<③について>
・「為」の“担当する”は、②「為」で記述された「この任務を担当する」の意味を積み上げていると考察。この“この任務”とは、「可愛がる者を隠して相手を欺く軍事行動」に関する任務であることを踏まえて、「可愛がる者を隠して相手を欺く任務を担当する」と補って解読。

・「故」の“しきたり”は、其十一2-2④「決まりを明らかにして、敵将軍の可愛がる者を覆い隠す時機を遅らせる」の決まりと同意と考察。結果、「決まり」と解読。

・「事」の“軍事行動”は、②「事」で記述された「可愛がる者を隠して相手を欺く軍事行動」の意味を積み上げていると考察。結果、「可愛がる者を隠して相手を欺く軍事行動」と補って解読。

・「誑」の“欺く”は、ここでは文意より惑わす意味と考察。結果、「惑わす」と言い換えた。

・「因」の“理由”は、「愛がる者を隠して相手を欺く軍事行動」において「決まりを用いる」理由を指すと考察。結果、「決まりを用いる理由」と補って解読。

・「是」の“正しいと認める”は、其十一2-2③「敵将軍は決まりを無視して可愛がる者が隠れる居所を定める」に基づけば、敵将軍が「決まりを用いる理由」を正しいと認めて決まりに従うことと考察できる。結果、「敵将軍が正しいと認める」と補って解読。

・「之」の“彼”は、其十一2-2⑥「軍事機関が敵将軍の可愛がる者の保護を受け入れれば、「お手本に従って、その中のちょうど相応しい随行者の立場を強制的に取れ」と敵将軍の可愛がる者を殺害する間者に言うのである」に基づけば、敵将軍の可愛がる者を隠れ場所に移動させる「随行者」を指すと考察できる。結果、わかりやすく「可愛がる者を隠れ場所に移動させる随行者」と解読。

<④について>
・「誑す事」の直訳は“欺く職務”となる。これは③「可愛がる者を隠して相手を欺く任務」を行う職務であり、③「可愛がる者を隠れ場所に移動させる随行者」を指すと考察。結果、「可愛がる者を隠して相手を欺く随行者」と解読。

・「敵」の“災いをなすもの”は、話の流れより其十一2-2⑥「「お手本に従って、その中のちょうど相応しい随行者の立場を強制的に取れ」と敵将軍の可愛がる者を殺害する間者に言うのである」の間者を指すと考察。結果、「敵将軍の可愛がる者を殺害する間者」と解読。

・「告」の“(官吏が)休みを取る”は、③「可愛がる者を隠して相手を欺く任務を担当した敵役人」の身の安全のために、病気の治療という偽りの理由によって休暇を取らせることと考察。結果、わかりやすく「自国のために働いた敵役人」と解読。

・「是」は、「故なして死す」の「敵将軍の可愛がる者を攻撃する企てを実行して殺害する」を指示する代名詞と解釈。結果、「この企ての実行」と解読。

・「之」は、③「敵」の「敵将軍」を指示する代名詞と解読。

・「而」の“下向きに垂れているほおひげ”は、敵将軍の感情の向きを喩えたと考察。つまり、感情は力なく為すがままに任せて下向きになっているのであり、其十二2-5④「自軍の将軍は、敵将軍の可愛がる者を攻撃する間者を頼りにして、その可愛がる者を殺害して敵将軍を無気力にさせるのである」の無気力を指すと考察。結果、「而のごとくする」で「頬髭が垂れ下がるように無気力にする」と解読。

・「知」の“司る”は、ここでは「敵将軍」を支配する意味合いと考察。結果、「支配する」と解読。

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