五の間の事は、必ず之を知らしめて知に之らしむなり。在る於に必ず反かしめて間たらしむなり、反す間たれば故に厚くせざる可からざるなり。

其十二4-7

五閒之事、必知之知之。必在於反閒、故反閒不可不厚也。

wŭ xián zhī shì、bì zhī zhī zhī zhī。bì zaì yú fǎn xián、gù fǎn xián bù kĕ bù hòu yĕ。

解読文

①生きたまま敵を取得する間者の任務は、必ずその任務内容を理解させて実践できる知恵に至るまで習熟させなければならない。生存している攻め取った敵兵達に対しては、必ず敵国から離反させて豊かな生活をさせなければならないのであり、こっそりと元々所属していた敵国に戻す間者になれば特に優遇しなければならないのである。

②間者を習熟させる時は、任務内容を覚えさせた上で、何度も戦争に赴かせて、必ず実行させて実践できる知恵に変えるのである。生きたまま敵を取得する間者は、過去の戦争事例から逆算して類推して、獲物となる敵部隊の居場所を断定するのである。大いに間者を習熟させれば、大いに兵士数を増やして軍隊規模を大きくできるのである。

③攻め取った敵兵達に、自説にしがみついて、生きたまま敵を取得する間者を責める者が存在すれば、攻め取った敵兵達に対して真心のある法規や決まりを用いることを保証するのであり、一定の時間を置いて、この敵兵達の見解が変わったことを識別するのである。依然として自国に服従しないで歯向かう敵兵が存在すれば、その敵兵と向き合うこと無く、その考え方を変えさせることは大いに後回しにするのである。

④間者は、五種類の任務内容を学問として修めるのであり、必ず実行するため五種類の任務内容に関する知識が、実践できる知恵に変わるのである。獲物となる人物の居場所を断定する時は融通を利かせて、その人物の旧交を大いに豊かにさせるのであり、大いに間者の任務に関わることに同意すれば、敵軍を内部から崩壊させるのである。
書き下し文
①五の間の事は、必ず之を知らしめて知に之(いた)らしむなり。在る於(う)に必ず反(そむ)かしめて間たらしむなり、反(かえ)す間たれば故(ことさら)に厚くせざる可からざるなり。

②間(な)れしむに、之を知らしめて、五(いつ)たび事に之(ゆ)かしめて、必せしめて知に之(ゆ)かしむなり。間は、故に反なりて反(かえ)して、於(う)ある在(ざい)を必するなり。不(おお)いに間(な)れしめば、不(おお)いに厚くする可きなり。

③於(う)に、必して間に反(かえ)すもの在れば、之に五を事(つか)うこと必するなり、間(へだ)てて之の知の之(ゆ)くこと知るなり。故(もと)より間あれば、可(あ)たること不(な)くして、反(かえ)しむこと不(おお)いに厚(あと)にするなり。

④間は、五の之を事(つか)えるなり、必して之の知は知に之(ゆ)くなり。於(う)の在(ざい)を必するに反(か)えて、故を不(おお)いに厚くせしむなり、不(おお)いに間(あず)かること可(き)けば、間より反(かえ)すなり。
<語句の注>
・「五」は①五番目という序数、②何度も、③五番目という序数、④数の名、の意味。
・1つ目の「間」は①スパイ、②習熟する、③一定の時間や空間を置く、④スパイ、の意味。
・1つ目の「之」は①助詞「の」、②赴く、③④代名詞、の意味。
・「事」は①任務、②戦争、③用いる、④先生について学問を修める、の意味。
・1つ目の「必」は①必ず~しなければならない、②必ず実行する、③保証する、④必ず実行する、の意味。
・1つ目の「知」は①理解する、②覚える、③見解、④知識、の意味。
・2つ目の「之」は①②③④代名詞、の意味。
・2つ目の「知」は①②知恵、③識別する、④知恵、の意味。
・3つ目の「之」は①ある地点や事情に達する、②③④変わる、の意味。
・2つ目の「必」は①必ず~しなければならない、②断定する、③自説にしがみつく、④断定する、の意味。
・「在」は①生きている、②居場所、③存在する、④居場所、の意味。
・「於」は①②③④カラス、の意味。
・1つ目の「反」は①裏切る、②類推する、③責める、④融通を利かす、の意味。
・2つ目の「間」は①ゆとりがあるさま、②③スパイ、④関わる、の意味。
・「故」は①特に、②事変、③依然として、④旧交、の意味。
・2つ目の「反」は①元の所在地に戻す、②逆さまなさま、③(反対方向に)向きを変える、④倒す、の意味。
・3つ目の「間」は①スパイ、②習熟する、③人の間の断絶、④内、の意味。
・1つ目の「不」は①~しない、②大いに、③無い、④大いに、の意味。
・「可」は①②~できる、③向き合う、④同意である、の意味。
・2つ目の「不」は①~しない、②③④大いに、の意味。
・「厚」は①優遇する、②増大させる、③後回しにする、④豊かであるさま、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「五の間」の直訳は“五番目のスパイ”となる。これは其十二2-2①で五番目に記述された「生きたまま敵を取得する間者」と考察。結果、「生きたまま敵を取得する間者」と解読。

・2つ目の「之」は、「事」の「任務」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「その任務内容」と解読。

・2つ目の「知」は、其一2-6①「知」と同様に解釈して「実践できる知恵」と解読。②④も同様に解読。

・3つ目の「之」の“ある地点や事情に達する”は、其十二3-2②「間者が未熟で些細な事に錯誤がある段階においては、有能な将軍が大いに具備してこっそりと未熟な間者を守るのである」に基づいて、使役形で「(実践できる知恵に)至るまで習熟させる」と補って解読。

・「於」の“カラス”は、其十二3-1③2つ目の「於」等の「攻め取った敵兵達」を指すと考察。結果、「攻め取った敵兵達」と解読。③も同様に解読。

・1つ目の「反」の“裏切る”は、「攻め取った敵兵達」に服従している敵国を裏切らせることと考察。結果、使役形で「敵国から離反させる」と補って解読。

・2つ目の「間」の“ゆとりがあるさま”は、敵国から離反させた敵兵達を豊かにさせることと考察。結果、使役形で「豊かな生活をさせる」と解読。

・2つ目の「反」の“元の所在地に戻す”は、其十二4-3①「反」等で記述された「こっそりと元々所属していた敵国に戻す」の意味を積み上げていると考察。結果、「こっそりと元々所属していた敵国に戻す」と補って解読。

・3つ目の「間」の“スパイ”は、文意より其十二2-2①「敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者」だが、ここでは「間者」と簡潔に解読。

<②について>
・1つ目と3つ目の「間」の“習熟する”は、①「生きたまま敵を取得する間者の任務は、必ずその任務内容を理解させて実践できる知恵に至るまで習熟させなければならない」の意味を積み上げていると考察。結果、使役形で「間者を習熟させる」と補って解読。

・2つ目の「之」は、①2つ目の「之」の「その任務内容」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「任務内容」と解読。

・「於」の“カラス”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。結果、話の流れに合わせて「獲物となる敵部隊」と解読。

・2つ目の「間」の“スパイ”は、其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。結果、「生きたまま敵を取得する間者」と解読。③も同様に解読。

・「故に反なりて反す」の直訳は“事変を逆さまにして類推する”となる。これは其九5-1④「将軍は大いに戦況が一致する過去の戦争事例から未来を予測するうえに、さらに過去の勝ち戦を大いに鑑定し、その勝ち戦を恭しく細部まで再現することを決行する」に基づけば、過去の戦争事例から逆算して類推することと考察。結果、「過去の戦争事例から逆算して類推する」と補って解読。

・「厚」の“増大させる”は、奇正の戦術によって敵部隊を攻め取る文意であるため、兵士数が増えて軍隊規模が大きくなることと考察。結果、「兵士数を増やして軍隊規模を大きくする」と補って解読。

<③について>
・1つ目の「之」は、「於」の「攻め取った敵兵達」を指示する代名詞と解読。

・「五」の“五番目という序数”は、其一2-1①で五番目に記述された「法」の「法規やお手本」を指すと解釈。但し、ここでは文意より、特に其九6-1⑥等の「真心のある法規や決まり」を指すと考察。結果、「真心のある法規や決まり」と解読。

・2つ目の「之」は、1つ目の「之」の「攻め取った敵兵達」を指示する代名詞と解釈。結果、冗長にならないように「この敵兵達」と解読。

・3つ目の「間」の“人の間の断絶”は、「攻め取った敵兵達」と自軍の兵士達(自国の人民)との間に生じている断絶と考察。つまり、「真心のある法規や決まり」を保証しても自国に服従しない「攻め取った敵兵達」が存在して歯向かうことと解釈できる。結果、「自国に服従しないで歯向かう敵兵」と言い換えた。

・2つ目の「反」の“(反対方向に)向きを変える”は、「自国に服従しないで歯向かう敵兵」の敵国に服従する考え方を、自国に服従する考え方に変えることと考察。結果、使役形で「その考え方を変えさせる」と解読。

<④について>
・1つ目の「之」は、②2つ目の「之」の「任務内容」を指示する代名詞と解読。

・「五の之」の「五種類の任務内容」は、其十二2-2①「敵里の人民と親しく交流する間者がおり、敵組織内部と親しく交流する間者がおり、敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者がおり、敵将軍の可愛がる者を殺害する間者がおり、生きたまま敵を取得する間者がいる」の五種類を指すと考察。

・2つ目の「之」は、1つ目の「之」で記述された「五種類の任務内容」を指示する代名詞と解読。

・「於」の“カラス”は、②「於」同様に「獲物の鳥」と解釈。この「獲物の鳥」は、「五種類の任務内容」それぞれにおける「獲物となる人物」を指すと考察。結果、「獲物となる人物」と解読。

・「故」の“旧交”は、例えば其十二4-4①「陣地にした敵里に恩恵を享受させる間者が、その敵人民と馴染みの関係になれば、敵組織内部と親しい者を手に入れて働かせることができる」とあるように、「獲物となる人物」の旧交を指すと考察できる。結果、話の流れに合わせて「その人物の旧交」と解読。

・2つ目の「間」の“関わる”は、獲物となる人物の「旧交」が間者の任務に関わることと考察。結果、「間者の任務に関わる」と補って解読。

・「間より反す」の直訳は“内から倒す”となる。これは間者の働きによって、敵軍を内部から崩壊させることと考察。結果、「敵軍を内部から崩壊させる」と補って解読。

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