此く之は兵の要なり、三軍の之くに、所に恃みて動かしむなり。

其十二5-6

此兵之要、三軍之所恃而動也。

cǐ bīng zhī yaò、sān jūn zhī suǒ shì ér dòng yĕ。

解読文

①このように五種類の間者は、戦略、戦術における重要な存在であり、全軍で戦争に赴いた時、お手本を頼りにして働かせるのである。

②五種類の間者を軍隊に編制して戦争に赴かせて、何度も敵の実情を調べさせて、敵軍に虚を生じさせることを頼りにするのであり、自軍が行動し始めれば敵軍に危険を感じさせることができるのである。

③そこで、奇策部隊が獲物となった敵部隊の出現を待ち受けて、正攻法部隊が蛇の道理によって奇策部隊の隠れ場所に到達させることを頼りにして、激しい雷が突然一点目掛けて落ちて容易く破壊するように奇策部隊が出現してその敵部隊を攻め取るのである。

④このように攻め取って傷つけた敵兵達は、治療して回復させて自国に従わせれば、自国の全軍を頼りにして任務に従事するのである。

⑤このように何度も獲物となった敵部隊を奇策部隊の隠れ場所に招いて奇正の戦術を行うのであり、攻め取った敵兵達を自軍に編制することで軍隊の強大さが増加して実の状態に至ることを頼りにすれば、敵軍を恐れ震えさせるのである。

⑥このように軍事を行って、全軍の権勢を掲げる状態に達すれば、戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理に達したことを頼りにするのであり、将軍は、講和の文書を取り交わす使者を派遣するのである。

⑦すなわち、何度も講和の文書を取り交わす使者を派遣して、陣取って自軍の統治に変えた元敵里等を自国の領地にしたいと願うのであり、将軍は、従わなければ危害が与えられると感じた敵将軍が行動し始めることを頼りにするのである。

⑧このように戦争が講和の締結に至れば、頼りにした全軍の兵士達を自国の領地になった元敵里等に定住させて、そして国家事業のために働かせるのである。
書き下し文
①此(か)く之は兵の要(かなめ)なり、三軍の之(ゆ)くに、所に恃(たの)みて動かしむなり。

②此を軍して兵に之(ゆ)かしめて、三たび要せしめて、之に所あらしむこと恃(たの)むなり、而(よ)く動かすなり。

③此(ここ)に、兵の之あるを要(むか)えて、軍の所に三に之(いた)らしむこと恃(たの)みて動かすなり。

④此(か)く兵する之は、要(ただ)して所に之(ゆ)かせしめば、三軍を恃(たの)みて動くなり。

⑤此(か)く三たび之を要して兵するなり、軍して所に之(いた)るに恃(たの)めば而(すなわ)ち動かしむなり。

⑥此(か)く兵なして、三軍の要(よう)あるに之(いた)れば、所に之(いた)ること恃(たの)むなり、而(なんじ)は動かしむなり。

⑦此(ここ)に、三たび兵を之(ゆ)かしめて、軍して之(ゆ)かしむ所を要(もと)めるなり、而(なんじ)は動かすこと恃(たの)むなり。

⑧此(か)く兵は要(ちか)うに之(いた)れば、恃(たの)む三軍の之は所におらしめて、而(しか)して動かしむなり。
<語句の注>
・「此」は①このように、②代名詞、③そこで、④⑤⑥このように、⑦すなわち、⑧このように、の意味。
・「兵」は①戦略、戦術、②戦争、③軍隊、④傷つける、⑤戦術、⑥軍事、⑦戦士、⑧戦争、の意味。
・1つ目の「之」は①彼ら、②赴く、③彼ら、④⑤代名詞、⑥ある地点や事情に達する、⑦赴く、⑧ある地点や事情に達する、の意味。
・「要」は①重要な部分や内容、②事実を調べる、③待ち受ける、④矯正する、⑤招く、⑥権力、⑦自分のものにしたいと願う、⑧誓約して重要な承認や決意を表す、の意味。
・「三」は①「三軍」で“全軍”、②何度も、③三番目という序数、④「三軍」で“全軍”、⑤何度も、⑥「三軍」で“全軍”、⑦何度も、⑧「三軍」で“全軍”、の意味。
・「軍」は①「三軍」で“全軍”、②軍隊に編制する、③軍隊、④「三軍」で“全軍”、⑤軍隊に編制する、⑥「三軍」で“全軍”、⑦陣取る、⑧「三軍」で“全軍”、の意味。
・2つ目の「之」は①赴く、②彼ら、③ある地点や事情に達する、④変わる、⑤⑥ある地点や事情に達する、⑦変わる、⑧彼ら、の意味。
・「所」は①正しい方法、②虚実の代名詞「敵軍の虚」、③道理、④よろしき状態、⑤虚実の代名詞「自軍の実」、⑥道理、⑦⑧場所、の意味。
・「恃」は①②③④⑤⑥⑦⑧頼りにする、の意味。
・「而」は①順接の関係を表す接続詞、②~できる、③④順接の関係を表す接続詞、⑤条件関係を表す接続詞、⑥⑦あなた、⑧並列の関係を表す接続詞、の意味。
・「動」は①働く、②其五5-3④「動」、③其七4-2①2つ目の「動」、④仕事をする、⑤震える、⑥仕事をする、⑦其五5-3④「動」、⑧働く、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「之」の“彼ら”は、其十二2-2①「敵里の人民と親しく交流する間者がおり、敵組織内部と親しく交流する間者がおり、敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者がおり、敵将軍の可愛がる者を殺害する間者がおり、生きたまま敵を取得する間者がいる」で記述された五種類の間者を指すと考察。結果、「五種類の間者」と解読。

・2つ目の「之」の“赴く”は、全軍で戦争に赴くことと考察。結果、「戦争に赴く」と補って解読。

・「所」の“正しい方法”は、孫子兵法に記載されている類型や過去の戦争事例を指すと考察し、ここでは「お手本」と解読した。

<②について>
・「此」は、①1つ目の「之」の「五種類の間者」を指示する代名詞と解読。

・「要」の“事実を調べる”の“事実”は、其十二2-1②「戦略、戦術を使う時は、秘密裏に五種類の間者が敵の実情を手に入れるのである」等の「敵の実情」を指すと考察。結果、使役形で「敵の実情を調べさせる」と解読。

・2つ目の「之」の“彼ら”は、間者を働かせて「虚」を生じさせる相手と解釈すれば敵軍となる。結果、「敵軍」と解読。

・「所」は虚実の代名詞と考察。「所」は孫子兵法の随所で、虚実の「虚」又は「実」の代名詞として記述され、「自国の実、自国の虚、敵国の実、敵国の虚」これら四つのいずれかに該当する。ここでは間者が任務を遂行した結果、敵軍に虚を生じさせる文意だと解釈。結果、「之に所あらしむ」で「敵軍に虚を生じさせる」と解読。

・「動」は、其五5-3④「動」の「軍隊が行動し始めれば敵軍に危険を感じさせる」を指すと考察。結果、「自軍が行動し始めれば敵軍に危険を感じさせる」と解読。

<③について>
・「兵」の“軍隊”は、獲物となった敵部隊を待ち受ける軍隊であるため、「奇策部隊」と解読。

・1つ目の「之」の“彼ら”は、奇策部隊が攻め取る相手と考察。結果、他句と表記を合わせて「獲物となった敵部隊」と解読。

・「軍」の“軍隊”は、「兵」の「奇策部隊」との対比であり、正攻法部隊を指すと考察。結果、「正攻法部隊」と解読。

・「所」の“道理”は、「獲物となった敵部隊」を誘導する道理であるため、其十一4-2④「敵軍に蛇の道理を働かせる将軍は、奇策部隊を幅広い範囲に配置して隠れさせるのであり、火災のようにどんどん攻め込む正攻法部隊を使って、敵軍の前方部隊に蛇の道理を働かせた時は援護に来る後方部隊を奇策部隊に攻め取らせる」の「蛇の道理」を指すと考察。結果、「蛇の道理」と解読。

・「三」の“三番目という序数”は、其一2-1①で三番目に説かれた内容「地」の「場所」を指すと考察。さらに「地」の「場所」には、其一2-5③「地」の「間者が隠れて出現する場所」が含まれている。文意に従えば、ここでは「間者が隠れて出現する場所」を指すと解釈できるのであり、この“間者”は奇策部隊を率いることを踏まえれば「奇策部隊の隠れ場所」と解読できる。

・「動」は、其七4-2①2つ目の「動」で記述された「動かすこと震えて雷す如し」の「敵軍に節目が生じた時機を見逃さず奇策部隊が出撃して攻め取る様子はまるで激しい雷が突然一点目掛けて落ちて容易く破壊することに等しい」を指すと考察。結果、「激しい雷が突然一点目掛けて落ちて容易く破壊するように奇策部隊が出現してその敵部隊を攻め取る」と解読。

<④について>
・「兵」の“傷つける”は、③「奇策部隊が出現してその敵部隊を攻め取る」の結果、その敵兵達を傷つけたことと考察。結果、「攻め取って傷つける」と補って解読。

・「之」の“彼ら”は、③1つ目の「之」の「獲物となった敵部隊」を指示する代名詞と解釈。ここでは話の流れに合わせて「敵兵達」と解読。

・「要」の“矯正する”は、傷ついた敵兵を治療して、元の状態に戻すことと解釈。結果、「治療して回復させる」と言い換えた。

・「所に之かしむ」の直訳は“よろしき状態に変わらせる”となる。これは攻め取った敵兵達を自軍にとってよろしき状態にすることと解釈すれば、自国に従わせることと考察できる。結果、「自国に従わせる」と解読。

<⑤について>
・1つ目の「之」は、③1つ目の「之」の「獲物となった敵部隊」を指示する代名詞と解読。

・「要」の“招く”は、③「奇策部隊の隠れ場所に到達させる」に基づけば、「獲物となった敵部隊」を「奇策部隊の隠れ場所」に招くことと考察。結果、「奇策部隊の隠れ場所に招く」と補って解読。

・「兵」の“戦術”は、文意より奇正の戦術を指すと考察。結果、「奇正の戦術」と解読。

・「軍」の“軍隊に編制する”は、奇正の戦術によって攻め取った敵兵達を自軍に編制することと考察。結果、「攻め取った敵兵達を自軍に編制する」と補って解読。

・「所」は虚実の代名詞と考察。攻め取った敵兵達を自軍に編制することから、其二4-2①「敵に勝ちて而は強を益す」を実現して「自軍の実」に至ると解釈できる。結果、この意味合いを込めて「所に之る」で「軍隊の強大さが増加して実の状態に至る」と解読。

<⑥について>
・「三軍の要ある」の直訳は“全軍の権力が出現する”となる。これは、其七4-3①「全軍の権勢」を指すと考察。結果、「全軍の権勢を掲げる」と言い換えた。

・「所」の“道理”は、其七4-4④「真心のある法規や決まりを使えば、軍隊は兵士数で差を出して権勢を生じるのであり、戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理を使って敵国を抑える将軍が、既に敗北した状態の敵将軍に自分達は兵士数が少なく虚弱な軍隊だと理解させた時、素直に降伏するのである」の「戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理」と考察。結果、「戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理」と補って解読。

・「動」の“仕事をする”は、「戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理」が働いているため、其十一6-12⑧「講和の文書を取り交わす」を行うための使者を敵将軍に派遣するのだと考察できる。結果、使役形で「講和の文書を取り交わす使者を派遣する」と解読。

<⑦について>
・「兵を之かしむ」の直訳は“戦士を赴かせる”となる。これは⑥「講和の文書を取り交わす使者を派遣する」を指すと考察。結果、「講和の文書を取り交わす使者を派遣する」と言い換えた。

・「軍して之かしむ所」の直訳は“陣取って変えた場所”となる。これは、其七4-3①「敵里を奪い取れば多人数の正攻法部隊に割り当て、陣地を開拓して統治して兵糧と飼料を各部隊に配分する」等に基づけば、敵国から奪い取って陣地にして自軍が統治する体制に変えた元敵里等を指すと考察できる。結果、「陣取って自軍の統治に変えた元敵里等」と補って解読。

・「要」の“自分のものにしたいと願う”は、「陣取って自軍の統治に変えた元敵里等」に対する記述であるため、“自分のもの”とは自国の領地を指すと考察できる。結果、「自国の領地にしたいと願う」と解読。

・「動」は、其五5-3④「軍隊が行動し始めれば敵軍に危険を感じさせる」と考察、但し元となった道理である其五5-3③「動き出すならば打撃を与えたのである」の意味に沿って「従わなければ危害が与えられると感じた敵将軍が行動し始める」と話の流れに合わせて解読した。なお、「敵将軍が行動し始める」の行動内容は、其十二5-5⑥「有能な将軍を自分達の統率者と認めて、兵士達を安静にさせることを理解している敵将軍は、才能と徳を持った自軍の将軍が、自分達の将軍になって統率することを敵兵達にはっきり悟らせる」等を指すと解釈する。

<⑧について>
・「要」の“誓約して重要な承認や決意を表す”は、話の流れより講和が成立することと考察できる。結果、「要う」で「講和の締結」と簡潔に解読。

・2つ目の「之」の“彼ら”は、話の流れより自国の兵士達を指すと解釈できる。結果、「兵士達」と解読。

・「所」は、⑦「所」で記述された「陣取って自軍の統治に変えた元敵里等」の意味を積み上げていると考察。其九5-6⑥「敵里を開拓して陣地として結び付ければ、敵将軍は敗北したことを認めるのである。行き来させる自国の人民を増やし、大いに家屋を立てて侵略を成し遂げた成果とする。開拓した陣地を自国の領地にして定住するに至れば、きっと自国の人民は妻を得るだろう」に基づき、「所におらしむ」で「自国の領地になった元敵里等に定住させる」と解読。

・「動」の“働く”は、其十二5-5⑦「聡明な君主は、その国を統治して豊かにできる者として「真心ある国家事業をあまねく実行する」と保証する」から類推すれば、「自国の領地になった元敵里等」で作り出した国家事業のために自国の兵士達を働かせるのだと推察できる。結果、使役形で「国家事業のために働かせる」と解読。

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