合する乎、利あらしめば而ち用いるなり、不いに合わせれば而ち止まらん。

其十三4-4

合乎利而用、不合而止。

hé hū lì ér yòng、bù hé ér zhǐ。

解読文

①諸侯と連合することはなんと素晴らしいことか、統治下においた諸侯を豊かにさせれば自国のために力を尽くすのであり、敵将軍が大いに両軍の権勢を比較すれば敵軍は動きを止めるだろう。

②敵将軍は両軍の権勢を比較するだろう、敵将軍に手柄を保証すれば敗北した敵国を平定する役目で任用できるのであり、大いに両軍が交戦していても戦闘を中止するだろう。

③敵将軍が降服しても敵兵は自国に歯向かうだろう、真心ある国家事業を実行して国を豊かにすることを保証すれば服従させることができるのであり、自国が大いに道義的に正しい姿勢で対応すれば自国が統治する元敵国にそのまま人民を宿らせることができるだろう。

④道義的に正しい姿勢で対応することはなんと素晴らしいことか、自国及び他国のあらゆる人民を調和させれば治めることができるのであり、大いに自国の人民と元敵人民が打ち解ければ、自国の人民が統治した元敵国に定住できるだろう。

⑤自国の人民と元敵人民が打ち解けることはなんと素晴らしいことか、順調に元敵人民を管理できるのであり、大いに両国の人民が一緒に集まれば元敵人民による悪事を阻止するだろう。

⑥両国の人民が一緒に集まることはなんと素晴らしいことか、巡り合わせが良ければ両国の男女が上手く出会うのであり、大いに交接すれば子供を宿すだろう。

⑦両国の男女が交接して子供を宿すことはなんと素晴らしいことか、利益を強く求めて仕事に精を出すのであり、大いに両国の人民が結びついて共に生活するのである。

⑧両国の人民が結びついて共に生活することはなんと素晴らしいことか、人民を減らすこと無く元敵国を自国に統一できるのであり、そして国が豊かになれば自国を奉るのである。
書き下し文
①合する乎(かな)、利あらしめば而(すなわ)ち用いるなり、不(おお)いに合わせれば而(すなわ)ち止まらん。

②合わす乎(か)、利すれば而(よ)く用いるなり、不(おお)いに合うも止(や)めん。

③合う乎(か)、利すれば而(よ)く用いらしむなり、不(おお)いに合わせれば而(よ)く止まらん。

④合わせる乎(かな)、利たれば而(よ)く用いるなり、不(おお)いに合わせれば而(よ)く止(とど)まらん。

⑤合わす乎(かな)、利ありて而(よ)く用いるなり、不(おお)いに合わせれば而(よ)く止(とど)めん。

⑥合わす乎(かな)、利(よろ)しければ而(すなわ)ち用いるなり、不(おお)いに合すれば而(すなわ)ち止(とど)まらん。

⑦合する乎(かな)、利(むさぼ)りて用いるなり、不(おお)いに合して止(とど)まるなり。

⑧合する乎(かな)、止(や)めること不(な)くして而(よ)く合わすなり、而(しか)して利あれば用いるなり。
<語句の注>
・1つ目の「合」は①連合する、②照らし比べる、③交戦する、④対応する、⑤打ち解ける、⑥一緒に集まる、⑦交接する、⑧結びつく、の意味。
・「乎」は①賛美の語気、②③推測の語気、④⑤⑥⑦⑧賛美の語気、の意味。
・「利」は①利益を得る、②③利益で誘う、④滑らかなさま、⑤順調なさま、⑥巡り合わせが良い、⑦利益を強く求める、⑧豊かさ、の意味。
・1つ目の「而」は①条件関係を表す接続詞、②③④⑤~できる、⑥条件関係を表す接続詞、⑦⑧順接の関係を表す接続詞、の意味。
・「用」は①力を尽くす、②任用する、③従う、④治める、⑤司る、⑥上手く適合する、⑦精を出す、⑧奉る、の意味。
・「不」は①②③④⑤⑥⑦大いに、⑧無い、の意味。
・2つ目の「合」は①照らし比べる、②交戦する、③対応する、④打ち解ける、⑤一緒に集まる、⑥交接する、⑦結びつく、⑧統一する、の意味。
・2つ目の「而」は①条件関係を表す接続詞、②逆接の関係を表す接続詞、③④⑤~できる、⑥条件関係を表す接続詞、⑦順接の関係を表す接続詞、⑧~できる、の意味。
・「止」は①停止する、②中止する、③其五5-3②「止」、④住む、⑤阻止する、⑥宿る、⑦住む、⑧減らす、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「合於利而用、不合而止。」と「乎」を「於」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「合」の“連合する”は、其十三4-3③「同盟を結んだ諸侯達を動員する合従策を採用する」を受けた記述と解釈して「諸侯と連合する」と補って解読。

・「利」の“利益を得る”について、其十三4-3⑦「敵将軍を引き立て用いて敗北した敵軍を平定させて、大いに国を豊かにする方法を捧げれば、蓄積した富の優劣を人民同士で争うに至るのである。統治下においた敵国を栄えさせれば、元敵人民は腹を立てることを止めて、自分達の統治者となった自国の君主を大いに認めるのである」及び其十一1-4④「自軍が権勢を生じた時、戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理を実現するのであり、敵将軍に直言して敵国を自国の配下に置いた将軍は、敵国と徳のある敵将軍も同じく、次の侵略戦争において、敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略に協力してもらうのである」に基づけば、次の侵略戦争において統治下においた敵国に協力してもらうためには自国への服従が必要なのであり、そのためには、その国を栄えさせる必要があることがわかる。結果、「統治下においた諸侯を豊かにさせる」と補って解読。

・「用」の“力を尽くす”は、自国の統治下において豊かになった諸侯が自国のために力を尽くすことと考察。結果、「自国のために力を尽くす」と補って解読。

・2つ目の「合」の“照らし比べる”は、其十一1-4④「自軍が権勢を生じた時、戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理を実現する」に基づいて、敵将軍が両軍の権勢を比較することと考察。結果、「不いに合わす」で「敵将軍が大いに両軍の権勢を比較する」と解読。

<②について>
・1つ目の「合」の“照らし比べる”は、①2つ目の「合」で記述された「敵将軍が大いに両軍の権勢を比較する」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵将軍は両軍の権勢を比較する」と補って解読。

・「利すれば而く用いる」の直訳は”利益で誘えば任用できる“となる。これは其十二5-5⑥「有能な将軍を自分達の統率者と認めて、兵士達を安静にさせることを理解している敵将軍は、才能と徳を持った自軍の将軍が、自分達の将軍になって統率することを敵兵達にはっきり悟らせるだけであり、だいたい平定すれば敵将軍の手柄は保証するのである」に基づき、「敵将軍に手柄を保証すれば敗北した敵国を平定する役目で任用できる」と解読。

・2つ目の「合」の“交戦する”は、両軍が交戦している状態を指すと考察。結果、「両軍が交戦している」と補って解読。

・「止」の“中止する”は、敵将軍が両軍の権勢を比較した結果、敵将軍が戦闘を中止するのだと考察。結果、「戦闘を中止する」と補って解読。

<③について>
・1つ目の「合」の“交戦する”は、②「敵将軍に手柄を保証すれば敗北した敵国を平定する役目で任用できるのであり、大いに両軍が交戦していても戦闘を中止するだろう」で、敵将軍が降服した状態であることを踏まえれば、敵将軍の降伏後も敵兵は交戦する状態とは其十一4-6①「自国に歯向かう元敵兵達」が存在することを説くと考察できる。結果、「敵将軍が降服しても敵兵は自国に歯向かう」と補って言い換えた。

・「利」の“利益で誘う”の“利益”は、其十二5-5⑦「聡明な君主は、その国を統治して豊かにできる者として「真心ある国家事業をあまねく実行する」と保証する」に基づき、「真心ある国家事業を実行して国を豊かにすることを保証する」と解読。

・「不いに合わせれば而く止まらん」の直訳は“大いに対応すれば宿るだろう”となる。この記述全体で其五5-3②「止」の「道義的に正しくすれば国に宿る」を指すと考察。結果、「自国が大いに道義的に正しい姿勢で対応すれば自国が統治する元敵国にそのまま人民を宿らせることができるだろう」と解読。

<④について>
・1つ目の「合」の“対応する”は、③2つ目の「合」で記述された「自国が大いに道義的に正しい姿勢で対応すれば自国が統治する元敵国にそのまま人民を宿らせることができるだろう」の意味を積み上げていると考察。結果、「道義的に正しい姿勢で対応する」と補って解読。

・「利」の“滑らかなさま”は、其十一4-4⑧「攻め取った敵兵達に対して、人民と君主の考えを一致させるために道理を説くのであり、統一した状態に達した時、自国及び他国のあらゆる兵士達を調和させて軍隊規模を大きくする」で記述された“自国及び他国のあらゆる兵士達を調和させた状態”を指すと考察。結果、「自国及び他国のあらゆる人民を調和させる」と解読。

・2つ目の「合」の“打ち解ける”は、「自国及び他国のあらゆる人民を調和させる」を踏まえて、「自国の人民と元敵人民が打ち解ける」と解読。

・「止」の“住む”は、自国の人民と元敵人民が打ち解けた状態であることを踏まえれば、其九4-23⑧「完全な状態に保って敵国を抑えつけて大いに大いに家屋を立てて定住すれば、敵国への侵略戦争が終わる」に関連すると推察。結果、「自国の人民が統治した元敵国に定住する」と補って解読。

<⑤について>
・1つ目の「合」の“打ち解ける”は、④2つ目の「合」で記述された「自国の人民と元敵人民が打ち解ける」の意味を積み上げていると考察。結果、「自国の人民と元敵人民が打ち解ける」と補って解読。

・「用」の“司る”は、元敵人民を管理することと考察。結果、「元敵人民を管理する」と補って解読。

・「止」の“阻止する”は、其十一4-5⑦「自国に歯向かう元敵兵達を里等の一定の区画に取り囲んで封じれば、元敵兵達による悪事を取り去ることが実現するのである」等から類推すれば、元敵人民による悪事を阻止することと考察できる。結果、「元敵人民による悪事を阻止する」と補って解読。

<⑥について>
・1つ目の「合」の“一緒に集まる”は、⑤2つ目の「合」で記述された「両国の人民が一緒に集まる」の意味を積み上げていると考察。結果、「両国の人民が一緒に集まる」と補って解読。

・「用」はの“上手く適合する”は、一緒に集まった両国の人民において、男女が上手く適合することであり、要は男女が出会うことと考察できる。結果、「両国の男女が上手く出会う」と解読。

・「止」の“宿る”は、其九5-6⑦「人民は習慣として男女で連れ合いとなり、そして、子供を産んで人口が増えて、奪った元敵国領地を継いでいこうと考える」に基づけば、「子供を宿す」と補って解読できる。

<⑦について>
・1つ目の「合」の“交接する”は、⑥2つ目の「合」で記述された「両国の男女が上手く出会うのであり、大いに交接すれば子供を宿す」の意味を積み上げていると考察。結果、「両国の男女が交接して子供を宿す」と補って解読。

・「用」の“精を出す”は、子供ができた男女が仕事に精を出すことと考察。結果、「仕事に精を出す」と補って解読。

・2つ目の「合」の“結びつく”は、子供を通じて両国の人民が結びつくことと考察。結果、「両国の人民が結びつく」と補って解読。

・「止」の“住む”は、住居を定めて生活する意味と解釈できるが、定住する意味は解読文④で記述した。そこで話の流れに従えば、両国の人民が共に生活することと解釈できる。結果、「共に生活する」と解読。

<⑧について>
・1つ目の「合」の“結びつく”は、⑦2つ目の「合」で記述された「両国の人民が結びついて共に生活する」の意味を積み上げていると考察。結果、「両国の人民が結びついて共に生活する」と補って解読。

・「止めること不くして而く合わす」の直訳は“減らすこと無く統一できる”となる。これは両国の人民が結びついて共に生活することで、敵人民を減らすことなく元敵国を自国に統一できることと考察。結果、「人民を減らすこと無く元敵国を自国に統一できる」と補って解読。

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