怒るものは喜ぶこと復す可きなり、温たるに悦びて復する可きなり。

其十三4-5

怒可復喜也、溫可復悅也。

nù kĕ fù xǐ yě、wēn kĕ fù yuè yě。

解読文

①腹を立てている人民には嬉しく思うことを告げるべきであり、自国が富を蓄積した時は愉快に思って人民の年貢等を免除するべきである。

②人民が嬉しく思うことを告げる利点は国家事業として与えた仕事に奮い立たせることであり、人民の年貢等を免除する利点は人民を愉快に思わせて栄養をつけさせることである。

③自国への仕返しを考える元敵人民は、喜ばしいことがあれば改心して仕事に奮い立つのであり、年貢等を免除する利点を実践して栄養をつけさせれば愉快に思わせるのである。

④人民が仕事に奮い立てば、結婚に関する喜ばしい政策を告げるのが良いのであり、人民が栄養をつければ、年貢等を免除する利点を実践したことを愉快に思うべきである。

⑤結婚に関する喜ばしい政策に人民が同意すれば、「奮い立つ」と答えるのであり、自国が富を蓄積する度に年貢等を免除する利点を繰り返せば人民を愉快に思わせるのである。

⑥人民が妊娠した時は国に報告させるのであり、将来、自軍の兵士数が増えて勢いを強くする利点になるのであり、愉快に思う人民は「温もりがあるこの国は素晴らしい」と人々に告げるのである。

⑦人民が妊娠を報告すればもてなすべきであり、妊婦や生まれた子供が病気であることを訴える手紙を受け取った時は、「栄養をつけさせて病気を治療する」と回答すれば、人民を愉快に思わせるのである。

⑧結婚に関する喜ばしい政策の利点があれば、人民は仕事に奮い立ってさらに妊娠するのであり、自国への仕返しを考える元敵人民は改心して穏やかになり、自国の君主や将軍は愉快に思うのである。
書き下し文
①怒るものは喜ぶこと復(もう)す可きなり、温たるに悦(よろこ)びて復(ふく)する可きなり。

②喜ぶこと復(もう)す可は怒(はげ)ましむなり、復(ふく)する可は悦(よろこ)ばしめて温せしむなり。

③復(むく)いんとするものは、喜びあれば可(い)えて怒(はげ)むなり、可を復(ふ)みて温せしめば悦(よろこ)ばしむなり。

④怒(はげ)めば、喜びを復(もう)す可きなり、温すれば復(ふ)むこと悦(よろこ)ぶ可きなり。

⑤喜びに可(き)けば、怒(はげ)むと復(ふく)するなり、温たるごとに可を復(ふく)すれば悦(よろこ)ばしむなり。

⑥喜びあるに復(もう)せしむなり、怒たる可あるなり、悦(よろこ)ぶものは温ありて可なりと復(もう)すなり。

⑦復(もう)せば喜(し)なす可きなり、怒たるものあるに、温せしめて可(い)えしむこと復(ふく)すれば、悦(よろこ)ばしむなり。

⑧可あれば、怒(はげ)みて復(ま)た喜びあるなり、復(むく)いんとするものは可(い)えて温なり、悦(よろこ)ぶなり。
<語句の注>
・「怒」は①腹を立てる、②③④⑤奮い立つさま、⑥勢いが強いさま、⑦筆勢などが雄健なさま、⑧奮い立つさま、の意味。
・1つ目の「可」は①~すべきである、②長所、③病気が治る、④~するのがよい、⑤同意である、⑥長所、⑦~すべきである、⑧長所、の意味。
・1つ目の「復」は①②告げる、③仕返しする、④告げる、⑤答える、⑥⑦報告する、⑧さらに、の意味。
・「喜」は①②嬉しく思う、③喜ばしいこと、④⑤結婚に関すること、⑥妊娠、⑦もてなす、⑧妊娠、の意味。
・1つ目の「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
・「温」は①蓄積、②③④栄養をつける、⑤蓄積、⑥温もり、⑦栄養をつける、⑧穏やかな、の意味。
・2つ目の「可」は①~すべきである、②③長所、④~すべきである、⑤長所、⑥よろしい、⑦⑧病気が治る、の意味。
・2つ目の「復」は①②年貢や夫役を免除する、③④実践する、⑤同じことを繰り返す、⑥告げる、⑦回答する、⑧仕返しする、の意味。
・「悦」は①②③④⑤⑥⑦⑧愉快に思う、の意味。
・2つ目の「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「怒可復喜也、慍可復悅也。」と「溫」を「慍」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「怒るもの」の直訳は“腹を立てる者”となる。これは例えば其十一4-6①「自国に歯向かう元敵兵達」を指すと考察した上で「腹を立てている人民」と解読。

・「温」の“蓄積”は、其十三4-3⑦「温」で記述された「大いに国を豊かにする方法を捧げれば、蓄積した富の優劣を人民同士で争うに至る」の「蓄積した富」によって国が得た年貢等と解釈。結果、「温たり」で「自国が富を蓄積する」と解読。⑤も同様に解読。

<②について>
・「怒」の“奮い立つさま”は、其十三4-3⑧「怒」で記述された「その仕事に奮い立つ」の意味を積み上げていると考察。“その仕事”とは国家事業を始めて創出したものであるため、「国家事業として与えた仕事に奮い立つ」と補って解読。

<③について>
・1つ目の「復」の“仕返しする”は、其十三4-3其十三4-4の流れを受けて、侵略して統治下に置いた敵人民の内、自国に仕返しを考えている者と考察。結果、「復いんとするもの」で「自国への仕返しを考える元敵人民」と解読。

・1つ目の「可」の“病気が治る”は、「自国への仕返しを考える元敵人民」が改心して仕返しする気持ちを無くすことと考察。結果、「改心する」と言い換えた。

・「怒」の“奮い立つさま”は、②「怒」同様に「国家事業として与えた仕事に奮い立つ」と解釈した上で、「仕事に奮い立つ」と簡略化して解読。

・2つ目の「可」の“長所”は、②2つ目の「可」の「年貢等を免除する利点」の意味を積み上げていると考察。結果、「年貢等を免除する利点」と解読。⑤も同様に解読。

<④について>
・「怒」の“奮い立つさま”は、③「怒」同様に「仕事に奮い立つ」と解釈。話の流れに合わせて「人民が仕事に奮い立つ」と補って解読。⑧も同様に解読。

・「喜」の“結婚に関すること”は、②「喜」で記述された「人民が嬉しく思うことを告げる利点」の一つと考察。結果、「結婚に関する喜ばしい政策」と補って解読。⑤も同様に解読。

・「温」の“栄養をつける”は、②「温」で記述された「年貢等を免除する利点は人民を愉快に思わせて栄養をつけさせる」に基づいて、「人民が栄養をつける」と補って解読。

・2つ目の「復」の“実践する”は、③2つ目の「復」で記述された「年貢等を免除する利点を実践する」の意味を積み上げていると考察。結果、「年貢等を免除する利点を実践する」と解読。

<⑤について>
・特に無し。

<⑥について>
・「怒たる可あり」の直訳は“勢いを強くする長所がある”となる。人民が妊娠している話の流れを踏まえれば、「将来、自軍の兵士数が増えて勢いを強くする利点になる」と解読できる。

・「温ありて可なり」の直訳は“温もりがあってよろしい”という誰かが発言した言葉と解釈。話の流れから、年貢等を免除する利点がよろしいと解読することもできるが、ここでは国全体に対する人民全体による評価と解釈。結果、「温もりがあるこの国は素晴らしい」と解読。

・2つ目の「復」の“告げる”は、「温もりがあるこの国は素晴らしい」の発言を人民が、他国を含む多くの人々に告げることと考察。結果、「人々に告げる」と包括的に解読。

<⑦について>
・1つ目の「復」の“報告する”は、⑥「復」の「人民が妊娠した時は国に報告させる」の意味を積み上げていると考察。結果、「人民が妊娠を報告する」と補って解読。

・「怒」の“筆勢などが雄健なさま”は、話の流れから人口を増やすことが大切であり、妊娠した女性とその女性が生んだ子供が栄養失調等で病気になった場合に治療して欲しいと夫が願い出る場面と解釈できる。結果、「怒たるものあり」で「妊婦や生まれた子供が病気であることを訴える手紙を受け取る」と解読。

・解読文⑦は「結婚に関する喜ばしい政策」の主な内容が記述されていると考察。

<⑧について>
・1つ目の「可」の“長所”は、④⑤「喜」の「結婚に関する喜ばしい政策」を指すと考察。結果、「結婚に関する喜ばしい政策の利点」と解読。

・2つ目の「復」の“仕返しする”は、②1つ目の「復」同様に「復いんとするもの」で「自国への仕返しを考える元敵人民」と解読。

・2つ目の「可」の“病気が治る”は、「自国への仕返しを考える元敵人民」が改心して仕返しする気持ちを無くすことと考察。結果、「改心する」と言い換えた。

・「悦」の“愉快に思う”は、自国への仕返しを考える元敵人民がいなくなって、全ての人民が愉快に暮らす状況を踏まえれば、自国の君主や将軍が愉快に思うことと考察できる。結果、「自国の君主や将軍は愉快に思う」と補って解読。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。