亡びる国は復して存らしむ可からず、死ぬ者は復して生かしむ可からず。

其十三4-6

亡國不可復存也、死者不可復生也。

wáng guó bù kĕ fù cún yě、sǐ zhě bù kĕ fù shēng yě。

解読文

①滅亡した国は元の状態に戻して存在させることはできず、命を失った兵士は元の状態に戻して生存させることはできない。

②滅亡した国から逃走して生き永らえた敵兵達が存在すれば、自国に仕返しすることを大いに許すのであり、敵兵達を殺害した自軍の兵士が生け捕りにされた時、仕返しすることを大いに許すのである。

③大いに自国に仕返しするべきであると心に覚えた敵兵達は諸侯が治める他国に亡命するのであり、生け捕りにしても融通性がない敵兵が存在すれば、大いに年貢等を免除して考え方を改めさせるのである。

④諸侯が治める他国に亡命すること許さなくても、自国に仕返しすることを心に覚えた元敵兵達は存在するのであり、年貢等を免除しても自国に服従しなければ、信念や理想のために命を捨てる兵士を生み出したのである。

⑤他国に亡命しようとする元敵兵達は、大いに年貢等を免除する利点を繰り返して労わって自国に封じるのであり、この信念や理想のために命を捨てる元敵兵達は自国に仕返しすることを許さずに自国内で生活させるのである。

⑥他国に亡命しようとする元敵兵達を大いに自国に封じることができれば、自国に仕返しする感情が記憶からなくなることを観察するのであり、信念や理想のために命を捨てる元敵兵達を自国内で生活させて、大いに年貢等を免除する利点を繰り返せば自国に仕返しする感情が消えるのである。

⑦元敵兵達から自国に仕返しする感情が記憶からなくなったことを観察すれば、君主に「仕返しする感情を持っていた元敵兵達は自国に服従しました」と報告するのであり、信念や理想のために命を捨てる元敵兵達が大いに自国に服従すれば、もう一度、信念や理想のために命を捨てる自国の兵士を作り出すのである。

⑧元敵兵達から自国に仕返しする感情が記憶からなくなって、年貢等を免除する利点に恩返ししようとすれば大いに国を治めて保ち続けるのであり、真心のある法規や決まりを作り出せば、大いに恩返ししようとして信念や理想のために命を捨てる自国の兵士が出現するのである。
書き下し文
①亡(ほろ)びる国は復(かえ)して存(あ)らしむ可からず、死ぬ者は復(かえ)して生(い)かしむ可からず。

②国より亡(のが)れて存するものあれば、復(むく)いること不(おお)いに可(き)くなり、死(ころ)す者は生とされるに復(むく)いること不(おお)いに可(き)くなり。

③不(おお)いに復(むく)いる可しと存するものは国に亡(のが)れるなり、生とするも死なる者あれば、不(おお)いに復(ふく)して可(い)えしむなり。

④国に亡(のが)れること可(き)かざるも、復(むく)いること存するものあるなり、復(ふく)するも可(よ)かざれば、死す者を生むなり。

⑤亡(のが)れんとするものは、不(おお)いに可を復(ふく)して存(と)いて国するなり、死す者は復(むく)いること可(き)かざりて生かしむなり。

⑥不(おお)いに国する可ければ、復(むく)いること亡(わす)れるを存(み)るなり、生かしめて、不(おお)いに可を復(ふく)すれば死すなり。

⑦亡(わす)れること存(み)れば、国なるものに不(おお)いに可(よ)きと復(もう)すなり、不(おお)いに可(よ)くすれば、復(ま)た死す者を生むなり。

⑧亡(わす)れて、可に復(むく)いんとすれば不(おお)いに国して存(たも)つなり、可を生めば、不(おお)いに復(むく)いんとして死す者あるなり。
<語句の注>
・「亡」は①滅亡する、②逃走する、③④⑤亡命する、⑥⑦⑧記憶からなくなる、の意味。
・「国」は①②独立した国家、③④諸侯の封建領土、⑤⑥国に封じる、⑦国全体を代表するさま、⑧国を治める、の意味。
・1つ目の「不」は①~しない、②③大いに、④~しない、⑤⑥⑦⑧大いに、の意味。
・1つ目の「可」は①~できる、②許す、③~すべきである、④許す、⑤長所、⑥~できる、⑦適合するさま、⑧長所、の意味。
・1つ目の「復」は①元の状態に戻す、②③④仕返しする、⑤同じことを繰り返す、⑥仕返しする、⑦報告する、⑧仕返しする、の意味。
・「存」は①存在する、②生き永らえる、③④心に覚えておく、⑤いたわる、⑥⑦観察する、⑧保ち続ける、の意味。
・1つ目の「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
・「死」は①命を失う、②死なせる、③融通性のないさま、④⑤信念や理想のために命を捨てる、⑥消える、⑦⑧信念や理想のために命を捨てる、の意味。
・「者」は①②③④⑤助詞「もの」、⑥仮定表現の助詞、⑦⑧助詞「もの」、の意味。
・2つ目の「不」は①~しない、②③大いに、④⑤~しない、⑥⑦⑧大いに、の意味。
・2つ目の「可」は①~できる、②許す、③病気が治る、④適合するさま、⑤許す、⑥長所、⑦適合するさま、⑧長所、の意味。
・2つ目の「復」は①元の状態に戻す、②仕返しする、③④年貢や夫役を免除する、⑤仕返しする、⑥同じことを繰り返す、⑦もう一度、⑧仕返しする、の意味。
・「生」は①生存する、②③生け捕り、④生み出す、⑤⑥生活する、⑦⑧作り出す、の意味。
・2つ目の「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「亡國不可以復存、死者不可以復生。」と「復存也」及び「復生也」を、「以復存」及び「以復生」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・特に無し。

<②について>
・「国」の“独立した国家”は、①「国」の「滅亡した国」の意味を積み上げていると考察。結果、「滅亡した国」と補って解読。

・「存するもの」の直訳は“生き永らえた者”となる。これは「滅亡した国」から逃走した敵兵達を指すと考察。結果、「生き永らえた敵兵達」と解読。

・「死す者」の直訳は“死なせた者”となる。これは①「死」で記述された「命を失った兵士」に対応しており、この兵士を死なせた自軍の兵士を指すと考察。結果、「敵兵達を殺害した自軍の兵士」と補って解読。

<③について>
・「国」の“諸侯の封建領土”は、滅亡した国から逃走した敵兵達が亡命する先であるため、他の諸侯が治める国と解釈できる。結果、「諸侯が治める他国」と解読。④も同様に解読。

・「復して可えしむ」の直訳である“年貢や夫役を免除して病気を治させる”は、其十三4-5①「自国が富を蓄積した時は愉快に思って人民の年貢等を免除する」の教えを実践すると考察すれば、“病気が治る”状態は考え方を改めさせることと解釈できる。結果、「年貢等を免除して考え方を改めさせる」と解読。

<④について>
・2つ目の「可」の“適合するさま”は、話の流れに合わせて「自国に服従する」と解読。

・「信念や理想のために命を捨てる兵士」は、其十一1-10②「信念や理想のために命を捨てさせれば、兵士達の士気が激しく旺盛になって生き永らえるのが道理」等で記述される、正攻法部隊に配属されて「死地」に赴く兵士と考察。

<⑤について>
・「亡れんとするもの」の直訳は“亡命しようとする者”となる。これは③「自国に仕返しするべきであると心に覚えた敵兵達は諸侯が治める他国に亡命する」の意味を積み上げていると考察。結果、「他国に亡命しようとする元敵兵達」と解読。

・1つ目の「可」の“長所”は、其十三4-5③2つ目の「可」で記述された「年貢等を免除する利点」の意味を積み上げていると考察。結果、「年貢等を免除する利点」と解読。⑧も同様に解読。

・「死す者」は、④「死す者」の「信念や理想のために命を捨てる兵士」と同意であり、尚且つ「他国に亡命しようとする元敵兵達」と同意であることは話の流れからわかる。結果、話の流れに合わせて「この信念や理想のために命を捨てる元敵兵達」と解読。

・「生」の“生活する”は、「他国に亡命しようとする元敵兵達は、大いに年貢等を免除する利点を繰り返して労わって自国に封じる」から話の流れに基づけば、自国内で生活させることと考察できる。結果、使役形で「自国内で生活させる」と補って解読。

<⑥について>
・「国」の“国に封じる”には、⑤「他国に亡命しようとする元敵兵達は、大いに年貢等を免除する利点を繰り返して労わって自国に封じる」の意味が積み上げられていると考察。結果、「不いに国する」で「他国に亡命しようとする元敵兵達を大いに自国に封じる」と補って解読。

・「生」の“生活する”には、⑤「この信念や理想のために命を捨てる元敵兵達は自国に仕返しすることを許さずに自国内で生活させる」の意味が積み上げられていると考察。結果、使役形で「信念や理想のために命を捨てる元敵兵達を自国内で生活させる」と補って解読。

・2つ目の「可」の“長所”は、⑤1つ目の「可」同様に「年貢等を免除する利点」と解読。

・「死」の“消える”は、「自国に仕返しする感情が記憶からなくなる」を指すと考察。結果、「自国に仕返しする感情が消える」と解読。

<⑦について>
・「亡」の“記憶からなくなる”は、⑥「他国に亡命しようとする元敵兵達を大いに自国に封じることができれば、自国に仕返しする感情が記憶からなくなる」の意味が積み上げられていると考察。結果、「元敵兵達から自国に仕返しする感情が記憶からなくなる」と補って解読。⑧も同様に解読。

・「国」の“国全体を代表するさま”は、自国の統治者と解釈して「国なるもの」で「君主」と解読。

・1つ目の「可」の“適合するさま”は、④2つ目の「可」同様に「自国に服従する」と解釈。但し、君主に対する報告であるため「仕返しする感情を持っていた元敵兵達は自国に服従しました」と補って解読。

・2つ目の「可」の“適合するさま”は、⑥「信念や理想のために命を捨てる元敵兵達は自国に仕返しすることを許さずに自国内で生活させる」の「信念や理想のために命を捨てる元敵兵達」が自国に服従することと考察。結果、「不いに可くする」で「信念や理想のために命を捨てる元敵兵達が大いに自国に服従する」と補って解読。

・「死す者」は、⑤「死す者」の「信念や理想のために命を捨てる元敵兵達」と同意だが、自国に服従した状態であるため自国のために命を捨てる兵士になったと考察できる。結果、「信念や理想のために命を捨てる自国の兵士」と解読。⑧も同様に解読。

<⑧について>
・1つ目と2つ目の「復」の“仕返しする”は、これまで解読してきた“自国に対する仕返し”ではなく、「年貢等を免除する利点」に対する仕返しであるため「恩返しする」と解読。

・2つ目の「可」の“長所”は、⑥⑦の解釈に基づき、其九6-3①「真心のある法規や決まりが広まれば、自国は、味方になる多くの人々を次第に手に入れていくのである」の「真心のある法規や決まり」と解読。

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