曰く、故を明らかにする主は之を慎むなり、良は敬みて之いて将ける。此は、安き国に之る道たるなり。

其十三4-7

故曰、明主慎之、良將敬之。此安國之道也。

gù yuē、míng zhǔ shèn zhī、liáng jiāng jìng zhī。cǐ ān guó zhī daò yĕ。

解読文

①道理をはっきり悟っている君主は真心のある法規や決まりを重んじるのであり、善良な将軍は真心のある法規や決まりを厳粛に実行して支えるのである。真心のある法規や決まりは、平穏な国家をつくる道徳規範の原理となるのである。

②罪は、真心のある法規や決まりを重んじて責任を負う者をはっきりさせれば、罪を犯した人民はへりくだって真心のある法規や決まりに従うのである。このように規律によって罪を犯した人民を落ち着かせて国を治めるである。

③悪事があれば公にして、和やかでへりくだった心情を持つ将軍を赴かせるのであり、真心のある法規や決まりの規律を重んじて悪事を解決するのである。これは悪事をなだめて国を治める方法である。

④だからこそ常日頃から、君主は、人民が平穏な国家に対して願う事柄を重んじるのであり、真心のある法規や決まりを適切な内容に改定するために努力するのである。すなわち、快適な国になったと人民に考えさせるのである。

⑤必ず真心のある法規や決まりは、人民の願う好ましい内容に改定して捧げるのであり、君主が人民の願う事柄を重んじていることを証明するのである。このように道義に従って真心のある法規や決まりを改定すれば、町、村、里、集落等は平穏である。

⑥特に、人民の願う事柄に注意して根本的な問題点をはっきり悟れば、法規や決まりの改定によって、この根本的な問題点を取り除くことができるのである。このような方法を使えば、無事に国家として維持するのである。

⑦本来、君主は恭しく振舞って国家を無事に維持することに努力するのであり、善良な将軍は、このような君主を尊敬して補佐するのである。このような国家の政権は安泰である。

⑧だから、孫先生は「賢明な君主は真心のある法規や決まりを重んじるのであり、善良な将軍は真心のある法規や決まりを厳粛に実行するのであり、これが平穏な国家をつくる思想となるのである」と言うのである。
書き下し文
①曰く、故を明らかにする主は之を慎むなり、良は敬(つつし)みて之(もち)いて将(たす)ける。此は、安き国に之(いた)る道たるなり。

②曰く、故は之を慎みて主なるものを明らかにすれば、良は敬(つつし)んで之に将(したが)う。此(か)く道に之を安んじて国するなり。

③曰く、故あれば明らかにして、良なりて敬ある将を之(ゆ)かしむなり、之を慎みて主(つかさど)る。此は、之を安んじて国する道なり。

④曰(ここ)に故(もと)より、主は、良の之に将(こ)うこと敬(つつし)むなり、之を慎(したが)わしむに明するなり。此(ここ)に安き国に之(いた)ると道(おも)わしむなり。

⑤曰く、故(もと)より、良き敬に之(ゆ)かしめて将(おこな)うなり、主は之を慎むこと明らかにす。此(か)く道に之(ゆ)かしめば、国は安きなり。

⑥曰く、故(ことさら)に之に慎みて主を明らかにすれば、敬に、之を良く将(ゆ)かしむ。此(か)く道を之(もち)いれば、安くして国するなり。

⑦曰く、故(もと)より、主は慎みて之に明するなり、良は之を敬いて将(たす)ける。此(か)く国の道は安きなり。

⑧故に曰く、明るき主は之を慎むなり、良は之を敬(つつし)みて将(おこな)うなり、此は、安き国に之(いた)る道たるなり。
<語句の注>
・「故」は①道理、②罪、③悪事、④常日頃、⑤必ず、⑥特に、⑦本来、⑧だから、の意味。
・「曰」は①②③~である、④語気の強調、⑤⑥⑦~である、⑧~と言う、の意味。
・「明」は①はっきり悟る、②はっきりしたさま、③明るみに出す、
物事によく通じているさま、④努力する、⑤証明する、⑥はっきり悟る、⑦努力する、⑧賢いさま、の意味。
・「主」は①一国の長、②責任を負うさま、③リーダーとなって物事を処理する、④⑤一国の長、⑥物事の主体や根本、⑦⑧一国の長、の意味。
・「慎」は①②③重んじる、④順応する、⑤重んじる、⑥注意する、⑦恭しく振舞う、⑧重んじる、の意味。
・1つ目の「之」は①②③④⑤⑥⑦⑧代名詞、の意味。
・「良」は①善良な人、②夫、③和やかなさま、④夫、⑤好ましい、⑥~できる、⑦⑧善良な人、の意味。
・「将」は①支える、②服従する、③将軍、④願う、⑤捧げる、⑥去る、⑦支える、⑧する、の意味。
・「敬」は①厳粛なさま、②へりくだって、③へりくだった心情、④重んじる、⑤⑥(謝意や敬意を込めた)進物、⑦尊敬する、⑧厳粛なさま、の意味。
・2つ目の「之」は①使う、②代名詞、③赴く、④代名詞、⑤変わる、⑥⑦⑧代名詞、の意味。
・「此」は①代名詞、②このように、③代名詞、④すなわち、⑤このように、⑥⑦このような、⑧代名詞、の意味。
・「安」は①平穏な、②落ち着かせる、③なだめる、④快適さ、⑤平穏な、⑥⑦無事であるさま、⑧平穏な、の意味。
・「国」は①独立した国家、②③国を治める、④独立した国家、⑤地区、⑥国家として維持する、⑦⑧独立した国家、の意味。
・3つ目の「之」は①ある地点や事情に達する、②③代名詞、④ある地点や事情に達する、⑤変わる、⑥使う、⑦助詞「の」、⑧ある地点や事情に達する、の意味。
・「道」は①道徳規範や自然法則としての根源的な原理、②規律、③方法、④考える、⑤道義、⑥方法、⑦政権、⑧思想、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「故明主愼之、良將警之。此安國全軍之道也。」として「曰」が無く、「敬」を「警」とし、「全軍」が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「之」は、其十三4-6⑧2つ目の「可」の「真心のある法規や決まり」を指示する代名詞と解読。

・「良」の“善良な人”は、其十三4-1②の「良き将」の意味を積み上げていると解釈し、「善良な将軍」と解読。②⑦⑧も同様に解読。

・「敬みて之いる」の直訳は“厳粛に使う”となる。これは「君主は真心のある法規や決まりを重んじる」の意味を受けていると考察。結果、「真心のある法規や決まりを厳粛に実行する」と解読。

・「此」は、1つ目の「之」の「真心のある法規や決まり」を指示する代名詞と解読。

<②について>
・1つ目と2つ目の「之」は、①1つ目の「之」の「真心のある法規や決まり」を指示する代名詞と解読。

・「良」の“夫”は、人民を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「罪を犯した人民」と解読。

・3つ目の「之」は、「良」の「罪を犯した人民」を指示する代名詞と解読。

<③について>
・「明」の“明るみに出す”は、悪事を公にすることと考察。結果、「公にする」と言い換えた。

・1つ目の「之」は、②「道」の「規律」を指示する代名詞と解釈。この規律は「真心のある法規や決まり」のものであるため、「真心のある法規や決まりの規律」と補って解読。

・「主」の“リーダーとなって物事を処理する”は、話の流れより悪事を解決することと考察。結果、「悪事を解決する」と解読。

・「此」は、「故曰、明主慎之、良將敬之」を指示する代名詞と解釈。結果、簡潔に「これ」と解読。

・3つ目の「之」は、「故」の「悪事」を指示する代名詞と解読。

<④について>
・「曰」の“語気の強調”は、解読文①②③の記述を受けた結論の強調と考察。結果、「だからこそ」と解読。

・「良」の“夫”は、人民全般を指すと考察。結果、「人民」と解読。

・1つ目の「之」は、①「国」の「平穏な国家」を指示する代名詞と解読。

・2つ目の「之」は、②1つ目の「之」等の「真心のある法規や決まり」を指示する代名詞と解読。

・「慎」の“順応する”は、「人民が平穏な国家に対して願う事柄」に対して「真心のある法規や決まり」を順応させることであるため、適切な内容に改定することと考察できる。結果、使役形で「適切な内容に改定する」と解読。

<⑤について>
・「良き敬に之かしむ」の直訳は“好ましい進物に変化させる”となる。この“進物”は、人民の願う事柄に応えて適切な内容に改定した真心のある法規や決まりと考察できる。結果、「真心のある法規や決まりは、人民の願う好ましい内容に改定する」と補って解読。

・1つ目の「之」は、④「将」の「人民が平穏な国家に対して願う事柄」を指示する代名詞と解釈。結果、簡潔に「人民の願う事柄」と解読。

・3つ目の「之」の“変わる”は、2つ目の「之」で記述された「真心のある法規や決まりは、人民の願う好ましい内容に改定する」の意味を積み上げていると考察。結果、使役形で「真心のある法規や決まりを改定する」と補って解読。

・「国」の“地区”は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」を指すと同意と考察。総括する記述であるため、ここでは自他の区別はないと解釈して「町、村、里、集落等」と一般化して解読。

<⑥について>
・1つ目の「之」は、⑤1つ目の「之」の「人民の願う事柄」を指示する代名詞と解読。

・「主」の“物事の主体や根本”は、「人民の願う事柄」の主体や根本と解釈すれば、「根本的な問題」と解読できる。

・「敬」の“(謝意や敬意を込めた)進物”は、⑤「敬」で記述された「真心のある法規や決まりは、人民の願う好ましい内容に改定する」の意味を積み上げていると考察。結果、“改定した内容”が進物であることを踏まえて「法規や決まりの改定」と簡潔に解読。

・2つ目の「之」は、「主」の「根本的な問題」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「この根本的な問題点」と解読。

・「将」の“去る”は、「根本的な問題」が去ることであるため、視点を変えれば「根本的な問題」を取り除くことと考察できる。結果、使役形で「取り除く」と言い換えた。

<⑦について>
・1つ目の「之」は、⑥「国」の「無事に国家として維持する」を指示する代名詞と解釈。結果、「国家を無事に維持すること」と解読。

・2つ目の「之」は、「主」の「君主」を指示する代名詞と解釈。この君主は「恭しく振舞って国家を無事に維持することに努力する」ことを踏まえて、話の流れに合わせて「このような君主」と解読。

・「安」の“無事であるさま”は、問題が発生しない状態であり、国家の政権に関する記述であることから「安き」で「安泰」と解読。

<⑧について>
・「曰」の“~と言う”は、他篇冒頭にある「孫子曰」の意味を積み上げていると考察。結果、「孫先生は~と言う」と補って解読。

・1つ目と2つ目の「之」は、②1つ目の「之」等の「真心のある法規や決まり」を指示する代名詞と解読。

・「此」は、「故曰、明主慎之、良將敬之」を指示する代名詞と解釈。結果、簡潔に「これ」と解読。

・「安き国に之る」の直訳は“平穏な国家に達する”となる。これは孫子兵法の教えを使って、平穏な国家をつくることと考察できる。結果、「平穏な国家をつくる」と言い換えた。

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