孫子兵法 計篇の解読文だけを読む

「計」の基本的な意味は「戦略、戦術」であり、孫子兵法の計篇には「戦略、戦術」に関する基本事項と要点が具体的にわかりやすくまとめられています。また、「戦略、戦術」に関する知識だけでなく、その知識を実践できる知恵として身につけるための教えは、現代人も学ぶべき内容と言えそうです。

其一1-1
孫先生が言うには、

①戦争は国家における重要な軍事行動である。兵士の生死を左右する場所、国家の存亡を左右する道理について考察しなければならない。

②戦略とは陣地を広げるために用いるのである。貧しい町、村、里、集落を敵国に服従しない陣地にするのであり、貧しい町、村、里、集落を経由して自国の陣地として保ち続けて敵国とせめぎ合うこと無く抑えつける。戦略を大いに利点とすれば勝敗は大いに明白である。

③戦術とは陣地を利用して実践することで軍隊を強大にするのである。間者が隠れて出現する奇正の戦術に利用する場所があり、間者は攻め取った敵兵が逃走しようとしても指導して保ち続ける。間者の適正を大いに持ち合わせれば、敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者に推挙するのである。

④災いが発生すれば、自ずと平穏を求める現象を利用して国家として維持するのである。命を投げ出す覚悟を持たせて死地に赴かせれば兵士達は生存し、心に覚えた自国への仕返しは記憶から無くなるに至る。大いに災いに向き合う時は、人民の特性を大いに見抜くのである。
其一1-2
①災いを減らすために五つの教えを認めて使うのであり、戦略、戦術の真価を認めれば真似をして使うのである。その上で、敵自身から敵の実情を教えてもらう方法を探求するのである。

②浅はかな敵軍が衰えた時に、獲物となる部隊を差し出すことを計算し、何度も間者が隠れて出現する奇正の戦術を使い、敵本軍から孤立した敵部隊を攻め取るに至るのである。

③戦略は、敵を侮らせて何度も使うのであり、敵に戦略の利き目が現れれば利害損得を計算して戦争を中断し、敵将軍に謁見して戦争を終えることを要求するのである。

④戦争を容易に変化させるには五つの教えを採用するのであり、将軍は経済力を使って間者に敵兵を攻め取らせる奇正の戦術を実行し、攻め取った敵兵から敵の実情を要求することに力を尽くすのである。
其一2-1
①五つの教えとは、第一は道理、第二は自然の摂理、第三は場所、第四は将軍、第五は法規やお手本である。

②道理は人民の意向を一点に集中させ、自然の摂理は天気を変え、場所はひたすら数多くの種類があり、将軍が率いる軍隊は正攻法部隊であり、お手本が直面している状況に合致すれば五種類の間者を用いるのである。

③一点に集中させた人民の意向は思想を形成して人民を統一し、変わる天気には信用できない天の意思があり、数多くある場所は何度も戦地となり、正攻法部隊を率いる将軍は敵将軍の正攻法部隊が来襲すれば撤退させるのであり、お手本が直面している状況に合致する時は五種類の間者はそのお手本を守るのである。

④道理は国家を統一するのであり、天の意思は信用しないのであり、死地には全軍揃って臨むのであり、正攻法部隊を率いて来襲した敵将軍に対しては敵将軍の可愛がる者を殺害する間者を使うのであり、将軍を法規に従って処罰する時は危害を与える五種類の将軍に該当することが要因となるのである。
其一2-2
①道理とは、人民と君主の考えを一致させるものである。

②人民と君主の考えを一致させるために道理を説く者は、人民に君主を心から認めさせるのである。

③侵略戦争において、敵国の町、村、里、集落を経由して陣地していく将軍は、陣地にした町、村、里、集落の敵人民に説いて君主の考えに一致させ、敵国の君主に抵抗させる存在なのである。

④陣地にした町、村、里、集落を治める将軍は、統治下に置いた敵人民を自国の君主の味方にして、中国全土を統一すれば戦争が無くなる意義を共有させる存在なのである。
其一2-3
①だから、君主を心から認める人民は中国全土を統一すれば戦争が無くなる意義のために命を捨てることができるのであり、君主は、この人民を心から認めて養わなければならない。人民は心から認めた君主を欺かないのである。

②未熟な隊長が、君主を心から認める兵士に親しく付き従うことを許せば、この兵士達は戦争に対する感覚が麻痺して隊長の指示に抵抗する災いに向き合うだろう。兵士の戦争に対する感覚がくい違えば改心させるのである。

③兵士が隊長の指示に抵抗する災いに対処する時は、死者の出そうな事故に兵士達を向き合わせれば、仲間から死者を出現させることに値し、兵士達に責任を持たせて改心させるのである。

④災いが発生した時に仲間が死ぬという事実に向き合えば、未熟な隊長が改心して兵士達に心から認められるようになる利点がある。命を落とした仲間が、兵士を可愛がる病気の隊長を改心させて責任を持たせるのである。
其一2-4
①自然の摂理とは、日陰と日なたがあり、寒い日と暑い日があり、時間の流れをつくるのである。順応して推し量れば、優れた戦略、戦術ができるのである。

②時間の流れがつくる季節とは、月と太陽があることで、冬と夏を出現させるのである。この道理に抵触すれば、軍隊は戦う前から敗北した状態となるのである。

③将軍は、士気が殺がれた状態を装ったおとり部隊を出現させ、火災のような正攻法部隊でどんどん攻め込んで敵をおののかし、敵を攻め取る時機を掌握する者である。攻め取った敵が逆らわずに自軍に服従すれば敵軍の兵士数を減らすことになり、自軍の勢いが敵軍を越えるのである。

④天の意思とは、盲目的に占いの結果に従うことであり、曇りの次は太陽が出て晴れると決めつけ、火災のようにどんどん攻め込んでくる敵の正攻法部隊は無視するのである。占いの結果に素直に従えば、軍隊は戦う前から敗北した状態であり、自軍の兵士数を減らすのである。
其一2-5
①場所とは、高い場所と低い場所があり、広い場所と狭い場所があり、遠い場所と近い場所があり、地勢が険しい場所と平坦な場所があり、命を失う場所と生存する場所があるのである。

②戦地であれば、軍隊が高い所にいれば低い所へ攻めるのであり、軍隊が広い所にいても陣列の幅は狭くするのであり、敵軍に接近して自軍を避けさせるのであり、地勢が険しい場所では軍隊の隊列を整えるのであり、奇策部隊の間者が隠れて出現する場所があるのである。

③間者が隠れて出現する場所とは、上級兵士の部下という立場であり、敵軍の隊列を長細く広げる狭い場所であり、敵将軍が可愛がる者を自軍から遠ざける役目の者であり、地勢が険しい場所にあって軽視してしまう場所である。

④敵国の町、村、里、集落にいるならば、等級が上にある者は謙虚な姿勢で敵人民に対応し、知識や見識が乏しい人民がいても心を広くもって物事にはこだわらず、人民の輪を疎遠にしている者は間者候補と考えて接近し、性格・人柄が悪い人民は死地において常軌を失って戦うため生存するのである。
其一2-6
①将軍とは、実践できる知恵があり、信頼があり、思いやりがあり、勇敢さがあり、厳格さがあるのである。

②将軍に実践できる知恵があれば兵士達は信じることができ、将軍が思いやりのある軍人であれば兵士達から尊重されるのである。

③実践できる知恵のある将軍は気持ちが通じ合う諸侯に手紙を送り届けて、勇猛な連合軍をきちんと整えるのである。

④将軍は、生きたまま敵を取得する間者を尊重して心にかけて、敵を攻め取ることができる節目が出現する時機を識別させるのである。
其一2-7
①法規やお手本とは、道理に背く言動を抑えて従わせ、公有して人民を指導し、物事を処理する時に使用するのである。

②法規は、官職の一つ一つを細かく制定したものであり、君主が採用して国家を統治するのである。

③お手本とは、戦略、戦術を遂行する各任務に誤りが生じることを断ち切るのであり、お手本を重要視する将軍は兵士達に指導して従い守らせるのである。

④里等を陣地にして従わせる状況に合致すれば、将軍は里等を経由する戦略をお手本にすることを主張し、君主にこの戦略を採用させるのである。
其一2-8
①一般的に、この五種類の教えは、耳にしたことがない将軍は誰もいない。五種類の教えを理解している将軍は優れているが、理解していない将軍は優れていない。

②平凡な将軍は、この五種類の教えが大いに評判になっても、誰も実行しない。五種類の教えに関する知識全てを使う将軍が存在するにも関わらず、五種類の教えを敬遠する将軍は戦う前から大いに敗北した状態である。

③あらゆる範囲で五種類の教えを何度も実行する将軍は、大いに理解して軍隊を力づける。五種類の教えに関する知識が、実践できる知恵に達した将軍は敵を抑えるが、知識を敬遠した将軍は敵を抑えることができない。

④軍隊を力づけて、将軍に大いなる名声を与える要旨は、この五種類の教えにある。この要旨を理解する者は、知識を敬遠しようとする感情を抑制し、大いに優れた将軍になるだろう。
其一3-1
①だから、戦略、戦術の真価を認めれば真似をして使うのである。その上で、敵自身から敵の実情を教えてもらう方法を探求するのである。

②必ず将軍は、間者に、敵兵を攻め取らせる奇正の戦術を実行させ、経済力を使って、攻め取った敵兵から敵の実情を要求することに力を尽くさせるのである。

③攻め取った敵兵と対面した時に、自国の真心のある法規や決まりの真価を認めさせれば、その敵兵は利害損得を考えて、敵軍の戦略、戦術に関する実情を差し出すだろう。

④攻め取った敵兵が豊かな生活を与えられると見なせば、その敵兵は、必ず敵国から匿って欲しいと自国に求めるだろう。
其一3-2
①孫先生が言うには、君主の徳行はどちらの国が優れているか、どちらの軍の将軍が有能か、自然の摂理と場所はどちらの軍に恩恵を施すか、法規を守ることはどちらの国が実行しているか、軍隊の兵士数を増やすことはどちらの国が優れているか、人民と下僕はどちらの国が軍事訓練をできているか、処罰の内容と褒美の品はどちらの国が物事によく通じているか。

②君主は才能と徳を持った人に詳しくなろうとし、将軍が戦略、戦術に詳しくなろうとする時は自然の摂理と場所の利点に詳しくなろうとし、巡視すれば兵士達は法規を守ることに十分慣れ、軍隊の兵士数を増やす間者は頑固者の対応に詳しくなろうとし、人民と下僕は練り絹を綴り合せた戦闘服に詳しくなろうとし、人民と下僕は処罰の内容と褒美の品について詳しくなろうと努力するのである。

③君主が才能と徳を持った人に詳しくなればリーダーとなって物事を処理する将軍を選ぶことができ、将軍は自然の摂理と場所の利点に詳しくなれば戦略、戦術を実行することに詳しくなり、兵士達が法規を守ることに十分慣れれば立派な行軍ができ、間者が頑固者の対応に詳しくなれば敵兵を傷つけて軍隊の兵士数を増やし、人民と下僕が練り絹を綴り合せた戦闘服に詳しくなれば歩兵として軍隊に従事し、人民と下僕が処罰の内容と褒美の品について詳しくなればその賞罰制度を実行して証明するのである。

④君主が成熟すれば思いやりのある優れた将軍が出現し、将軍の戦略、戦術が成熟すれば自然の摂理と場所が恩恵を施して自軍は堅固な実の状態となり、兵士達が法規を守ることに十分慣れれば敵国に赴くことができ、間者が軍隊の兵士数を増やす奇正の戦術に成熟すれば自軍は強大になり、人民と下僕が成熟すれば処罰の内容と褒美の品を熟知して豊かな生活を手に入れるために努力するのである。
其一3-3
①私は、これら七項目の比較によって勝利と敗北を識別するのである。

②私は、これら七項目の比較を実践できる知恵によって、敵よりも優勢になることを頼りにするのである。

③これら七項目の比較に関する知識を得て考えることを嫌がれば、戦う前から敗北した状態であり、戦争では劣勢になるだろう。

④私は、これら七項目の比較を実践できる知恵の真価を認めて、不注意による誤りが生じることを抑制するのである。
其一4-1
①将軍が、私の考えにしっかりと耳を傾けて、その考えを採用すれば敵よりも優勢になることを保証する。私の考えだけに集中しなさい。

②私の考えを受け入れさせて任用しても、自説にしがみついて敵を打ち破ろうとする考えに変わる将軍が出現するだろう。この将軍は、今まで通りのやり方を変えない。

③私の考えを考察して、敵を打ち破ろうとする考えに変わる者を引き止める隊長を将軍に任用すれば、自軍は、敵よりも優勢な軍隊になると断定する。

④私の考えにしっかりと耳を傾けて力を尽くす将軍は、私の考えを必ず実行して優れた将軍になる。この将軍が出現するのを待ち受けるのである。
其一4-2
①将軍が、私の戦略、戦術にしっかりと耳を傾けなければ、私の戦略、戦術を採用しても負けると断定する。私の戦略、戦術は捨てなさい。

②私の戦略、戦術にしっかりと耳を傾けない将軍は、私の戦略、戦術を従い守ることに背くと断定する。この将軍は、自国に損害を出すだろう。

③私の戦略、戦術について考察しない将軍が、私の戦略、戦術を採用して負けた時は、私の戦略、戦術が間違っていると指摘して自分の立場を守る。この将軍は、自軍の兵士達を殺すだろう。

④私の戦略、戦術を大いに考察する将軍は、私の戦略、戦術を直面している戦況に上手く適合させることを必ず実行し、敵軍を恐れ震えさせて撤退させるのである。
其一4-3
①将軍が、戦略、戦術を利点と認めて考察すれば、そうしてはじめて戦略、戦術に必要な技術を学習するに至り、敵軍を撤退させる助力になると考えるのである。

②戦略、戦術を利点として用いるようになれば将軍の勝手にさせることで、かえって兵士達を管理して成長させ、敵軍を後退させる助力に達するのである。

③利害損得をはかって間者の真価を認めて利点として用いる将軍は、必ず間者に奇正の戦術に必要な技術を学習させ、敵国から離反させて自国に寝返るように勧めること実行させるのである。

④兵士達の士気が旺盛で切れ味の鋭い武器に及ぶことを計算して待てば、旺盛で切れ味の鋭い士気が軍隊の勢いに変わるだろう。そうしてはじめて敵軍を撤退させる助力になると見なすのである。
其一4-4
①軍隊の勢いとは、増し加えて利点として用いれば全軍の権勢を掌握するのである。

②全軍の権勢を掌握する将軍は、敵人民を自軍に編制して兵士数を増し加えて、兵士達の士気を激しくすることで軍隊に勢いを生じさせるのである。

③軍隊に勢いがあれば、兵士達の士気が旺盛で切れ味の鋭い武器になっていることを頼りにして臨機応変の戦術を禁じるのである。

④旺盛で切れ味の鋭い士気の兵士達を従わせる技術は、人を支配し服従させる力となる賞罰制度の使い方である。
其一5-1
①戦略、戦術とは、人を欺く手段である。

②武器で敵兵を殺そうと見せかける技術は、敵を欺くことである。

③武器で敵兵を殺そうと見せかける正攻法部隊は、奇策部隊が隠れている場所に誘導するのである。

④戦略、戦術とは、軍隊を隠す手段を説くのである。
其一5-2
①有能な将軍が大いに戦地の型等を使って敵軍をあしらうことができる効用は、敵軍を観察して大いに誘導することにある。敵軍に接近すれば敵軍は陣形等の型を比較して自軍を避けて後退するだろう、自軍を避けて後退した敵軍がしんがり部隊を出撃させたことを観察すればそのしんがり部隊に接近するのである。

②有能な将軍が大いに有能な軍隊のように敵軍に見せかける効用は、敵兵達に両軍を比較させて力を尽くすことができない士気が殺がれた状態に至らせることにある。有能に見せかけた軍隊で接近すれば敵軍は生存するためにしんがり部隊を出撃させて自軍を遠ざけようとするのであり、自軍はこのしんがり部隊に接近して自国と敵国の待遇を比較させて敵国から離反させるのである。

③しんがり部隊の任務に堪えることができても敵軍にしんがり部隊の任務に堪えられない部隊と見せかけ、奇正の戦術を採用していても奇正の戦術を採用していないように見せかけた時、敵軍を避けて後退すると見せかければ自軍が差し出したしんがり部隊をまっすぐ見て敵部隊が接近してくるだろう、隠れている奇策部隊に接近したこの敵部隊をあしらって捕虜にするに至るのである。

④有能な将軍は敵将軍に無能と見せかけることができ、戦略、戦術を使う時は敵将軍に戦略、戦術を使っていないと見せかけることができ、将軍と親しもうとする者達はあしらって親しくせず、将軍を避けようとする者達は身辺に置いて観察するのである。
其一5-3
①意図的に勢いを削いだおとり部隊を利点にして用いて敵部隊を誘き出し、秩序を失わせて敵部隊を攻め取り、攻め取った敵部隊が軍隊装備を持っているならば自軍で取得して使い、攻め取った敵兵が頑固者であれば年貢等を免除すれば態度が変わり、年貢等を免除することで怒らせれば言い争って態度を変えさせるのである。

②必ず豊かさで誘って攻め取った敵兵をそそのかし、寝返らせて敵の実情を引き出すことで、将軍は事前の防御を強化するに至り、自軍が敵軍をかわし遠ざけた時、兵士達は腹を立てて騒ぐ状態に変わるのである。

③将軍が叱責して冷静にさせようとしても兵士達が騒いでいるならば、将軍が先になって兵士達を案内して険しい場所に赴いて仲間が死ぬ事故を利点として用いるのであり、将軍は仲間が死ぬ事故を発生させて事故が起きた理由を兵士達に究明させれば兵士達を用心させるに至るのであり、無理やり武力で撃たせようとしても兵士達は敵軍をかわし遠ざけるだろう。

④道理を利点として用いて兵士達を教え導いて正し治めれば、将軍は兵士達が堅固な“実”に至った状態を引き出して全軍にあまねく行き渡らせるのである。全軍を堅固な“実”の状態にすることに励めば、敵軍に自軍をかわし遠ざけさせる状態に達し、堅固な“実”の状態になった全軍の勢いが強くなれば敵兵達を恐れで騒がせる状況に至るのである。
其一5-4
①奇策部隊が用心することを軽んじた敵部隊を武力で撃つ時は、その敵部隊が予想しない場所から出現するのである。このように敵部隊を傷つけて打ち破った時、大いに攻め取ることができるのである。

②仮に敵部隊が予め堅固に防御していても、その敵部隊は大いに奇策部隊が出現する場所を疑うのである。このように敵部隊が大いに持ち堪える態勢に変われば、音が聞こえてくる状況に向き合わせるのである。

③戦地全面に敵部隊を武力で撃つ奇策部隊を隠れさせても敵部隊には気付かせず、敵部隊が大いに疑う場所をつくれば、そこに隠れていた奇策部隊は離れるのである。このように敵部隊が音の聞こえてくる場所に赴いても、その全ての場所で自軍と向かい合うことがないのである。

④敵部隊に攻撃と防御を軽視させる奇正の戦術を立てれば、敵部隊は大いに疑うのである。これは戦術を使って戦う前から敵を敗北した状態にさせる方法であり、広まるべきではないのである。
其一6-1
①そもそも、将来に戦争が起こりそうな時に将軍が朝廷で戦略、戦術の計画を立てて勝利を得る要因は、実現した計画が多いことにあるのである。

②実現する計画が多い将軍は、成年に達して役務や肉体労働に従事する人民を羊の集まりのように揺れ動かすのであり、将軍は朝廷に自軍の権勢が敵軍を越える計算をさせるのである。

③将軍が、朝廷に自軍の権勢が敵軍を越える計算をさせた時、軍隊に従事する兵士に戦闘させたことがなければ得意になっている兵士が多くいるのである。

④得意になっている兵士達は、自軍の権勢が敵軍を越える計算をしている朝廷のように恐れで震えた経験がなく、戦争での手柄を計算する者達である。

⑤戦争での手柄を計算する兵士達は、羊が苦痛から逃げ出す道理を踏まえて褒賞を出して動かせば、将軍が朝廷で計画を立てた戦略、戦術は持ち堪えて実現するのである。

⑥将軍が朝廷で計画を立てた戦略、戦術が持ち堪えて実現すれば、導かれる羊の集まりのように戦闘した兵士達は将軍の立てた計画を賛美するのである。

⑦将軍の立てた計画に感謝して賛美する兵士達が、将軍の立てる計画に恐れ震えて任務を嫌がった経験が無ければ、朝廷には戦略、戦術の計画を立てた将軍を担ぎ上げる者が出現するのである。

⑧朝廷で戦略、戦術の計画を立てて、兵士達が戦うことなく全ての計画を実現する将軍は、重んじられるのである。
其一6-2
①将来に戦争が起こりそうな時に将軍が朝廷で戦略、戦術の計画を立てて勝利を得られない要因は、実現した計画が少ないことにあるのである。

②兵士達を羊の集まりのように揺れ動かしても実現した計画が少ない将軍は、朝廷で計画を立てた戦略、戦術が優れていないのである。

③将軍が朝廷で計画を立てた戦略、戦術が優れていなければ、恩恵を施した計画が少なく、羊が苦痛から逃げ出す道理を働かせて兵士達を恐れで震えさせたのである。

④羊が苦痛から逃げ出す道理を働かせて兵士達を恐れで震えさせれば、将軍は朝廷に自軍の権勢が敵軍を越える計算させることが無く、徳のある者は将軍が立てた戦略、戦術を非難するのである。

⑤将軍が立てた戦略、戦術を非難して得意になる者は戦争した経験は無く、朝廷における将軍の立場を大いに抑えようとして謀略を企てるのである。

⑥朝廷における将軍の立場を大いに抑えようとして謀略を企てる者は、将軍よりも等級が低い武将を、将軍の地位を褒賞にして駆り立てて優劣を争わせて謀略を実現しようとするのである。

⑦将軍よりも等級が低い武将に謀略を実現させようとする者は、将軍が朝廷で計画を立てた戦略、戦術を大いに担ぎ上げて、将軍の資質に関する優劣は争わないのである。

⑧戦略、戦術は計画を削って適合させるのであり、その上で、兵士達を羊の集まりのように揺れ動かせば、将軍は大いに朝廷に自軍の権勢が敵軍を越える計算をさせるだろう。
其一6-3
①戦略、戦術の計画を重んじる将軍は、計画を非難する者よりも優れているのであり、計画を無視する者については推し量ればわかるだろう。

②戦略、戦術の計画を重んじる将軍は計画を削ったとしても、無視できる状況を計算しているのであり、自軍の勢いを敵軍よりも優勢にするだろう。

③戦略、戦術の計画を重んじて自軍の勢いを敵軍よりも優勢にすれば、謀略を企てている武将は、さらに将軍が立てた戦略、戦術の計画を軽んじるだろう。

④謀略を企てている武将がさらに戦略、戦術の計画を軽んじる時は、戦争での手柄の数を競って将軍よりも優位になろうとするだろう。

⑤戦争での手柄の数を競おうとする謀略を企てている武将は、戦略、戦術の計画を立てることを無視して将軍よりも優位になろうとするのであり、なんと将軍の軽んじられた計画と比べることになるであろう。

⑥謀略を企てている武将の計画と将軍の軽んじられた計画を比べれば、戦略、戦術の計画を重んじた将軍の方が盛大な手柄の数だろう。

⑦戦略、戦術の計画を重んじた将軍の方が盛大な手柄の数だった時、謀略を企てている武将は、どうして将軍が立てた計画を軽んずる態度でいられようか。

⑧戦略、戦術の計画を重んじた将軍は計画を非難した者を抑えたのであり、どうして将軍が推し量った戦略、戦術の計画を軽んずる者がいるだろうか。
其一6-4
①私を採用して戦略、戦術の計画を考察する役目で起用すれば、勝利と敗北を明らかにするだろう。

②私を戦略、戦術の計画を考察する役目で採用すれば、優れた将軍になることを心に抱く武将達が出現するだろう。

③優れた将軍になることを心に抱く武将達は、私が認める戦略、戦術の計画について考察して詳しく聞くだろう。

④私が認める戦略、戦術の計画について考察する武将達は、自軍の権勢が敵軍を越える戦略、戦術に頼ることを悟るだろう。

⑤自軍の権勢が敵軍を越える戦略、戦術に頼ることを悟れば、防御した上で戦略、戦術の計画を実行して、その様子を観賞する将軍になるだろう。

⑥防御した上で戦略、戦術の計画を実行しても、計画の過ちが露呈した時は、将軍は態度を変えてその局面を持ち堪えるだろう。

⑦露呈した計画の過ちによって陥った局面を持ち堪える時は、局面が優勢に変わる戦略、戦術の計画を採用して乗り切るだろう。

⑧私が認める戦略、戦術の計画について考察し、自軍の権勢が敵軍を越える戦略、戦術に頼る武将達こそが将軍に推薦されるだろう。