孫子兵法 用閒篇の解読文だけを読む

用閒篇は、間者の存在意義や五種類の間者についてそれぞれの役割や具体的な使い方がまとめられています。後半では、相手に気付かれない内に策に誘い込む方法や、一人の間者が複数の役割を兼務する内容もあり、かなり実践的な内容と言えます。用閒篇を読めば、九地篇までに説かれた戦略、戦術を実現できる理由もわかるため、とても面白い内容になっています。

其十二1-1
孫先生が言うには、

①一般的に、十万人の大衆を動員して、千里先の敵国に大軍十万で遠征すれば、生活に使う財貨は多くなり、国家の公務に対する俸禄は、一日に千金を消耗するのである。

②あらゆる範囲で極めて多くの策を立てて、大軍十万を十個に分断して、数多くの敵里を自国に従わせて栄えさせるが、全てその敵人民の生活費として消耗するのであり、公務として大軍十万に生活を支える資産を供給するため、毎日、千金を消耗するのである。

③平凡な将軍は大軍十万のお手本にも関わらず、自国に従わせた元敵里において舞踏に出かけて楽しめば、真似る兵士は数多いのである。その兵士達は任務に励み努力しても生活費を無駄遣いするのであり、この将軍は俸禄を女性に使って、毎日、千金を無駄遣いするのである。

④全ての人民を極めて栄えさせる要旨は、産物をつくる技能に優れた者を、必ず自国に従わせた元敵里に住ませて、元敵人民を産物の生産に励み努力させることで財貨を生み出すからである。この産業を国家の公務として与えれば、毎日財貨を得る仕組みとなって必ず元敵里の収益基盤は強固になるだろう。
其十二1-2
①自国内部から人民全てをかき集めて他国への遠征に動員する時、慢心せずに軍事訓練をすることを実践する将軍は、七十万ある人民の家庭を養って、次第に服して従わせるのに数年を要し、人民同士で言い争うことを止めさせて統一し、日増しに自国内部を景色の優れた土地にするのである。

②自国内部の景色の優れた土地から収穫があって、真心のある法規や決まりがあれば、毎日、他国人民の一部は我先にと自国に降服してくるのである。その他国から人民等を迎え入れても、仕事をさせた時に掻き乱して担当する職務が上手くいかなければ、自国の七十万ある人民は、国家に対して、その元他国人民を観察することを請求するのである。

③掻き乱す元他国人民を観察する時は、絶対に役所で管理するのである。元他国人民を大いに自国に適合させる任務を担当する役人を動員して、里内の一定の区画にその全員をかき集めて遠ざけるのであり、収穫の数目を七割に減らして自国の七十万ある人民を窘めるのである。日を追うごとに掻き乱す元他国人民を抑制して自国の人民と統一するのである。

④元他国人民と自国人民からできるだけ兵士をかき集めて軍隊を発動した時、戦争を支配する将軍は、敵国の七十万ある敵人民を大いに手に入れるのである。自軍の兵士達と敵国の未婚女性を結婚させて家庭を持たせれば、真心のある法規や決まりに服して従うのである。後には、戦争を無くして中国全土を統一した時代をつくろうとする自国の君主を担ぎ上げるだろう。
其十二1-3
①将軍が、攻め取った敵兵に対して百金の俸給を与えることを物惜しみすれば、攻め取った敵兵を自国に順応させて敵自身から敵の実情を教えてもらうことを理解していない者である。この将軍は、この上なく思いやりがないのである。

②その上、思いやりの無い将軍は、男女間の愛情と酒を幸福とし、金属製楽器の練習に励み努力するのである。大いに敵を接待することで満足させて最も極まった状態に達した時、敵の実情を教えてもらおうとするのである。

③また、可愛がる者を覆い隠して百金の俸給を与えて、敵対勢力にこの可愛がる者の存在を知られないように祈る将軍は、この可愛がる者を失えば心にかけて無気力になる。

④将軍は、攻め取った敵兵から、敵将軍の可愛がる者を保護する随行者について教えてもらえば、百金の俸給を与えることで、大いに養い育んだ間者と随行者を知り合わせて、刀剣類で敵将軍の可愛がる者を殺害する任務に励み努力させるのである。敵将軍に可愛がる者を失ったことを可哀相に思わせて、無気力にさせるのである。
其十二1-4
①誤った言動をする人民は指導して考え方を正すのであり、同様に、誤った言動をする君主は補い助けて考え方を正すのである。誤った言動をする君主と人民が存在すれば、目や心を一点に集中して過ちを抑制するのである。

②人民が君主の悪口を言えば指導して考え方を正すのであり、同様に、君主が人民を非難すれば補い助けて考え方を正すのである。目や心を一点に集中して君主と人民の過ちを抑制すれば、その君主と人民は、誤りと思えば自ら抑制する状態に達するのである。

③将軍が、兵士達を非難すれば、その兵士達は自国を去るのであり、同様に、君主を非難すれば、君主の補佐役である将軍が変わるのである。非難して人を抑制しようとする将軍は、見捨てられるのである。

④人民を自ら抑制する状態にさせる将軍でなければ、同様に、君主を自ら抑制する状態にさせる補佐役ではないのである。将軍は、自国を非難する元敵人民を自国に引き入れて、他国よりも優勢にするのである。
其十二1-5
①道理をはっきり悟って君主を敬い重んじる将軍は、正しい方法を使って任務を遂行して敵軍を抑えるのである。あらゆる事柄に対して戦略、戦術を立てて、その計画が実現する将軍は、直面している状況を識別することを第一にするのである。

②直面している状況を識別することを第一にする将軍は、太陽と月の道理に従う奇正の戦術を重要視して策を立てるのであり、計画が実現するように手助けすると認める場所があれば、正攻法部隊を移動させるのである。その上、生きたまま敵を取得する間者が率いる奇策部隊を隠れさせるのである。

③計画実現を手助けする場所に正攻法部隊を移動させて、その上、間者が率いる奇策部隊を隠れさせた将軍は、旺盛な勢いを生じて充実した堅固な軍隊にして備わることを最も重要なこととするのである。苦戦することになるだろうと感じた敵兵達は、災いが起こるとはっきり悟るのであり、獲物となる敵部隊が数多く出現するのである。

④敵軍から出現した獲物となる敵部隊は、正攻法部隊によって奇策部隊の隠れている場所に連れて行くのであり、そこで間者が率いる奇策部隊が出現して打ち破るのである。生きたまま敵を取得する間者は、治療することを第一にして、中国全土を統一すれば戦争が無くなる道理に務めると主張するのであり、真心の働きによって攻め取った敵兵達を感動させるのである。
其十二1-6
①敵兵達を導いて自国に寝返らせる知恵があれば、この上なく聡明な間者を大いに採用することができて、任務遂行に必要な現象を大いに再現することができて、戦略、戦術のお手本に従って大いに実態を検査することができて、自軍の立場を確固たるものにして獲物となった敵部隊を攻め取っても、その敵兵達に思いやりを感じさせる将軍となる。

②最も重要なことは、間者に求める能力及び適性がある者を大いに識別して採用し、軍神である将軍の間者とするのである。則るべきお手本を大いに利点として、任務遂行に必要な現象を出現させるのである。実態を検査した結果、大いに利点があるとなれば戦略、戦術のお手本を基準にして従うのである。攻め取った敵兵達に対して思いやりある俸給等を保証して、敵自身から敵の実情を教えてもらうことである。

③敵自身から敵の実情を教えてもらうことを大いに利点とするため、聡明な間者を採用する時に最も重要なことは、亡霊のように存在を認識させない顔つきや表情であり、大いに職業を偽装できることであり、推測すること無く実態を検査できることであり、自説にしがみつく敵兵達に思いやりを感じさせて敵自身から敵の実情を引き出すことである。

④敵自身から敵の実情を教えてもらうことを第一にすれば、軍神である将軍の間者によって獲物となった敵部隊を大いに攻め取ることができるのであり、過去の戦争事例を大いに再現できるのであり、戦略、戦術のお手本を大いに拠り所にできるのであり、攻め取った敵兵達の中から、寝返らせても敵と親しく交流する間者を採用して敵人民と交流させることを必ず実行するのである。
其十二2-1
①戦略、戦術において、間者の使いみちは五種類存在する。

②戦略、戦術を使う時は、秘密裏に五種類の間者が敵の実情を手に入れるのである。

③敵と馴染みの関係になることに力を尽くして、敵の隙に乗じて何度も実情を手に入れるのである。

④常日頃、間者を備えておき、五種類の使いみちに上手く適合させるのである。
其十二2-2
①敵里の人民と親しく交流する間者がおり、敵組織内部と親しく交流する間者がおり、敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者がおり、敵将軍の可愛がる者を殺害する間者がおり、生きたまま敵を取得する間者がいる。

②敵里の統治に関わって敵の実情を手に入れて、敵組織内部の者に関わって敵の実情を手に入れて、仕事がない敵を寝返らせて敵の実情を手に入れて、敵将軍の可愛がる者が死ぬという情報によって可愛がる者を遠ざけようとする対策をさせて敵の実情を手に入れて、攻め取った敵兵達を治療して怪我が治れば自国で養って敵の実情を手に入れるのである。

③しばらくの間、陣地にした敵里に恩恵を享受させれば得られる敵の実情は多くなり、敵組織内部の者は妾を間に挟めば得られる敵の実情は多くなり、敵から寝返らせた者は、しばらくの間、敵国に戻せば得られる敵の実情は多くなり、可愛がる者を殺害して敵将軍を無気力にさせれば大きな利点となり、攻め取った元敵兵達にゆとりある生活をさせれば得られる敵の実情は多くなるだろう。

④敵里を陣地にすれば豊かにして、敵組織内部の者に女性への関心があれば間に妾を挟んで、仕事がない敵が存在すれば自国に寝返らせて、秘密裏に存在する敵将軍の可愛がる者は殺害して、攻め取った時に生存者が存在すれば治療して怪我を治すのである。
其十二2-3
①五種類ある間者の使いみち全てを採用して、敵将軍の意向を理解した上で自軍の戦略、戦術を計画するのである。これを消化して身につけた軍神である将軍は、戦略、戦術を決める糸口を探し出すのであり、思いやりのある君主はこの将軍を称えるのである。

②敵里を経由して奪い取って陣取った時、陣地にしたその敵里を自国で統治して豊かにさせた上で、敵里の人民と親しく交流する間者を使って何度も啓発させるのである。道筋を正して治めることを消化して身につけた将軍は、敵人民を尊重するのであり、誤った言動をする敵人民は指導して考え方を正すのであり、陣地にした元敵里は自軍が暮らしを立てる拠り所とするのである。

③生きたまま敵を取得する間者を全ての奇策部隊に完備して、何度も獲物となる敵部隊を出現させた時、獲物となった敵部隊が正しい逃げ道を識別する方法はない。間者の主宰者である将軍は、奇策部隊と間者を隠して霊魂のように存在を認識させないのであり、奇策部隊が隠れている場所に至らせる奇正の戦術を消化して身につけているのである。

④軍神である将軍は、生きたまま敵を取得する間者の養育係になるのである。間者を一人前にする時は、何度も戦争に連れ立って起用して、敵兵達の士気が殺がれる時機を識別することを指導して習熟させるのである。間者に、奇策部隊が出撃する時機を正確に判断することを消化して身につけさせて、敵軍を不思議ではかり知れない心境に追い込むのである。
其十二2-4
①敵の隙に乗じて生け捕りにする間者は、攻め取った敵兵達に富や食糧等の提供を知らせて裏切らせる存在である。

②攻め取った敵兵達に富や食糧等の提供を知らせる間者は、生存者がいれば、怪我を治療して裏切らせるのである。

③自国に寝返った敵兵達は、自国における生活にゆとりがあれば、自国の恩恵に返礼しようとする者が出現するのである。

④自国の恩恵に返礼しようとする元敵兵達が存在すれば、敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者を生み出して、元々所属していた敵国に戻すのである。
其十二2-5
①隙に乗じて敵将軍の可愛がる者を殺害する間者は、敵を欺いて敵将軍の可愛がる者を刺す行為が公務であり、将軍は、敵組織内部と親しく交流する間者を使って、可愛がる者を殺害する企てが知られるように仕向けるのである。そして、敵将軍がこの企てに抵抗する時機を待ち受けるのである。

②敵組織内部と親しく交流する間者は、管理している敵組織内部の者に「可愛がる者を遠ざければ、この企てを潰して防御することになる」と欺く任務を行わせるのである。そして、敵将軍の可愛がる者を攻撃しようとする自軍に備えさせるのである。

③敵将軍が、可愛がる者を狙う自軍に備えようとするならば、敵組織内部と親しく交流する間者は、敵将軍の可愛がる者が殺害される異変が起こると味方を欺いた敵組織内部の者に、融通性が無い姿勢を装わせて、法令に従って可愛がる者を遠ざける任務を妨害して時機を遅らせる知恵を使わせるのである。

④法令に従って可愛がる者を遠ざける任務を妨害して時機を遅らせれば、敵将軍の可愛がる者を殺害する間者は、可愛がる者を遠ざける任務に従事する随行者を識別して惑わして、交代して随行者の任務を担当するのである。自軍の将軍は、敵将軍の可愛がる者を攻撃する間者を頼りにして、その可愛がる者を殺害して敵将軍を無気力にさせるのである。
其十二2-6
①こっそりと元々所属していた敵国に戻した間者は、敵将軍と利害や意見が対立している相手と親しくして、その対立している者を裏から操って任務に力を尽くす存在である。

②敵将軍と対立していて転覆させようとする者は、敵将軍と対立する勢力を増し加えて、敵将軍に代わって軍隊を治めようとする存在である。

③敵将軍と利害や意見が対立している相手を利用する間者は、裏から操る任務に力を尽くして敵将軍に方針転換させるのであり、秘密裏に自軍の将軍が考えている方針や戦略、戦術に上手く適合させる存在である。

④敵将軍に方針転換させる任務に習熟した間者は、敵将軍と対立する勢力を増し加えて、敵将軍に代わって軍隊を治めることに関わることができるのである。
其十二2-7
①しばらくの間、陣地にした敵里に恩恵を享受させる間者は、敵人民と親しむことで、思いやりを享受させて自国に上手く適合させる存在である。

②敵人民と親しむ間者は、陣地にした敵里に仕事が無ければ、自国の産物をつくる技能に優れた者を住ませて、享受させた産物の生産活動によって敵人民に精を出させるのである。

③仕事が無かった敵人民に産物を得る成果があれば、人民を栄えさせる思いやりを享受したその敵里は、自軍の将軍を奉って頼るのである。

④産物を得る成果によって陣地にした敵里を豊かにする間者は、このように将軍を奉って頼る元敵里を増し加えるのであり、自軍の将軍は元敵人民を治める統治者となるのである。
其十二2-8
①妾を間に挟むことで敵組織内部の者から敵の実情を多く得る間者は、敵役人の人格を利用して従わせる存在である。

②敵役人の人格を利用する妾は、男心に習熟した女性を任用するのである。

③男心に習熟した妾は、女性への関心がある敵役人に限定して、性行為に乗じて従わせることができる存在である。

④脇道から敵組織内部に入り込む間者は、妾が従わせた敵役人のつてで優れた人物として官職につくのであり、自軍の将軍が考えている方針や戦略、戦術に上手く適合させる存在となるのである。
其十二3-1
①だから、全軍が信頼する将軍は、間者よりも身近に接する者はおらず、褒美の品について間者よりも優遇する者はおらず、任務ついて間者よりも秘密にするものはない。

②全軍から信頼される将軍は、全軍に対して戦略、戦術を計画するのであり、間者に対しては将軍自ら任務を管理するのである。多くの褒美の品によって力づけて、隠れ場所に奇策部隊の間者を配置して、隙に乗じて獲物となった敵部隊を攻め取る任務に従事させるのである。

③全軍で駆り立てて前進して敵軍に接近することで敵兵達の士気を殺がれた状態にする戦術を使った時、全軍から信頼される将軍は、奇策部隊の間者が獲物となった敵部隊を数多く攻め取る様子を観賞するのである。生きたまま敵を取得する間者は、攻め取った敵兵達を静まらせた上で、生活の安定を保証して敵国から離反させるのである。

④全軍から信頼される将軍は、奇策部隊の間者を軍隊に編制して何度も奇正の戦術を計画するのであり、間者が獲物となった敵部隊を攻め取って敵国から離反させれば将軍自ら褒め称えるのである。攻め取った敵兵達は、中隊の真ん中に隙間なく配置して従事させれば自軍は広大になり、兵士数の差が増大になって権勢を生じるのである。
其十二3-2
①最も優れた知恵と道徳とを備えた将軍でなければ間者を任用することはできず、他者に対する思いやりが無ければ間者を習熟させて働かせることはできず、些細な事にも非常に精緻でなければ間者の養育係に相応しくないのである。

②最も優れた知恵と道徳とを備えた将軍は、大いに打ち解けることは誤りと思って一定の距離を置いて間者を任用するのであり、大いに心にかけることは誤りと思って勝手にさせて任務に堪えさせて間者を習熟させるのであり、間者が未熟で些細な事に錯誤がある段階においては、有能な将軍が大いに具備してこっそりと未熟な間者を守るのである。

③最も優れた知恵と道徳とを備えた将軍でなければ、間者を習熟させて任用することはできないのであり、養い育むことが無ければ間者を任務に出向かせることはできないのであり、未熟な間者が調べた敵の実情に錯誤があっても、こっそりと未熟な間者を守ることはできないのである。

④間者に力を尽くさせることができなければ最も優れた知恵と道徳とを備えた将軍ではないのであり、間者を運用して任務に耐えさせなければ他者に対する思いやりがないのであり、深遠で理解しがたく神業にも近い巧みさでなければ、間者を敵の中に隠して敵の実情を手に入れることはできないのである。
其十二3-3
①奇策部隊の間者が隠れている場所で獲物となった敵部隊を傷つけて攻め取るのであり、隙間なく詰まった堅固な敵軍から攻め取ろうとしてはならない。生きたまま敵を取得する間者を使えば、大いに敵軍に虚を生じさせるのである。

②奇策部隊の間者が隠れている場所で獲物となった敵部隊を傷つけて攻め取ろうとする時、敵軍に虚が無ければ、隙間なく詰まった堅固な自軍によって敵軍に損害を与えるように見せかけて、大いに後退させることに力を尽くすのである。

③大いに敵軍を後退させれば、奇策部隊が隠れている場所を通って逃亡する敵部隊が出現した時、正攻法部隊はその敵部隊を損なうこと無く周囲を取り囲むのであり、奇策部隊はその敵部隊を傷つけて逃走しないように静めるのである。

④奇策部隊が獲物となった敵部隊を傷つけて逃走しないように静めた時、生きたまま敵を取得する間者が出現するのであり、怪我の治療をした上で富や食糧等を保証する正しい方法を大いに行って、自軍が損害を被る事態を回避できる敵の実情を提供させるのである。
其十二3-4
①まだ実行していない間者の任務を耳にして、その任務に関わろうとして間者を助ける正しい方法を申し上げる者が出現すれば、全員殺害するのである。

②間者の任務に関わろうとした者は、将来、味方になった間者の話を聞いて、矢を射る好機を敵将軍に報告する存在であり、その者は例外無く自軍から消えるのである。

③間者の任務に関わって消えた者が出現すれば、例外無く、一定の時間を置いた後、自国に敵対すると表明する国が出現したと耳にするのであり、自国の軍事行動の隙に乗じて敵大軍が出現するのである。

④自国の軍事行動の隙に乗じて敵大軍が出現した時は、まだ戦争が起こったと伝え広まっていない内に、自軍は全員戦死するのである。もしも間者を助ける正しい方法を申し上げる者が出現すれば、間者によって殺害するのである。
其十二4-1
①平凡な将軍は、城壁に囲まれた敵都市に対して虚があることを期待して討伐するのであり、敵将軍に対して虚があることを期待して討伐するのである。必ず、敵将軍の計画実現を支える役目の者、勢力ある敵将軍の家柄に反対して方針転換を要求する者、門番をする者、以前は重用されたが現在は任務が無い者について、彼らの名前と身分や地位の情報を得ることを第一にしなければならない。将軍は、間者に対して「必ず彼らの名前と身分や地位を探求して情報を得なければならない」と命令するのである。

②一般的に、城壁に囲まれた敵都市は、門番に欲しがる事物を与えて自軍の突入を助ける任務に専念させるのであり、敵将軍は、彼らに欲しがる事物を与えて零落させるのである。敵将軍の計画実現を支える役目の者、勢力ある敵将軍の家柄に反対して方針転換を要求する者、門番をする者、以前は重用されたが現在は任務が無い者と知り合えば、彼らの家柄と爵位を保証して導くのである。将軍は「彼らの家柄と爵位を保証することで敵国から離反させて、敵の実情を要求しろ」と命令するのである。

③そもそも、城壁に囲まれた敵都市の門番が、門の扉が開けた状態にすることを望めば咎められるのであり、敵将軍の考えている計画を手に入れたいと考えた者は殺害されるのである。必ず実行する最も重要な知恵は、敵将軍の計画実現を支える役目の者は敵軍から去らせることであり、要求した方針転換を尊重させて敵将軍の考えている計画と食い違わせることであり、門から城壁内に突入する自軍は、門番の名前を呼んで思いやりを持って自軍の中に紛れさせることである。将軍は、間者に対して、この知恵を理解することを要求して必ず実行させるのである。

④要旨は、城壁に囲まれた敵都市に対しては門番の欲望を利用して門の扉を開けた状態にさせて討伐するのであり、敵将軍に対しては彼らの欲望を利用して敵将軍の考えている計画を取り除くのであり、自軍の立場を確固たるものにすることを第一にするのである。彼らの名前と身分や地位を記憶している間者は、彼らの傍にいて任務の進捗等の状況を管理するのであり、説明した事柄と食い違えば手を貸すのであり、彼らの一族の者は思いやりを持って自国に家屋を建てて定住させるのである。秘密裏に敵将軍が命令できないように対処すれば、自軍の立場を確固たるものにして、敵将軍に打つ手が尽き果てたと感じさせるのである。
其十二4-2
①自国に寝返らせた重要人物は、彼らの一族を敵国から遠ざけて安らかにしておくことをきっと要求するのである。間者によって自国に招いた彼らの一族は、親しくして利益を得させて心変わりさせるのであり、啓蒙すれば自国に家屋を建てて定住する状態に至るのである。

②間者は、自国で孤立している彼らの一族一人ひとりに対して、正当な地位や立場を保証するのである。彼らの一族が自国に家屋を建てて定住すれば自国に寝返らせた重要人物に教えるのであり、安静な状態になれば自国に帰順した者となって将軍に都合よく従うのである。

③将軍に順応した、自国に寝返らせた重要人物に対して、間者は、秘密裏に敵軍を虚に追い込む任務を決行することを要求するのである。自国に寝返らせた重要人物に、本来行うべき正しい任務を放棄させれば敵軍を虚に追い込む条件が整うのであり、その上、自軍は勢いを増し加えるのである。

④間者は、自国に寝返らせた重要人物を帰順させて敵将軍との間に挟むのであり、敵将軍が正しいと考えている計画に心を向かわせたまま、打つ手を尽き果てさせて自軍の立場を確固たるものにするのである。将軍は、敵将軍に考えていた計画を放棄させて啓蒙するのであり、心変わりさせれば勝利と同じである。
其十二4-3
①こっそりと元々所属していた敵国に戻す間者は、奇正の戦術によって敵兵達を攻め取って、条件に適合すれば採用するのである。従って、正確な判断をして敵国に戻す間者を識別するのである。

②この間者をこっそりと元々所属していた敵国に戻す理由は、将軍の考えている方針や戦略、戦術に上手く適合させる企てが実現するからである。すなわち、敵国に戻す間者によって敵の実情を得て正確な判断をするのである。

③利害や意見が対立する相手を利用して敵将軍に方針転換させる任務が実現すれば、将軍の考えている方針や戦略、戦術に上手く適合させることができるのである。将軍は、敵国に戻した間者達が、敵将軍と利害や意見が対立している相手と知り合うことを頼みとするのである。

④敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者は、自国に戻って任務に関する出来事を報告するのであり、敵将軍が方針転換した結果がわかれば、将軍は考えている方針や戦略、戦術を適合させることができるのである。すなわち、敵将軍が方針転換した結果を理解すれば正確な判断ができるのである。
其十二4-4
①陣地にした敵里に恩恵を享受させる間者が、その敵人民と馴染みの関係になれば、敵組織内部と親しい者を手に入れて働かせることができるのであり、この敵組織内部と親しい者を頼れば、敵役人と知り合うことができるのである。

②この間者が、敵組織内部と親しい者に対して秘密裏に金品を与えれば、自国は敵組織内部に繋がる使者を手に入れることができるのである。敵組織内部と親しい者が将軍に従えば、その敵役人を接待させるのである。

③敵組織内部に繋がる使者を使って、敵組織内部の役人に対して妾の戦術を実行した結果、誘いに乗れば、この二者の関係を利点として、敵里に恩恵を享受させた間者は敵の実情を手に入れることができるのである。妾の戦術を踏襲すれば、将軍は、敵組織内部の役人を支配するのである。

④妾の戦術を実行して敵役人が誘いに乗れば、脇道から敵組織内部に入り込んで官職として参加できるのであり、自軍の将軍が考えている方針や戦略、戦術に適合させることができるのである。陣地にした敵里に恩恵を享受させる間者は、敵組織内部と親しい者を利用して、敵の実情を得るのである。
其十二4-5
①隙に乗じて敵将軍の可愛がる者を殺害する間者は、必ず、敵を欺いて敵将軍の可愛がる者を刺す行為を実践するのであり、敵役人と妾の関係を用いて、敵将軍の可愛がる者を攻撃する企てがあると報告させるのである。敵役人と妾の関係を頼みとすれば、敵将軍の可愛がる者を攻撃する企ては敵に知られるようになるのである。

②その敵役人に、「可愛がる者を攻撃する企ては、可愛がる者を隠して相手を欺く軍事行動によって抵抗できる」と敵将軍に申し上げさせれば、その敵役人がこの任務を担当するのである。この方法を踏襲すれば、敵将軍の可愛がる者について敵の実情を得ることができるのである。

③可愛がる者を隠して相手を欺く任務を担当した敵役人は、融通性のない姿勢で「決まりを用いるべきである」と敵将軍を諭して、可愛がる者を隠して相手を欺く軍事行動を惑わすのである。決まりを用いる理由を敵将軍が正しいと認めれば、可愛がる者を隠れ場所に移動させる随行者を識別するのである。

④敵将軍の可愛がる者を殺害する間者は、病気の治療を装って自国のために働いた敵役人に休暇を取らせるのであり、可愛がる者を隠して相手を欺く随行者と交代することで、敵将軍の可愛がる者を攻撃する企てを実行して殺害するのである。この企ての実行をきっかけにして、敵将軍を頬髭が垂れ下がるように無気力にして支配するのである。
其十二4-6
①奇正の戦術を行った時、敵の隙に乗じて生け捕りにする間者は、会うことを約束したように誘き寄せた敵部隊の前に奇策部隊を出現させることができるのである。

②会うことを約束したように敵部隊を誘き寄せる時は、衰えたように装ったおとり部隊を作り出して、獲物となった敵部隊がおとり部隊を追いかける関係を利点とするのである。

③獲物となった敵部隊がおとり部隊を追いかける関係を利点にして、その敵部隊の思うようにさせれば油断を作り出すのが道理であり、攻め取る時機が出現するに至るのである。

④攻め取る時機が出現するに至った時、生きたまま敵を取得する間者は、誘き寄せた敵部隊の前に奇策部隊を出現させるのであり、その敵部隊を衰えさせて動けなくすれば生け捕りにできるのである。
其十二4-7
①生きたまま敵を取得する間者の任務は、必ずその任務内容を理解させて実践できる知恵に至るまで習熟させなければならない。生存している攻め取った敵兵達に対しては、必ず敵国から離反させて豊かな生活をさせなければならないのであり、こっそりと元々所属していた敵国に戻す間者になれば特に優遇しなければならないのである。

②間者を習熟させる時は、任務内容を覚えさせた上で、何度も戦争に赴かせて、必ず実行させて実践できる知恵に変えるのである。生きたまま敵を取得する間者は、過去の戦争事例から逆算して類推して、獲物となる敵部隊の居場所を断定するのである。大いに間者を習熟させれば、大いに兵士数を増やして軍隊規模を大きくできるのである。

③攻め取った敵兵達に、自説にしがみついて、生きたまま敵を取得する間者を責める者が存在すれば、攻め取った敵兵達に対して真心のある法規や決まりを用いることを保証するのであり、一定の時間を置いて、この敵兵達の見解が変わったことを識別するのである。依然として自国に服従しないで歯向かう敵兵が存在すれば、その敵兵と向き合うこと無く、その考え方を変えさせることは大いに後回しにするのである。

④間者は、五種類の任務内容を学問として修めるのであり、必ず実行するため五種類の任務内容に関する知識が、実践できる知恵に変わるのである。獲物となる人物の居場所を断定する時は融通を利かせて、その人物の旧交を大いに豊かにさせるのであり、大いに間者の任務に関わることに同意すれば、敵軍を内部から崩壊させるのである。
其十二5-1
①殷が栄えた国に変わった理由は、伊摯が夏王朝を観察したからである。

②あの夏王朝は頂点に君臨していたが、盛大に「宮殿の建造」等の国家事業を始めたことで変わったのである。

③夏王朝は鞭打つ処罰に依存して人民を震えさせたことで、反対勢力が形成されるに至ったのである。

④伊摯は夏国を訪れて観察した時、反対勢力が形成された事態に心を痛めたのである。

⑤伊摯は、居場所となる大きな家を反対勢力の人民達に与えて豊かにしたのであり、その反対勢力の人民達を引き立てて、敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者として任用したのである。

⑥夏王朝は、反対勢力の機嫌を伺って親切にして戦争に動員したが、殷に従う間者が多かったのである。

⑦殷に従う間者は、夏王朝の正攻法部隊の一部隊に配置されたが、殷の奇策部隊である。激しい雷が突然一点目掛けて落ちて容易く破壊するに等しく、正攻法部隊に隠れていた殷の奇策部隊が突然挙兵して、油断していた夏王朝の各部隊を容易く攻め取ったのである。

⑧殷は、伊摯と、夏王朝に対する反対勢力で編制した奇策部隊を頼りにして、夏国に赴いて挙兵したのである。
其十二5-2
①周国は、殷王朝に仕えていた呂牙を起用して挙兵したのである。

②呂牙は、殷王朝の役所に仕えており、殷国全土に広く行き渡って国家事業を始めたのである。

③呂牙は、仕えていた役所で殷国を観察して、あまねく歩き回って殷国を栄えさせたのである。

④商売を仲介して利鞘を取る政策を頼りにした殷王朝は、利鞘を取る政策を繰り返して贅沢を楽しんでいたのである。

⑤呂牙は、殷王朝と方針、政策が衝突したため、離反することを決意して、諸国をあまねく歩き回ることに至ったのである。

⑥周国は、領地を観察して国を豊かにする政策を打ち出す呂牙を引き立てて任用したのである。

⑦呂牙は、殷国において王朝の方針、政策に苦しんでいる人民、奴隷、服属している小諸国を救済しようとして、挙兵して殷国に赴いたのである。

⑧呂牙は、殷王朝の方針、政策に苦しんでいる者達を団結させて動員したのであり、連合軍の旗を掲げて布陣したことで殷王朝を恐れ震えさせたのである。
其十二5-3
欠落箇所が不明、記述されている人物も不明なため解読不能。
其十二5-4
①燕国は、斉国に仕えていた蘇秦を起用して挙兵したのである。

②眠りから目覚めた秦国は、国内を整えていた時、引き立てて任用されたいと志願してきた蘇秦を軽んじ侮ったのである。

③蘇秦は、秦国が諸国から抜きんでて強大になった状況を観察したのであり、燕国に赴いた時は引き立てて任用されたのである。

④燕国は、秦国に立ち向かう諸侯を観察して弁別して、蘇秦に諸侯を動員させたのである。

⑤蘇秦は、穀物を献上して機嫌を伺うことで秦国に軽んじ侮らせた上で、秦国に立ち向かう諸侯を動員したのである。

⑥諸侯が安らぐために合従軍が形成されたのであり、一斉に布陣して秦国を取り囲んだのである。

⑦秦国が戦争に疲れ切って休息する状況を観察して、速やかに合従軍が安らぐ講和を締結するに至ったのである。

⑧蘇秦は、抜きんでて強大になった秦国を観察したため、軍事力を匹敵させた合従軍を動員して、獲物となった鳥のように秦国を挫折させたのである。
其十二5-5
①物事によく通じた君主は将軍を敬い重んじるだけであり、有能な将軍は過去の戦争事例にある奇正の戦術を採用して間者に実行させる者であり、自軍の立場を確固たるものにして重要な間者の任務が実現するように手助けするのである。

②徳行に優れた将軍は、はっきりした指示で軍隊を統率することによって、過去の戦争事例にある奇正の戦術を実行できるのである。間者の任務が実現するように手助けする将軍は、軍隊規模を大きくして、旺盛な勢いを生じて充実した堅固な軍隊にすることで、敵軍に後退させて自軍の立場を確固たるものにするのである。

③才能と徳を持った将軍が自軍を率いて導けば、過去の戦争事例にある奇正の戦術を実行する始まりは、旺盛な士気が切れ味の鋭い武器になっている正攻法部隊を重要視するけれども、敵兵達の士気が殺がれた時機が訪れた時は獲物となった敵部隊を攻め取る奇策部隊を尊重するのであり、優れた手柄があれば褒美の品を与えると保証するのである。

④才能と徳を持った将軍は、旺盛な士気が切れ味の鋭い武器になっている正攻法部隊を統率するけれども、有能な間者を連れて行くのである。敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者を作り出して、敵将軍と利害や意見が対立する相手を利用して敵将軍に方針転換させた上に、敵将軍に自軍を侮らせる戦術を実行する将軍は、敵軍を圧倒する合従策を実現させて自軍の有利を確固たるものにするのである。

⑤有能な将軍は、秘密裏に合従策の準備を進めて、突然、自軍の権勢が敵軍を凌駕すれば、はっきりと敗北を悟った敵将軍は、ただ才能と徳を持った自軍の将軍に服従するだけであり、きっと自国と敵国の両方を完全な状態に保ったまま平和な和解に至るのである。

⑥有能な将軍を自分達の統率者と認めて、兵士達を安静にさせることを理解している敵将軍は、才能と徳を持った自軍の将軍が、自分達の将軍になって統率することを敵兵達にはっきり悟らせるだけであり、だいたい平定すれば敵将軍の手柄は保証するのである。

⑦戦争を終えた時、才能と徳を持った将軍は、自国の君主に対して「どうか公の場に出ていただきたい」と願うのであり、聡明な君主は、その国を統治して豊かにできる者として「真心ある国家事業をあまねく実行する」と保証するのである。

⑧自分達の統治者となった君主をはっきり悟った善良な元敵人民達は自国に服従するだけであり、有能な将軍が、国を豊かにする方法を学習させる知恵を施せば、盛んに国家事業が生み出されて元敵人民は産物の生産に励み努力すると断定するのである。
其十二5-6
①このように五種類の間者は、戦略、戦術における重要な存在であり、全軍で戦争に赴いた時、お手本を頼りにして働かせるのである。

②五種類の間者を軍隊に編制して戦争に赴かせて、何度も敵の実情を調べさせて、敵軍に虚を生じさせることを頼りにするのであり、自軍が行動し始めれば敵軍に危険を感じさせることができるのである。

③そこで、奇策部隊が獲物となった敵部隊の出現を待ち受けて、正攻法部隊が蛇の道理によって奇策部隊の隠れ場所に到達させることを頼りにして、激しい雷が突然一点目掛けて落ちて容易く破壊するように奇策部隊が出現してその敵部隊を攻め取るのである。

④このように攻め取って傷つけた敵兵達は、治療して回復させて自国に従わせれば、自国の全軍を頼りにして任務に従事するのである。

⑤このように何度も獲物となった敵部隊を奇策部隊の隠れ場所に招いて奇正の戦術を行うのであり、攻め取った敵兵達を自軍に編制することで軍隊の強大さが増加して実の状態に至ることを頼りにすれば、敵軍を恐れ震えさせるのである。

⑥このように軍事を行って、全軍の権勢を掲げる状態に達すれば、戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理に達したことを頼りにするのであり、将軍は、講和の文書を取り交わす使者を派遣するのである。

⑦すなわち、何度も講和の文書を取り交わす使者を派遣して、陣取って自軍の統治に変えた元敵里等を自国の領地にしたいと願うのであり、将軍は、従わなければ危害が与えられると感じた敵将軍が行動し始めることを頼りにするのである。

⑧このように戦争が講和の締結に至れば、頼りにした全軍の兵士達を自国の領地になった元敵里等に定住させて、そして国家事業のために働かせるのである。