孫子兵法 地刑篇の解読文だけを読む

地刑篇では、主に奇正の戦術を行うための六種類の「戦地の型」及び将軍の罪である六種類の「災いの型」が記載されています。また、「災いの型」に代表される様々な災いを抑制するために、「戦地の型」を利用する方法も綴られています。終盤では謀攻篇に続いて、「表面的な知識」と「実践できる知恵」の違い、知恵ある将軍同士の優劣を分ける点についてまとめられており、実践編と言える内容になっています。

其十1-1
孫先生が言うには、

①戦地の型には、交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」があり、移動しづらい障害物があって敵部隊を謀り取りやすい戦地の型「挂」があり、枝分かれして敵軍を分断できる戦地の型「支」があり、狭い場所で敵軍を苦しめる戦地の型「隘」があり、地勢が険しく堅固に守れる戦地の型「険」があり、遠く離れていて敵部隊を寝返らせるべき戦地の型「遠」がある。

②戦地の型をお手本にする将軍は、戦地の型「通」を占有して往来するのであり、戦地の型「挂」を占有した時は敵部隊を謀り取る奇策部隊を配置するのであり、戦地の型「支」を占有した時は敵軍を分断させるおとり部隊を出現させるのであり、戦地の型「隘」を占有した時は敵軍を苦しめる正攻法部隊を配置するのであり、戦地の型「険」を占有した自軍は守りが堅固となって、遠く離れた敵軍に備えるのである。

③戦地で軍隊を整え治める将軍は、戦地の型「挂」を占有して障害を除いて通るようにして戦地の型「通」を占有するのであり、戦地の型「支」を占有して心引かれて誘惑に乗る敵部隊を出現させて敵軍を分断させるのであり、戦地の型「隘」を占有する奇策部隊は敵部隊を攻め取るのである。戦地の型「険」を占有する自軍は、敵を驚かす奇策部隊を備えるのであり、敵軍から離反して自国に寝返る敵兵達を出現させるのである。

④防御して持ち堪える多人数の正攻法部隊が、敵本軍から引き離した敵部隊を出現させることに成功すれば、隠れている奇策部隊の間者を出現させるのであり、地位や境遇が良くなるならば心引かれる敵兵が出現するのである。よこしまな敵兵達が多ければ、敵軍から離反して自国に寝返る敵兵達は多いのである。
其十1-2
①将軍は自軍を率いて敵軍のいる側に赴くことができ、敵将軍も敵軍を率いて自軍のいる側に到達できるならば、交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」と名付ける。

②交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」であれば、敵将軍が敵軍を率いて接近することを許した時、将軍は自軍を率いて逃亡できるのである。

③自軍が逃亡したに値すると敵将軍に考えさせれば、戦地の型「通」を通って行くと言うのであり、敵軍を誘導する利点があると考えるのである。

④敵軍を誘導する利点を使うことで引き寄せられた敵部隊が出現した時、将軍は奇策部隊に攻め取らせるのであり、その攻め取った敵兵達と向き合って地位や環境が良くなる内容を言うのである。
其十1-3
①交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」で軍隊を整え治める将軍は、兵士数が盛大な正攻法部隊によって占拠することを第一にして、食糧を経由させる通路を得るのであり、そして、軍隊の勢いで優劣を争うことをお手本にして自軍に勢いを生じさせるのである。

②交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」を先制して、軍隊を整え治める将軍は物事を熟知しているのであり、軍隊に勢いを生じさせる時は見通しの良い高い所に留まって、食糧は残すことを考えるのである。自軍の勢いを切れ味の鋭い武器にすれば敵軍を恐れ震えさせるのである。

③軍隊の勢いを盛大に蓄積した自軍の正攻法部隊に向かって前進すれば、痛みを伴うと敵兵達に感じさせることに成功する将軍は、富を得ることと租税等を免除することを説いて、真心のある法規や決まりを利点と思わせることで敵兵達の心を揺さぶるのである。

④地位や境遇が良くなる真心のある法規や決まりによって恐れ震える敵兵達を導く間者は、高貴な地位を装って、住居と富と食糧が得られると説くのであり、間者が提示した条件に対して都合が良いならばその敵兵達は戦うことを止めるのである。
其十1-4
①軍隊を赴かせて留めることはできても、元の場所に戻ることを実行しにくければ、移動しづらい障害物があって敵部隊を謀り取りやすい戦地の型「挂」と名付ける。

②移動しづらい障害物があって敵部隊を謀り取りやすい戦地の型「挂」であれば、敵軍を赴かせて留めさせた時、奇策部隊が武力で攻め取って敵国から自国に寝返らせることができるのである。

③戦地の型「挂」に適合すると見なせば、敵軍を戦地の型「挂」に送り届けた後に「気にかかる」と言わせるのであり、元の場所に戻ろうとすれば奇策部隊が武力で攻め取るのである。

④気にかかると敵軍に言わせる時は、敵をなじって去ってしまう兵士を利点として足止めするのであり、それによって元の場所に戻らせるのである。
其十1-5
①移動しづらい障害物があって敵部隊を謀り取りやすい戦地の型「挂」をお手本にする将軍は、敵軍が用心すること無く戦地の型「挂」から元の場所に戻ろうとするならば奇策部隊にその敵軍を打ち破らせるのである。仮に敵軍が警戒心を持って戦地の型「挂」から元の場所に戻るならばその敵軍は打ち破らないのであり、その敵軍を打ち破ることが難しい理由は、戦地の型「挂」から元の場所に戻る敵兵達の士気が大いに旺盛で切れ味の鋭い武器になっているからである。

②将軍が戦地の型「挂」で策を立てる時は、敵軍に無視させた謀り取る奇策部隊を整え治めてあまねく行き渡らせ、その敵軍を既に滅ぼされた状態に至らせるのである。仮に敵軍が警戒心を持っているならば、策を立てた将軍は奇策部隊を大いに忍ばせておくのであり、その敵軍を留めることは難しいと考えて戦地の型「挂」から元の場所に戻らせた方が大いに都合が良いのである。

③敵軍に無視させることに成功した奇策部隊は、敵兵達に警戒心を無くさせて、残らず戦地の型「挂」に到達させるのである。奇策部隊の士気が旺盛で切れ味の鋭い武器になっているならば、歯向かうことを選択する敵兵が現れても、ことごとくその敵兵を大いに打ち破ることができるのであり、恐れをなして歯向かうことを止めれば敵国から自国に寝返らせるのである。

④警戒心に無くした敵軍の気を引くことに成功する兵士は、用心しながら現れても攻撃すること無く身を隠すのである。その敵軍が素直に従えば大いに打ち破ることができるのであり、捕虜にした敵兵達は敵国との関係を断ち切らせて自軍に編制するのである。自国に寝返ることを拒む敵兵が存在すれば、大いなる礼物を使って敵国から自国に寝返らせるのである。
其十1-6
①自軍を分断するならば都合が悪くなり、敵軍を分断した時は自軍が大いに利点を得るならば、枝分かれして敵軍を分断できる戦地の型「支」と名付ける。

②枝分かれして敵軍を分断できる戦地の型「支」であれば、将軍が大いに巡り合わせ良くおとり部隊を出現させた時、敵将軍は「大いに都合が良い」と言って敵軍を分断するのである。

③将軍は、敵軍から分断させた敵部隊が出現すれば、「大いに持ち堪えろ」と言って、おとり部隊を使って誘うのであり、そして、大いに士気が旺盛で切れ味の鋭い武器になっている奇策部隊を出現させるのである。

④生きたまま敵を取得する間者は、「大いなる富を分け与える」と言って、攻め取った敵兵達を自国に寝返らせるのであり、大いなる富で誘えば我を張って自軍から離反する元敵兵は存在しないのである。
其十1-7
①枝分かれして敵軍を分断できる戦地の型「支」をお手本にする将軍は、たとえ敵軍が自軍に対しておとり部隊を使って誘ったとしても、しかしながら自軍を分断することは無いだろう。

②敵軍がただおとり部隊を使って誘うにすぎなければ、戦地の型「支」で自軍を整え治める将軍は、我を張ること無く、策を立てるのである。

③策を立てることを蔑ろにして自説にしがみつけば、敵軍がただおとり部隊を使って誘うにすぎなくても、自軍を分断して兵士達を死なせる将軍である。

④策を立てる将軍は、敵軍に自軍を侮らせて自説にしがみつかせるのである。巡り合わせ良く自軍のおとり部隊を出現させれば、敵軍からおとり部隊が出現していたとしても、しかしながら、そのおとり部隊を分断することに成功するだろう。
其十1-8
①敵部隊を引き寄せても一定の距離を保ち続けるおとり部隊は、敵軍から一部隊を出撃させて、巧みに孤立させた状態にするのである。

②敵軍から出撃させた一部隊は、孤立させれば引き寄せることができるのである。自軍のおとり部隊は、その敵部隊を不完全に攻撃して離れて、攻められる状態に変わるのであり、劣勢を装って誘うである。

③攻められる状態に変わって劣勢を装って敵部隊を誘うことができれば、その敵部隊を取り囲んだ状態をつくって、奇策部隊の間者が号令した時に出現するのであり、弓を引き絞る奇策部隊は武力でその敵部隊を傷つけるのである。

④獲物となった敵部隊を取り囲んだ状態をつくって攻撃すれば、士気が旺盛で切れ味の鋭い武器になっている奇策部隊は容易く打ち破ることができるのであり、食糧と真心のある法規や決まりを使えば、離反させて自国に服従させることができるのである。
其十1-9
①狭い場所で敵軍を苦しめる戦地の型「隘」で軍隊を整え治める将軍は、先制して自軍を到達させて占拠させるのであり、必ず敵部隊を攻め取る奇策部隊を充満させて敵軍を待ち受けるのである。

②敵軍が、狭い場所で敵軍を苦しめる戦地の型「隘」に至れば、必ず隊列を長細くして対応しなければならず、先制して自軍を到達させて占拠させておけば、敵軍の行く手を阻むことに成功するのである。

③戦地の型「隘」で敵軍の行く手を阻むことに成功する将軍は、戦地の型「隘」を占拠している自軍に勢いを蓄積させることを第一にするのであり、軍隊の勢いが旺盛になって自軍の有利を確固たるものにすれば、攻撃されると考える敵軍は隊列を長細くした状態で対応するのである。

④隊列を長細くした状態で勢いが旺盛になった自軍に対応する敵軍は、逃亡することを肯定する敵兵達が出現する状態に至るのであり、先制して戦地の型「隘」にいる奇策部隊が出現した時、逃亡した敵兵達を敵軍から引き離すことに成功するのである。
其十1-10
①仮に敵軍が先制して戦地の型「隘」を占拠して軍隊の勢いが旺盛であれば隊列を長細くした状態で対応してはならず、軍隊の勢いが旺盛でなければ生きたまま敵を取得する間者を使うのである。

②このような敵軍の先鋒は、自軍を誘導して奇策部隊を出撃させる戦術を心に抱くのであり、自軍は追撃してはならない。追撃すれば、敵の奇策部隊が出撃した時、自軍の隊列は長細くなっているのである。

③敵先鋒の誘導に素直に従えば、敵軍が奇策部隊を出撃させて追撃した自軍の兵士達を攻め取って兵士数を増やすのであり、将軍は敵の好きにさせてはならない。敵軍が大いに優勢になれば、将軍は、敵将軍の要求を聞き入れることになるだろう。

④このような敵軍が出現した時、将軍は、敵先鋒の誘導に素直に従うこと無く、その場に自軍を留めて敵将軍を驕った状態に至らせることを第一にするのである。そして、敵将軍が驕った状態に変われば、生きたまま敵を取得する間者を大いに充満させるのである。
其十1-11
①地勢が険しく堅固に守れる戦地の型「険」で軍隊を整え治める将軍は、先制して自軍を到達させて占拠させるのであり、必ず見通しの良い高い所を採用して自軍を配置し、敵軍を待ち受けるのである。

②先制して自軍を到達させて戦地の型「険」を占拠すれば、敵軍を危険で交通困難な難所に配置させることに成功するのである。正攻法部隊は必ず高い所に配置して、その上、防御するのである。

③攻撃を留めて防御する正攻法部隊は、軍隊の勢いを蓄積して盛大にして自軍の有利を確固たるものにするのであり、将軍は事前に、難所で間者が隠れる場所をお手本にする奇策部隊を戦地の型「険」に赴かせて配置するのである。

④難所で間者が隠れる場所をお手本にする奇策部隊は、我を張って前進する敵部隊が通過したその後に攻撃を決行するのである。攻め取った敵兵達を敬ってもてなして、正攻法部隊で採用すれば自軍は兵士数を増やすのである。
其十1-12
①仮に敵軍が先制して戦地の型「険」を占拠して自軍に向けて弓を引き絞るならば、自軍をその場から離れさせてはならない、敵の奇策部隊が出現するのである。

②このような敵軍は、事前に奇策部隊を配置するのであり、自軍に無視させるに至れば、自軍に向けて弓を引き絞ることでその場から離れさせて、奇策部隊が隠れている場所に自軍を引き寄せようとするのである。

③このような敵軍は、引き寄せた自軍の兵士達を武力で傷つけることを第一にするのであり、攻め取った兵士が反抗的な態度を取っても改心させることが無いまま兵士数を増やして敵軍で働かせるのである。

④このような敵軍が出現した時、敵の奇策部隊に仕事をさせてはならない。ほとんど攻撃するように前進すれば、自軍に向けて弓を引き絞る敵部隊に「死ぬ」と思わせて退避させることができるのである。
其十1-13
①遠く離れていて敵部隊を寝返らせるべき戦地の型「遠」で軍隊を整え治める将軍は、敵軍が出現した状況を認めた時、敵軍の兵士数と同等まで自軍の兵士数を整えるのであり、けしかけた自軍を前進させて敵兵達を恐れ震えさせるのである。軍隊の勢いで優劣を争う将軍は、兵士達の士気を大いに旺盛で切れ味の鋭い武器にするのである。

②兵士達の士気を大いに旺盛で切れ味の鋭い武器にして、軍隊の勢いで優劣を争う将軍は、敵軍に回避させる木石の道理をお手本にするのであり、軍隊の勢いを比較して危機と見なして恐れ震えている敵兵達を、敵軍から逃亡させるのである。

③敵軍に回避させるお手本が成功すれば、羊の集まりを導くように逃亡させた敵兵達を動かして奇策部隊に攻め取らせるのであり、将軍は大いなる富によって攻め取った敵兵達の心を揺さぶるのであり、自国に寝返った敵兵達を自軍に調和させて軍隊規模を大きくするのである。

④軍隊規模を大きくした将軍は、敵将軍に軍隊規模を比較させて戦争を止めるように誘って、敵軍を撤退させることに成功するのである。将軍は大いなる権勢によって敵将軍を恐れ震えさせたのである。
其十1-14
①これら六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教えにおける要旨は、間者が隠れて出現する場所を使う技術である。周到に行き届いた将軍は、間者が隠れて出現する場所を使う技術を大いなる利点として使うのであり、大いに考察するのである。

②これら奇策部隊の間者は全て、ひたすら技術を指導した上で使うのである。将軍は、奇策部隊の間者を十分に調べてから選任しなければならないのであり、厚く信用して間者が隠れて出現する場所に配置するのである。

③平凡な将軍は、これら六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教えを語っても、戦地に到達した時、奇策部隊が出撃する場所と時機を識別できない存在である。その将軍は、間者が隠れて出現する場所を使う技術を大いなる利点として考察したことが無く、奇策部隊の間者の思い通りにさせることになるのである。

④戦地に赴く軍隊は全て、戦地の型「遠」を経由するのである。周到に行き届いた将軍は五種類の間者を大いに使うのであり、自軍の利点について大いに調査させるのである。
其十2-1
①軍事の災いには、兵士達が走って逃げる災い「走」が存在し、兵士達の緊張感が緩む災い「弛」が存在し、兵士達を窮地に追い込む災い「陥」が存在し、軍隊がばらばらになる災い「崩」が存在し、軍隊が秩序を失う災い「乱」が存在し、兵士が自国を裏切る災い「北」が存在する。

②軍隊が衰えた時は走って逃げる兵士達が出現するのである。隊長が兵士達と親しく交流すれば、緊張感が緩む兵士達が出現するのである。軍隊がばらばらになれば、窮地に追い込まれる兵士達が出現するのである。軍隊が秩序を失えば、その兵士達を落ち着かせようとしても自国を裏切る兵士が出現するのである。

③走って逃げる兵士が出現すれば、敵軍に寝返って災いするのである。兵士達と親しく交流する隊長が存在すれば、軍隊を治める任務がいい加減になるのである。ばらばらになった各部隊は兵士数が不足して脆いのであり、敵軍に攻め取られるのである。攻め取られて自国を裏切る兵士達は、自軍を掻き乱す存在となるのである。

④自軍を衰えさせようとする敵軍が出現しても、有り余る兵士達を備えた堅固な軍隊によって追い払うのである。兵士達と親しく交流する隊長は解任するのである。敵里等を攻め落として統治すれば、兵士数が不足して衰えた部隊は再び兵士を手に入れるのである。敵兵達を取得する将軍は、秩序を乱す者が存在すれば区別して管理するのである。
其十2-2
①これら六種類の災いの型「走、弛、陥、崩、乱、北」の教えにおける要旨は、自然界の状態が変わった自然災害ではなく、将軍の罪である。

②六種類の災いを起こす者を将軍にすることが罪であり、六種類の災いの型「走、弛、陥、崩、乱、北」の教えを非難する平凡な将軍は、戦地に至った時、戦術の失敗による不幸が生じるのである。

③このような平凡な将軍は、敵の奇策部隊が出撃する場所と時機を識別できない存在であり、戦術の失敗による不幸があれば、その兵士達をひらすら非難するのである。士気が緩んで軍隊の勢いがなまっている自軍を戦地に送り届けて、敵軍にその兵士達を攻め取らせるのである。

④このような平凡な将軍は、戦術の失敗による不幸を起こした時に自国を裏切って災いを起こす存在であり、君主の悪口を言って立場を変えて自国を去り、他国の君主を訪れるのである。
其十2-3
①自軍の兵士達が敵軍との勢いを比較し、完全に殺されると見なして兵士数が十分の一に減る状況は、兵士達が走って逃げる災い「走」と名付ける。

②敵軍の兵士数と同等まで自軍の兵士数を整えて、兵士達が両軍の兵士数は等しいと認めても、勢いが極限まで達した敵軍を攻めろと言えば、走って逃げるのである。

③走って逃げた兵士達は、全て他国の兵士を増やす原因となるのであり、自軍の勢いが極限まで達した状態であれば、自軍の将軍が可愛がる者を殺せと言うのである。

④元敵人民を調和させた自軍の兵士達は、豊かにして自国に留めるのであり、お手本を使って兵士達を戦略、戦術だけに集中させて自軍の勢いが極限まで達した状態になれば、「攻めて敵軍を追い払え」と言うのである。
其十2-4
①兵士の立場が強くて役人の立場が弱い状態は、兵士達の緊張感が緩む災い「弛」と名付ける。

②役人が任務に励んでも全て軽視されれば、軍隊を治める任務がいい加減になるのである。

③軍隊を治める任務がいい加減になれば、実務を担当する優れた小役人が存在しても尽き果てるのであり、その結果、兵士達の緊張感が緩んで軍隊の勢いを削ぐのである。

④兵士達に対して「軍隊を治める任務がいい加減になれば敵に負ける」と説く者を役人にすれば、役人の立場を強くして軍隊を強化するのである。
其十2-5
①役人の立場が強くて兵士の立場が弱い状態は、兵士達を窮地に追い込む災い「陥」と名付ける。

②立場の強い役人は、脆い「虚」の状態になった自軍の兵士達に「町や砦を攻め落とせ」と言って無理にやらせるのである。

③町や砦に突入することを無理にやらせた立場の強い役人に対して、兵士達は「窮地に追い込まれて敗れた」と言うのである。

④「欠点があって脆い「虚」の状態になり、自軍は尽き果てる」と説く者を役人にすれば、兵士の立場を強くして軍隊を強化するのである。
其十2-6
①上級役人が腹を立てて感心しておらず、憤る敵軍に出くわせば戦闘を始めるが、敵将軍の有能さを理解していない将軍が存在すれば、軍隊がばらばらになる災い「崩」と名付ける。

②その将軍は、上級役人が大いなる敵将軍の有能さを知らせて「軍隊がばらばらになる」と言っても、驕った姿勢でその上級役人を叱責して大人しく従わないのであり、敵将軍と応対した時に憤れば戦闘を始めて敵軍とせめぎ合うのである。

③多くの役人は、怒らせれば大人しく従うことが無く、その将軍を酷いと思えば不安定な状態になって、自分から敵将軍に投合して自国を去るのである。たぶん、その将軍は「任に堪えないと感じて潰れた」と言うだろう。

④将軍が役人を立派であると思えば、役人達は大いに奮い立って従事するのである。仮に憤る敵軍に出くわしても、軍隊の勢いを壮大にして敵兵達を恐れ震えさせる知恵が将軍にあれば、「敵軍をばらばらにさせる有能な将軍」と称されるだろう。
其十2-7
①将軍の立場が弱くて威厳が無く、教え導く説明方法ははっきりしておらず、法規を蔑ろにする兵士を役人にして、正攻法部隊が各部隊の思うままに陣列をつくらせて入り乱れている状態は、軍隊が秩序を失う災い「乱」と名付ける。

②立場が弱くて威厳が無い将軍は、知識や技術を伝授されても道理をはっきり悟らず、兵士達から侮られて尊敬されることが無いのである。法規を蔑ろにする役人は、一般の兵士達を蔑ろにするのであり、「各部隊の陣列が入り乱れている」と申し述べるがその兵士達を捨て置くのである。その結果、軍隊が秩序を失うのである。

③兵士達から侮られて尊敬されることが無い将軍は、軍隊をきちんと整えることが無いため自軍は脆い「虚」の状態になるのであり、政治による教化を語るが物事によく通じていない。一般の兵士達を蔑ろにする役人は、人の守るべき道を無視して兵士達を死なせるのであり、戦死者を並べて「思うままに振舞って陣列を掻き乱した」と言って、濡れ衣を着せるのである。

④軍隊をきちんと整えて脆い「虚」の状態になることが無い将軍は、はっきりした説明方法で教え導いて軍隊を統治するのである。法規を蔑ろにする役人は、下級役人によって出し尽くさせるのであり、「法規に背けば軍隊が秩序を失って災いする」と言って解任するのである。
其十2-8
①将軍が、敵軍について推し測ることができず、少人数部隊によって多人数部隊と交戦し、勢いがない軍隊によって勢いがある軍隊を攻め、軍事を軽んじて精鋭部隊を選り分ける状態を、兵士が自国を裏切る災い「北」と名付ける。

②敵軍について推し測ることができない将軍は、大いに軍事力を整えた多人数部隊の敵軍が出現しても、交戦すれば敵兵は減ると考えるのである。勢いがある敵軍を侮って敵兵を殺そうと考えるのであり、揃えた精鋭部隊に「敵軍を敗走させろ」と言って、奇正の戦術を蔑ろにするのである。

③交戦すれば敵兵は減ると考える将軍は、勢いがある敵軍を挑発するがその敵軍から攻撃された時に耐えられない。わずかな攻撃によって多くの兵士達は負けると考えて硬直した状態になって殺されるのであり、「傷つけること無く、人格や能力を見定めて官職につける」と言われた前線で戦う精鋭部隊は、自国を裏切るのである。

④大いに有能な将軍は、敵群臣に両軍を比較させて自軍の勢いが劣ると考えさせた上で、敵軍を挑発して攻撃させるのである。敵軍を侮らせた状態にして、兵士を力量によって区別すること無く、兵士達の士気を旺盛にすることで自軍の勢いを切れ味の鋭い武器にした時、敵軍を硬直させて容易く打ち破るのである。そして、「敵国を裏切って自国に寝返れ」と言わせるのである。
其十2-9
①これら六種類の災い「走、弛、陥、崩、乱、北」の教えにおける要旨は、敗北に達する道理である。将軍は、自軍が敗北に達すれば責任や重みをこらえて、敗北に達する道理をお手本にして敗北した原因を考えなければならない。

②平凡な将軍は、これら六種類の災い「走、弛、陥、崩、乱、北」の教えについて語るが、敗北に達するのである。この将軍は自軍が敗北に達した時、責任や重みをこらえることができず、敗北に達する道理をお手本にして敗北した原因を考えることも無いのである。

③このような平凡な将軍は、敵軍に敗北した時に意向が変わり、自国を裏切って災いを起こす存在である。自国を裏切った将軍は、敵国に服従してもこの上なく厚く信用されることが無く、採用条件に適合しても推挙されることは無いのである。

④このような自国を裏切って災いを起こす将軍は、敵里等に赴いた時、その敵里等を破壊して支配しようとするのである。周到に行き届いた将軍は、災いを起こす将軍を大いに見抜くことができるのであり、思い通りにさせることが無いのである。
其十3-1
①六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」をお手本にする将軍は、奇正の戦術を使う時に力添えさせるのである。

②六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」において奇正の戦術を成功させた将軍は、兵士数を増やすのである。

③六種類の災い「走、弛、陥、崩、乱、北」の状態に達すれば兵士達を殺すのであり、災いとなる原因を全て取り除くのである。

④災いとなる原因を全て取り除く将軍は、兵士達をひたすら整え治めて戦争に赴くのである。
其十3-2
①敵軍について推し測って有利に戦える戦地の型を掌握すれば、地勢が険しい戦地の型「険」で堅固に守って敵軍を悩ませて、その敵軍が離れていく時に奇策部隊の間者を出現させる奇正の戦術を実行するだろう、優れた将軍は、間者が隠れて出現する場所を使う技術を役立てるのである。

②間者が隠れて出現する場所を使う技術を役立てる将軍は、敵を驚かすような奇正の戦術を行うのである。正攻法部隊を整えて敵軍より優勢になって敵軍を掌握するのであり、地勢が険しい戦地の型「険」からその敵軍を離れさせるが、奇策部隊の間者が隠れている場所に送り届けるのである。

③掌握した敵軍を奇策部隊の間者が隠れている場所に送り届けた時、危険で交通困難な難所の傍から奇策部隊の間者を出現させるのである。奇策部隊は、その敵軍が回避しようとすることを計算して阻むのであり、その敵軍が歯向かうことを計算して打ち破り、抑えて従わせるのである。

④打ち破った敵軍を抑制した時、その敵兵達を驚かすような真心のある法規や決まりと食料や金銭によって利害損得を計算させれば、悩んでもほとんどの敵兵達は自国に寝返るのである。将軍は、自国に寝返った元敵兵達を尊重して統治するのである。
其十3-3
①六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教えを理解して、軍隊の勢いで優劣を争うことに力を尽くす将軍は、自軍の有利を確固たるものにして奇策部隊に敵部隊を打ち破らせるのである。六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教えを理解していないのに、敵軍とせめぎ合うことに力を尽くす将軍は、自説にしがみついて自軍を損なうのである。

②軍隊の勢いで優劣を争う将軍が、自軍の有利を確固たるものにして奇策部隊に敵部隊を打ち破らせる時は、六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」を識別して上手く適合させるのである。敵軍とせめぎ合う将軍が、自説にしがみついて自軍を損なう時は、六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の知識を得ても、その知識を使わなかったのである。

③六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」を識別して上手く適合させる将軍は、有利に戦える場所に自軍を配置することを必ず実行して敵軍を恐れ震えさせるのである。将軍が六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の知識を得ても、その知識を使わなければ、きっと敵軍に恐れ震えて離反する兵士が出現するだろう。

④有利に戦える場所に自軍を配置することを必ず実行して敵軍を恐れ震えさせる将軍は、六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教えを上手く適合させて実践できる知恵があるのである。敵軍に恐れ震えて離反することを兵士達に決行させる将軍は、六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」の教えを上手く適合させて実践できる知恵が無いのである。
其十3-4
①敵軍を恐れ震えさせる道理を説いて自軍の勝利を断定すれば、君主は「恐れ震えることは無い」と言って、戦争の決行に同意するのである。

②敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略を実行して敵国を衰えさせた上で、軍隊の勢いで優劣を争えば敵軍を抑えると断定すれば、君主は「自軍の有利を確固たるものにして、敵軍とせめぎ合うこと無く恐れ震えさせることができる」と言うだろう。

③既に敗北した状態の敵将軍が依然として戦闘しようとするならば、「仮に戦闘したとしても、必ず恐れ震える事態に向き合うだろう」と説いて、政治上の重要な地位を保証するのである。

④それで、敵将軍の心が降参に揺れ動けば、自軍の将軍は「戦乱を免れた土地の保有を保証する意向であり、戦争を無くすことを必ず実現するために戦争に向き合うのである」と言うのである。
其十3-5
①軍隊の勢いで優劣を争うことを考えた時、自軍が優勢にならなければ、君主が「戦争を決行しろ」と言っても、将軍が戦争に同意することは無いのである。

②君主が自説にしがみついて「恐れ震えること無く、戦争しなければならない」と言えば、将軍は「戦争すれば自軍は持ち堪えられない」と説くのである。

③「どうしても戦争しろ」と言う君主は、軍隊の勢いで優劣を争う利点を蔑ろにするため自軍は持ち堪えられず、自軍の兵士達が恐れ震える道理である。

④敵国を抑える将軍が「恐れ震えることは無い」と考える時は、「軍隊の勢いで優劣を争えば、自軍の有利を確固たるものにして敵軍とせめぎ合うことは無い、同意である」と言うのである。
其十3-6
①戦争で全力を尽くすことが無いのに立派な評判を願い、自軍の兵士数を減らしても処罰を大いに免れようとして、ひたすら自分だけを守り、都合よく君主に従って意見を合致させる将軍は、自分自身を大事にして国家を維持するのである。

②自分自身を大事にして国家を維持する将軍は、必ず大いなる収入と爵位を要求するのであり、大いにへりくだって処罰を免れるのである。この将軍は、ただ全ての人民を養っているにすぎず、利益を強く求めて自分自身のために貯めるのである。

③利益を強く求めて自分自身のために貯める将軍は、敵間者の獲物となった可愛がる者を大事にして国内で匿うことを主張して、ひたすら可愛がる者だけを保護しようとするのである。将軍の可愛がる者の名前を大いに尋ね求める敵間者が出現すれば、敵間者による襲撃を大いにかわし遠ざけようとして隠れ場所に移動させる時、その可愛がる者は殺害されるのである。

④かえって、戦争で全力を尽くしても立派な評判を願うことが無く、処罰される時は免れようとせずに官職を去り、思いやりによって人民を安定させる将軍は、攻め取った元敵兵達と自国の人民達を統一して豊かにさせるのである。この将軍は、国家にとって貴重な存在である。
其十4-1
①隊長が、子供にまとわりつくように過剰に世話を焼いて兵士達を扱うならば、親しく付き従っている兵士達を率いて、わざわざ外界から遠く離れた山中の川に出かけるべきである。

②人民を可愛がる病気の隊長が、戦地の型「険」に該当する高く険しい山があることをはっきり伝えた上で山中の川を目指せば、兵士達は必ず反対するが同意して切実な様子で遠く離れた山中の川に出かけるのである。

③親しく付き従う兵士達に対して、急に若い女性を犯すように乱暴に扱って高く険しい山で兵士が死亡すれば、その死亡を皆に急ぎ知らせて死体を埋葬し、隊長は生存した仲間達と“死亡事故が起きた事実とその理由”に向き合うのである。

④生存した兵士達の存在が、隊長に罪を忘れさせず、その重みを背負わせた状態にして、人民を可愛がる病気を治すのである。「虚」に繋がる事柄に精通して出かけるようになれば、兵士達はその隊長を心から認めるのである。
其十4-2
①将軍が、我が子ように慈愛して可愛がるように溺愛して兵士を扱うならば、戦争が起こった時は、可愛がるその兵士と一緒に「死地」で敵軍に抵抗させるべきである。

②可愛がる兵士を手放せない将軍は、他の兵士達に観察させるよう厳重に警護させるが、可愛がるその兵士は戦争に向き合えば、命を投げ出す覚悟を備えて対処するのである。

③可愛がる兵士が死亡して可哀想に思えば、そこで将軍は目力が消えて無気力になって、死者に等しく変わるのであり、敵軍に利点を与えるのである。

④可愛がる兵士を死亡させて敵将軍を可哀想に思わせれば、敵将軍を死者に等しく無気力にさせて職務を行わせる状態に至るのである。可愛がる兵士を連れ立って「死地」に向き合えば、敵の目を欺いて、可愛がる者を殺害して心を痛めさせる敵将軍の戦術に対処するのである。
其十4-3
①特定の兵士を優遇して働かせることができず、可愛がって命令することができなければ、軍隊を掻き乱して統治することができない。この者に言い聞かせてもわがままに振舞う子供のようであり、将軍に任用するべきではないのである。

②この将軍はねんごろな兵士達と大いに親しくして勝手にさせて、将軍が手放せない有能な兵士には命令しないため、軍隊を正し治めようとしてもその兵士達を処罰することができない。この将軍は、その兵士達から侮られるため、素直に従わせようと言い聞かせても軍隊を治めることができないのである。

③将軍が手放せない有能な兵士を前線に出向かせることを大いに後まわしにして、そして、大いにねんごろな兵士達と打ち解けて法規を無視すれば、軍隊が秩序を失う災い「乱」となって整えることができない。素直に従っていた他の兵士達は、寵愛を受けている兵士を引き合いに出して説明するのであり、兵士達に法規を遵守させることができないのである。

④将軍が特定の兵士を優遇すること無く兵士達を前線に出向かせることができ、そして、有能な兵士を惜しむこと無く命令することができれば、軍隊を掻き乱す将軍は大いに改心して有能な将軍となるのである。将軍は、兵士達を驕らせていたことを悟り、大いに軍隊を治めることができるのである。
其十5-1
①戦地の型「険」に該当する高く険しい山に到達した時、戦地の型「険」を占拠すれば敵軍を容易く打ち破れるという知識が将軍にあっても、敵軍が攻めてこない利点によって敵軍をその場から離れさせる知恵が無ければ、自軍の正攻法部隊は、敵軍の攻撃に持ち堪えても不完全な状態となるのである。

②自軍の正攻法部隊が尽き果てて不完全な状態となった時は、奇正の戦術を行って敵兵を攻め取るべきであるという知識が将軍にあっても、敵軍から大いに獲物となる敵部隊を出現させて断ち切ることができる知恵が無ければ、有利に戦える戦地に自軍を配置していても、自軍の正攻法部隊から逃亡する部隊を出現させるのである。

③逃亡する部隊の出現を終了させる時は、褒賞を使って断ち切るという知識が将軍にあっても、敵軍から攻め取った時に歯向かう敵兵達を大いに服従させる知恵が無ければ、歯向かう元敵兵達は組織化された反乱分子となって自国へ仕返ししようとするのである。

④自国へ仕返ししようとする元敵兵達は、人民の生活を支える役人を使う利点によって仕返ししたい思いを断ち切らせるという知識が将軍にあっても、歯向かう元敵兵達を大いに心変わりさせる年貢等を免除する利点によって仕返ししたい思いを断ち切らせる知恵が無ければ、歯向かう元敵兵達は忍んだ状態で組織化された反乱分子となるのである。

⑤自国へ仕返ししようとする元敵兵達全てに仕返ししたい思いを断ち切らせる将軍は、年貢等を免除する利点を使って防ぐ知恵があるのである。人民の生活を支える役人を使って仕返ししたい思いを断ち切らせる時は、災いを起こした元敵兵達を大いに名簿を使って記録することで大いに改心させるのであり、反乱組織となった歯向かう元敵兵達を抑制するのである。

⑥大いに知恵のある将軍は、抑制した元敵兵達に対してどんどん増える収入という利点を使うことで敵国への未練を断ち切って自国に服従させるのである。災いを起こした元敵兵達は、敵軍の兵士達と対峙させること無く接点を断ち切って、防御する正攻法部隊の中隊の真ん中に配置して抑制するのである。

⑦知恵のある将軍は、災いを起こした元敵兵達を真ん中に配置した中隊全てを防御させて、攻めること無く敵軍と対峙させるのである。大いに攻撃されると感じた敵兵達は、大いに敵軍から断ち切って分断させることができるのであり、分断されて不完全になった敵兵達は既に滅びた状態となるのである。

⑧知恵のある将軍は、戦地の型「険」で防御した正攻法部隊によって、敵兵達に「自軍に殺される」と考えさせることができるのである。大いに獲物となる敵部隊を識別した奇策部隊は、分断されて不完全になった敵兵達の周囲を取り囲んで抑えることを大いなる利点とし、容易く打ち破るのである。
其十5-2
①戦地の型「険」を占拠して対峙すれば相手軍を容易く打ち破るという知識が敵将軍にあり、戦地の型「険」に該当する高く険しい山に到達した時に戦地の型「険」を占拠すれば敵軍が攻めてこない利点があると将軍が理解してなければ、敵軍に戦地の型「険」を占拠されて自軍は不完全な状態になるのである。

②不完全な状態となった相手軍は断ち切って分断させることができるという知識が敵将軍にあり、戦地の型「険」から離れる時は敵軍に奇正の戦術を行うことを許して大いに自軍の兵士達を攻め取られると将軍が理解してなければ、隠れている敵の奇策部隊が出現して、本軍から分断された部隊が出現するのである。

③本軍から分断された部隊は攻め取ることができるという知識が敵将軍にあり、大いなる礼物によって兵士達は心変わりして自国との関係を断ち切って離反すると将軍が理解してなければ、本軍から分断された部隊は残らず心変わりするのである。

④心変わりして離反した兵士達は仕返ししたい思いを断ち切らせなければならないという知識が敵将軍にあり、大いなる褒美を採用すれば仕返しする覚悟を持って離反した兵士達が突き刺して敵将軍が死ぬと将軍が理解してなければ、仕返しする覚悟を持って離反した兵士達も抑制されるのである。

⑤仕返しする覚悟を持って離反した兵士達は褒美によって敵将軍を突き刺すと理解している将軍は、敵将軍を殺害すれば大いなる褒美を実行すると自軍の兵士達に知らせて大いに担ぎ上げるのであり、攻め取られた兵士達に心変わりしたと装わせるのである。

⑥大いに知恵のある将軍は、敵将軍が礼物を使って攻め取った兵士達を離反させようとすることを理解して、尽き果てることが無くどんどん増える自国の収入という利点を採用することで一度切りの礼物を上回るのであり、心変わりしたと装う兵士達が離反させられることを防ぐのである。

⑦大いに知恵のある将軍は、敵将軍が心変わりしたと装う兵士達を中隊の真ん中に配置して自軍と対峙することを理解して、急にその兵士達の態度を変えさせて敵中隊の行動を妨害させることを大いなる利点とし、それによって隠れている奇策部隊によって敵軍を分断させるのであり、獲物となった敵部隊を出現させるのである。

⑧大いに知恵のある将軍は、隠れていた奇策部隊に獲物となった敵部隊の周囲を取り囲ませて、「敵将軍は獲物となる部隊を差し出して見捨てた」と知らせるのであり、自軍の兵士になることに同意であれば殺害すること無く採用するのである。
其十5-3
①戦地の型「険」によって相手軍を容易く打ち破ることができると敵将軍が理解しており、戦地の型「険」に該当する高く険しい山に到達した時に戦地の型「険」を占拠すれば相手軍を容易く打ち破ることができると自軍の将軍も理解しているならば、大いに戦地の型「険」のお手本を理解して、直面している状況に大いに適合させた側の将軍が羊の集まりを導くように相手軍を動かすのであり、相手軍は持ち堪えようとするが本軍から分断された部隊が出現するのである。

②本軍から分断された部隊は攻め取ることができると敵将軍が理解しており、敵軍が戦地の型「険」から離れる時に奇正の戦術を行えば本軍から分断された部隊を攻め取ることができると自軍の将軍も理解しているならば、大いに兵士達を管理してひたすら軍隊を整え治めた側の将軍が相手軍による奇正の戦術の実行を許すことが無いのであり、奇策部隊の任務を失敗させて相手軍を恐れ震えさせるのである。

③奇正の戦術を行った時は攻め取った兵士達を離反させることができると敵将軍が理解しており、礼物によって兵士達は心変わりして自国との関係を断ち切って離反すると自軍の将軍も理解しているならば、国土を豊かに整え治めて人民を管理している側の将軍が大いなる礼物や収入を使って攻め取った兵士達の心を揺さぶるのであり、相手国の中途半端な礼物や収入を上回るのである。

④礼物によって離反した兵士達は褒美によって相手の将軍を殺害すると敵将軍が理解しており、褒美を使えば本軍から分断された部隊が攻め取られてもその兵士達が突き刺して敵将軍が死ぬと自軍の将軍も理解しているならば、大いなる褒美を採用することで誅殺する武将の地位を競わせた側の将軍が攻め取られても将軍殺害を狙う兵士達の人数を盛大にするのであり、格式の高い家柄になると感じさせて相手の将軍を殺害させるのである。

⑤攻め取られても将軍殺害を狙う兵士達はその思いを断ち切らせなければならないと敵将軍が理解しており、攻め取られても将軍殺害を狙う兵士達が存在すれば人民の生活を支える役人を使って年貢等を免除する利点を実行してその思いを断ち切らせなければならないと自軍の将軍も理解しているならば、その兵士達を町、村、里、集落に封じて扶養しながら自国の人民と交流させて整え治めた側の将軍が殺害実行を許すこと無く豊かさを競わせるのであり、町、村、里、集落の真ん中で繁栄すれば心変わりして将軍殺害の思いが消えるのである。

⑥将軍殺害を狙う兵士達が繁栄すればその思いを断ち切らせることができると敵将軍が理解しており、人民の生活を支える役人を使って将軍殺害を狙う兵士達が繁栄すればその思いを断ち切らせることができると自軍の将軍も理解しているならば、ひたすら鞭打つ処罰を行うこと無く軍隊を治める側の将軍が、真心が足りない相手国の法規や決まりと比して優れた、大いに真心のある法規や決まりを採用して兵士数を競うのである。

⑦真心のある法規や決まりによって相手国から兵士を奪い取ることができると敵将軍が理解しており、大いに真心のある法規や決まりを採用すれば相手国の人民や奴隷が降伏してきて相手国から兵士を奪い取ることができると自軍の将軍も理解しているならば、国土内に真心のある法規や決まりを知らせることに大いに成功した側の将軍が大いに兵士を採用することができて兵士数が凌駕するのであり、戦地の型「険」のお手本を使えば、羊の集まりを導くように相手軍を動かして本軍から分断された部隊を出現させるのである。

⑧本軍から分断された部隊を出現させれば攻め取ることができると敵将軍が理解していても、大いに知恵のある将軍は戦地の型「険」に該当する高く険しい山によって防御するのであり、兵士数が凌駕した軍隊で対峙すれば「自軍に殺される」と敵兵達に考えさせることを理解しているのである。ひたすら兵士数が凌駕した軍隊を整え治めれば、敵軍による奇正の戦術の実行を許すことが無く、敵兵達を恐れ震えさせるのであり、敵本軍から分断された部隊を出現させた時、自軍の奇策部隊が出現してその敵部隊を打ち破るのである。
其十5-4
①道理を理解して軍事を行う将軍が、軍隊を動かし始めれば敵軍に危険を感じさせて大いに正しい判断ができないようにするのであり、奇策部隊を出現させれば獲物となった敵部隊を大いに行き詰まらせるのである。

②軍隊を動かし始めれば敵軍に危険を感じさせる将軍は、直面している状況を識別して軍事を行うのであり、是非の判断ができなくなることが無いのである。この将軍は、奇正の戦術を大いに詳しく研究し尽くすのである。

③直面している状況を識別する将軍は、任務以外に心が奪われること無く、兵士達を働かせることができるのである。この将軍が詳しく研究し尽くした奇正の戦術は、敵軍を大いに当惑させるのである。

④兵士達を任務に集中させて働かせる将軍は、兵士達に奇正の戦術について覚えさせて専念させるのであり、この将軍は質問することで正しく記憶していない兵士を無くすのである。

⑤大いに兵士達を奇正の戦術に専念させる将軍が、軍隊を動かし始めれば敵軍に危険を感じさせることができるのであり、「死ぬ」と感じさせた敵兵達を大いに行き詰まらせた時、その敵兵達を攻め取ることができるのである。

⑥敵部隊を攻め取る奇策部隊は過去の戦術事例を記憶するのであり、敵軍が正しい判断できないようにして大いに任務を遂行することができるのであり、その上、奇策部隊の出現は尽き果てることが無いのである。

⑦尽き果てること無く出現する奇策部隊は、火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していき、敵部隊を大いに逃げることだけに集中する動物のようにした時、必ず出現するのである。

⑧奇正の戦術によって出現した奇策部隊が、逃げることだけに集中した敵部隊を大いに驚かすことができた時、その敵部隊を武力で傷つけるのであり、大いに尽き果てさせて攻め取るのである。
其十5-5
①だから、表面的な知識を自分の知恵にすれば、優れた将軍となって危険が迫らないのである、と説く。

②かえって、表面的な知識を自分の知恵にすることを怠ける将軍は、優れた将軍となることが無い、と説く。

③知識を知恵にすることを大いに怠ける将軍が、表面的な知識によって戦略、戦術を説くならば、自分は優れていると感じているのである。

④自分は優れていると感じている将軍は、疑惑が解けない状況と感じても実態を掴むことが無く、兵士達を死亡させるのである。

⑤疑惑が解けない状況と感じても実態を掴むことが無い将軍は、兵士達を死亡させた時は「私の見解では自軍が優勢だった」と言うのであり、その見解に対して疑わしいと感じる者が存在しても、実態を掴ませようとしないのである。

⑥その疑わしい見解について実態を掴ませようとしない将軍は、多分、「自軍が優勢だった」という見解を忍ばせて、「災いが起こった」と言い訳するだろう。

⑦この将軍が「災いが起こった」と言い訳すれば、将軍の知恵の無さを明らかにする理解者は、疑惑が解けなくても話し合いで大いに説き伏せるのであり、自分自身の実態を掴ませて知恵の無さを理解させるのである。

⑧将軍の知恵の無さを明らかにする理解者は、「知識を得ても上辺だけだった将軍の罪である」と説くのであり、知識を知恵にすることを怠けることが無くなって、そうしてはじめて優れた将軍となるのである。
其十5-6
①自然の摂理を理解して、場所について理解して、兵士数を盛大にして、そうしてはじめて行き詰まることが無いのである。

②大いに行き詰まる将軍は、家柄を覚えるのであり、仰ぎ頼る家柄を識別して担ぎ上げるのである。

③仰ぎ頼る家柄を担ぎ上げる将軍は、終わること無く、ひたすら仰ぎ頼る家柄を接待して交流するのである。

④ひたすら仰ぎ頼る家柄を接待して交流する将軍は、大いに優美に過ごして志を得ることが無く、占い師を理解者とするのである。

⑤占い師は、有利に戦える場所となる戦地を将軍に知らせるが、大いに行き詰まるのである。

⑥行き詰まることが無い将軍は、将軍の知恵の無さを明らかにする理解者を仰ぎ頼る存在にして、有利に戦える場所となる戦地を識別するのである。

⑦有利に戦える場所となる戦地を識別する将軍は、有利に戦える場所について大いに詳しく研究し尽くすのであり、自然の摂理に基づいて奇正の戦術を行う知恵があるのである。

⑧自然の摂理に基づいて奇正の戦術を行う知恵があり、有利に戦える場所となる戦地を識別すれば、自軍が優勢になって行き詰まることが無いのである。