孫子兵法 火攻篇の解読文だけを読む

火攻篇では、戦術的に仕掛ける五種類の火災(巧みに仕掛ける火災)について説かれています。この巧みに仕掛ける火災を利用した奇正の戦術のやり方や、間者の任務を補助する教えがまとめられており、虚実の「実」の状態にある敵を「虚」に追い込む方法がよくわかります。そして、終盤では全篇のまとめとしつつ、特に国家統治に関する心得が説かれています。

其十三1-1
孫先生が言うには、

①一般的に巧みに仕掛ける火災には五種類存在する。

②平凡な将軍は、怒りによって何度も武力で相手を撃とうとするのである。

③概略は、勢いを生じさせた堅固な「実」の軍隊にして、火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していき、生きたまま敵を取得する間者の奇策部隊を出現させるのである。

④要旨は、火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していった時、生きたまま敵を取得する間者の奇策部隊が、誘導されてきた敵を武力で撃って手に入れるのである。
其十三1-2
①五種類ある巧みに仕掛ける火災とは、第一に俗世間に火事を起こすことであり、第二に諸侯との同盟文書を燃やすことであり、第三に武器や食糧などを運ぶ荷車を燃やすことであり、第四に物品や金銭を蓄えておく建物や場所に火事を起こすことであり、第五に谷あいの険しい道に火事を起こすことである。

②敵里等の敵兵達が自軍への抵抗だけに集中している状態であれば、俗世間に火事を起こすのである。同盟した諸侯に信用できない汚れた言動があれば、同盟文書を燃やすのである。敵軍に武器や食糧などを補給する荷車が出現すれば、何度もその荷車を燃やすのである。敵軍が四種類の場所「高くそびえた山、高くて平坦な土地、河川、乾燥地」にいて物品や金銭を蓄えておく建物や場所があれば、その建物や場所に火事を起こすのである。険しい場所に集落があれば、奇策部隊の間者が、その近辺にある谷あいの険しい道で火事を起こすのである。

③俗世間に火事を起こすことで、純粋な敵兵達は怒って判断力を失うのである。諸侯との同盟文書を燃やすことで、信用できない汚れた言動をする諸侯は、怒って立場を変えるのである。武器や食糧などを運ぶ荷車を燃やすことで、敵将軍が怒って武器や食糧などを補給する荷車を出現させるのは軍隊行動の必然性である。物品や金銭を蓄えておく建物や場所に火事を起こすことで、敵将軍を怒らせて管理者である若い軽戦車の操縦士達を牢に入れさせれば、敵軍を思うままに操ったのである。谷あいの険しい道に火事を起こすことで、通過しようとした敵部隊に進路と逃げ道を失わせた時、急に奇策部隊の間者が出現するのである。

④純粋な敵兵達が怒って判断力を失った時、自軍が突入するのであり、火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していき、奇策部隊の隠れている場所だけに逃げ道を集中させるのである。同盟した諸侯に信用できない汚れた言動があった時は、自国側から立場を変えるのであり、その諸侯を水没させるように周辺諸国で取り囲んだ状態で同盟文書を燃やすのである。敵将軍に軍隊行動の必然性がある時は、何度も荷車を燃やせば、何度も敵軍に武器や食糧などを補給する荷車を出現させた結果、物品や金銭を蓄えておく建物や場所から蓄えを消すのである。敵軍が四種類の場所「高くそびえた山、高くて平坦な土地、河川、乾燥地」にいても、敵軍を思うままに操るからこそ火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していくのであり、通過しようとした敵部隊から進路と逃げ道を失わせるからこそ奇策部隊の間者が戦意を失わせるのである。
其十三1-3
①俗世間に火事を起こす時は、敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者を頼みとするのである。そこで、日頃から巧みに仕掛ける火災の準備をしておいて決行するのである。

②火災が広まる時は、広まる原因を備えているのであり、火災に利用する道具は必ず探求しなければならないのである。

③火災に利用する道具を手に入れて、巧みに仕掛ける火災を実行する時は、必ず前もって実行の合図を間者に伝えなければならないのである。

④敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者は、火災に利用する道具と、実行の合図となる手紙を一緒に燃やすのであり、巧みに仕掛ける火災を決行すれば、その場から去ってゆくのである。
其十三1-4
①俗世間に火事を起こす時は、その機会を狙って命令を出すのであり、火が上がって燃えることを援助する好機が存在するのである。

②火が上がって燃えることを援助する好機と見なせば、火災を発生させるのであり、その時、自軍が出現して、火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していくのである。

③火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していけば、獲物となる敵部隊が出現するのである。攻め取る節目となった敵部隊に、攻め取る時機が出現すれば、奇策部隊が急に出現するのである。

④急に出現した奇策部隊が、攻め取る節目となった敵部隊を攻め取った時は、怒りで顔色が火のように赤くなった敵兵達を助けて回復させるのであり、真心のある法規や決まりを適用すれば、その敵兵達は日を追うごとに自国に親しむだろう。
其十三1-5
①火が上がって燃えることを援助する好機とは、天気の乾燥した状態である。

②火が上がって燃えることを援助する好機を狙う将軍は、自然にある植物を乾燥させて、火災を仕掛ける道具として使わせるのである。

③自然にある植物は、昼間に並べておけば乾燥させるのである。

④不自然な植物伐採や人為的な火事によって、敵人民に自然の摂理による災いを心配させたならば、新たに植物を栽培するのである。
其十三1-6
①火が上がって燃えることを援助する好機について吉凶や縁起を占う将軍は、毎月の箕・壁・翼・軫といった二十八宿の占いに依存するのである。一般的に、この四種類の日は、風が発生する日になるのである。

②巧みに仕掛ける火災の準備をする間者は、毎日、竹や縄で作られた農具、民家等の木製の壁、木製の舟、木製の車を観察するのである。風が発生した好機に、あらゆる範囲でこの四種類の道具を使うのである。

③巧みに仕掛ける火災の準備をする間者は、毎日観察した敵の実情を自軍の陣営に届けるのであり、将軍が考えている計画を変えることを補佐するのである。この間者が、敵里等の人民に対して将軍の良い噂を流せば、日を追う毎に啓発するのである。

④巧みに仕掛ける火災の準備をする間者が、風が発生した好機に火災を発生させた時、正攻法部隊がその敵里等に突入すれば、奇策部隊は正攻法部隊の両翼から進路をねじり変えて、民家等の壁にある竹や縄で作られた農具の隙間に隠れるのである。このような将軍は、散り散りに駆け逃げる敵里等の人民や兵士達を思うままに操るのである。
其十三2-1
①お手本は、敵里等の内部で巧みに仕掛けた火災を生じさせた時、すぐさま正攻法部隊が敵里等の外側から内部に突入するのである。

②将軍の良い噂に共鳴する敵人民が出現すれば、戦闘になれば自軍に寝返る間者として任用することをお手本にするのであり、敵里等の内部で火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく時、自軍の間者という立場を明らかにさせるのである。

③火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく時、散り散りに逃げようとする獲物の敵兵達を敵里等の外側に進ませるのは道理である。自軍に寝返る間者が戦闘になれば立場を変えて、逃亡させないように対処するのである。

④獲物の敵兵達は、親しい人が自軍の間者という立場を明らかにした時は怒るのが道理である。怒った獲物の敵兵達が、自軍に寝返った間者から離れた時、呼応して奇策部隊が出現するのである。
其十三2-2
①敵里等の内部で巧みに仕掛けた火災を生じさせた時、敵部隊が落ち着き安定して兵士達が平穏であるならば奇策部隊は武力で撃ってはならない、頂点に達していた敵兵達の怒りは消えたのである。隊列の型や陣形の型をきちんと整えた敵部隊を奇策部隊に撃たせない将軍は、この敵部隊におとり部隊を追わせるのであり、大いに追わせることができれば奇策部隊に至らせるのである。

②火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導しても、落ち着き安定している敵部隊が出現すれば、終わること無く火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込むのであり、その敵部隊を疲れ果てさせた時に奇策部隊が武力で撃つのである。この敵部隊のするに任せて攻撃を受けた時におとり部隊が動き出して獲物に変えることができた時、大いにおとり部隊を追わせて疲れ果てさせることができれば、その敵部隊を捕らえるのである。

③急に出現した奇策部隊は、獲物となった敵部隊の周囲を取り囲むため、殺害すること無く武力で撃つことができるのであり、その敵兵達が怒りの感情を露わにすれば傷つけて動けなくするのである。奇策部隊が敵部隊の周囲を取り囲んだ時、正攻法部隊が奇策部隊の周囲を取り囲んで形勢逆転のきっかけを無くすことができれば生きたまま敵を取得する間者が加わるのであり、敵国からの離反を大いに受け入れさせることができれば敵軍全体の兵士数を減らすのである。

④傷ついた敵兵達を急いで落ち着き安定させても、強制的に軍に召しだせば専念して従事することは無いのである。しかし、中隊の真ん中に配置して用い尽くせば、自軍の正攻法部隊として火災のようにどんどん攻め込むのである。元敵兵の世話役を利点として攻め取った元敵兵達を率いるのであり、大いに真心のある法規や決まりを使って道義的に正しくして自国に宿らせれば、その元敵兵達を逃亡させずに引き止めて自軍は整った隊列で広がるのである。
其十三2-3
①俗世間に火事を起こす利点を役所の外側で実行すれば、役所の中から敵役人はいなくなるだろう。機会を狙って役所の外側に火事を起こせば、役所の中にいる敵役人を散り散りに逃亡させるのである。

②役所の外側に火事を起こす利点を実行して、怒った獲物の敵役人が表に現れた時、正攻法部隊の一部隊を使って獲物の敵役人に対して矢を射れば役所から遠ざけるのであり、獲物の鳥となった敵役人は平常心を失うだろう。

③役所から遠ざけた獲物の敵役人に対して、火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していけば、隠れている奇策部隊が出現して攻め取ることができるのである。攻め取られた敵役人の心は、役所を司る敵将軍を摘発して、自国で採用されることである。

④役所において内部は燃やしてはならない。攻め取られた敵役人が摘発した敵将軍の公務は、その時の状況を示す根拠資料をこの敵役人に見つけ出させて、この二つを照合して真偽を確かめるのである。
其十三2-4
①風が低い所から高い所に向かって吹く時に巧みに仕掛ける火災を実行しても、高い所から低い所に吹く風向きに変われば、奇策部隊は武力で敵部隊を撃ってはならない。

②風が低い所から高い所に向かって吹く時に巧みに仕掛ける火災を実行して火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していけば、その敵は散り散りに駆け逃げること無く、頂上に逃げることだけに集中するが、風が高い所から低い所に吹く時は散り散りに駆け逃げるのである。

③同盟を結んだ頃は謙虚だった諸侯の態度が大きくなって同盟破棄の意見を表した時、大きくなった態度が謙虚になれば、その諸侯を咎めてはならない。

④同盟破棄の意見を表しても、その諸侯が自国を侮っている噂を耳にすれば、自国と敵対する考え方を改心させること無く、その諸侯を攻め落とすのである。
其十三2-5
①昼間の兵士達の心情は「時間が長い」であり、暮れ時の兵士達の心情は「宿営したい」である。

②「時間が長い」と思っている兵士達を同じ場所に長く留まらせれば、士気が緩んで敵を侮るのである。「宿営したい」と思っている兵士達を引き止めて働かせれば、士気が殺がれて既に敗北した状態になるのである。

③敵軍が同じ場所に長く留まっており、敵兵達の士気が緩んで自軍を侮っているならば、正攻法部隊が流動的な風のように分断して動いて、その敵兵達を散り散りに駆け逃げさせて、奇策部隊が待ち受けるのである。

④時間が長い昼間は、流動的な風のように大軍十万を分断して急いで行軍するのである。夕暮れ時には、流動的な風のように大軍十万を分断して急いで行軍することを中止して、樹木が群がった林のように集合するのである。
其十三2-6
①一般的に戦争は、五種類ある巧みに仕掛ける火災によって、敵軍を突然起こる重大事件に至らせることを理解すれば、自軍の立場を確固たるものにするのであり、巧みに仕掛ける火災のお手本の真価を認めれば、このお手本を固く守って実行するのである。

②全体として敵軍がその立場を確固たるものにしていると感じた時は、巧みに仕掛ける火災を実行して敵軍を突然起こる重大事件に至らせるのであり、その上、防御する正攻法部隊を出現させて奇正の戦術を行えば、自軍を優勢にするのである。

③奇正の戦術を行う時は、必ず、火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していくことで獲物となった敵部隊を出現させて、生きたまま敵を取得する間者が率いる奇策部隊に移り変わることを理解しなければならないのであり、あらゆる範囲に奇策部隊を配置して獲物となった敵部隊を待ち受けるのである。

④巧みに仕掛ける火災の要旨は、自軍の立場が確固たるものになって、獲物となった敵部隊が出現したと識別した時、生きたまま敵を取得する間者が率いる奇策部隊を出現させて自国に寝返らせるのであり、自国に寝返った敵兵達に対して、敵将軍が考えている戦略、戦術を要求するのである。
其十三3-1
①敵軍を衰えさせる時、巧みに仕掛ける火災によって巧みに補い助ける将軍は、物事によく通じているのである。水の流れるような勢いある突撃によって敵軍を討伐することを勧める将軍は、無理に兵士達を突撃させるのである。

②巧みに仕掛ける火災を助力に使う将軍は、昼間に自然にある植物を乾燥させて火災を仕掛ける道具をつくるのである。溢れるほど大勢の兵士達をどんどん戦地に突撃させること勧める将軍は、突撃せずに残っている兵士が存在すれば咎めるのである。

③巧みに仕掛ける火災を助力として採用する理由は、災いが生じたと敵軍にはっきり悟らせて、堅固な敵軍から獲物となる敵部隊を次々と出現させることを補い助けるからである。無理に兵士達を突撃させれば、その兵士達は敵軍に撃たれるのである。

④奇正の戦術を補佐する将軍は、巧みに仕掛ける火災を実行した時、軍隊の勢いを激しく旺盛にした堅固な軍隊を出現させるのであり、火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していき、獲物となる敵部隊を出現させるのである。奇正の戦術を実行する時は、その敵部隊を武力で撃つ奇策部隊を補い助けて、獲物となった敵部隊を水没させるように奇策部隊の周囲を正攻法部隊が取り囲めば、囲まれた敵兵達は硬直するのである。
其十三3-2
①水を流し込むような勢いある突撃を採用する利点は敵軍を断ち切って分断させることであり、巧みに仕掛ける火災を採用すれば敵軍の長所を強制的に取るのである。

②水を流し込むような勢いある突撃の利点を使って、水を染み込ませるように敵軍の中に自軍の兵士達を割り込ませていけば、敵軍の中を横切って分断させるのである。巧みに仕掛ける火災を実行すれば、敵軍は怒って平常心を失うのであり、敵軍の長所を強制的に取る利点になるのである。

③人は、河川の流れに直面すれば立ち止まって考えるのであり、火災に直面すれば考えていたことを忘れるのである。

④水の流れるような勢いある突撃は、次の展開を考えることに敵将軍の精力を注がせることができるのである。巧みに仕掛ける火災は、敵将軍の考えていた計画を強制的に取ることができるのである。
其十三3-3
①そもそも、戦闘して巧みな勝利を手にした将軍は得意になるのであり、大いに敵軍を破壊して手柄にした将軍は自他問わず兵士達を殺傷するのである。このような将軍に自軍を委任すれば、言葉が無駄に多くて「今までどおりにして変えない」と言う。

②犯罪歴があって肉体労働等に従事する兵士達は、戦闘して敵軍を打ち破れば、得意になって敵軍を武力で撃つことを求めるのであり、大いに敵兵達を傷つけて手柄を得た兵士達は邪悪な心になるのである。この兵士達を戦争で働かせれば、戦地に長く留まって自軍は消耗するのである。

③得意になって敵軍とせめぎ合うことを求める兵士達は「戦う前から敗北した状態である」と咎める者を採用してあるべき任務に従わせるのであり、敵軍を破壊しないで恐れ騒がせることを任務とするのである。奇策部隊を率いる間者に対しては「敵軍を恐れ騒がせた時、獲物となった敵部隊を攻め取って自国に寝返らせろ」と指示するのである。

④奇策部隊が攻め取った敵兵達は、大いに恩恵を施せば、自軍の任務に専念して従事する姿勢を引き出すのであり、褒美の品で力づければ、羊の集まりを導くように軍隊を動かすのである。旺盛な勢いを生じて充実した堅固な軍隊にすれば、敵軍を恐れ騒がせて権勢を墜落させるのであり、「待ち受ける国運は明らかになった」と敵将軍に説くのである。
其十三4-1
①道理とは、深く考えて使えば物事によく通じている君主になり、追求して使えば優れた将軍になるのである。

②戦略、戦術とは、道理を重要視して検討すれば兵士達の士気が旺盛で切れ味の鋭い武器となるのであり、この軍隊を統率する時、善良な将軍は戦略、戦術のお手本の通りに従うのである。

③過去の戦争事例とは、将軍の考えている戦略、戦術の計画について君主が心配しても、好ましい結果を保証するのであり、その将軍に任せるようになるのである。

④同盟を結んでいる諸侯は、諸侯と連合して全軍の権勢を掲げる過去の戦争事例を主張して自軍の勝利をはっきり悟らせれば、確かに服従させた状態に至って自軍の後を追って戦地に赴くのである。

⑤物事によく通じている将軍は、同盟を結んでいる諸侯がゆっくり進軍して到着に時間がかかるならば、使者を派遣して「自軍は衰えた」と言わせて敵将軍の計画実行を邪魔するのである。

⑥敵将軍は「これは相手軍の策略である」と言って、自軍が衰えた情報の真偽を調べて事実を公にしようとすれば、即座に和やかな雰囲気で穀物等を捧げる計画に変えるのである。

⑦敵将軍が自軍の策略を心配している間に、同盟を結んでいる諸侯が戦地に出現することで敵将軍に敗北をはっきり悟らせるのである。善良な将軍は、戦略、戦術のお手本の通りに従って、敵将軍を服従させるのである。

⑧だからこそ、物事によく通じている君主は、縄で結んで一体化するように同盟を結んでいる諸侯との協力関係を強化するのであり、戦略、戦術のお手本の通りに従う将軍は、敵軍を衰えさせることができるのである。
其十三4-2
①兵士達の士気が旺盛で切れ味の鋭い武器になっていなければ敵兵達は恐れ震えないのであり、獲物となった敵部隊でなければ奇策部隊を使わないのであり、危険でなければ大いに戦闘するのである。

②敵兵達が恐れ震えなければ、その兵士達の旺盛な士気は錯誤である。奇策部隊を使わなければ、その獲物の敵部隊は錯誤である。大いに兵士達が恐れ震えれば、危険を非難するのである。

③兵士達の旺盛な士気が錯誤であれば、軍隊を発動しても勢いは生じないのである。獲物の敵部隊が錯誤であれば、奇策部隊が力を尽くしても攻め取れないのである。正攻法部隊を整えて軍隊の勢いで優劣を争えば、危険だと非難する兵士は存在しないのである。

④軍隊に勢いが無ければ、軍隊を発動するのは正しくない。攻め取る時機になった獲物の敵部隊で無ければ、奇策部隊が力を尽くすのは正しくない。正攻法部隊を整えて無ければ、軍隊の勢いで優劣を争うのは正しくない。

⑤軍隊を発動することが正しくない時は、行動しないことを利点と考えるのである。奇策部隊が攻め取る時機として正しくない時は、奇策部隊の隠れている場所を通らないことを利点とするのである。軍隊の勢いで優劣を争うことが正しくない時は、敵軍とせめぎ合うことを大いに危険と考えるのである。

⑥行動しないことが利点と考える時、行動する兵士が出現すれば大いに非難するのである。奇策部隊の隠れている場所を通らないことを利点とする時、奇策部隊の隠れている場所を通る部隊があれば大いに非難するのである。敵軍とせめぎ合うことを大いに危険と考える時、敵軍とせめぎ合おうとする兵士が存在すれば大いに非難するのである。

⑦勝手に行動しようとする兵士を非難すれば、兵士達の心を揺さぶって士気を激しく旺盛にするのであり、軍隊に勢いが生じるのである。奇策部隊の隠れている場所を通ろうとする部隊を非難すれば、正攻法部隊の各部隊は大いに利点を従い守るのであり、攻め取る時機になった獲物の敵部隊を出現させるのである。敵軍とせめぎ合おうとする兵士を非難すれば、敵兵達に危害を与えること無く戦闘するのである。

⑧軍隊に正真正銘の勢いが生じれば、軍隊が行動し始めれば敵軍に危険を感じさせるのである。攻め取る時機になって正真正銘の獲物となった敵部隊が出現すれば、奇策部隊が力を尽くすのである。自軍が正真正銘の危険である戦地「死地」に突入する時は、敵軍とせめぎ合うのである。
其十三4-3
①君主は怒りの感情によって戦争を始めるべきではなく、将軍は穏やかな感情で戦争するべきではない。

②怒りの感情によって戦争を始めた君主は、軍事に対して大いに主張して同意させるのであり、将軍が穏やかな感情で戦争すれば兵士達が自分達の要望を願い出ることを大いに許すのである。

③君主が軍事に対して大いに主張しても、将軍の戦略を雄健な筆勢で記して、同盟を結んだ諸侯達を動員する合従策を採用することに同意させるのである。兵士達が自分達の要望を大いに願い出れば、恐れ震えて死亡事故が起こる状況を体験させることで、兵士達を改心させて要望を静めるのである。

④同盟を結んだ諸侯達を動員する合従策を実行すれば自軍の勢いが強くなり、戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理が働いて戦争が終わると大いに主張するのである。恐れ震えて死亡事故が起こる状況を体験させて、“死亡事故が起きた事実とその理由”に向き合う利点に至れば、兵士達を大いに服従させるのである。

⑤将軍が、戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理を大いに重要視すれば、合従策で編制した連合軍の権勢が敵軍を凌駕するのである。大いに服従している兵士達は、恐れ震える自分を認めて、穏やかな姿勢で敵軍に向き合うのである。

⑥連合軍の権勢が敵軍を凌駕した時、敵将軍に、戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理に至ったことを認めさせて、敵将軍を引き立て用いて敗北した敵軍を平定させるのであり、敵人民を恐れ震えさせたことを認めて栄養をつけさせるのであり、大いに国を豊かにする方法を捧げるのである。

⑦敵将軍を引き立て用いて敗北した敵軍を平定させて、大いに国を豊かにする方法を捧げれば、蓄積した富の優劣を人民同士で争うに至るのである。統治下においた敵国を栄えさせれば、元敵人民は腹を立てることを止めて、自分達の統治者となった自国の君主を大いに認めるのである。

⑧統治下においた元敵国に自軍の兵士達が駐屯して、真心ある国家事業を始めれば元敵人民はその仕事に奮い立つのであり、大いに蓄積した富の優劣を人民同士で争うのである。富の蓄積を壮大にすると元敵人民に考えさせることができれば、元敵国の統治者となった自国の君主を大いに認めさせるのであり、侵略戦争を終えるのである。
其十三4-4
①諸侯と連合することはなんと素晴らしいことか、統治下においた諸侯を豊かにさせれば自国のために力を尽くすのであり、敵将軍が大いに両軍の権勢を比較すれば敵軍は動きを止めるだろう。

②敵将軍は両軍の権勢を比較するだろう、敵将軍に手柄を保証すれば敗北した敵国を平定する役目で任用できるのであり、大いに両軍が交戦していても戦闘を中止するだろう。

③敵将軍が降服しても敵兵は自国に歯向かうだろう、真心ある国家事業を実行して国を豊かにすることを保証すれば服従させることができるのであり、自国が大いに道義的に正しい姿勢で対応すれば自国が統治する元敵国にそのまま人民を宿らせることができるだろう。

④道義的に正しい姿勢で対応することはなんと素晴らしいことか、自国及び他国のあらゆる人民を調和させれば治めることができるのであり、大いに自国の人民と元敵人民が打ち解ければ、自国の人民が統治した元敵国に定住できるだろう。

⑤自国の人民と元敵人民が打ち解けることはなんと素晴らしいことか、順調に元敵人民を管理できるのであり、大いに両国の人民が一緒に集まれば元敵人民による悪事を阻止するだろう。

⑥両国の人民が一緒に集まることはなんと素晴らしいことか、巡り合わせが良ければ両国の男女が上手く出会うのであり、大いに交接すれば子供を宿すだろう。

⑦両国の男女が交接して子供を宿すことはなんと素晴らしいことか、利益を強く求めて仕事に精を出すのであり、大いに両国の人民が結びついて共に生活するのである。

⑧両国の人民が結びついて共に生活することはなんと素晴らしいことか、人民を減らすこと無く元敵国を自国に統一できるのであり、そして国が豊かになれば自国を奉るのである。
其十三4-5
①腹を立てている人民には嬉しく思うことを告げるべきであり、自国が富を蓄積した時は愉快に思って人民の年貢等を免除するべきである。

②人民が嬉しく思うことを告げる利点は国家事業として与えた仕事に奮い立たせることであり、人民の年貢等を免除する利点は人民を愉快に思わせて栄養をつけさせることである。

③自国への仕返しを考える元敵人民は、喜ばしいことがあれば改心して仕事に奮い立つのであり、年貢等を免除する利点を実践して栄養をつけさせれば愉快に思わせるのである。

④人民が仕事に奮い立てば、結婚に関する喜ばしい政策を告げるのが良いのであり、人民が栄養をつければ、年貢等を免除する利点を実践したことを愉快に思うべきである。

⑤結婚に関する喜ばしい政策に人民が同意すれば、「奮い立つ」と答えるのであり、自国が富を蓄積する度に年貢等を免除する利点を繰り返せば人民を愉快に思わせるのである。

⑥人民が妊娠した時は国に報告させるのであり、将来、自軍の兵士数が増えて勢いを強くする利点になるのであり、愉快に思う人民は「温もりがあるこの国は素晴らしい」と人々に告げるのである。

⑦人民が妊娠を報告すればもてなすべきであり、妊婦や生まれた子供が病気であることを訴える手紙を受け取った時は、「栄養をつけさせて病気を治療する」と回答すれば、人民を愉快に思わせるのである。

⑧結婚に関する喜ばしい政策の利点があれば、人民は仕事に奮い立ってさらに妊娠するのであり、自国への仕返しを考える元敵人民は改心して穏やかになり、自国の君主や将軍は愉快に思うのである。
其十三4-6
①滅亡した国は元の状態に戻して存在させることはできず、命を失った兵士は元の状態に戻して生存させることはできない。

②滅亡した国から逃走して生き永らえた敵兵達が存在すれば、自国に仕返しすることを大いに許すのであり、敵兵達を殺害した自軍の兵士が生け捕りにされた時、仕返しすることを大いに許すのである。

③大いに自国に仕返しするべきであると心に覚えた敵兵達は諸侯が治める他国に亡命するのであり、生け捕りにしても融通性がない敵兵が存在すれば、大いに年貢等を免除して考え方を改めさせるのである。

④諸侯が治める他国に亡命すること許さなくても、自国に仕返しすることを心に覚えた元敵兵達は存在するのであり、年貢等を免除しても自国に服従しなければ、信念や理想のために命を捨てる兵士を生み出したのである。

⑤他国に亡命しようとする元敵兵達は、大いに年貢等を免除する利点を繰り返して労わって自国に封じるのであり、この信念や理想のために命を捨てる元敵兵達は自国に仕返しすることを許さずに自国内で生活させるのである。

⑥他国に亡命しようとする元敵兵達を大いに自国に封じることができれば、自国に仕返しする感情が記憶からなくなることを観察するのであり、信念や理想のために命を捨てる元敵兵達を自国内で生活させて、大いに年貢等を免除する利点を繰り返せば自国に仕返しする感情が消えるのである。

⑦元敵兵達から自国に仕返しする感情が記憶からなくなったことを観察すれば、君主に「仕返しする感情を持っていた元敵兵達は自国に服従しました」と報告するのであり、信念や理想のために命を捨てる元敵兵達が大いに自国に服従すれば、もう一度、信念や理想のために命を捨てる自国の兵士を作り出すのである。

⑧元敵兵達から自国に仕返しする感情が記憶からなくなって、年貢等を免除する利点に恩返ししようとすれば大いに国を治めて保ち続けるのであり、真心のある法規や決まりを作り出せば、大いに恩返ししようとして信念や理想のために命を捨てる自国の兵士が出現するのである。
其十三4-7
①道理をはっきり悟っている君主は真心のある法規や決まりを重んじるのであり、善良な将軍は真心のある法規や決まりを厳粛に実行して支えるのである。真心のある法規や決まりは、平穏な国家をつくる道徳規範の原理となるのである。

②罪は、真心のある法規や決まりを重んじて責任を負う者をはっきりさせれば、罪を犯した人民はへりくだって真心のある法規や決まりに従うのである。このように規律によって罪を犯した人民を落ち着かせて国を治めるである。

③悪事があれば公にして、和やかでへりくだった心情を持つ将軍を赴かせるのであり、真心のある法規や決まりの規律を重んじて悪事を解決するのである。これは悪事をなだめて国を治める方法である。

④だからこそ常日頃から、君主は、人民が平穏な国家に対して願う事柄を重んじるのであり、真心のある法規や決まりを適切な内容に改定するために努力するのである。すなわち、快適な国になったと人民に考えさせるのである。

⑤必ず真心のある法規や決まりは、人民の願う好ましい内容に改定して捧げるのであり、君主が人民の願う事柄を重んじていることを証明するのである。このように道義に従って真心のある法規や決まりを改定すれば、町、村、里、集落等は平穏である。

⑥特に、人民の願う事柄に注意して根本的な問題点をはっきり悟れば、法規や決まりの改定によって、この根本的な問題点を取り除くことができるのである。このような方法を使えば、無事に国家として維持するのである。

⑦本来、君主は恭しく振舞って国家を無事に維持することに努力するのであり、善良な将軍は、このような君主を尊敬して補佐するのである。このような国家の政権は安泰である。

⑧だから、孫先生は「賢明な君主は真心のある法規や決まりを重んじるのであり、善良な将軍は真心のある法規や決まりを厳粛に実行するのであり、これが平穏な国家をつくる思想となるのである」と言うのである。