少にして往りて来るは、軍を営む者なればなり。

其九4-8

少而往來者、營軍者也。

shǎo ér wǎng laí zhě、yíng jūn zhě yĕ。

解読文

①若者が木材等を送り届けて戻って来る理由は、敵の陣営を建造する者だからである。

②わずかな人数で印を立てて木材等の置き場所を定める者がこちらに来て過ぎ去って行くのは軍隊を統率する者がいるのである。

③昔から兵士を慰労する者は副官であり、印を立てて位置を定めて軍隊を配置する者である。

④力量が不足して死者を出した原因をつくれば、軍隊の配置について弁解する副官がいるのである。

⑤不満があって敵陣営から逃亡して自軍に帰順させる兵士が出現する要因は、軍隊を統率する副官を疑って迷うことにある。

⑥若者ならば他国からの未来ある招きに惹きつけられる者が出現し、自分が属する軍隊を謀る者が出現するのである。

⑦若者に未来を与えて帰順させる自軍の副官は、兵士の生計を立てて軍隊を編制する者である。

⑧未来ある若者が惹きつけられて軍隊に付き従う要因は、兵士を管理する副官にあるのである。
書き下し文
①少にして往(おく)りて来(きた)るは、軍を営む者なればなり。

②少なくして営する者の来(きた)りて往(ゆ)くは軍する者あるなり。

③往(いにしえ)より来(ねぎら)う者は少なり、営して軍する者なり。

④少(か)けて往(おう)ある来(らい)をなさば、軍すること営(けい)する者あるなり。

⑤少ならば而(すなわ)ち往(ゆ)きて来(きた)る者あり、軍する者に営(まど)うなればなり。

⑥少ならば而(すなわ)ち来(らい)に往(む)かう者あり、軍に営む者あるなり。

⑦少にして往(おく)りて来(きた)す者は、営みて軍する者なり。

⑧少にして而(しか)も往(む)かいて来(きた)すことは、軍を営む者なればなり。
<語句の注>
・「少」は①若者、②数がわずか、③副官、④不足する、⑤不満である、⑥若者、⑦副官、⑧若者、の意味。
・「而」は①並列の関係を表す接続詞、②順接の関係を表す接続詞、③並列の関係を表す接続詞、④順接の関係を表す接続詞、⑤⑥条件関係を表す接続詞、⑦順接の関係を表す接続詞、⑧累加の関係を表す接続詞、の意味。
・「往」は①送り届ける、②過ぎ去ってゆく、③昔、④死者、⑤逃亡する、⑥惹きつけられる、⑦贈呈する、⑧惹きつけられる、の意味。
・「来」は①②向こう側からこちら側に着く、③慰労する、④物事の原因、⑤帰順させる、⑥外国からの、招く、未来、⑦帰順させる、⑧つき従わせる、の意味。
・1つ目の「者」は①因果関係「也」に対応した置き字、②③助詞「もの」、④仮定表現の助詞、⑤⑥⑦助詞「もの」、⑧助詞「こと」、の意味。
・「営」は①建造する、②③印を立てて位置を定める、④弁解する、⑤疑い迷う、⑥謀る、⑦生計をはかる、⑧管理する、の意味。
・「軍」は①軍営、②軍を統率する、③④軍隊を配置する、⑤軍を統率する、⑥軍隊、⑦軍隊に編制する、⑧兵士、の意味。
・2つ目の「者」は①②③④⑤⑥⑦⑧助詞「もの」、の意味。
・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④断定の語気、⑤因果関係を表す助詞、⑥⑦断定の語気、⑧因果関係を表す助詞、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・「往」の“送り届ける”について、陣営を建造するために若者が送り届ける物は、力仕事となる木材、土、石等と推察できるため、「木材等を送り届ける」と補って解読。

・「来」の“向こう側からこちら側に着く”は、向こう側が敵陣営をつくる場所であり、こちら側が観察している自軍のいる場所とすれば、木材等を陣営の建造場所に運んだ後、次の木材等を取りに戻って来る状況と考察できる。結果、「戻って来る」と解読。

・「営」の“建造する”は、陣営を建造している主体者は敵と想定できるため、「敵が陣営を建造する」と補って解読。

<②について>
・「営」の“印を立てて位置を定める“は、①で若者が木材等を運んでいるため、運ばせる木材、土、石等の置き場所に印を立てていると考察できる。結果、「印を立てて木材等の置き場所を定める」と解読。

<③について>
・「来」の“慰労する”について、副官が“慰労する”相手は軍隊の兵士と想定されるため「兵士を慰労する」と補って解読。この記述で印を立てて木材等の置き場所を定める者が敵軍の副官だと特定されて、副官には兵士を慰労する仕事があることも明示される。

<④について>
・「少」の“不足する”は、話の流れから敵副官の能力、適性等と解釈できるため「(副官の)力量が不足する」と補って解読。戦争で多くの戦死者を出した時、副官が将軍に対して言い訳していると推察できる。

<⑤について>
・「往」の“逃亡する”は、話の流れから副官を信頼できずに敵軍から逃亡する兵士を指すと考察。結果、「敵陣営から逃亡する」と補って解読。

・「来」の“帰順させる”は、逃亡した兵士達を自軍に帰順させることと解釈し、「自軍に帰順させる」と解読。

<⑥について>
・「来」は“外国からの”と“招く”と“未来”の掛け言葉とし、将来有望な若者を他国(自国含む)に寝返るように画策することと解釈できる。結果、「他国からの未来ある招き」と解読した。

・「営」の“謀る”は、敵の若者が主語であるため、“謀る”を仕掛ける対象となる「軍」は若者自身が属する軍隊となる。結果、「軍に営む」で「自分が属する軍隊を謀る」と解読。

<⑦について>
・「往」の“贈呈する”は、⑥「若者ならば他国からの未来ある招きに惹きつけられる者が出現」の記述に基づき、副官に疑いを持った敵の若者に「未来を与える」と解読した。

・「営」の“生計をはかる”は、自軍の生計を計画する意味も含まれると解釈できるが、話の流れを重視して「兵士の生計を立てる」と解読した。

<⑧について>
・「少」の“若者”は、⑦「若者に未来を与えて帰順させる」に基づいて「未来ある若者」と解読。国家及び軍隊には、常に未来を担う若者が必要だからこそ他国からも若者を集めて永続的に強化していくと考察できる。

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