散じて条を達ける者は、樵を採る者なり。

其九4-7

散而條達者、樵採者也。

sǎn ér tiaó dá zhě、qiáo caì zhě yĕ。

解読文

①暇な様子で細い枝を届ける者は、薪を摘み取る者である。

②役に立たたないために薪を摘み取っている敵兵を見抜く者は、能力及び適性に応じて敵兵を分類するのである。

③気晴らししながら薪を採る敵兵から間者候補を選び出す者は、能力及び適性に応じて敵兵を分類して報告する者である。

④気晴らししながら薪を採る敵兵から間者候補を選び出せば、奇策部隊が潜み隠れる場所まで薪を採る敵兵を到達させることを進言する者がいるのである。

⑤細い枝をばら撒いて、さらに全て細長く秩序立てる者は、薪を採る敵兵を集める者である。

⑥奇策部隊が潜み隠れたならば、薪を採る仕事をやり遂げようとする敵兵が出現して、薪を採る敵兵を到達させた場所に攻め取る奇策部隊がいるのである。

⑦慎まずに薪を採る敵兵を奇策部隊が出現して攻め取り、能力及び適性を見極めて間者として選んで取得する、生きたまま敵を取得する間者が登場するのである。

⑧間者として起用した敵兵を解き放てば、敵陣営を燃やすための薪を集めさせる、寝返らせても敵と親しく交流する間者を誕生させて火攻めを成し遂げる要因となるのである。
書き下し文
①散じて条(えだ)を達(とど)ける者は、樵(しょう)を採る者なり。

②散にして樵(しょう)を採る者を達(とお)る者は条(じょう)するなり。

③散じて樵(きこり)を採る者は、条(じょう)して達(たつ)する者なり。

④散じて樵(きこり)を採らば、条(じょう)せしめること達(たつ)する者あるなり。

⑤散らして而(しか)も達(すべ)て条(すじ)なす者は、樵(きこり)を採る者なり。

⑥散じれば樵(きこ)るを達(たつ)する者あり、条(じょう)せしめて採る者あるなり。

⑦散にして樵(きこり)なる者を達(う)つ者あり、条(じょう)して採る者あるなり。

⑧散(はな)てば樵(や)くを採らせしむ者を達(お)いて条(じょう)することなればなり。
<語句の注>
・「散」は①暇なさま、②役に立たない、③④気晴らしをする、⑤ばらまく、⑥消え失せる、⑦慎まない、⑧解き放す、の意味。
・「而」は①②③④順接の関係を表す接続詞、⑤累加の関係を表す接続詞、⑥条件関係を表す接続詞、⑦順接の関係を表す接続詞、⑧条件関係を表す接続詞、の意味。
・「条」は①細い枝、②③項目に分けて列挙する、④達する、⑤秩序(すじ)、細長い形のもの、⑥達する、⑦項目に分けて列挙する、⑧達する、の意味。
・「達」は①届ける、②(物事の道理に通じて)悟る、③告げる、④推薦する、⑤全体的に、⑥志を遂げる、⑦征伐する、⑧志を遂げる、の意味。
・1つ目の「者」は①②③助詞「もの」、④仮定表現の助詞、⑤⑥⑦⑧助詞「もの」、の意味。
・「樵」は①②薪、③④⑤薪を採る人、⑥薪を採る、⑦薪を採る人、⑧燃やす、の意味。
・「採」は①②摘み取る、③④掘り出す、⑤集める、⑥掘り出す、⑦選び取る、⑦摘み取る、⑧集める、の意味。
・2つ目の「者」は①②③④⑤⑥⑦助詞「もの」、⑧助詞「こと」。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦断定の語気、⑧因果関係を表す助詞、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「散而條達者、樵採也。」と「樵採者也」の「者」がないが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・「達」は“届ける”は、火を起こす目的で薪を集めて届けると解釈できるため、「敵陣営に届ける」と補って解読。

<②について>
・「条」の“項目に分けて列挙する”の意味は分類作業と解釈し、⑦の記述で間者に起用できる敵兵を見極めているため「能力及び適性に応じて分類する」と解読した。①②の記述で、薪を採る敵兵は、敵陣営で他に任せられる仕事がなく役に立たない存在とわかる。なお、敵陣営で冷遇されているため寝返りやすく、能力及び適性を満たせば自軍の間者として起用すると考察できる。

<③について>
・「散」の“気晴らしをする”について、薪を採る敵兵が“気晴らししながら”仕事をしている理由は、敵陣営で冷遇されているためと推察できる。

・「採」の“掘り出す”は、数多くいる薪を採る敵兵の中から、能力及び適性を満たしそうな候補を選び出すことと解釈。⑦の記述で間者の採用が決まるため、この記述で選考している者は一時面接官の役割に類似する。結果、「樵を採る」で「薪を採る敵兵から間者候補を選び出す」と補って解読。

<④について>
・「条」の“達する”は、文意から薪を採る仕事で“ある場所”に達すると解釈でき、“ある場所”とは⑦で薪を採る敵兵を攻め取る記述があることから、奇策部隊が潜み隠れている場所とわかる。そのため、使役形で「奇策部隊が潜み隠れる場所まで薪を採る敵兵を到達させる」と補って解読した。

<⑤について>
・「散」の“ばらまく”は、薪を採る敵兵を誘導するための物であるため①②「条」の「細い枝をばら撒く」を補って解読。

・「細長く秩序立てる」とは、ばら撒いた細い枝は全て奇策部隊が潜み隠れている場所に繋がっていくため、細長い形になると考察できる。つまり、自軍がばら撒いた細い枝は、其五4-5①「意図的に勢いを削いだおとり部隊に心を向かわせて追わせることを必ず実行する」のおとり部隊の役割を担うと解釈できる。

<⑥について>
・「採」の“摘み取る”は、“取って”手に入れることであるため、奇策部隊の役割に合わせて「攻め取る」と解読した。

<⑦について>
・奇策部隊として薪を採る敵兵を攻め取るが、その中から間者を選び出す者は、奇策部隊に所属する其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」が担うと考察。結果、1つ目の「者」は「生きたまま敵を取得する間者」と解読。解読文⑧で反映させるが、自軍の間者になった薪を採る敵兵は、其十二2-2①「敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者」と考察できる。

・取得した敵兵から間者を選び出すと解読できる根拠は、火攻篇で間者に発火させること、火をつける材料も準備しておくことが記述されているからである。そして、⑧の解読結果から火をつける材料が採った薪であることがわかり、敵軍に所属している(と思われている)薪を採る者が集めたため疑われる心配が無いと考察できる。つまり、其九4-7は火攻めを仕掛けるための間者を取得する方法が記述されていると解釈できる。
なお、役に立たない敵兵が間者候補になる理由は、敵陣営で冷遇されているため自軍の情報を漏らす可能性が低く、仮に漏らしたとしても役立たずの進言を敵陣営の上層部が聞き入れる可能性も低いと推察。そのため、見極める能力及び適性は、敵陣営では役に立たないと評価されていること、冷遇されていること、発言に信頼性がないことと考察できる。

<⑧について>
・「散」の“解き放す”は、薪を採る敵兵から選び出した間者であるため「間者として起用した敵兵を解き放す」と補って解読。

・「樵」の“燃やす”は、間者に集めさせる薪は敵陣営を燃やす目的があるため「敵陣営を燃やす」と補って解読。

・2つ目の「者」の“助詞「もの」”は、⑦「解読の注」に基づき、其十二2-2①「敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者」と解釈。結果、「寝返らせても敵と親しく交流する間者」と解読。

・「達」の“志を遂げる”の志は、⑦「解読の注」で解説した火攻めと解釈して「火攻め」と置き換えて解読した。

・「条」の“達する”は、火攻めを成功させる意味合いであるため「火攻めを成し遂げる」と解読。

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