郷と有とする間あり、内と有とする間あり、反くも有とする間あり、有ちて死す間あり、生きながら有つ間あり。

其十二2-2

有郷閒、有内閒、有反閒、有死閒、有生閒。

yoǔ xiāng xián、yoǔ neì xián、yoǔ fǎn xián、yoǔ sǐ xián、yoǔ shēng xián。

解読文

①敵里の人民と親しく交流する間者がおり、敵組織内部と親しく交流する間者がおり、敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者がおり、敵将軍の可愛がる者を殺害する間者がおり、生きたまま敵を取得する間者がいる。

②敵里の統治に関わって敵の実情を手に入れて、敵組織内部の者に関わって敵の実情を手に入れて、仕事がない敵を寝返らせて敵の実情を手に入れて、敵将軍の可愛がる者が死ぬという情報によって可愛がる者を遠ざけようとする対策をさせて敵の実情を手に入れて、攻め取った敵兵達を治療して怪我が治れば自国で養って敵の実情を手に入れるのである。

③しばらくの間、陣地にした敵里に恩恵を享受させれば得られる敵の実情は多くなり、敵組織内部の者は妾を間に挟めば得られる敵の実情は多くなり、敵から寝返らせた者は、しばらくの間、敵国に戻せば得られる敵の実情は多くなり、可愛がる者を殺害して敵将軍を無気力にさせれば大きな利点となり、攻め取った元敵兵達にゆとりある生活をさせれば得られる敵の実情は多くなるだろう。

④敵里を陣地にすれば豊かにして、敵組織内部の者に女性への関心があれば間に妾を挟んで、仕事がない敵が存在すれば自国に寝返らせて、秘密裏に存在する敵将軍の可愛がる者は殺害して、攻め取った時に生存者が存在すれば治療して怪我を治すのである。
書き下し文
①郷と有(とも)とする間あり、内と有(とも)とする間あり、反(そむ)くも有(とも)とする間あり、有(たも)ちて死(ころ)す間あり、生きながら有(たも)つ間あり。

②郷に間(あず)かりて有(たも)ちて、内に間(あず)かりて有(たも)ちて、間なるもの反せしめて有(たも)ちて、死に間(へだ)てんとせしめて有(たも)ちて、間(い)えれば生(やしな)いて有(たも)つなり。

③間(しばら)く郷(う)けしめば有らん、内を間(まじ)えれば有らん、間(しばら)く反(かえ)せば有らん、死(ころ)して間たらしめば有らん、生かしむに間たれば有らん。

④郷を有(たも)てば間たらしめて、内有れば間(まじ)えて、間なるもの有れば反せしめて、間(ひそ)かに有るものは死(ころ)して、生有れば間(い)えしむなり。
<語句の注>
・1つ目の「有」は①親しく交わる、②手に入れる、③豊作であるさま、④占有する、の意味。
・「郷」は①②里、③享受する、④里、の意味。
・1つ目の「間」は①スパイ、②関わる、③しばらくの間、④ゆとりがあるさま、の意味。
・2つ目の「有」は①親しく交わる、②手に入れる、③豊作であるさま、④事物が存在する、の意味。
・「内」は①②内部、③妾、④女性への関心、の意味。
・2つ目の「間」は①スパイ、②関わる、③④間にはさむ、の意味。
・3つ目の「有」は①親しく交わる、②手に入れる、③豊作であるさま、④事物が存在する、の意味。
・「反」は①②裏切る、③元の所有者に戻す、②裏切る、の意味。
・3つ目の「間」は①スパイ、②仕事のないさま、③しばらくの間、④仕事のないさま、の意味。
・4つ目の「有」は①②手に入れる、③豊作であるさま、④事物が存在する、の意味。
・「死」は①死なせる、②死ぬこと、③④死なせる、の意味。
・4つ目の「間」は①スパイ、②遠ざける、③どうでもよいさま、④秘密裏に、の意味。
・5つ目の「有」は①②手に入れる、③豊作であるさま、④事物が存在する、の意味。
・「生」は①生きたまま、②生育する、③生活する、④生きている者、の意味。
・5つ目の「間」は①スパイ、②病気が治る、③ゆとりがあるさま、④病気が治る、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「有因閒、有内閒、有反閒、有死閒、有生閒。」と「郷」を「因」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「敵里の人民と親しく交流する間者」は、其十二2-7等の解釈に基づいて解読した。

・「敵組織内部と親しく交流する間者」は、其十二2-8等の解釈に基づいて解読した。

・「敵から寝返らせても敵と親しく交流する間者」は、其十二2-6等の解釈に基づいて解読した。

・「敵将軍の可愛がる者を殺害する間者」は、其十二2-5等の解釈に基づいて解読した。

・「生きたまま敵を取得する間者」は、其十二2-4等の解釈に基づいて解読した。

<②について>
・1つ目の「間」の“関わる”は、其十二2-7①「敵人民と親しむことで、思いやりを享受させて自国に上手く適合させる存在である」に基づき、敵里の統治に関わることと考察。結果、「統治に関わる」と補って解読。

・1つ目と2つ目と3つ目と4つ目の5つ目の「有」の“手に入れる”は、其十二2-1②「有」で記述された「敵の実情を手に入れる」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵の実情を手に入れる」と補って解読。

・「死」の“死ぬこと”は、其十一2-2③「敵組織内部と親しく交流する間者が「敵将軍の可愛がる者を失う」と敵組織内部の者に言わせれば、敵将軍は決まりを無視して可愛がる者が隠れる居所を定めるだろう」の教えを実行して、可愛がる者が隠れる居所等の実情を得ると解釈。結果、「敵将軍の可愛がる者が死ぬという情報」と解読。

・4つ目の「間」の“遠ざける”は、敵将軍が可愛がる者を遠ざける対策をすることと考察。結果、使役形で「可愛がる者を遠ざけようとする対策をさせる」と補って解読。

・5つ目の「間」の“病気が治る”は、奇策部隊が攻め取った時に傷ついた敵兵達を治療することと考察。結果、「攻め取った敵兵達を治療して怪我が治る」と補って解読。

・「生」の“生育する”は、治療した敵兵達を自国で養うことと考察。結果、「自国で養う」と補って解読。

<③について>
・「郷」の“享受する”は、自軍が陣地にした敵里に享受させる事柄と解釈できるため、其七3-3③「都市以外の敵里を経由して大いに治める将軍は、大いに収穫を増やすことができ、陣地を豊かにするのである」に基づいて、「陣地にした敵里に恩恵を享受させる」と補って解読。

・1つ目と2つ目と3つ目と5つ目の「有」の“豊作であるさま”は、②「有」で補った「敵の実情」が豊作になると解釈できる。結果、「得られる敵の実情は多くなる」と補って解読。

・「内を間える」の直訳は“妾を間に挟む”となる。これは②「敵組織内部の者」と「敵組織内部と親しく交流する間者」の間に妾を挟むことと考察。結果、「敵組織内部の者は妾を間に挟む」と補って解読。

・「間く反す」の直訳は“しばらくの間、元の所有者に戻す”となる。これは②「仕事がない敵を寝返らせる」の「敵」を、元々従っていた敵国に戻すことと考察。結果、「敵から寝返らせた者は、しばらくの間、敵国に戻す」と補って解読。

・「死して間たらしむ」の直訳は“死なせてどうでもよくさせる”となる。これは、其十4-2③「可愛がる兵士が死亡して可哀想に思えば、そこで将軍は目力が消えて無気力になって、死者に等しく変わる」の状態に追い込むことと考察。結果、「可愛がる者を殺害して敵将軍を無気力にさせる」と補って解読。

・4つ目の「有」の“豊作であるさま”は、其十一2-2⑧「敵将軍の可愛がる者を覆い隠す時機を明らかにしてお手本に従って殺害した時は敵将軍が無気力になる恩恵があり、その結果、敵将軍の考えていた計画を強制的に取るのである」に基づけば、敵将軍を無気力にさせたことで「敵将軍の考えていた計画を強制的に取る」の利点を得ることを指すと考察。結果、「大きな利点となる」と言い換えた。

・「生かしむに間たり」の直訳は“生活させる時にゆとりがある”となる。これは②「攻め取った敵兵達」が主語と考察できるため、「攻め取った元敵兵達にゆとりある生活をさせる」と補って解読。

<④について>
・1つ目の「間」の“ゆとりがあるさま”は、自軍が陣地にした敵里を豊かにすることと考察。結果、「閒たり」で「豊かにする」と解読。

・2つ目の「間」の“間にはさむ”は、③2つ目の「間」で記述された「敵組織内部の者は妾を間に挟む」の意味を積み上げていると考察。結果、「(敵組織内部の者は)間に妾を挟む」と補って解読。

・「間かに有るもの」の直訳は“秘密裏に存在する者”となる。これは②「敵将軍の可愛がる者」を指すと考察。結果、「秘密裏に存在する敵将軍の可愛がる者」と解読。

・「生有る」の直訳は“生きている者が存在する”となる。これは②「攻め取った敵兵達を治療して怪我が治れば自国で養って敵の実情を手に入れる」に基づけば、「攻め取った時に生存者が存在する」と補って解読できる。

・5つ目の「間」の“病気が治る”は、②5つ目の「間」で記述された「治療して怪我が治る」の意味を積み上げていると考察。結果、使役形で「治療して怪我を治す」と補って解読。

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