間く郷けしむ者は、其の因りて、人を郷けしめて用いらしむ者なり。

其十二2-7

郷閒者、因其郷人而用者也。

xiāng xián zhě、yīn qí xiāng rén ér yòng zhě zyě。

解読文

①しばらくの間、陣地にした敵里に恩恵を享受させる間者は、敵人民と親しむことで、思いやりを享受させて自国に上手く適合させる存在である。

②敵人民と親しむ間者は、陣地にした敵里に仕事が無ければ、自国の産物をつくる技能に優れた者を住ませて、享受させた産物の生産活動によって敵人民に精を出させるのである。

③仕事が無かった敵人民に産物を得る成果があれば、人民を栄えさせる思いやりを享受したその敵里は、自軍の将軍を奉って頼るのである。

④産物を得る成果によって陣地にした敵里を豊かにする間者は、このように将軍を奉って頼る元敵里を増し加えるのであり、自軍の将軍は元敵人民を治める統治者となるのである。
書き下し文
①間(しばら)く郷(う)けしむ者は、其の因(よ)りて、人(じん)を郷(う)けしめて用いらしむ者なり。

②其の因(よ)る者は、郷の間なれば、而(なんじ)の人おらしめて、郷(う)けしむことに用いらしむなり。

③間なる者に郷(きょう)あれば、人(じん)を郷(う)ける其の而(なんじ)を用いて因(よ)るなり。

④郷(きょう)に間たらしむ者は、其れ郷を因(かさ)ねるなり、而(なんじ)は人を用いる者たるなり。
<語句の注>
・1つ目の「郷」は①享受する、②里、③④こだま、の意味。
・「間」は①しばらくの間、②③仕事がないさま、④ゆとりがあるさま、の意味。
・1つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「因」は①②親しむ、③頼る、④増し加える、の意味。
・「其」は①②③敵の代名詞、④このように、の意味。
・2つ目の「郷」は①里、②③享受する、④里、の意味。
・「人」は①思いやり、②ある種の職能を持つ特定の人、③思いやり、④民衆、の意味。
・「而」は①順接の関係を表す接続詞、②③④あなた、の意味。
・「用」は①上手く適合する、②精を出す、③奉る、④治める、の意味。
・2つ目の「者」は①助詞「もの」、②助詞「こと」、③仮定表現の助詞、④助詞「もの」、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「因閒者、因其郷人而用者也。」と1つ目の「郷」を「因」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。また、孫子(講談社)の原文と記述される箇所が異なるが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「間く郷けしむ」の直訳は“しばらくの間、享受させる”となる。これは其十二2-2③「しばらくの間、陣地にした敵里に恩恵を享受させる」を指すと考察。結果、「しばらくの間、陣地にした敵里に恩恵を享受させる」と補って解読。

・1つ目の「者」の“助詞「もの」”は、其十二2-2①「敵里の人民と親しく交流する間者」を指すと考察した上で「間者」と簡潔に解読。

<②について>
・「人」の“ある種の職能を持つ特定の人”は其十二1-1④「全ての人民を極めて栄えさせる要旨は、産物をつくる技能に優れた者を、必ず自国に従わせた元敵里に住ませて、元敵人民を産物の生産に励み努力させることで財貨を生み出すからである」に基づき、「人おらしむ」で「産物をつくる技能に優れた者を住ませる」と解読。

・「郷けしむことに用いらしむ」の直訳は“享受させたことに精を出させる”となる。これは、其十二1-1④「元敵人民を産物の生産に励み努力させる」を指すと考察。結果、「享受させた産物の生産活動によって敵人民に精を出させる」と補って解読。

<③について>
・1つ目の「郷」の“こだま”について、“こだま”とは、山や谷で声や音が反響して聞こえてくるものであるため、産物の生産活動に対して成果を得ることと考察できる。結果、「産物を得る成果」と解読。④も同様に解読。

・「人」の“思いやり”は、其十二1-1④「全ての人民を極めて栄えさせる要旨は、産物をつくる技能に優れた者を、必ず自国に従わせた元敵里に住ませて、元敵人民を産物の生産に励み努力させることで財貨を生み出すからである」に基づけば、人民を栄えさせる思いやりと解釈できる。結果、「人民を栄えさせる思いやり」と補って解読。

<④について>
・「間」の“ゆとりがあるさま”は、③「人民を栄えさせる思いやりを享受したその敵里は、自軍の将軍を奉って頼る」に基づけば、陣地にした敵里を栄えさせた状態と解釈できる。結果、「間たらしむ」で「陣地にした敵里を豊かにする」と解読。

・2つ目の「郷」の“里”は、③「人民を栄えさせる思いやりを享受したその敵里は、自軍の将軍を奉って頼る」に基づき、将軍を奉って頼る敵里を指すと考察。この時点で陣地にした敵里は自国に服従したと解釈して、「将軍を奉って頼る元敵里」と解読。

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