子として愛でる如くして卒を視れば、故あるに、之と倶に死に与たらしむ可し。

其十4-2

視卒如愛子、故可與之倶死。

shì zú rú ài zǐ、gù kĕ yŭ zhī jù sǐ。

解読文

①将軍が、我が子ように慈愛して可愛がるように溺愛して兵士を扱うならば、戦争が起こった時は、可愛がるその兵士と一緒に「死地」で敵軍に抵抗させるべきである。

②可愛がる兵士を手放せない将軍は、他の兵士達に観察させるよう厳重に警護させるが、可愛がるその兵士は戦争に向き合えば、命を投げ出す覚悟を備えて対処するのである。

③可愛がる兵士が死亡して可哀想に思えば、そこで将軍は目力が消えて無気力になって、死者に等しく変わるのであり、敵軍に利点を与えるのである。

④可愛がる兵士を死亡させて敵将軍を可哀想に思わせれば、敵将軍を死者に等しく無気力にさせて職務を行わせる状態に至るのである。可愛がる兵士を連れ立って「死地」に向き合えば、敵の目を欺いて、可愛がる者を殺害して心を痛めさせる敵将軍の戦術に対処するのである。
書き下し文
①子として愛(め)でる如くして卒(そつ)を視(み)れば、故あるに、之と倶(とも)に死に与(あ)たらしむ可し。

②愛(お)しむ子は、卒(そつ)に視(み)せしむ如(ごと)くするも、之は故に可(あ)たれば、死を倶(そな)えて与(くみ)するなり。

③子の故して愛(お)しめば、如(すなわ)ち視は卒(しゅっ)して、死に倶(ひと)しく之(ゆ)くなり、可を与(あた)えるなり。

④愛(め)でしめば、子を卒(しゅっ)せしめて視(み)らしむに如(ゆ)くなり。之を倶(とも)にして死に可(あ)たれば、故に与(くみ)するなり。
<語句の注>
・「視」は①あしらう、②観察する、③眼光、④職務を行う、の意味。
・「卒」は①②兵士、③④死ぬ、の意味。
・「如」は①②~のようにする、③そこで、④至る、の意味。
・「愛」は①可愛がる、②手放せない、③④可哀想に思う、の意味。
・「子」は①自分の子のように慈愛する、②あなた、③彼、④あなた、の意味。
・「故」は①②事変、③元の、④たくらみ、の意味。
・「可」は①~すべきである、②向き合う、③長所、④向き合う、の意味。
・「与」は①相手に抵抗する、②対処する、③授ける、④対処する、の意味。
・「之」は①②代名詞、③変わる、④代名詞、の意味。
・「倶」は①一緒に、②完備する、③同じ、④連れ立つ、の意味。
・「死」は①其八1-1①「死」、②命を投げ出す覚悟のあるさま、③死者、④其八1-1①「死」、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
其十4-1は「隊長」に関する教えだったが、其十4-2は其十二2-2①「敵将軍の可愛がる者を殺害する間者」に関する内容であるため、話題の対象者は将軍と推察できる。結果、主語として「将軍」と補った。

・「子として愛でる如くす」の直訳は“自分の子のように慈愛して可愛がるようにする”となる。“子”は兵士を指すと解釈すれば、“親”は将軍を指すと解釈できる。これは親が子を可愛がる様子の描写だが、文意を考慮すれば“過剰に”可愛がる様子を描写したと推察できる。結果、「我が子ように慈愛して可愛がるように溺愛する」と解読。

・「視」の“あしらう”は、其十4-1①同様に解釈して「兵士を扱う」と解読。

・「之」は、「卒」の「兵士」を指示する代名詞と解釈。この兵士は、将軍が「我が子ように慈愛して可愛がるように溺愛する」ことを踏まえて、「可愛がるその兵士」と解読。

・「死」は、其八1-1①「命を取り合う「死地」」と同意と考察。結果、冗長にならないように「死地」と簡潔に解読。④も同様に解読。

<②について>
・「愛しむ子」の直訳は“手放せないあなた”となる。 “あなた”は話の流れから将軍と解釈でき、その将軍が“手放せない”対象は①「可愛がるその兵士」と解釈できる。結果、「可愛がる兵士を手放せない将軍」と補って解読。

・「卒」の“兵士”は、「可愛がる兵士」以外の他の兵士達を指すと考察。結果、「他の兵士達」と解読。

・「視せしむ如くす」の直訳は“観察させるようにする”となる。これは、将軍が可愛がる兵士を観察するように目を離さず、他の兵士達に厳重に警護させることと解釈。結果、「観察させるよう厳重に警護させる」と解読。

・「之」は、①「之」の「可愛がるその兵士」を指示する代名詞と解読。

<③について>
・「子」の“彼”は、話の流れから「可愛がるその兵士」と考察。結果、ここでは「可愛がる兵士」と解読。

・「視は卒す」の直訳は“眼光が死ぬ”となる。これは、「可愛がる兵士」を失ったことで、将軍の目力が消えて無気力になった状態を表現していると考察。結果、「将軍は目力が消えて無気力になる」と解読。

・「可を与える」の直訳は“長所を授ける”となる。これは、自軍の将軍が無気力になった状態が、敵の利点になることと考察。結果、「敵軍に利点を与える」と補って解読。

<④について>
・「愛でしむ」の直訳は“可哀相に思わせる”となる。これは①「可愛がる兵士が死亡して可哀想に思う」の意味を積み上げていると考察。但し、解読文③の道理を敵将軍に働かせる文意と解釈できることを踏まえて、「可愛がる兵士を死亡させて敵将軍を可哀想に思わせる」と補って解読。

・「卒」の“死ぬ”は、③「卒」で記述された「将軍は目力が消えて無気力になって、死者に等しく変わる」の意味を積み上げていると考察。結果、使役形で「死者に等しく無気力にさせる」と言い換えた。

・「之」は、③「子」の「可愛がる兵士」を指示する代名詞と解読。

・「故」の“たくらみ”は、「可愛がる兵士を死亡させて敵将軍を可哀想に思わせる」ことと考察。これは其八3-4⑧「敵将軍の可愛がる者を殺害して心を痛めさせる戦術」と同意であることを踏まえて、「可愛がる者を殺害して心を痛めさせる敵将軍の戦術」と解読。

・「与」の“対処する”は、「可愛がる兵士を殺害する敵の策略」に対処することである。将軍の可愛がる兵士が「死地」にいるはずが無いという思い込みを逆手に取って、敵の目を欺くのだと解釈できる。結果、「敵の目を欺いて」と補った。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。