殺す軍を覆する将は、五を以して危うくするなり、必ず察せざる可からざるなり。

其八3-4

覆軍殺將、必以五危、不可不察也。

fù jūn shā jiāng、bì yǐ wŭ weī、bù kĕ bù chá yĕ。

解読文

①兵士達の士気を殺ぐ軍事を繰り返す将軍は、自軍に災いを起こす五種類を行って自軍に危害を与えるのであり、必ず見抜かなければならないのである。

②自説にしがみついて自軍に災いを起こす五種類を行う将軍は、兵士達の士気を殺いで軍隊を壊滅させる事態を心配するが、大いに適合する将軍はお手本に照らして考えることが無いのである。

③軍隊を壊滅させる将軍は等級を下げて、災いを減らすための「道、天、地、将、法」五つの教えを認めさせて必ず実行させて正しくするのであり、その将軍が大いに改心すれば大いに推挙するのである。

④災いを減らすための「道、天、地、将、法」五つの教えを認めて必ず実行する将軍が自軍を統率した時は、逆に敵兵達の士気を殺ぐのであり、大いに考察して危険を感じること無く敵軍と対峙するのである。

⑤大いに考察して危険を感じること無く敵軍と対峙する将軍は、奇策部隊の間者を使って自軍の立場を確固たるものにするのであり、敵軍の兵士数を減らして自国に寝返らせるのである。

⑥敵軍の兵士数を減らして自国に寝返らせる将軍は、敵に対して自軍の規模を五倍にした時、今にも突撃を決行しそうだと敵将軍に考えさせるのであり、敵将軍にその真偽をはっきり見分けさせること無く大いに対峙するのである。

⑦敵に対して自軍の規模を五倍にして、今にも突撃を決行しそうだと敵将軍に考えさせる将軍は、敵将軍に、敵国を壊滅させること無く戦争を終えることを大いに同意させて了解させるのである。

⑧自軍に対して五倍規模の敵軍が出現して危険に感じれば、その敵軍と対峙すること無く、大いに敵軍を調査するのであり、敵将軍の可愛がる者を殺害して心を痛めさせる戦術を行って自軍の立場を確固たるものにするのである。敵全軍を統率する敵将軍から考えていた計画を取り除けば、敵全軍を撤退させるのである。
書き下し文
①殺(ころ)す軍を覆(ふく)する将は、五を以(な)して危(あや)うくするなり、必ず察せざる可からざるなり。

②必して五を以(な)す将は、殺(ころ)して軍を覆(くつがえ)せしむこと危(あや)ぶむも、不(おお)いに可(よ)きものは察すること不(な)きなり。

③軍を覆(くつがえ)せしむ将は殺(そ)ぎて、五を以(おも)わしめて必せしめて危(たか)くするなり、不(おお)いに可(い)えれば不(おお)いに察するなり。

④五を以(おも)いて必する将の軍するに、覆(かえ)って殺(ころ)すなり、不(おお)いに察して危(あや)ぶむこと不(な)く可(あ)たるなり。

⑤不(おお)いに察して危(あや)ぶむこと不(な)く可(あ)たる将は、五を以(もち)いて必するなり、軍を殺(そ)ぎて覆(くつがえ)すなり。

⑥軍を殺(そ)ぎて覆(くつがえ)す将は、五にするに危(あや)うく必すと以(おも)わしむなり、察(み)らしむこと不(な)く不(おお)いに可(あ)たるなり。

⑦五にして危(あや)うく必すと以(おも)わしむ将は、覆(くつがえ)せしむこと不(な)く軍を殺(さっ)すること不(おお)いに可(き)かしめて察せしむなり。

⑧五なるものありて危(あや)ぶめば、可(あ)たること不(な)く、不(おお)いに察するなり、以(な)して必するなり。将(ひき)いるものより軍を殺(ほろ)ぼせば、覆(くつがえ)せしむなり。
<語句の注>
・「覆」は①繰り返す、②③壊滅する、④逆に、⑤⑥ひっくり返す、⑦壊滅する、⑧ひっくり返す、の意味。
・「軍」は①軍事、②③軍隊、④軍を統率する、⑤⑥兵士、⑦戦争、⑧軍事、の意味。
・「殺」は①②命を絶つ、③等級を下げる、④⑤命を絶つ、⑦終止する、⑧取り除く、の意味。
・「将」は①②③④⑤⑥⑦将軍、⑧統率する、の意味。
・「必」は①きっと、②自説にしがみつく、③④必ず実行する、⑤立場を確かにする、⑥⑦決行する、⑧立場を確かにする、の意味。
・「以」は①②事を行う、③④認める、⑤使用する、⑥⑦考える、⑧事を行う、の意味。
・「五」は①②③④数の名、⑤五番目という序数、⑥⑦五倍にする、⑧五倍である、の意味。
・「危」は①危害を与える、②心配する、③正しくする、④⑤危険と思う、⑥⑦いまにも~しそう、⑧危険と思う、の意味。
・1つ目の「不」は①~しない、②③大いに、④⑤無い、⑥大いに、⑦⑧無い、の意味。
・「可」は①~できる、②適合するさま、③病気が治る、④⑤⑥対する、⑦同意である、⑧対する、の意味。
・2つ目の「不」は①~しない、②無い、③④⑤大いに、⑥無い、⑦⑧大いに、の意味。
・「察」は①見抜く、②鑑みる、③推挙する、④⑤考察する、⑥はっきり見分ける、⑦了解する、⑧調査する、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「殺」の“命を絶つ”は、其七6-2①「帰」の“死ぬ”と同意と考察。其七6-2①「帰」で記述された「夕暮れ時の士気は殺がれる」を指すと解釈できる。結果、「兵士達の士気を殺ぐ」と解読。②も同様に解読。

・「五」の“数の名”は、其八3-3①「五者」の「自軍に災いを起こす五種類」の意味を積み上げていると考察。結果、「自軍に災いを起こす五種類」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・「察」の“鑑みる”には、“手本に照らして考える“の意味があることを踏まえて「お手本に照らして考える」と言い換えた。

<③について>
・「五」の“数の名”は、其一1-2①「五」が指す「道、天、地、将、法」と解釈。其一1-2①「災いを減らすために五つの教えを認めて使う」と記述されていることを踏まえて、「災いを減らすための「道、天、地、将、法」五つの教え」と解読。④も同様に解読。

・「可」の“病気が治る”は、軍隊を壊滅させる将軍の言動や考え方を改心させることと考察。結果、「改心する」と解読。

<④について>
・「殺」の“命を絶つ”は、①②同様に「兵士達の士気を殺ぐ」と解釈できるが、ここでは敵兵達の士気を殺ぐ文意と考察。結果、「敵兵達の士気を殺ぐ」と解読。

<⑤について>
・「五」の“五番目という序数”は、其十二2-2①で五番目に記述された「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。「生きたまま敵を取得する間者」は奇策部隊に所属しており、奇正の戦術に関する文意であることを踏まえて、「奇策部隊の間者」と解読した。

・「覆」の“ひっくり返す”は、「奇策部隊の間者」が攻め取った敵兵を自国に寝返らせることと考察。結果、「自国に寝返らせる」と解読。⑥も同様に解読。

<⑥について>
・「五」の“五倍にする”は、其三3-1②「五」の「敵軍を武力で撃つ時はその五倍規模の軍隊にする」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵に対して自軍の規模を五倍にする」と解読。⑦も同様に解読。

・「必」の“決行する”は、五倍規模になった自軍による突撃を決行することと考察。結果、「突撃を決行する」と補って解読。⑦も同様に解読。

・「以」の“考える”は、五倍規模になった自軍による突撃がありそうだと考える者であり、解読文⑦との話の繋がりを考慮すると主語は敵将軍と解釈できる。結果、使役形で「敵将軍に考えさせる」と解読。⑦も同様に解読。

・「察」の“はっきり見分ける”は、五倍規模になった自軍による突撃の真偽を見分けることと考察。また、この主語は敵将軍と解釈。結果、使役形で「敵将軍にその真偽をはっきり見分けさせる」と解読。

<⑦について>
・特に無し。

<⑧について>
・「五なるもの」は、⑥⑦「敵に対して自軍の規模を五倍にする」の敵味方が逆転した内容と考察。結果、「自軍に対して五倍規模の敵軍」と解読。

・「以」の“事を行う”の”事“は、文意より其七4-2③「自軍の将軍が、敵将軍の可愛がる者を殺害して心を痛めさせる戦術を仕掛けるつもりだという噂を起こし、敵将軍の可愛がる者がそろそろと人が寄り集まる場所に移動する時に接近して斬れば、敵将軍は大いに怒って心が揺さぶられるのであり、外界と隔絶した状態に等しく無気力になって自軍との戦争に向き合わない。威厳ある敵将軍を無気力にさせるに至れば自軍は発動するのであり、その敵将軍は自軍来襲の危機に及ぶと理解していても軽視するのである」で記述された「敵将軍の可愛がる者を殺害して心を痛めさせる戦術」を指すと考察。結果、「敵将軍の可愛がる者を殺害して心を痛めさせる戦術を行う」と解読。

・「将いるものより軍を殺ぼす」の直訳は“統率する者から軍事を取り除く”となる。これは、其七6-1①「敵全軍を統率する敵将軍からは考えていた計画を強制的に取るのが良い」を指すと考察。結果、「敵全軍を統率する敵将軍から考えていた計画を取り除く」と解読。
なお、「敵将軍の可愛がる者を殺害して心を痛めさせる戦術」を行うことで其七4-2③「敵将軍を無気力にさせる」を実現した結果、無気力になった敵将軍は“考えていた計画“を実行できなくなる。この実行できない状態について「考えていた計画を取り除く」と表現したと解釈できる。

・「覆」の“ひっくり返す”は、文意より其七6-1②「敵将軍から考えていた計画を強制的に取る利点は敵全軍を撤退させる」で記述された敵全軍の撤退を指すと考察。結果、使役形で「敵全軍を撤退させる」と補って解読した。

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