故を軽くするに五を以いて之いるなり、計を以えば効いて之いるなり。以て、其の請うこと索むなり。

其一1-2

故輕之以五、效之以計。以索其請。

sūn zǐ yuē、bīng zhě guó zhī dàgù qīng zhī yǐ wŭ、xiào zhī yǐ jì。ér suǒ qí qǐng。

解読文

①災いを減らすために五つの教えを認めて使うのであり、戦略、戦術の真価を認めれば真似をして使うのである。その上で、敵自身から敵の実情を教えてもらう方法を探求するのである。

②浅はかな敵軍が衰えた時に、獲物となる部隊を差し出すことを計算し、何度も間者が隠れて出現する奇正の戦術を使い、敵本軍から孤立した敵部隊を攻め取るに至るのである。

③戦略は、敵を侮らせて何度も使うのであり、敵に戦略の利き目が現れれば利害損得を計算して戦争を中断し、敵将軍に謁見して戦争を終えることを要求するのである。

④戦争を容易に変化させるには五つの教えを採用するのであり、将軍は経済力を使って間者に敵兵を攻め取らせる奇正の戦術を実行し、攻め取った敵兵から敵の実情を要求することに力を尽くすのである。
書き下し文
①故を軽(かる)くするに五を以(おも)いて之(もち)いるなり、計(けい)を以(おも)えば効(なら)いて之(もち)いるなり。以て、其の請うこと索(もと)むなり。

②軽きものを故(ふ)るに之を效(いた)すと以(おも)うこと計(かぞ)えて、五たび之を以(もち)い、索(さく)たる其の請(せい)するに以(およ)ぶなり。

③故は之を軽(かろ)んぜしめて五たび以(もち)いるなり、之に效(き)けば計(はか)りて以(や)めて、其の請(こ)いて以(や)むこと索(もと)むなり。

④故を軽(かるがる)しく之(ゆ)かせしむは五を以(もち)いるなり、之は計ありて以(もち)いて其の請(せい)すること以(な)し、索(もと)むこと效(いた)すなり。
<語句の注>
・「故」は①災い、②衰える、③たくらみ、④事変、の意味。
・「軽」は①減らす、②浅薄なさま、③侮る、④容易に、の意味。
・1つ目の「之」は①使う、②代名詞、③彼ら、④変わる、の意味。
・1つ目の「以」は①認める、②③使用する、④採用する、の意味。
・「五」は①数の名、②③何度も、④数の名、の意味。
・「効」は①真似る、②差し出す、③利き目が現れる、④力を尽くす、の意味。
・2つ目の「之」は①使う、②③彼ら、④彼、の意味。
・2つ目の「以」は①認める、②考える、③留める、④使用する、の意味。
・「計」は①策略、②計算する、③利害損得をはかる、④経済力、の意味。
・3つ目の「以」は①そのうえ、②押し及ぶ、③終える、④事を行う、の意味。
・「索」は①探求する、②他から離れ孤立したさま、③④要求する、の意味。
・「其」は①②③④敵の代名詞、の意味。
・「請」は①教えてもらう、②取る、③謁見する、④取る、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「故輕之以五、效之以計。以索其情。」と「請」を「情」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「故」の“災い”は、其一1-1④「」の「災い」に対応している解読。

・「五」について、一般的に「五事」という表記が浸透しているが、竹簡孫子の原文を掲載している中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」では「經之以五」に「事」の文字がなく、「事」は軍事行動の意味で使用される。また、孫子兵法は随所に「道、天、地、将、法」に関する教えが記述されているため、軍事行動を学ぶための学習科目のタイトルと解釈できる。そのため、「五」は「五つの教え」と解読する。④も同様に解読。

・「計」の“策略”は、孫子兵法全篇を解読した結果、「兵」の“戦略、戦術”と同意と考察できた。ここでは「戦略、戦術」と解読する。以後の句でも同様に解読する。

・孫子兵法において「其」は、数カ所を除いて「敵の代名詞」として使用される。

・「其の請いて索む」は直訳すると“敵に教えてもらい探求する”となる。話の流れから、教えてもらう内容として「敵の実情」と補い、「敵自身から敵の実情を教えてもらう方法を探求するのである」と解読した。

<②について>
・1つ目の「之」は、其一1-1③「」の「戦術」を指示する代名詞であり、その戦術の内容である「間者が隠れて出現する奇正の戦術」を指すと考察。

・・「敵軍が衰えた時に獲物となる部隊を差し出す」は、2つ目の「之」の“彼ら”を「獲物となる部隊」と解読。その根拠は、“彼ら”は其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」を指しており、この「獲物の鳥」は奇策部隊が攻め取る敵部隊の喩えになっていると解釈。

・「敵本軍から孤立した敵部隊を攻め取るに至る」は、其十一1-9④「敵部隊を攻め取る正しい奇正の戦術を採用する将軍は、敵の狙いを阻んだ上で、奇策部隊を率いる間者によって一カ所に集まった敵兵達を武力で傷つけるのである。少人数部隊である敵の奇策部隊を孤立させれば、多人数部隊の自軍は防御して攻撃は留めるべきであり、包囲して捕らえるのである」等に基づいて解読。

・①「敵自身から敵の実情を教えてもらう方法」が「間者が隠れて出現する奇正の戦術」であり、攻め取った敵兵から「敵の実情」を教えてもらうのである。前提となる記述として、其二4-1①「敵する之を取りて利ある者は貨うなり」の「歯向かう敵を攻め取って利点を得る者は褒美の品を与えるのである」がある。

<③について>
・「故」の“たくらみ”は、其一1-1②「」の「戦略」に対応している解読。

・1つ目と2つ目の「之」の“彼ら”は、侮らせる相手であるため「敵」と解読。

・「敵に戦略の利き目が現れれば利害損得を計算して戦争を中断し、敵将軍に謁見して戦争を終える」は、其十一1-4④「自軍が権勢を生じた時、戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理を実現するのであり、直言して敵国を自国の配下に置いた将軍は、敵国と徳のある敵将軍も同じく、次の侵略戦争において、敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略に協力してもらうのである」等に基づいて解読。

<④について>
・「故」の“事変”は、其一1-1①「」の「戦争」に対応している解読。

・2つ目の「之」の“彼”は、五つの教えに力を尽くす者であるため「将軍」と解読。

・「経済力を使って間者に敵兵を攻め取らせる奇正の戦術を実行」は、其十3-2③「奇策部隊は、その敵軍が回避しようとすることを計算して阻むのであり、その敵軍が歯向かうことを計算して打ち破り、抑えて従わせるのである」及び其十3-2④「打ち破った敵軍を抑制した時、その敵兵達を驚かすような真心のある法規や決まりと食料や金銭によって利害損得を計算させれば、悩んでもほとんどの敵兵達は自国に寝返るのである」等に基づき、「以」の“事を行う”は①「間者が隠れて出現する奇正の戦術」を実行することと考察して解読。

・「索」の“要求する”は、①で補った「敵の実情」が要求する事柄と考察。

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