其五3-2
鷙鳥之擊、至於毀折者、節也。
zhì niǎo zhī jī、zhì yú huǐ zhé zhě、jiē yĕ。
解読文
①鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである。 ②攻め取る節目である敵部隊を傷つけて挫折させる将軍は、周到に行き届いているのであり、おとり部隊を泳がせて敵部隊に攻めさせるのである。 ③おとり部隊を狙った敵部隊が自軍の獲物に変わったのであり、堅固な”実”の奇策部隊に誘導していき、”攻め取る時機”の判断を下して容易く打ち破るのである。 ④堅固な“実”の奇策部隊を使って獲物となった敵部隊を容易く打ち破る時、獲物となった敵部隊をこの上なく損ない混乱させる理由は、攻め取る節目と時機の判断を下す間者が存在するからである。 |
書き下し文
①鷙(し)の鳥に之(いた)りて撃(げき)するに、至るを於(な)し、毀(こぼ)ちて折(くじ)けしむは、節(せつ)あればなり。 ②節(ふし)を毀(こぼ)ちて折(くじ)けしむ者は、至るを於(な)し、鳥を之(もち)いて鷙(し)をして撃たせしむなり。 ③鷙(し)は鳥に之(ゆ)くなり、於(う)に至らしめて、毀(さ)る節(せつ)を折(さだ)めて撃(う)つなり。 ④鷙(し)を之(もち)いて鳥を撃(う)つに、於(う)を至って毀(やぶ)れしむは、節(せつ)を折(さだ)める者あればなり。 |
<語句の注>
・「鷙」は①②③④タカ科の猛禽類の総称、の意味。 ・「鳥」は①②③④鳥の総称、の意味。 ・「之」は①ある地点や事情に達する、②使う、③変わる、④使う、の意味。 ・「撃」は①強奪する、②攻める、③④叩く、の意味。 ・「至」は①②周到に行き届いたさま、③行き着く、④この上なく、の意味。 ・「於」は①②~である、③④カラス、の意味。 ・「毀」は①②傷つける、③取り去る、④損ない乱れる、の意味。 ・「折」は①②挫折する、③④判断を下す、の意味。 ・「者」は①重文で因果関係を表す助詞、②助詞「もの」、③仮定表現の助詞、④助詞「もの」、の意味。 ・「節」は①骨の関節、時、②骨の関節、③時、④骨の関節、時、の意味。 ・「也」は①因果関係を表す助詞、②③断定の語気、④因果関係を表す助詞、の意味。 |
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する ・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。 ・この句について詳しく解説したページがあります。 ⇒孫子の名言「鷙鳥の撃ちて毀折に至る者は節なり」の間違い <①について> ・「鳥」は、鷹の獲物として記述されているため、わかりやすく「獲物の鳥」と解読。 ・「節」の“骨の関節”は、損なえば動けなくなるため、傷つけて獲物の鳥を挫折させるに至る弱点(虚)と考察し、「攻め取る節目」と解読。また、「節」には“時”の意味があり、常時は防御している「攻め取る節目」が瞬間的に露わになる好機を指すと考察し、「攻め取る時機」と解読。結果、合わせて「節目と時機」と解読。④も同様に解読。 <②について> ・「節」は、①「節」の「攻め取る節目と時機」に基づき、「攻め取る節目」と解読。 ・「鳥」は、敵にとっての「獲物の鳥」であり、自軍が意図的に「獲物の鳥」を泳がせる文意と考察し、「おとり部隊」と解読。一方、「鷙」は「おとり部隊」を狙う敵と考察し、「敵部隊」と解読。 <③について> ・「鷙」は、②「敵部隊」を指すと考察し、「おとり部隊を狙った敵部隊」と解読。 ・「鳥」は、おとり部隊を狙って虚が生じた敵部隊であり、自軍の奇策部隊の獲物になった状態と考察し、「自軍の獲物」と解読。なお、「自軍の獲物」となった敵部隊は、出現した「攻め取る節目」である。 ・「毀」の“取り去る”は、「自軍の獲物」を攻め取ることと考察し、「攻め取る」と言い換えた。 ・「於」の“カラス”は、話の流れより「自軍の獲物」を攻め取るために隠れている奇策部隊とわかるため、其五3-1②「石」の「堅固な“実”の奇策部隊」と同意と考察し、「堅固な“実”の奇策部隊」と解読。 ・「至」の“行きつく”は、「獲物となる敵部隊」を奇策部隊が隠れている場所に誘導することと考察し、使役形で「誘導する」と解読。 ・「撃」の“叩く”は、其五1-4①「段」の“槌(つち)で打つ”と同意と考察。其五1-4①「自分の方に投げられた脆い卵を目にとめて固い木槌で打つに等しく自軍に向かって来る脆い敵軍を認識して固い自軍で打ち破る」の虚実の教えに基づき、「容易く打ち破る」と解読。④も同様に解読。 <④について> ・「鷙」は、②「於」の「堅固な“実”の奇策部隊」を指すと考察し、「堅固な“実”の奇策部隊」と解読。 ・「鳥」は、奇策部隊が攻め取る獲物と考察し、「獲物となった敵部隊」と解読。 ・「於」の“カラス”は、「鳥」の「獲物となった敵部隊」と同意と考察し、「獲物となった敵部隊」と解読。 ・「攻め取る節目と時機が出現した判断を下す」者は、其十二2-3④「軍神である将軍は、生きたまま敵を取得する間者の養育係になるのである。間者を一人前にする時は、何度も戦争に連れ立って起用して、敵兵達の士気が殺がれる時機を識別することを指導して習熟させるのである」の記述より、其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」と考察できる。結果、「者」は「間者」と簡潔に解読。 |