其七6-2
是故、朝氣兌、晝氣惰、暮氣歸。
shì gù、zhāo qì duì、zhòu qì duò、mù qì guī。
解読文
①道理は、早朝の士気は旺盛であり、昼間の士気は緩み、夕暮れ時の士気は殺がれるのである。 ②道理に至れば、早朝の旺盛な士気は切れ味の鋭い武器であり、昼間の緩んだ士気は敵を侮るのであり、夕暮れ時の殺がれた士気は既に敗北した状態になる。 ③だから、早朝における軍隊の勢いは士気が激しく旺盛であり、昼間における軍隊の勢いは士気が緩んでなまっているのであり、日が落ちて暗くなった時、士気が殺がれた軍隊の勢いは消滅するのである。 ④昼間の士気が緩んでなまっている軍隊の勢いを終わらせて、早朝の切れ味の鋭い武器となる士気が激しく旺盛な軍隊の勢いに至らせる道理は、兵士達を一カ所に集合させれば勇気を湧かせることである。 ⑤緩んだ士気になる昼間の真実は、空腹に直面して差し迫っている雰囲気であり、空腹で衰えた兵士達に食物を贈り届ければ活力は戻るのである。 ⑥敵を侮る昼間の緩んだ士気は災いになるのであり、選りすぐりの兵士を訪問させて兵士達の精神状態を正して、緩んだ士気を消滅させて元の状態に戻すのである。 ⑦敵を侮る昼間の緩んだ士気によって戦闘に至れば、選りすぐりの兵士達を集めても士気が激しく旺盛な軍隊の勢いは消滅するのであり、兵士達は家や故郷に帰りたいと請い求めるのである。 ⑧自軍を侮らせる昼間の緩んだ士気に至らせる戦術は、差し迫った様子で使者を訪問させて敵将軍に食物を贈り届けるのであり、使者が恥じ入った雰囲気であれば敵将軍の対応を遅らせるのである。 |
書き下し文
①是(こ)れ故は、朝の気は兌(えい)たり、昼の気は惰(おこた)り、暮れの気は帰(き)す。 ②故に是(ゆ)けば、朝の気は兌(えい)なり、昼の気は惰(だ)なり、暮れの気は帰(き)す。 ③故に是(こ)れ、朝の気は兌(えい)なり、昼の気は惰(だ)なり、暮れるに気は帰(き)す。 ④昼の惰(だ)たる気を暮れしめて、朝の兌(えい)たる気に是(ゆ)かしむ故は、帰(き)せしめば気あらしむなり。 ⑤惰(だ)たる昼の是(ぜ)は、故(ふ)るに朝(ちょう)して兌(えい)なる気なり、暮(ぼ)たるものに気(おく)れば気を帰(かえ)せばなり。 ⑥惰(だ)たる昼の気は故たり、兌(えい)を朝(と)わしめて気を是(ただ)して、気を暮れしめて帰(かえ)すなり。 ⑦惰(だ)たる昼の気に故に是(ゆ)けば、兌(えい)を朝(ちょう)せしむも気は暮れるなり、帰ると気するなり。 ⑧惰(だ)たらしむ昼の気に是(ゆ)かしむ故は、兌(えい)なりて朝(と)わしめて気(おく)るなり、帰(き)なる気なれば暮(おそ)くせしむなり。 |
<語句の注>
・「是」は①~である、②至る、③~である、④至る、⑤真実、⑥正しくする、⑦⑧至る、の意味。 ・「故」は①②道理、③だから、④道理、⑤衰える、⑥災い、⑦事変、⑧たくらみ、の意味。 ・「朝」は①②③④早朝、⑤面する、⑥人のもとを訪れる、⑦集まる、⑧人のもとを訪れる、の意味。 ・1つ目の「気」は①②士気、③④勢い、⑤雰囲気、⑥人の精神状態、⑦勢い、⑧食物を贈り届ける、の意味。 ・「兌」は①旺盛なさま(通字「鋭」より)、②切れ味の鋭い武器(通字「鋭」より)、③激しく盛んなさま(通字「鋭」より)、④切れ味の鋭い武器(通字「鋭」より)、⑤差し迫ったさま(通字「鋭」より)、⑥⑦選りすぐりの兵士(通字「鋭」より)、⑧差し迫ったさま(通字「鋭」より)、の意味。 ・「昼」は①②③④⑤⑥⑦⑧日の出から日没までの時間、の意味。 ・2つ目の「気」は①②士気、③勢い、④士気、⑤食物を贈り届ける、⑥⑦⑧士気、の意味。 ・「惰」は①気が緩んでいるさま、②人を侮るさま、③④なまっているさま、⑤怠けるさま、⑥⑦⑧人を侮るさま、の意味。 ・「暮」は①②夕暮れ時、③日が落ち暗くなる、④終わりになる、⑤衰えるさま、⑥⑦日が落ち暗くなる、⑧遅いさま、の意味。 ・3つ目の「気」は①②士気、③勢い、④勇気、⑤人の活力、⑥士気、⑦請い求める、⑧雰囲気、の意味。 ・「帰」は①②③死ぬ、④一カ所に集まる、⑤元の持ち主にかえす、⑥元いた場所に戻す、⑦家や故郷に戻る、⑧恥じ入ったさま、の意味。 |
<解読の注>
・中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落、孫子(講談社)の原文は「故朝氣鋭、晝氣惰、暮氣歸」とするが、新訂孫子(岩波)及び“七書孫子”の原文では「故」を「是故」とする。ここでは「是故」を採用した。 なお、「鋭」は次句の中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」「・・・用兵者、辟其兌氣、擊其惰歸。此治氣者也。」の「兌」と同じと推察でき、漢辞海において「兌」の“尖っているさま”の意味は通字が「鋭」とされる。そのため「鋭」は「兌」とした。 ・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・「帰」の“死ぬ”は、夕暮れ時は休息したい感情が勝って士気が殺がれている意味と考察。結果、「(士気が)殺がれる」と解読。 <②について> ・「朝の気」の“早朝の士気”は、①「朝の気」の「早朝の士気は旺盛である」の意味を積み上げていると考察。結果、「早朝の旺盛な士気」と解読。 ・「昼の気」の“昼間の士気”は、①「昼の気」の「昼間の士気は緩む」の意味を積み上げていると考察。結果、「昼間の緩んだ士気」と解読。 ・「暮れの気」の“暮れ時の士気”は、①「暮れの気」の「夕暮れ時の士気は殺がれる」の意味を積み上げていると考察。結果、「夕暮れ時の殺がれた士気」と解読。 ・「帰」の“死ぬ”は、①「士気が殺がれた」状態になった兵士達は、既に敗北した状態に繋がると解釈できる。結果、「既に敗北した状態になる」と解読。 <③について> ・1つ目と2つ目と3つ目の「気」の“勢い”は、軍隊の勢いと考察。結果、「軍隊の勢い」と補って解読。 ・「兌」の“激しく盛んなさま(通字「鋭」より)”は、②「早朝の旺盛な士気」の意味を積み上げて「士気が激しく旺盛なさま」と解読。 ・「惰」の“なまっているさま”は、②「昼間の緩んだ士気」の意味を積み上げて「士気が緩んでなまっているさま」と解読。 ・3つ目の「気」は「軍隊の勢い」の意味だが、②「夕暮れ時の殺がれた士気」の意味を積み上げて「士気が殺がれた軍隊の勢い」と補って解読。 ・「帰」の“死ぬ”は、軍隊の勢いが消えた状態と考察。結果、「消滅する」と解読。 <④について> ・2つ目の「気」の“勢い”は、③「昼間における軍隊の勢いは士気が緩んでなまっている」の意味を積み上げていると考察。結果、「士気が緩んでなまっている軍隊の勢い」と解読。 ・1つ目の「気」の“勢い”は、③「早朝における軍隊の勢いは士気が激しく旺盛」の意味を積み上げていると考察。結果、「士気が激しく旺盛な軍隊の勢い」と解読。 ・「帰」の“一カ所に集まる”は、兵士達を一カ所に集合させて虚実の「実」に至らせることと考察。結果、使役形で「兵士達を一カ所に集合させる」と補って解読。 <⑤について> ・「故」の“衰える”は、兵士達が昼間になって空腹で活力が衰えていることを指すと考察。結果、「空腹」と簡潔に解読。 ・「惰たる昼」の直訳は“気が緩んでいる昼間”となる。これは、①「昼間の士気は緩む」の意味を積み上げていると考察。結果、話の流れに合わせて「緩んだ士気になる昼間」と補って解読。 ・「暮たるもの」の“衰えた者”は、話の流れより空腹で衰えた兵士達と考察できる。結果、「空腹で衰えた兵士達」と解読。 <⑥について> ・「惰たる昼の気」は、②「昼間の緩んだ士気は敵を侮る」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵を侮る昼間の緩んだ士気」と解読。⑦も同様に解読。 ・3つ目の「気」の“士気”は、「敵を侮る昼間の緩んだ士気」の「緩んだ士気」と考察。結果、「緩んだ士気」と解読。 ・「暮」の“日が落ち暗くなる”は、③「日が落ちて暗くなった時、士気が殺がれた軍隊の勢いは消滅する」から類推すれば、「緩んだ士気」を殺いで消滅させるのだと解釈できる。結果、使役形で「消滅させる」と解読。 <⑦について> ・1つ目の「気」の“勢い”は、④「士気が激しく旺盛な軍隊の勢い」を指すと考察。結果、「士気が激しく旺盛な軍隊の勢い」と解読。 ・「暮」の“日が落ち暗くなる”は、③「日が落ちて暗くなった時、士気が殺がれた軍隊の勢いは消滅する」から類推すれば、「激しく旺盛な軍隊の勢い」が殺がれて消滅するのだと解釈できる。結果、「消滅する」と解読。 <⑧について> ・「惰たらしむ昼の気」は、敵軍に対して仕掛ける戦術として記述されているため、⑦「敵を侮る昼間の緩んだ士気」から類推して「自軍を侮らせる昼間の緩んだ士気」と解読。 ・「朝」の“人のもとを訪れる”は、自軍を侮らせるために敵将軍に使者を送ることと考察。結果、使役形で「使者を訪問させる」と解読。 ・「差し迫った様子で使者を訪問させて食物を贈り届ける」は、其十二5-4⑤「蘇秦は、穀物を献上して機嫌を伺うことで秦国に軽んじ侮らせた上で、秦国に立ち向かう諸侯を動員したのである」に関連した記述がある。 ・「暮」の“遅いさま”は、敵将軍に自軍を侮らせて対応を遅らせることと考察。結果、使役形で「敵将軍の対応を遅らせる」と解読。 |