燕は、斉に在る蘇秦を之いて興きるなり。

其十二5-4

燕之興也、蘇秦在齊。

yàn zhī xìng yĕ、sū qín zài qí。

解読文

①燕国は、斉国に仕えていた蘇秦を起用して挙兵したのである。

②眠りから目覚めた秦国は、国内を整えていた時、引き立てて任用されたいと志願してきた蘇秦を軽んじ侮ったのである。

③蘇秦は、秦国が諸国から抜きんでて強大になった状況を観察したのであり、燕国に赴いた時は引き立てて任用されたのである。

④燕国は、秦国に立ち向かう諸侯を観察して弁別して、蘇秦に諸侯を動員させたのである。

⑤蘇秦は、穀物を献上して機嫌を伺うことで秦国に軽んじ侮らせた上で、秦国に立ち向かう諸侯を動員したのである。

⑥諸侯が安らぐために合従軍が形成されたのであり、一斉に布陣して秦国を取り囲んだのである。

⑦秦国が戦争に疲れ切って休息する状況を観察して、速やかに合従軍が安らぐ講和を締結するに至ったのである。

⑧蘇秦は、抜きんでて強大になった秦国を観察したため、軍事力を匹敵させた合従軍を動員して、獲物となった鳥のように秦国を挫折させたのである。
書き下し文
①燕は、斉に在る蘇秦を之(もち)いて興きるなり。

②蘇(さ)める秦は、在を斉(ととの)えるに、興(おこ)されんとする之を燕(な)れるなり。

③蘇は、秦の斉(のぼ)るを在(み)るなり、燕に之(ゆ)くに興(おこ)されるなり。

④燕は、秦に蘇(む)かうものを在(み)て斉(わ)かちて、之に興(おこ)せしむなり。

⑤蘇は、斉(し)に在(と)いて、秦を燕(な)れしめ、之を興すなり。

⑥燕(やす)んずるに之は興るなり、斉(ひと)しく在りて秦を蘇するなり。

⑦秦の蘇(い)こうを在(み)て、斉(せい)なりて燕(やす)んずること興るに之(いた)るなり。

⑧蘇は、秦を在(み)て、斉(ひと)しくせしむ之を興して、燕(えん)たらしむなり。
<語句の注>
・「燕」は①周代の諸侯国、②軽んじ侮る、③④周代の諸侯国、⑤軽んじ侮る、⑥⑦安らぐ、⑧ツバメ科の小鳥、の意味。
・「之」は①使う、②代名詞、③赴く、④⑤⑥代名詞、⑦ある地点や事情に達する、⑧代名詞、の意味。
・「興」は①起き上がる、②③引き立て用いる、④⑤動員する、⑥⑦形成される、⑧動員する、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
・「蘇」は①秦に対して合従策を用いた「蘇秦」、②眠りから目覚める、③秦に対して合従策を用いた「蘇秦」、④立ち向かう、⑤秦に対して合従策を用いた「蘇秦」、⑥取り囲む、⑦疲れ切った後に休息する、⑧秦に対して合従策を用いた「蘇秦」、の意味。
・「秦」は①秦に対して合従策を用いた「蘇秦」、②③④⑤⑥⑦⑧春秋戦国時代の諸侯国、の意味。
・「在」は①依存する、②居場所、③④観察する、⑤機嫌を伺う、⑥位置する、⑦⑧観察する、の意味。
・「斉」は①周代の諸侯国、②整える、③高い所に上がる、④弁別する、⑤(神に供える)穀物、⑥一斉に、⑦速やかに、⑧匹敵する、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)では割愛されている。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「蘇秦」については、ウィキペディア掲載「斉に行き、張儀と共に鬼谷に師事し、縦横の術を学んだ」等を参考にした。

・「在」の“依存する”は、「蘇秦」が「斉国」に依存していたのであり、つまりは斉国に蘇秦が仕えていたのだと解釈できる。結果、「仕えている」と言い換えた。

<②について>
・「在を斉える」の直訳は“居場所を整える”だが、主語は眠りから目覚めて次第に強大になっていく秦国であるため、国内を整えることと考察。結果、「国内を整える」と解読。

・「之」は、①「蘇秦」を指示する代名詞と解読。

・「興」の“引き立て用いる”は、ウィキペディア掲載「(蘇秦は)秦に向かい、武王に進言したが、受け入れられなかった。当時の秦は商鞅が死刑になった後で、弁舌の士を敬遠していた時期のためである」を参考にすれば、「蘇秦」の方から秦国に対して任用されたいと志願してきたのだと解釈できる。結果、「興されんとする」で「引き立てて任用されたいと志願してくる」と補って解読。

<③について>
・「蘇」は、①「蘇秦」の意味を積み上げていると考察。結果、人名である「蘇秦」と補って解読。⑤⑧も同様に解読。

・「斉」の“高い所に上がる”は、秦国が他国と比して強大化していくことと考察。結果、「斉る」で「諸国から抜きんでて強大になった状況」と解読。

<④について>
・「之」は、③「蘇」の「蘇秦」を指示する代名詞と解読。

・「蘇かうもの」の直訳は“立ち向かう者”となる。これは、ウィキペディア掲載「燕の昭王に進言して趙との同盟を成立させ、更に韓・魏・斉・楚の王を説いて回り、戦国七雄のうち秦を除いた六国の間に同盟を成立」を参考にすれば、趙・韓・魏・斉・楚を指すと考察できる。結果、ここでは簡潔に「立ち向かう諸侯」と解読。

<⑤について>
・「之」は、④「蘇」の「秦国に立ち向かう諸侯」を指示する代名詞と解読。

<⑥について>
・「燕」の“安らぐ”は、③「秦国が諸国から抜きんでて強大になった状況」に基づけば、秦国を抑えて諸侯が安らぐことと解釈できる。結果、「諸侯が安らぐ」と解読。

・「之」は、⑤「之」の「秦国に立ち向かう諸侯」を指示する代名詞と解釈。これはウィキペディア掲載「燕の昭王に進言して趙との同盟を成立させ、更に韓・魏・斉・楚の王を説いて回り、戦国七雄のうち秦を除いた六国の間に同盟を成立」を参考にすれば、合従策による軍隊を指すと考察できるため「合従軍」と解読。⑧も同様に解読。

・「蘇」の“刈り取る”は、抜きんでて強大になっていく秦国を討伐することと解読。

<⑦について>
・「燕んずること興る」の直訳は“安らぐことが形成される”となる。話の流れから合従軍が安らぐ事柄は、秦国との講和と解釈できる。結果、「合従軍が安らぐ講和を締結する」と補って解読。

<⑧について>
・「秦」の“春秋戦国時代の諸侯国”は、③「秦国が諸国から抜きんでて強大になった状況」の意味を積み上げて、「抜きんでて強大になった秦国」と解読。

・「斉しくせしむ之」は、「之」を「合従軍」と解釈すれば“匹敵させた合従軍”となる。これは「抜きんでて強大になった秦国」に対して軍事力を同等にしたのだと考察できる。結果、「軍事力を匹敵させた合従軍」と補って解読。

・「燕」の“ツバメ科の小鳥”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。つまり、「軍事力を匹敵させた合従軍」を動員したことで、「抜きんでて強大になった秦国」が「獲物の鳥」に変わったのであり、攻め取る節目と時機を出現させて挫折させたのだと解釈できる。結果、「燕たらしむ」で「獲物となった鳥のように秦国を挫折させる」と解読。

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