其九4-22
吏怒者、倦也。
lì nù zhě、juàn yĕ。
解読文
①役人を怒らせる理由は、兵士達が雑務を怠るからである。 ②兵士達が雑務を怠れば、役人の勢力が強くなるのである。 ③役人の勢力が強くなれば、ふんぞり返って尊大な態度を取る役人が出現するのである。 ④役人の勢力が強過ぎれば、兵士達を雑務で疲労させるのである。 ⑤ふんぞり返って尊大な態度を取る役人が出現すれば、腹を立てる兵士達が出現するのである。 ⑥ふんぞり返って尊大な態度を取る役人が仕事を怠れば、腹を立てる兵士達の中から、その役人を叱責する者が出現するのである。 ⑦役人を叱責する者が出現すれば、ふんぞり返って尊大な態度を取っていた役人はうずくまって反省するのである。 ⑧ふんぞり返って尊大な態度を取っていた役人をうずくまって反省させる者は、役人にして奮い立たせるのである。 |
書き下し文
①吏(り)を怒らすは、倦(う)めばなり。 ②倦(う)まば、吏(り)は怒たるなり。 ③吏(り)の怒たらば、倦(けん)する者あるなり。 ④吏(り)の怒(こ)えれば、倦(けん)せしむなり。 ⑤倦(けん)する吏(り)あれば、怒る者あるなり。 ⑥吏(り)倦(う)めば、怒る者あるなり。 ⑦怒る者あれば、吏(り)は倦(けん)するなり。 ⑧倦(けん)する者は、吏(り)として怒せしむなり。 |

<語句の注>
・「吏」は①②③④⑤⑥⑦役人の通称、⑧役人にする、の意味。 ・「怒」は①怒らせる、②③勢いが強いさま、④超過する、⑤腹を立てる、⑥⑦叱責する、⑧奮い立つさま、の意味。 ・「者」は①因果関係「也」に対応した置き字、②仮定表現の助詞、③助詞「もの」、④仮定表現の助詞、⑤⑥⑦⑧助詞「もの」、の意味。 ・「倦」は①②怠る、③足を投げ出して座る、④疲労する、⑤足を投げ出して座る、⑥怠る、⑦⑧うずくまる、の意味。 ・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。 |
<解読の注>
・中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文に従った。 ・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。 <①について> ・「倦」の“怠る”は、役人を怒らせる要因に繋がるため、兵士達が怠ることと解釈。怠る内容は、兵士達の管理に繋がる事柄と考えれば諸々の雑務と解釈。結果、「兵士達が雑務を怠る」と補って解読。②も同様に解読。 <②について> ・「怒」の“勢いが強いさま”とは、兵士達が雑務を怠った結果、役人の立場が強くなった状況と解釈できる。結果、「勢力が強くなる」と解読。③も同様に解読。 <③について> ・「倦する者」の直訳は“足を投げ出して座る者”となる。この姿勢を、勢力を強めた役人の様子と解釈すれば、「ふんぞり返って尊大な態度を取る役人」と解読できる。⑤⑥も同様に解読。 <④について> ・「怒」の“超過する”は、②「役人の勢力が強くなる」及び③「ふんぞり返って尊大な態度を取る役人」の解釈に基づけば、「勢力が強過ぎる」と解読できる。 ・「倦」の“疲労する”は、役人の勢力が強過ぎる状態は、過剰な規律で軍事が制限されて、それに伴って雑務も増えると推察できる。そして、ちょっとした事柄でも規律を満たす必要があり、手続きが発生するため兵士達が疲労するのだと解釈できる。結果、使役形で「兵士達を雑務で疲労させる」と解読。 <⑤について> ・「腹を立てる兵士達が出現する」理由は、④「兵士達を雑務で疲労させる」と推察する。 <⑥について> ・解読文⑤からの話の流れを踏まえて「腹を立てる兵士達の中から」と補った。 ・「吏」の“役人の通称”は、⑤「吏」の「ふんぞり返って尊大な態度を取る役人」の意味を積み上げていると考察。結果、「ふんぞり返って尊大な態度を取る役人」と解読。⑦も同様に解読。 ・「怒」の“叱責する”は、話の流れに合わせて「怒る者」で「その役人を叱責する者」と解読した。 <⑦について> ・「怒」の“叱責する”は、⑥「怒」の「その役人を叱責する者が出現する」の意味を積み上げていると考察。結果、「役人を叱責する者が出現する」と補って解読。 ・「倦」の“うずくまる”は、その姿勢より反省の意味が込められていると考察。結果、「うずくまって反省する」と補って解読。 <⑧について> ・「倦」の“うずくまる”は、⑦「倦」で記述された「役人を叱責する者が出現すれば、ふんぞり返って尊大な態度を取っていた役人はうずくまって反省する」の意味を積み上げていると考察。主語を「役人を叱責する者」とすれば、使役形で「ふんぞり返って尊大な態度を取っていた役人をうずくまって反省させる」と解読。 |
