旌旗の動くは、乱なればなり。

其九4-21

旌旗動者、亂也。

jìng qí dòng zhě、luàn yĕ。

解読文

①旗印が揺れている理由は、軍隊が秩序を失ったからである。

②旗印の仕事をする兵士は、軍隊を正し治めるのである。

③正し治める兵士は、旗を静止状態から動かす変化によって合図を示すのである。

④合図を示す兵士が、自軍を動かして敵軍を掻き乱すのである。

⑤旗の仕事をする敵兵は、はっきり目立つように寝返った功績を褒め称えて正気を失わせるのである。

⑥正気を失った旗の仕事をする敵兵は心を揺さぶられた状態で、合図を示すのである。

⑦敵軍の旗印を掻き乱す理由は、旗の仕事をする敵兵を驚かせたからである。

⑧敵軍の旗印を掻き乱せば、敵全軍の兵士達を恐れ震えさせるのである。
書き下し文
①旌旗(せいき)の動くは、乱なればなり。

②旌旗(せいき)を動する者は、乱(おさ)めるなり。

③乱(おさ)める者は、動かして旗(き)を旌(あらわ)すなり。

④旗(き)を旌(あらわ)す者は、動かして乱すなり。

⑤旗(き)を動する者は、旌(あらわ)して乱すなり。

⑥乱れしめた者は動かせしめて、旗(き)を旌(あらわ)すなり。

⑦旌旗(せいき)を乱すは、動かしめばなり。

⑧旌旗(せいき)を乱せば、動かしむなり。
<語句の注>
・「旌」は①②旗の通称、③④表示する、⑤(はっきり目立つように)表彰する、⑥表示する、⑦⑧旗の通称、の意味。
・「旗」は①②印、③④標識、⑤旗の総称、⑥標識、⑦⑧印、の意味。
・「動」は①揺れる、②仕事をする、③④静止状態から変わる、⑤仕事をする、⑥心を揺さぶる、⑦驚く、⑧震える、の意味。
・「者」は①因果関係「也」に対応した置き字、②③④⑤⑥助詞「もの」、⑦因果関係「也」に対応した置き字、⑧仮定表現の助詞、の意味。
・「乱」は①秩序が無いさま、②③正し治める、④掻き乱す、⑤⑥正気を失わせる、⑦⑧掻き乱す、の意味。
・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④⑤⑥断定の語気、⑦因果関係を表す助詞、⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文に従った。
・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・「旌旗」は、其七5-2①「旌旗」同様に「旗印」と解読。

・「乱」の“秩序が無いさま”は、軍隊が秩序を失っている状態と考察。結果、「軍隊が秩序を失う」と補って解読。

<②について>
・「乱」の“正し治める”は、旗印の仕事をする兵士が軍隊を整えることと考察。結果、「軍隊を正し治める」と補って解読。

<③について>
・「動」の“静止状態から変わる”は、旗は静止状態から動かして生じる“変化”に意味があると考察。結果、「静止状態から動かす変化」と解読。

・「旗を旌す」の直訳は“標識を表示する”となる。旗の変化によって陣形、隊列、行動の合図を軍隊に伝えると解釈。結果、「合図を示す」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「動」の“静止状態から変わる“は、旗印を使って合図を示す兵士が自軍を動かすことと考察。結果、「自軍を動かす」と解読。

・「乱」の“掻き乱す”のは戦っている敵であるため「敵軍を掻き乱す」と補って解読。

<⑤について>
・「旌」の“(はっきり目立つように)表彰する”意味は、旗の仕事をする敵兵を偽りの功績等で褒め称えること、しかも、周りの敵兵達にも聞こえるように行うと考察。また、解読文⑧で「謀反」と明示されるため、この偽りの功績等は「寝返ること」と解釈できる。結果、「はっきり目立つように寝返った功績を褒め称える」と解読。
偽りの言葉であっても、旗の仕事をする敵兵に対する疑念が生じてしまうため「正気を失わせる(=乱)」のだと解釈した。

<⑥について>
・「乱れしめた者」の直訳は“正気を失った者”となる。これは⑤「旗の仕事をする敵兵は、はっきり目立つように寝返った功績を褒め称えて正気を失わせるのである」に基づけば、「正気を失った旗の仕事をする敵兵」と解読できる。

<⑦について>
・「乱」の“掻き乱す”は、旗の仕事をする敵兵の心が揺さぶられた時、その者が示す合図も乱れることを表現したと考察。その結果、「旌旗」を「敵軍の旗印」と補って解読。

・「動」の“驚く”は、「旗の仕事をする敵兵」を驚かせることと考察。結果、使役形で「旗の仕事をする敵兵を驚かせる」と補って解読。

<⑧について>
・「動」の“震える”は、旗印が掻き乱されて敵軍全体の兵士達が恐れ震えることと考察。結果、「敵全軍の兵士達を恐れ震えさせる」と補って解読。

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