故に、之を与するものは死ぬ可きなり、之を与して生う可し。民は詭らざるなり。

其一2-3

故可與之死、可與之生、民弗詭也。

gù kĕ yŭ zhī sǐ、kĕ yŭ zhī shēng、mín fú guǐ yĕ。

解読文

①だから、君主を心から認める人民は中国全土を統一すれば戦争が無くなる意義のために命を捨てることができるのであり、君主は、この人民を心から認めて養わなければならない。人民は心から認めた君主を欺かないのである。

②未熟な隊長が、君主を心から認める兵士に親しく付き従うことを許せば、この兵士達は戦争に対する感覚が麻痺して隊長の指示に抵抗する災いに向き合うだろう。兵士の戦争に対する感覚がくい違えば改心させるのである。

③兵士が隊長の指示に抵抗する災いに対処する時は、死者の出そうな事故に兵士達を向き合わせれば、仲間から死者を出現させることに値し、兵士達に責任を持たせて改心させるのである。

④災いが発生した時に仲間が死ぬという事実に向き合えば、未熟な隊長が改心して兵士達に心から認められるようになる利点がある。命を落とした仲間が、兵士を可愛がる病気の隊長を改心させて責任を持たせるのである。
書き下し文
①故に、之を与(くみ)するものは死ぬ可きなり、之を与(くみ)して生(やしな)う可し。民は詭(いつわ)らざるなり。

②生なるものは之に与(くみ)すること可(き)かば、之は死にて与(あ)たる故に可(あ)たらん。民は詭(たが)えば弗(はら)うなり。

③之に与(くみ)するに、死すものあらんとする故に可(あ)たらしめば、与に之を生ぜしむ可し、民を詭(せ)めて弗(はら)うなり。

④故あるに与(くみ)の死に可(あ)たれば、生なるものの之(ゆ)きて与(くみ)されんとする可あり。民は弗(はら)いて詭(せ)めるなり。
<語句の注>
・「故」は①だから、②災い、③事故、④災い、の意味。
・1つ目の「可」は①~できる、②②④向き合う、の意味。
・1つ目の「与」は①心から認める、②親しく付き従う、③対処する、④仲間、の意味。
・1つ目の「之」は①②③代名詞、④変わる、の意味。
・「死」は①信念や理想のために命を捨てる、②感覚が麻痺したさま、③死者、④人が死ぬという事実、の意味。
・2つ目の「可」は①~しなければならない、②許す、③~に値する、④長所、の意味。
・2つ目の「与」は①心から認める、②親しく付き従う、③仲間、④心から認める、の意味。
・2つ目の「之」は①②③代名詞、④変わる、の意味。
・「生」は①生育する、②未成熟の、③出現する、④未成熟の、の意味。
・「民」は①②③④庶民、の意味。
・「弗」は①~しない、②③④厄払いする、の意味。
・「詭」は①欺く、②くい違う、③④責任を持たせ任せる、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「故可與之死、可與之生、民弗詭。」と「也」がないが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」 の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「之」は、其一2-2①「」の「君主」を指示する代名詞として解読。

・2つ目の「之」は、1つ目の「与」の「君主を心から認める人民」を指示する代名詞として解読。解読文が冗長にしないため、簡潔に「この人民」とした。

・「中国全土を統一すれば戦争が無くなる意義のために命を捨てる」は、「死」の“信念や理想のために命を捨てる”の「信念や理想」が、其一2-2④「中国全土を統一すれば戦争が無くなる意義」を指すと考察し、置き換えた。

・「弗」は打消の副詞だが先秦までは目的語が省略される。省略された目的語は1つ目の「之」の「君主」と考察。なお、書き下し文に省略された文字を補うことはしない。

<②について>
・1つ目のと2つ目の「之」は、①「民」の「君主を心から認める人民」を指示する代名詞と考察、但し、ここからは軍隊に関する内容であるため「人民」を「兵士」に置き換えて解読。以降、④まで「人民」は「兵士」と解読。

・「未熟な将軍は、君主を心から認める兵士に親しく付き従うことを許せば、 この兵士達は戦争に対する感覚が麻痺して隊長の指示に抵抗する災いに向き合う」は、其十4-1②「人民を可愛がる病気の隊長が、戦地の型「険」に該当する高く険しい山があることをはっきり伝えた上で山中の川を目指せば、兵士達は必ず反対するが同意して切実な様子で遠く離れた山中の川に出かけるのである」に基づいて解読。兵士は“戦争に対して甘い認識”を持つようになるのだと考察できる。なお、「生」の“未成熟の”は、兵士達が隊長に親しく付き従うことを許す人物であるため「未熟な隊長」自身と解読。

・「詭」の“くい違う”は、“戦争に対する感覚が麻痺”した状態であるため、「戦争に対する感覚がくい違う」と補って解読。

・「弗」の“厄払いする”は、そのまま解読文に使用すると異なる意味で読んでしまう可能性があるため、話の流れに合わせて「改心させる」と解読した。③も同様に解読。

<③について>
・1つ目の「之」は、②「故」の「兵士が隊長の指示に抵抗する災い」を指示する代名詞と解読。

・2つ目の「之」は、「死」の「死者」を指示する代名詞と解読。

・「 死者の出そうな事故に兵士達を向き合わせれば、仲間から死者を出現させることに値し、兵士達に責任を持たせて改心させる 」は、其十4-1③「親しく付き従う兵士達に対して、急に若い女性を犯すように乱暴に扱って高く険しい山で兵士が死亡すれば、その死亡を皆に急ぎ知らせて死体を埋葬し、隊長は生存した仲間達と“死亡事故が起きた事実とその理由”に向き合う」に基づいて解読。

<④について>
・「災いが発生した時に仲間が死ぬという事実に向き合えば、未熟な隊長が改心して兵士達に心から認められる」は、其十4-1④「生存した兵士達の存在が、隊長に罪を忘れさせず、その重みを背負わせた状態にして、人民を可愛がる病気を治すのである。「虚」に繋がる事柄に精通して出かけるようになれば、兵士達はその隊長を心から認めるのである」を指す。

・「民」は、話の流れを踏まえて、災いによって「命を落とした仲間」と解読。

・「兵士を可愛がる病気の隊長」は、其十4-1④「生存した兵士達の存在が、隊長に罪を忘れさせず、その重みを背負わせた状態にして、人民を可愛がる病気を治すのである」に基づいて補った。

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