道は、民と上の意を同じくせしむなり。

其一2-2

道者、令民與上同意者也。

daò zhě、lǐng mín yŭ shàng tóng yì zhě yĕ。

解読文

①道理とは、人民と君主の考えを一致させるものである。

②人民と君主の考えを一致させるために道理を説く者は、人民に君主を心から認めさせるのである。

③侵略戦争において、敵国の町、村、里、集落を経由して陣地していく将軍は、陣地にした町、村、里、集落の敵人民に説いて君主の考えに一致させ、敵国の君主に抵抗させる存在なのである。

④陣地にした町、村、里、集落を治める将軍は、統治下に置いた敵人民を自国の君主の味方にして、中国全土を統一すれば戦争が無くなる意義を共有させる存在なのである。
書き下し文
①道は、民と上の意を同じくせしむなり。

②意を同じくせしむに道(い)う者は、民をして上を与(くみ)せ令(し)むなり。

③道(よ)る者は、意を同じくし、民をして上に与(あ)たらせ令(し)む者なり。

④道(おさ)める者は、民をして上に与(くみ)して意を同じくせ令(し)む者なり。
<語句の注>
・「道」は①道理、②説く、③経由する、④統治する、の意味。
・1つ目の「者」は①~とは、②③④助詞「もの」、の意味。
・「令」は①②③④使役形、の意味。
・「民」は①②③④庶民、の意味。
・「与」は①と、②心から認める、③相手に抵抗する、④味方にする、の意味。
・「上」は①②③④自分の主人、の意味。
・「同」は①②③一致したさま、④共有する、の意味。
・「意」は①②③考え、④意義、の意味。
・2つ目の「者」は①助詞「もの」、②仮定表現の助詞、③④助詞「もの」、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

・この句について詳しく解説したページがあります。
孫子の名言「道とは、民をして上と意を同じくせしむる者なり」の間違い

<①について>
・「人民と君主の考えを一致させる」は、其一2-1②「道理は人民の意向を一点に集中させる」に基づく記述であり、集中させる一点が「君主の考え」であると解釈できる。
人民に一致させる「君主の“考え、意向”」は、其一2-1③「一点に集中させた人民の意向は思想を形成して人民を統一させる」とあることから「思想」に繋がる内容であるとわかる。
そして、後述される其十3-4④「自軍の将軍は「戦乱を免れた土地の保有を保証する意向であり、戦争を無くすことを必ず実現するために戦争に向き合うのである」と言う」は、君主の「君主の“考え、意向”」に基づいた発言だと考察できる。
この“戦争を無くす考え、意向”から導き出される「思想」は、其三2-6①「必ず、中国全土を完全な状態に保って領地を奪い合う戦争を終えなければならない」に基づけば「中国全土の統一」だと結論が出る。そして、この「中国全土を統一する思想」を実現するために、中国全土の人民と一致しなければならない「道理」は、其十二1-2④「戦争を無くして中国全土を統一した時代をつくろうとする自国の君主を担ぎ上げるだろう」等に基づけば、「中国全土を統一すれば戦争が無くなる道理」だと解釈できる。
つまり、孫子兵法において最も大切な「道理」は、「中国全土を統一すれば戦争が無くなる道理」である。もし、一国における統治方針等を“道”と解釈すると利己的な内容となり、敵国が戦うことなく自国に服従する理由(=道理)がなくなるため注意が必要である。

<②について>
・「道」の“説く”には、①「道」の「道理」の意味が積み上げられていると考察。

<③について>
・「道」の“説く”には、②「道」の「人民と君主の考えを一致させるために道理を説く」の意味が積み上げられていると考察。

・1つ目の「者」は、汙直の計を実行している者であるため「将軍」と解読。④も同様に解読。

・「侵略戦争において、敵国の町、村、里、集落を経由して陣地していく将軍」は、其七4-3①「敵里を奪い取れば多人数の正攻法部隊に割り当て、陣地を開拓して統治して兵糧と飼料を各部隊に配分するのであり、開拓した陣地を繋ぎ止めて全軍の権勢が生じれば、自軍が行動し始めた時、敵軍に危険を感じさせることができるのである」に基づいて解読。なお、“里”だけではなく、“町、村、集落”も解読文に含まれているが、これらも陣地にする記述が後述されるため補った。

・「民」と「上」の“自分の主人”は、自国が敵国に侵略戦争を仕掛けて陣地を奪っている内容であるため、敵国の「人民」と「敵国の君主」と解読。

<④について>
・「道」の“治める”には、③「道」の「侵略戦争において、敵国の町、村、里、集落を経由して陣地していく」の意味が積み上げられていると考察。

・「意」の“意義”は、①「解読の注」で解説した“君主の考え“から形成される「中国全土を統一する思想」によって得られる結果であり、「中国全土を統一すれば戦争が無くなる道理」そのものが”意義“の内容だと考察できる。ここでは話の流れに合わせて「中国全土を統一すれば戦争が無くなる意義」とした。

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