戦かしむ故を道いて勝ちを必すれば、主は戦くこと無しと曰いて、戦いを必すること可くなり。

其十3-4

故戰道必勝、主曰無戰、必戰可也。

gù zhàn daò bì shèng、zhǔ yuē wú zhàn、bì zhàn kĕ yĕ。

解読文

①敵軍を恐れ震えさせる道理を説いて自軍の勝利を断定すれば、君主は「恐れ震えることは無い」と言って、戦争の決行に同意するのである。

②敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略を実行して敵国を衰えさせた上で、軍隊の勢いで優劣を争えば敵軍を抑えると断定すれば、君主は「自軍の有利を確固たるものにして、敵軍とせめぎ合うこと無く恐れ震えさせることができる」と言うだろう。

③既に敗北した状態の敵将軍が依然として戦闘しようとするならば、「仮に戦闘したとしても、必ず恐れ震える事態に向き合うだろう」と説いて、政治上の重要な地位を保証するのである。

④それで、敵将軍の心が降参に揺れ動けば、自軍の将軍は「戦乱を免れた土地の保有を保証する意向であり、戦争を無くすことを必ず実現するために戦争に向き合うのである」と言うのである。
書き下し文
①戦(おのの)かしむ故を道(い)いて勝ちを必すれば、主は戦(おのの)くこと無しと曰いて、戦いを必すること可(き)くなり。

②道(よ)りて故(ふ)らしめて、戦えば勝つと必すれば、主は必して戦うこと無く必ず戦(おのの)かしむ可しと曰わん。

③勝(しょう)なる主は故(もと)より戦わんとすらば、「無(も)し戦うも、必ず戦(おのの)くに可(あ)たらん」と曰いて、道を必するなり。

④故に、戦(そよ)げば、主は勝(しょう)を必する道なり、戦い無くすを必するに戦いに可(あ)たるなりと曰うなり。
<語句の注>
・「故」は①道理、②衰える、③依然として、④それで、の意味。
・1つ目の「戦」は①(恐れや寒さのために)震える、②優劣を争う、③戦をする、④揺れ動く、の意味。
・「道」は①説く、②経由する、③政治上の重要な地位、④意向、の意味。
・1つ目の「必」は①②断定する、③④保証する、の意味。
・「勝」は①勝利、②抑える、③既に滅ぼされたさま、④景色の優れた土地、の意味。
・「主」は①②一国の長、③④所有者、の意味。
・「曰」は①②~と言う、③④~と説く、の意味。
・「無」は①②無い、③仮に~としても、④無い、の意味。
・2つ目の「戦」は ①(恐れや寒さのために)震える、②せめぎ合う、③戦をする、④戦争、の意味。
・2つ目の「必」は①決行する、②立場を確かにする、③必ず、④必ず実行する、の意味。
・3つ目の「戦」は①戦争、②③(恐れや寒さのために)震える、④戦争、の意味。
・「可」は①同意である、②~できる、③④向き合う、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「敵軍を恐れ震えさせる道理」は、其十3-3③「六種類の戦地の型「通、挂、支、隘、険、遠」を識別して上手く適合させる将軍は、有利に戦える場所に自軍を配置することを必ず実行して敵軍を恐れ震えさせるのである」の実現に至る道理等を指すと考察。

<②について>
・「道りて故らしむ」の直訳は“経由して衰えさせる”となる。これは、其七1-4①「敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略」を実行して、敵里を経由して陣地にして自軍を強化し、同時に敵国を衰えさせることと考察。結果、「敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略を実行して敵国を衰えさせる」と補って解読。

・1つ目の「戦」の“優劣を争う”は、其五5-4④「荒々しい軍隊の勢いで優劣を争って敵軍を劣勢にさせる優れた将軍は思いやりの才能がある」等の意味を積み上げていると考察し、「軍隊の勢いで優劣を争う」と解読。

・2つ目の「必」の“立場を確かにする”は、敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略を実行して敵国を衰えさせることで自軍が有利な状態をつくることと解釈。結果、「自軍の有利を確固たるものにする」と解読。

<③について>
・「主」の“所有者”は、敵軍の所有者である敵将軍を指すと考察。結果、「敵将軍」と解読。

<④について>
・「戦」の“揺れ動く”は、解読文③の状況に追い込まれた敵将軍の心が降参する方向に揺れ動くことと考察。結果、「敵将軍の心が降参に揺れ動く」と補って解読。

・「主」の“所有者”は、自軍の所有者である将軍を指すと考察。結果、「自軍の将軍」と解読。

・「勝」の“景色の優れた土地”は、敵国の立場から見れば“自軍に侵略されていない土地”は戦乱に巻き込まれていないため“優れた景色”を残していると解釈。結果、「戦乱を免れた土地」と解読。

・1つ目の「必」の“保証する”は、「戦乱を免れた土地」を敵国が保有を認めることと解釈。結果、「保有を保証する」と補って解読した。

・将軍の「戦乱を免れた土地の保有を保証する意向であり、戦争を無くすことを必ず実現するために戦争に向き合うのである」の発言から、孫子兵法は“中国の統一”を前提とした教えと解釈できる。

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