其十3-5
戰道不勝、主曰必戰、無戰可也。
zhàn daò bù shèng、zhǔ yuē bì zhàn、wú zhàn kĕ yĕ。
解読文
①軍隊の勢いで優劣を争うことを考えた時、自軍が優勢にならなければ、君主が「戦争を決行しろ」と言っても、将軍が戦争に同意することは無いのである。 ②君主が自説にしがみついて「恐れ震えること無く、戦争しなければならない」と言えば、将軍は「戦争すれば自軍は持ち堪えられない」と説くのである。 ③「どうしても戦争しろ」と言う君主は、軍隊の勢いで優劣を争う利点を蔑ろにするため自軍は持ち堪えられず、自軍の兵士達が恐れ震える道理である。 ④敵国を抑える将軍が「恐れ震えることは無い」と考える時は、「軍隊の勢いで優劣を争えば、自軍の有利を確固たるものにして敵軍とせめぎ合うことは無い、同意である」と言うのである。 |
書き下し文
①戦うこと道(おも)うに勝(まさ)らずんば、主の戦いを必せよと曰うも、戦いに可(き)くこと無きなり。 ②主は必して戦(おのの)くこと無く戦う可しと曰えば、戦えば勝(た)えずと道(い)うなり。 ③必ず戦えと曰う主は、戦う可を無(なみ)して勝(た)えず、戦(おのの)く道なり。 ④勝つ主の戦(おのの)くこと不(な)しと道(おも)うに、戦えば必して戦うこと無し、可(き)くと曰うなり。 |
<語句の注>
・1つ目の「戦」は①優劣を争う、②戦をする、③④(恐れや寒さのために)震える、の意味。 ・「道」は①考える、②説く、③道理、④考える、の意味。 ・「不」は①②③~しない、④無い、の意味。 ・「勝」は①越える、②③持ち堪える、④抑える、の意味。 ・「主」は①②③一国の長、④所有者、の意味。 ・「曰」は①②③④~と言う、の意味。 ・「必」は①決行する、②自説にしがみつく、③どうしても、④立場を確かにする、の意味。 ・2つ目の「戦」は①戦争、②(恐れや寒さのために)震える、③戦をする、④せめぎ合う、の意味。 ・「無」は①②無い、③蔑ろにする、④無い、の意味。 ・3つ目の「戦」は①戦争、②戦をする、③④優劣を争う、の意味。 ・「可」は①同意である、②~しなければならない、③長所、④同意である、の意味。 ・「也」は①②③④断定の語気、の意味。 |
<解読の注>
・中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。 ・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・1つ目の「戦」の“優劣を争う”は、其五5-4④「荒々しい軍隊の勢いで優劣を争って敵軍を劣勢にさせる優れた将軍は思いやりの才能がある」等の意味を積み上げていると考察し、「軍隊の勢いで優劣を争う」と解読。 ・「勝」の“越える”は、自軍が敵軍よりも優勢になった状態を指すと考察し、「自軍が優勢になる」と解読。 ・「戦いに可くこと無し」の直訳は“戦争に同意することは無い”となる。君主の指令に対して拒否する者は将軍と考察できる。結果、「将軍が戦争に同意することは無い」と補って解読。 <②について> ・「戦えば勝えずと道う」の直訳は“「戦争すれば自軍は持ち堪えられない」と説く”となる。①同様に、君主の指令に対して拒否する者として将軍を補う。結果、「将軍は「戦争すれば自軍は持ち堪えられない」と説く」と補って解読。 ・「勝」の“持ち堪える”は、戦争において自軍が持ち堪えることと考察。結果、「自軍は持ち堪える」と補って解読。③も同様に解読。 <③について> ・3つ目の「戦」の“優劣を争う”は、①1つ目の「戦」同様に「軍隊の勢いで優劣を争う」と解読。④も同様に解読。 ・1つ目の「戦」の“(恐れや寒さのために)震える”は、敵軍との戦争に持ち堪えられない自軍の兵士達が恐れ震えることと考察。結果、「自軍の兵士達が恐れ震える」と補って解読。 <④について> ・「主」の“所有者”は、自軍の所有者である将軍を指すと考察。結果、「将軍」と解読。 ・「必」の“立場を確かにする”は、軍隊の勢いで優劣を争う利点を得た自軍が有利な状態をつくることと解釈。結果、「自軍の有利を確固たるものにする」と解読。 |