内より騒して外に動かすに、得ざりて操すること事とする者は、七十万を家して、相い守らしむに数年あり、争うこと以めしめて一つにして、日に之を勝たらしむなり。

其十二1-2

外内騷動、不得操事者、七十萬家、相守數年、以爭一日之勝。

waì neì sāo dòng、bù deǐ caō shì zhě、qī shí wàn jiā、xiàng shoǔ shù nián、yǐ zhēng yī rì zhī shèng。

解読文

①自国内部から人民全てをかき集めて他国への遠征に動員する時、慢心せずに軍事訓練をすることを実践する将軍は、七十万ある人民の家庭を養って、次第に服して従わせるのに数年を要し、人民同士で言い争うことを止めさせて統一し、日増しに自国内部を景色の優れた土地にするのである。

②自国内部の景色の優れた土地から収穫があって、真心のある法規や決まりがあれば、毎日、他国人民の一部は我先にと自国に降服してくるのである。その他国から人民等を迎え入れても、仕事をさせた時に掻き乱して担当する職務が上手くいかなければ、自国の七十万ある人民は、国家に対して、その元他国人民を観察することを請求するのである。

③掻き乱す元他国人民を観察する時は、絶対に役所で管理するのである。元他国人民を大いに自国に適合させる任務を担当する役人を動員して、里内の一定の区画にその全員をかき集めて遠ざけるのであり、収穫の数目を七割に減らして自国の七十万ある人民を窘めるのである。日を追うごとに掻き乱す元他国人民を抑制して自国の人民と統一するのである。

④元他国人民と自国人民からできるだけ兵士をかき集めて軍隊を発動した時、戦争を支配する将軍は、敵国の七十万ある敵人民を大いに手に入れるのである。自軍の兵士達と敵国の未婚女性を結婚させて家庭を持たせれば、真心のある法規や決まりに服して従うのである。後には、戦争を無くして中国全土を統一した時代をつくろうとする自国の君主を担ぎ上げるだろう。
書き下し文
①内より騒(そう)して外に動かすに、得ざりて操(そう)すること事(こと)とする者は、七十万を家(いえ)して、相い守らしむに数年あり、争うこと以(や)めしめて一つにして、日に之を勝(しょう)たらしむなり。

②勝(しょう)に年(みの)りありて、数あれば、日に之の一は争いて以(な)すなり。外より内(い)れるも、動(うご)かしむに騒(さわ)がして操(そう)する事の得ざれば、七十万は家に相(み)ること守(もと)めるなり。

③相(み)るに、万(ばん)に家に守るなり。不(おお)いに得せしむ事に操(そう)する者を動かして、内に騷(そう)して外にするなり、年(みの)りの数は十の七たりて以(これ)を争(いさ)めるなり。日に之に勝ちて一つにするなり。

④外と内より騒(そう)して動かすに、事を操(と)る者は、七十万を不(おお)いに得るなり。相い家せしめば、数を守るなり。日に、争うこと以(や)めて一つにする年あらしめんとする之を勝(た)えん。
<語句の注>
・「外」は①②他国、③④遠ざける、の意味。
・「内」は①内部、②迎え入れる、③ものの内側、④内部、の意味。
・「騒」は①あるだけ全部をかき集める、②掻き乱す、③④あるだけ全部をかき集める、の意味。
・「動」は①動員する、②仕事をする、③動員する、④発動する、の意味。
・「不」は①②~しない、③④大いに、の意味。
・「得」は①得意になる、②上手くいく、③適合する、④手に入れる、の意味。
・「操」は①軍事訓練をする、②③担当する、④支配する、の意味。
・「事」は①実践する、②職務、③任務、④戦争、の意味。
・「者」は①助詞「もの」、②仮定表現の助詞、③④助詞「もの」、の意味。
・「七」は①②③④数の名、の意味。
・「十」は①②③④数の名、の意味。
・「万」は①②数の名、③絶対に、④数の名、の意味。
・「家」は①家族を養う、②国家、③役所、④結婚して家庭を持つ、の意味。
・「相」は①次第に、②③観察する、④ある対象に、の意味。
・「守」は①服して従う、②請求する、③管理する、④服して従う、の意味。
・「数」は①いくつかの、②規律、③数目、④規律、の意味。
・「年」は①十二か月、②③収穫、④時代、の意味。
・「以」は①留める、②事を行う、③代名詞、④終える、の意味。
・「争」は①言い争う、②我先にと、③窘める、④戦う、の意味。
・「一」は①統一する、②多くの事物の中の一部、③④統一する、の意味。
・「日」は①日増しに、②毎日、③日を追うごとに、④後、の意味。
・「之」は①②代名詞、③彼ら、④彼、の意味。
・「勝」は①②景色の優れた土地、③抑制する、④担ぎ上げる、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文は「內外騷動、怠於道路、不得操事者、七十萬家。相守數年、以爭一日之勝。」と「怠於道路」が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「内より騒して外に動かす」の直訳は“内部からあるだけ全部をかき集めて他国に動員する”となる。これは其十二1-1①「十万人の大衆を動員して、千里先の敵国に大軍十万で遠征する」からの流れに従えば、「自国内部から人民全てをかき集めて他国への遠征に動員する」と解読できる。

・「七十万を家する」の直訳は“七十万の家族を養う”となる。これは人民の家庭を養うことと考察できる。結果、「七十万ある人民の家庭を養う」と補って解読。

・「争うこと以めしむ」の直訳は“言い争うことを留めさせる”となる。これは人民同士での言い争いを止めさせることと考察。結果、「人民同士で言い争うことを止めさせる」と補って解読。

・「之」は、「内」の「自国内部」を指示する代名詞と解読。

<②について>
・「勝」の“景色の優れた土地”は、①「勝」で記述された「自国内部を景色の優れた土地にする」の意味を積み上げていると考察。結果、「自国内部の景色の優れた土地」と解読。

・「数」の“規律”は、其九6-1⑥「令」の「真心のある法規や決まり」を指すと考察。結果、「真心のある法規や決まり」と解読。④も同様に解読。

・「之」は、①「外」の「他国」を指示する代名詞と解読。

・「之の一」は、「之」を「他国」と解釈すれば“他国の多くの事物の中の一部”となる。これは話の流れを踏まえると、他国の全人民の内の一部と考察できる。「他国人民の一部」と解読。

・「以」の“事を行う”は、「他国人民の一部」が其九6-1⑦「広まった真心のある法規や決まりによって敵国の人民を教え導けば、その人民は奴隷と共に降服してくるのである」の通りに行動することと考察。結果、「自国に降服してくる」と解読。

・「外より内れる」の直訳は“他国から迎え入れる”となる。これは「他国人民の一部」を自国で迎え入れることと考察。結果、話の流れに合わせて「その他国から人民等を迎え入れる」と補って解読。

・「七十万」は、①「七十万」の「七十万ある人民」の意味を積み上げていると考察。この人民達は、自国の人民と解釈できるため、「自国の七十万ある人民」と補って解読。

・「相」の“観察する”は、人民からの要請を受けて、国家で他国から降服してきた人民等を観察することと考察。結果、「その元他国人民を観察する」と補って解読。

<③について>
・「相」の“観察する”は、②「相」で記述された「その元他国人民を観察する」の意味を積み上げていると考察。この元他国人民は仕事を掻き乱すことを踏まえて、結果、「掻き乱す元他国人民を観察する」と補って解読。

・「得」の“適合する”は、掻き乱す元他国人民を自国に適合させることと考察。結果、「不いに得せしむ」で「元他国人民を大いに自国に適合させる」と補って解読。

・「内」の“ものの内側”は、掻き乱す元他国人民を移動させる場所であるため、其十一5-4③「災いを起こす原因となる元敵兵達を里等の一定の区画に封じる」の一定の区画を指すと考察。結果、「里内の一定の区画」と解読。

・「騒」の“あるだけ全部をかき集める”は、掻き乱す元他国人民全てを里内の一定の区画」にかき集めることと考察。結果、「その全員をかき集める」と解読。

・「十の七たり」は、収穫の年貢等を「七割」にすることと考察。結果、「七割に減らす」と解読。

・「以」は、②「七十万」の「自国の七十万ある人民」を指示する代名詞と解読。

・「之」の“彼ら”は、掻き乱す元他国人民を指すと考察。結果、「掻き乱す元他国人民」と解読。

・「一」の“統一する”は、話の流れより「自国の七十万ある人民」に「掻き乱す元他国人民」を統一することと考察。結果、「自国の人民と統一する」と補って解読。

<④について>
・「外と内より騒する」の直訳は“他国と内部からあるだけ全部をかき集める”となる。これは、話の流れを踏まえると、元他国人民と自国人民からできるだけ兵士をかき集めることと考察できる。結果、「元他国人民と自国人民からできるだけ兵士をかき集める」と補って解読。

・「動」の“発動する”は、軍隊を動かすことと考察。結果、「軍隊を発動する」と補って解読。

・「七十万」は、遠征した敵国にある七十万の敵人民を指すと考察。結果、「敵国の七十万ある敵人民」と解読。

・「相い家せしむ」の直訳は“ある対象に結婚させて家庭を持たせる”となる。これは其十一9-7⑧「自軍の兵士達一人ひとりに敵都市の未婚女性を嫁がせて居住させる」を指すと考察。結果、「自軍の兵士達と敵国の未婚女性を結婚させて家庭を持たせる」と解読。

・「争うこと以めて一つにする年あらしめんとする之」の直訳は“戦うことを終えて統一した時代を出現させようとする彼”となる。これは人民が担ぎ上げてくれる君主の思想だとすれば、戦争のある世の中を終わらせることと解釈できる。そして、そのためには中国全土から戦争を無くす必要があるため、統一するものは中国全土と考察できる。結果、「戦争を無くして中国全土を統一した時代をつくろうとする自国の君主」と解読できる。

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