而の爵に百金を禄すること愛しめば、之を適わしめて請うこと知らざる者なり。之は、至って仁不きなり。

其十二1-3

而愛爵祿百金、不知適之請者。不仁之至也。

ér ài jué lù bǎi jīn、bù zhī shì zhī qǐng zhě。bù rén zhī zhì yĕ。

解読文

①将軍が、攻め取った敵兵に対して百金の俸給を与えることを物惜しみすれば、攻め取った敵兵を自国に順応させて敵自身から敵の実情を教えてもらうことを理解していない者である。この将軍は、この上なく思いやりがないのである。

②その上、思いやりの無い将軍は、男女間の愛情と酒を幸福とし、金属製楽器の練習に励み努力するのである。大いに敵を接待することで満足させて最も極まった状態に達した時、敵の実情を教えてもらおうとするのである。

③また、可愛がる者を覆い隠して百金の俸給を与えて、敵対勢力にこの可愛がる者の存在を知られないように祈る将軍は、この可愛がる者を失えば心にかけて無気力になる。

④将軍は、攻め取った敵兵から、敵将軍の可愛がる者を保護する随行者について教えてもらえば、百金の俸給を与えることで、大いに養い育んだ間者と随行者を知り合わせて、刀剣類で敵将軍の可愛がる者を殺害する任務に励み努力させるのである。敵将軍に可愛がる者を失ったことを可哀相に思わせて、無気力にさせるのである。
書き下し文
①而(なんじ)の爵(しゃく)に百金を禄(ろく)すること愛(お)しめば、之を適(したが)わしめて請うこと知らざる者なり。之は、至って仁不(な)きなり。

②而(しか)も、仁不(な)き者は、愛と爵(しゃく)を禄(さいわ)いとし、金に百(つと)むなり。不(おお)いに之を知(ち)して適(たの)しましめて至りに之(いた)るに、請わんとするなり。

③而(しか)して、爵(しゃく)を愛(あい)として百金を禄(ろく)して、適に之を知(あらわ)れざること請(こ)う者は、之を不(な)くせば仁(いつく)しみて至りたり。

④而(なんじ)は、之より適を請えば、禄(ろく)して、不(おお)いに仁(そだ)てる之と知らしめて、金なすことに百(つと)ましむなり。爵(しゃく)を愛(お)しましめて至りたらしむなり。
<語句の注>
・「而」は①あなた、②そのうえ、③また、④あなた、の意味。
・「愛」は①物惜しみする、②男女間の愛情、③覆い隠す、④可哀相に思う、の意味。
・「爵」は①スズメ、②酒、③スズメ、④爵位、の意味。
・「禄」は①俸給を与える、②幸福、③④俸給を与える、の意味。
・「百」は①数の名、②励み努力する、③数の名、④励み努力する、の意味。
・「金」は①銭、②金属でつくった楽器、③銭、④刀剣類、の意味。
・1つ目の「不」は①~しない、②大いに、③~しない、④大いに、の意味。
・「知」は①理解する、②接待する、③知られるようになる、④知り合う、の意味。
・「適」は①順応する、②満足する、③敵、④正当の地位や立場にある者、の意味。
・1つ目の「之」は①代名詞、②彼ら、③④代名詞、の意味。
・「請」は①②教えてもらう、③祈る、④教えてもらう、の意味。
・「者」は①②③助詞「もの」、④仮定表現の助詞、の意味。
・2つ目の「不」は①②③無い、④大いに、の意味。
・「仁」は①②古代における基本的な道徳規範としての他者に対する思いやり、③心にかける、④養い育む、の意味。
・2つ目の「之」は①代名詞、②ある地点や事情に達する、③代名詞、④彼、の意味。
・「至」は①この上なく、②最も極まった状態、③④極点、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「而愛爵祿百金、不知敵之情者、不仁之至也。」と「適」を「敵」、「請」を「情」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「爵」の“スズメ”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。他では主に「獲物となる敵部隊」と解読するが、ここでは敵の実情を得ることに関する文意であることを踏まえれば、奇策部隊に攻め取られた後の状態と解釈できる。結果、「攻め取った敵兵」と解読。なお、スズメは小さな鳥であるが、小さな獲物であっても蔑ろにしてはいけないという意味合いがあると推察する。

・1つ目の「之」は、「爵」の「攻め取った敵兵」を指示する代名詞と解読。④も同様に解読。

・「請」の“教えてもらう”は、其一1-2①「請」で記述された「敵自身から敵の実情を教えてもらう」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵自身から敵の実情を教えてもらう」と補って解読。

・2つ目の「之」は、「者」の「敵自身から敵の実情を教えてもらうことを理解していない者」を指示する代名詞と解釈。但し、話の流れに合わせて「この将軍」と簡潔に解読。

・「仁」の“古代における基本的な道徳規範としての他者に対する思いやり”は、其一2-6①「仁」の「(将軍の)思いやり」と同意。結果、「思いやり」と簡潔に解読。②も同様に解読。

<②について>
・「金に百む」の直訳は“金属でつくった楽器に励み努力する”となる。これは接待のために楽器の練習をすることと考察。結果、「金属製楽器の練習に励み努力する」と解読。なお、其九4-12⑤「交友関係が一定範囲を超えないように引き締めることを軽んじれば、「どうか一緒に歌や演奏に合わせて歌うのをお許しください」と求める使者が出現する」に関連した内容と解釈。

・1つ目の「之」の“彼ら”は、話の流れより接待する相手(敵)を指すと考察。結果、「敵」と簡潔に解読。

・「請」の“教えてもらう”は、①「請」同様に解釈して「敵の実情を教えてもらう」と補って解読。

<③について>
・「爵」の“スズメ”は、①「爵」同様に「獲物の鳥」と考察。但し、ここでは敵から狙われる「獲物の鳥」であり、其十一2-2①「敵将軍の可愛がる者を強制的に奪うならば、自国からの勧告や意見に従うのである」の教えを逆に仕掛けられることと解釈すれば、「可愛がる者」と解読できる。なお、スズメの小ささが「可愛がる者」の雰囲気を演出していると推察する。

・「適」の“敵”は、単に敵軍(敵国)と解釈するのではなく、その時点で戦争状態になっていない他国も含まれると考察。結果、「敵対勢力」と解読。

・1つ目と2つ目の「之」は、「爵」の「可愛がる者」を指示する代名詞と解釈。話の流れに合わせて「この可愛がる者」と解読。

・「至」の“極点”は、其十4-2④「可愛がる兵士を死亡させて敵将軍を可哀想に思わせれば、敵将軍を死者に等しく無気力にさせて職務を行わせる状態に至るのである」の無気力を指すと考察。つまり、やる気の無さが極点に達したと言える。結果、「無気力」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「適」の“正当の地位や立場にある者”は、敵将軍の可愛がる者を狙う文意を解釈すれば、其十一2-2⑥「軍事機関が敵将軍の可愛がる者の保護を受け入れれば、「お手本に従って、その中のちょうど相応しい随行者の立場を強制的に取れ」と敵将軍の可愛がる者を殺害する間者に言うのである」に基づき、敵将軍の可愛がる者を保護する随行者と考察できる。結果、「敵将軍の可愛がる者を保護する随行者」と解読。

・「禄」の“俸給を与える”は、①「禄」で記述された「百金の俸給を与える」の意味を積み上げていると考察。結果、「百金の俸給を与える」と補って解読。

・2つ目の「之」の“彼”は、敵将軍の可愛がる者を狙う存在と解釈できるため、其十二2-2①「将軍の可愛がる者を殺害する間者」を指すと考察した上で、わかりやすくするため「間者」と簡潔に解読。

・「知」の“知り合う”は、「間者」と随行者を知り合わせることと考察。結果、使役形で「随行者を知り合わせる」と補って解読。

・「金」の“刀剣類”は、間者が敵将軍の可愛がる者を殺害する武器と考察できる。結果、「金なす」で「刀剣類で敵将軍の可愛がる者を殺害する」と補って解読。

・「爵」の“爵位”は、話の流れより敵将軍を指すと考察。結果、「敵将軍」と解読。

・「愛」の“可哀相に思う”は、敵将軍が可愛がる者を失って可哀相に思うことであり、其十一9-6⑧「敵将軍が可哀相に思う道理」が働いた状態になると考察。結果、使役形で「可愛がる者を失ったことを可哀相に思わせる」と補って解読。

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