非なる民は将いて之かしむなり、也た非なる主は佐けて之らしむなり。之あれば、注ぎて非を勝つなり。

其十二1-4

非民之將也、非主之佐也、非勝之注也。

feī mín zhī jiāng yĕ、feī zhǔ zhī zuǒ yĕ、feī shèng zhī zhù yĕ。

解読文

①誤った言動をする人民は指導して考え方を正すのであり、同様に、誤った言動をする君主は補い助けて考え方を正すのである。誤った言動をする君主と人民が存在すれば、目や心を一点に集中して過ちを抑制するのである。

②人民が君主の悪口を言えば指導して考え方を正すのであり、同様に、君主が人民を非難すれば補い助けて考え方を正すのである。目や心を一点に集中して君主と人民の過ちを抑制すれば、その君主と人民は、誤りと思えば自ら抑制する状態に達するのである。

③将軍が、兵士達を非難すれば、その兵士達は自国を去るのであり、同様に、君主を非難すれば、君主の補佐役である将軍が変わるのである。非難して人を抑制しようとする将軍は、見捨てられるのである。

④人民を自ら抑制する状態にさせる将軍でなければ、同様に、君主を自ら抑制する状態にさせる補佐役ではないのである。将軍は、自国を非難する元敵人民を自国に引き入れて、他国よりも優勢にするのである。
書き下し文
①非なる民は将(ひき)いて之(ゆ)かしむなり、也(ま)た非なる主は佐(たす)けて之(いた)らしむなり。之あれば、注(そそ)ぎて非を勝つなり。

②民の之を非(そし)れば将(ひき)いるなり、也(ま)た、主の之を非(そし)れば佐(たす)けるなり。注(そそ)げば、非とすれば勝つに之(いた)るなり。

③之の民を非(そし)れば将(ゆ)くなり、也(ま)た、主を非(そし)れば佐は之(ゆ)くなり。非(そし)りて勝たんとする之は注(な)げらるなり。

④民を之(いた)らしむ将に非ざれば、也(ま)た、主を之(ゆ)かしむ佐に非ざるなり。之は、非(そし)るものを注(そそ)ぎて勝(まさ)るなり。
<語句の注>
・1つ目の「非」は①誤ったさま、②悪口を言う、③非難する、④AはBではない、の意味。
・「民」は①②③④庶民、の意味。
・1つ目の「之」は①変わる、②代名詞、③彼、④ある地点や事情に達する、の意味。
・「将」は①②人の上に立って導く、③去る、④将軍、の意味。
・1つ目の「也」は①②③④同様に、の意味。
・2つ目の「非」は①誤ったさま、②③非難する、④AはBではない、の意味。
・「主」は①②③④一国の長、の意味。
・2つ目の「之」は①変わる、②代名詞、③変わる、④ある地点や事情に達する、の意味。
・「佐」は①②補い助ける、③④補佐を役目とする地位や官職の人、の意味。
・2つ目の「也」は①②③④断定の語気、の意味。
・3つ目の「非」は①過ち、②誤りと思う、③④非難する、の意味。
・「勝」は①②③抑制する、④越える、の意味。
・3つ目の「之」は①彼ら、②ある地点や事情に達する、③代名詞、④彼ら、の意味。
・「注」は①②目や心を一点に集中する、③放り投げる、④(水を)引き入れる、の意味。
・3つ目の「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「非民之將也、非主之佐也、非勝之主也。」と「注」を「主」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「非なる民」の直訳は“誤った庶民”となる。これは誤った言動をする人民と考察。結果、「誤った言動をする人民」と解読。

・1つ目と2つ目の「之」の“変わる”は、「誤った言動をする人民」の言動の源となる考え方を変えさせることと考察。結果、指導に基づく変化であることを踏まえて「考え方を正す」と解読。

・「非なる主」の直訳は“誤った一国の長”となる。これは誤った言動をする君主と考察。結果、「誤った言動をする君主」と解読。

・3つ目の「之」の“彼ら”は、「民」の人民と「主」の君主を指すと考察。この人民と君主は誤った言動をすることを踏まえて、「誤った言動をする君主と人民」と補って解読。

<②について>
・1つ目の「之」は、①「主」の「君主」を指示する代名詞と解読。

・「将」の“人の上に立って導く”は、①「将」で記述された「指導して考え方を正す」の意味を積み上げていると考察。結果、「指導して考え方を正す」と補って解読。

・2つ目の「之」は、①「民」の「人民」を指示する代名詞と解読。

・「佐」の“補い助ける”は、①「佐」で記述された「補い助けて考え方を正す」の意味を積み上げていると考察。結果、「補い助けて考え方を正す」と補って解読。

・「注」の“目や心を一点に集中する”は、①「注」で記述された「誤った言動をする君主と人民が存在すれば、目や心を一点に集中して過ちを抑制する」の意味を積み上げていると考察。結果、「目や心を一点に集中して君主と人民の過ちを抑制する」と補って解読。

・「勝」の“抑制する”は、考え方を正した君主や人民が、自分の過ちを自分で抑制することと考察できる。結果、文意をわかりやすくするため「自ら抑制する」と補って解読。

<③について>
・1つ目の「之」の“彼”は、話の流れから将軍に限定されると考察(解読文①②は必ずしも将軍が主語とは言い切れない)。結果、「将軍」と解読。

・「民」の“庶民”は、解読文①②では包括的に「人民」と解読したが、ここでは軍事に関する内容になったと解釈して「兵士達」と解読。

・「将」の“去る”は、将軍に悪口を言われた兵士達が自国を去ることと考察。結果、「その兵士達は自国を去る」と補って解読。

・「佐」の“補佐を役目とする地位や官職の人”は、君主の補佐役である将軍を指すと考察。結果、「君主の補佐役である将軍」と解読。

・3つ目の「之」は、1つ目の「之」の「将軍」を指示する代名詞と解読。

・「注」の“放り投げる”は、非難して人を抑制しようとする将軍が、君主や兵士達から投げ捨てられる現象であり、つまり見捨てられると解釈できる。結果、受身形で「見捨てられる」と解読できる。

<④について>
・1つ目の「之」の“ある地点や事情に達する”は、②3つ目の「之」で記述された「誤りと思えば自ら抑制する状態に達する」の意味を積み上げていると考察。結果、使役形で「自ら抑制する状態にさせる」と補って解読。

・3つ目の「之」は、「将」の「将軍」を指示する代名詞と解読。

・「非るもの」の直訳は“非難する者”となる。これは奇策部隊が攻め取った元敵兵など、自国を非難する元敵人民を指すと考察。結果、「自国を非難する元敵人民」と解読。

・「注」の“(水を)引き入れる”の“水”は、人の喩えと解釈すれば、話の流れから「自国を非難する元敵人民」を指すと考察できる。結果、「自国に引き入れる」と解読。

・「勝」の“越える”は、自国が他国よりも優勢になった状態を指すと考察し、「他国よりも優勢にする」と解読。

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